赤城耕一の「アカギカメラ」

第147回:新製品の発表を機に、自前のタムロン超広角ズームを再検証

タムロンから12-20mm F2.8(Model A084)が登場しました。

ワイドレンズ好きとして、この焦点距離域はとても良いところを押さえていて、久しぶりにグラっときた超広角ズームレンズであります。この仕様で開放FナンバーF2.8固定ということにも驚きですね。

ただ、冷静になって考えてみると、ワイド端の12mmって、使いこなしには相当なコツが必要ですよ。いや、脅かすつもりもありませんし、筆者に使いこなす実力がないということを前提として話をしています。もちろんタムロンさんの商売の邪魔をするつもりもさらさらありません。

なんだか腹立つほど均質な画質(笑)でありました。線が細すぎるくらいの心地よさはなんだろうか。
ソニー α7RC/15-30mm F2.8 SSM/30mm/プログラムAE(1/200秒、F7.1、±0.0EV)/ISO 100

他社のレンズですが、12mmの焦点距離のレンズを最初に使用した時のことを思い出してみると、ずいぶんと手こずったことだけが印象に残っております。

目の前の手が届くような距離にあるものが、実際に撮影してみるとはるか遠くにあります。

撮影時にファインダーを覗きながら被写体に寄ると衝突寸前みたいになることも珍しくありません。少しカメラを仰角に構えると、強烈なパースペクティブが発生し、その非現実的世界に驚かされてしまいます。

筆者は、広角レンズの基本的な使いこなしは、使用レンズの焦点距離がわからないように画面構成してゆくのが筋ではないかと考えていることもあり、非常に使いこなしに苦労したわけです。ええ、ジジイらしい保守的な考え方です。

重要な使いこなしのコツは、カメラを水平、垂直に構えることと見つけたり。というのがまずは最初の結論となりました。実に当たり前のことなのですが、このため水準器を適切に使うことも重要だと考えております。

とはいえ、矛盾してしまうかもしれませんが、写真に肉眼と同じ再現性を求めるというのもヘンな話で、そこはレンズの特性を活かすことで、現実とは異なる世界をみせてやるぞという意気込みも必要になるでしょう。

当サイトの読者はおそらくそのあたりのことは織り込み済みで、日々の写真創作に励んでいらっしゃることと思います。

カメラが傾いたのか、俯瞰気味になったのか、不自然な描写になりました。でもシャドーの描写がいいなということで選んでみたり。
ソニー α7RC/15-30mm F2.8 SSM/20mm/プログラムