山岸伸の写真のキモチ
第16回:モデルと一緒に撮る・撮られるの関係を考える
ポートレート撮影の在り方はどうあるべきなのか
2022年1月4日 09:00
12月11日、山岸さん撮影による写真集『あめ色の空に』(光文社)が刊行されました。モデルは「最高級のメロンカップ」でグラビア界を席巻している草野綾さん。今回は初のヘアヌード撮影に挑戦したという同写真集撮影の舞台裏に迫ります。撮影を通じてモデルとしての在り方に変化が生まれたという草野さん。撮る側と撮られる側、それぞれの立ち位置からポートレート撮影への向き合い方を語っていただきました。(編集部)
写真集に求めるもの
今回はグラビアアイドルで知られている草野綾さんをモデルに迎え、写真集『あめ色の空に』(光文社・刊)をまとめていくにあたって僕が何を大切にして撮影に向き合っていったのかをお伝えしたいと思います。
今やデジタル写真集が主流になってきていますから、紙の本として写真集が出ることは少なくなりました。でも反射光で見るのと透過光で見るのとでは写真から受ける印象は全く違うものになります。そうした意味でも、まだまだ印刷されて本としてまとめられた写真集に対する見方や捉え方は若い人でも変わらずにあるんじゃないかと思っています。
というのも写真から受ける印象の他にも紙の本のページをめくる指の動きとデジタルでの指の動きは、それぞれ全く違うものだからです。目はもちろん、手からも様々な情報が伝わってくる点も本としてまとめられた写真集の魅力です。
今、本としての写真集を手がけること
そもそも草野綾さんとの出会いは彼女の所属事務所から紹介を受けたことがキッカケでした。もちろんグラビアに何度も登場しているモデルですから、彼女のことは見て知っていましたが、一方で僕の活動は「瞬間の顔」シリーズの完結に向けたスパートや年明けに予定されているいくつかの展示に向けた準備などの割合が大きくなってきている状況にありました。
そんな中で写真集の仕事をしてほしいとのことで彼女の紹介があったというわけです。グラビアの撮影自体は僕の事務所に所属している近井が担当することも多くなってきていて、また一方では事務所を巣立っていったOBたちが写真集を出しているので、僕があらためて写真集を出すとなると、そのクオリティーは相応に高いものでなければならないわけで、それはもう気合が入る内容となりました(笑)。
撮影時期は遡ること2021年の4月頃のこと。撮影の舞台は沖縄となりました。通常のグラビア撮影であれば1日ないしは2日程度あれば撮れるわけですが、写真集となるとちょっと話が変わってきます。
この連載でも何度もお伝えしていることですが、僕は沖縄で撮影を多くこなしています。回数でいえば100回近くにのぼります。現地コーディネーターの力も借りますが、もう僕のほうが撮影場所に関しては詳しいくらいになりました。そんなよく知った場所での撮影となったわけですが、同じ場所で撮っても常に結果が変わるように、今回もそれは例外ではありません。それに加えて何百回と撮影をしてきた中でも今回の撮影は特別なものとなりました。
ロケは連日雨続きに
今回のロケでは難しい条件がいくつも重なることになりました。と言うのも彼女と会う日はどうも雨が降っていることが多く、この撮影ロケ中もなんと連日雨続きとなりました。これまでの沖縄ロケは晴天ばかりだったのに、つくづく不思議だなと思います。そういう意味で言うと、彼女との相性はとても悪かったです(笑)。
雨や曇りだと何が困るのかというと、ご想像のとおり、まず写真に不可欠な光が潤沢に得られません。でも、今回写真集としてまとめていくにあたって、天候に恵まれなかったことがかえって良い結果を生んでくれました。雨ゆえにいつも撮っている光にあふれた写真にならなかったというわけです。言わば、天候が僕の撮影スタイルを強制的に変えたというわけです。
どういうことなのかを詳しく説明していく前に僕の撮影スタイルを振り返ってみたいと思います。これまで僕が撮ってきた内容をご覧になったことがある方であれば分かると思いますが、昔から僕は自然光を多くとりいれた撮り方をしてきています。グラビアではそれが余り人気がありませんでしたが、ともあれそうした撮り方を貫いてました。
なぜそうした撮り方になったのかというと、それにはアイドルの撮影を多く手がけてきたことが大きく関係しています。アイドルの撮影では、多くの場合、決まってあふれるような太陽の光と海、そしてグリーンが入った写真が求められました。
一方で、今の僕の感覚だと、そうした写真にはどうしても「軽さ」があるように思えてならないようになりました。過去に撮影した自身の写真を振り返ってみて、「このままでいいのか」と自問自答を繰り返すようになっていた最中での撮影となったわけです。そこにきて全日程が雨という条件となったことで、かえって僕がこれまで撮ってきた写真っぽくない仕上がりになりました。それが最終的に良い結果につながったというわけです。
写真集撮影ならではのカメラワーク
悪天候での撮影となったこととあわせて今回ぜひ注目してもらいたいのが、カメラワークがいかに重要であるのかということです。
引いた状態から徐々に寄っていき、さらに横位置・縦位置とバリエーションを撮っていくのが僕の撮影におけるひとつの流れなのですが、様々な角度から捉えていく視点をもつように心がけているのは誌面上のレイアウトを考慮した撮り方をしているから。写真集づくりでは大切なスタンスです。
肝心の写真集は112ページの構成となることが決まっていました。ですから都合100ページ以上を組まないといけない、ということを前提に撮影を進めていくことになります。実際には使わない写真のほうが多くなりますが、クローズアップカットを押さえていくなど、様々なバリエーションを撮り分けていきます。
また実際のあがり写真と撮影状況を見比べてもらうとわかりやすいのですが、輝度差が非常に大きい中での撮影だったということが見てとってもらえると思います。
今回のロケでは都合4台のカメラを投入し、長玉はキヤノン、三脚等を使用しない手持ち撮影や状況的に撮りづらい場面ではOMDSのカメラを使って撮りわけていきました。これらに加えてソニーとシグマを使用。適材適所で4台のカメラを使い分けていくことで、バリエーションの作り方自体に変化を与えていきました。カメラによって色も違いますから、より幅がひろがることも期待しての運用となっています。
ロケ場所の考え方
撮影は3日間でしたが、今回のように雨が降ることも考慮して屋外で撮れくなる状況でも対応できるように備えておく必要は常にあります。僕がホテルを取る際に、多少割高になったとしても採光の良いちょっと広めの部屋を確保するようにしている理由はここにあります。バリエーションを増やしたり、カット数が足りない場合の対応がぐっとやりやすくなります。
周到な配慮を積み重ねていくことが結果として仕事の質を確保・向上することにつながっていくという考え方ですが、あらゆること・ものをムダにしないという発想が、その根幹にあります。加えて重要なのが日程表をキチッと定めて、いつ・どこで・どのように撮るのかを決めておくことです。そうすることでスタッフ全体の意識がしっかりと撮ることに向かうようになります。
大切なのは仕事とそうでない瞬間のメリハリをつけるということ。休む時はしっかりと休むというのも仕事のうちです。人間の集中力はそう長続きしませんので、緩急をつけていったほうが結果的に全体の品質を上げることにつながる、ということです。
そうしてモデルやスタッフにリフレッシュしてもらっている間に、僕やアシスタントは次の撮影に向けた準備を進めていきます。コロナ禍もまだまだ収束の兆しが見えませんから、いたづらに外出するわけにはいきませんし、飲食店などもそう遅い時間まで開いているわけでもありませんからね。それもあって、数日間にわたるロケなどでは早々に夕食を切りあげてホテルに戻り、各自に自由時間をもってもらえるようにしています。
メリハリをつけることの大切さ
モデルもスタッフも僕自身も例外なく、自分の時間はもったほうがいいと考えています。皆、それぞれに自由になったらやることがあるわけですからね。そうした時間をもつことによって翌日の撮影を考えることができるようになるわけです。
と、このように休む時間の管理まで考えてスケジュールを切ることを考えていくのが僕のスタイルですが、やはりプロフェッショナルとしては欠くべからざる対応だと考えています。特に昨今はプロとアマの境界が曖昧になってきていますから余計ですね。逆に言うと、これをやるかやらないかがプロとアマとの線引きでもあるわけです。
さて、そうやって確保した分の時間は当日に撮影した内容のチェックと次の日の撮影イメージを固めていくのにあてます。もちろん事前に内容や方向性は固めていますが、その調整であったりをしている時間をしっかりとることでスムーズな進行とクオリティに結びつけていくというわけです。もちろん、これはコロナ禍だから“そうなった”というのではなく、昔から続けている僕の流儀。小さなことの積み重ねですが、結果としてスタッフ全体が現場で「今は撮る時なんだ」という意識をもって同じ方向を向いていけるようになります。そうやって万端に整えていくことでキチッとクオリティが担保できるようにもなる。仕事としては当たり前のことをしているだけですが、でも最も大切なことのひとつです。
だって食事をしてから写真撮りたくないでしょう? 僕はそうしたメリハリをつけることを大切にしていますが、そうじゃない写真好きの人は食事時からそれが終わった後でも写真を撮ろうとなる。でも僕は、それは「ゆるむ」からしたくないと思っています。カメラをもって気が緩んだ時って、まったく別の世界ですし、そうやって撮った写真はただ軽いだけのものになってしまうと思うからです。
ポージングと衣装の関係
彼女は長年グラビアをやってきていますから、決めポーズもいくつかの形が固まっています。でもそれは衣装を着ているからこそできるポージングでもあるわけで、今回のようなヌードも交えたものになっていくと、そうしたポージング自体が成立しなくなります。
後日、草野さんに撮影の感想を聞いてみました。
ポージングのことを聞いてみたところ、僕以外のカメラマンが撮影する時っていうのはポーズをひとつひとつ決めてバシッとワンカットを撮っていくことが多いのだそうです。それに加えて身につけている衣装をいかして身体にラインをつけて綺麗に見せる工夫もしているのだと教えてくれました。
ですが、今回は写真集の撮影なので決めカットのほかにも自然な表情であったりポージングというものも必要になってきます。彼女にしても、そのさじ加減に難しさがあったのだそうです。
また、撮影中は彼女自身にも動いてもらっていましたが、撮り手である僕自身も常に動いて撮影していました。僕の写真にちょっとピントが甘いカットが混じる理由というのは正にここにあって、モデルに加えて僕自身も動いているからなのです。
そうした撮り方の中をするのには理由があって、彼女のように衣装を身につけていることを前提にしたポージングや動きをとっていると、どうしても衣装を脱いだ時に「ただ立つ」くらいしかできなくなってしまう側面があります。でもそれは当たり前のこと。そこで僕自身が動きまわることで不自然に見えない姿で写真に収めていくようにしていくわけです。もちろん、彼女自身も撮られながら頭をフル回転させて様々な工夫をこらしていくように意識が切り替わっていったのだと後になって話してくれました。でもそれはお互いに撮ることに集中できたからこその成果。簡単なことのようですが、実際にはそう簡単ではないということを彼女自身も体験として知っていました。
集中して撮影に向き合うために
他の方にも撮っていただく現場ではBGMがかかっていることがあったりします。そういう現場ではスタッフが談笑していて、それにつられて私自身も笑いながら、決めカットはバシッと撮るという流れがありました。
私のことをリラックスさせようとして、あえてそうした現場づくりをしてくださっているのだと思いますが、ありがたい面はあるものの、私自身の感覚としては、皆が自分に集中してくれていないようにも感じていました。
例えば前髪が顔にかかりすぎてしまっている場面があったとして、寝転がってポーズをつけている時などは「たぶん今、髪はぐしゃぐしゃになっているんだろうな」と感じるシーンがよくあります。でもそうした現場づくりの中ではスタッフ全体がわちゃわちゃとしていますから、私の変化に気づいてくれていないこともあります。私自身が今して欲しいと思っていることと現場の空気感との間にズレがあると言えばイメージしてもらいやすいでしょうか。
そうした意味で、なかなか一枚一枚に集中しきれないことが実はありました。でも一方でそれが当たり前のことなのろうとも思っていたわけです。でも今回、山岸さんに撮っていただいて、そうしたイメージががらっと変わりました。
スタッフの皆が、山岸さんのシャッターを切る瞬間ひとつひとつに集中して、ライトや髪の毛のかかり具合、メイクなどに細心の注意を払ってくれている。そうした空気づくりをしてくれたおかげで、これまで気になっていた様々なことに意識が向かうことなく撮影に集中できました。
上の枠内の話は彼女自身に語ってもらった内容です。注目してほしいのが、集中できない瞬間がどうしてもあるのだということ。僕は背中にスタッフを抱えながら彼女だけに集中して撮影を進めていきますが、時に撮影が進んでいる一方で後ろのほうでは撮影とは違うことをしていたり、話をしたりしている人がいることがあります。そうした場面では僕は相手が誰であっても怒ります。なぜかというと、僕もモデルも撮影に集中できないからなのです。
と言いつつも僕自身、若い頃は歌をかけながら撮影をしていたことがあります。モデルやタレントがノルとかノらないとかじゃなくて、自分のためにかけていたわけです。修学旅行みたいにそれくらいワイワイさせながら撮影をしていたのですね。でもそれって冷静に考えたら、全然面白くないわけです。
賑やかな場をつくって撮っていたとしても、写真って最終的には全て僕の責任になります。似合わない衣装をモデルが着てしまった場合もその責任は僕が負うことになるわけです。メイクにしてもモデル自身がやったほうが良い場面があるなど、時として行き違いがあることもありますが、それらトータルでの責任を僕は撮り手として一身に負っているわけです。
ともすると人気のあるカメラマンは相手をのせる話術も上手いですから現場も楽しくて最高だろうと思います。でもそれは一生は続きません。次に違うモデルが来た時に、同じようには決して撮れないからです。
グラビアは2人だけの世界
グラビアの撮影は究極的に言うとモデルとカメラマン2人だけの世界です。スポンサーのつくコマーシャルの撮影は「いつまでも撮ってんじゃないよ」という声が聞こえてくる中で撮影をしていかなくてはならない時があります。現実に僕はそうした声を背中に浴びながら撮り続けてきました。でも、コマーシャルの撮影はそれでいいのだと思っています。多くのスタッフ・関係者が色々なことを言い合う中でひとつのものが出来あがっていく世界ですからね。
一方でグラビアはそうであってほしくないと僕は思っています。グラビアだけは誰にも媚びずに撮ることができる、言わば2人だけの世界ですから。だからこそ撮影時にはその世界に集中させてほしいわけです。
仕事としての撮影は、ある目的のためにモデルとスタッフが集まり、僕がそれらを受け止めて形にしていく流れになります。その中で自分が中心だとは思っていませんが、でも「目指した目的」を達成することが、その場でもっとも大切な目標地点となるわけですから、撮影に集中できる環境づくりには協力してほしいと思います。そういう意味でも、先の感想のように草野さんが抱いた感覚や今回の撮影を通じて感じ取ってもらえた僕の撮影ならではの感覚に、それぞれ違いがあると気づいてくれたことは本当に嬉しいことですし、大きいことだと思います。
これから草野さんがやりたいこととは
中には軽めの空気感で緊張感がない現場のほうがやりやすいという人もいるだろうとは思います。でも僕自身がもう軽めの空気感では仕事ができなくなってしまっていることも確かです。自身が負っている責任のことを考えていっても仕事としての撮影が楽しい行為であるわけがないんです。もちろん楽しんで撮影はしていますが、向き合い方や覚悟の在り方は“楽しむ”余地なんてあるわけがないと考えます。例えば今回の写真集撮影では草野さんを脱がした僕の責任っていうのが確実にあるわけで、その模様をこうした形でお伝えできることが結果として良かったのだと思います。
それもあって、写真を「ちゃんと撮る」というのは実際にはとても消耗する仕事になるはずです。ですから僕の撮影は決して楽しいものではないだろうとも思っています。でも緊張感のない撮影現場は良くないですし、僕自身、日々様々な被写体を相手に常に緊張しながら撮影をこなしています。
逆に言うと緊張感がなくなったら写真は撮れないとすら思っています。その分イライラが一定ラインを超えてくることもあり、ついアシスタントに怒りをぶつけてしまうこともあります。だからこそ、そうならない状況をキープしつつ、集中して写真を撮るためにも今回の写真集制作プロジェクトでは全体のコーディネーターをたてることにしました。
僕は撮影に集中し、ロケ場所の手配や写真集刊行へ向けての広告出しを含めたパブ関係をコーディネーターに一任しました。結果的にはこれが大正解。僕自身の撮影内容の変化とともに、僕の意思が入りすぎないことでトータルでの仕上がりが本当に良い内容になったと感じています。あとは多くの人が手にとってくれることを祈るばかり。今紙の本として僕が写真集をまとめるのに対してできることを注ぎ込みました。期待を裏切らない出来ですから、ぜひ手にとってみてほしいと思います。
さいごに草野さんにこれからの展望を語ってもらいました。
原宿でスカウトされて活動をはじめた時からグラビアで表紙を飾ることと写真集を出すことを目標に活動をしてきましたが、今回念願叶って写真集が無事刊行されました。写真集の中でもヌードはひとつの目標にしていたものでしたので、二重に目標が叶ったことになります。ヌードをひとつの目標としていたのは、どうしても女性の身体はピークがあるからです。自分の身体が良い状態の時に全てを曝け出した内容を撮って欲しいと考えていましたんです。
これからもグラビアとして活動できる限りはファンの期待に応えていきたいと思っていますし、せっかくこうした業界に入ったからには何かしら影響力をもてるようになっていくことも目指したいと思っています。
私は出身が福岡県なのですが、地元のPRであったり観光大使のような仕事もしたいと思っていて。自分が発信した内容が多くの人に伝わり、つながっていく。そうした仕事もしていきたいと思っています。
こうしたビジョンは、当初から描いていたものではなくて、グラビアをやったからこそ見えてきた目標です。
お知らせ
日本テレビ放送網株式会社の地上波ニュース番組「news every.」(12月21日放送分)で瞬間の顔シリーズを軸に半年間の取材を受けた特集が報じられました。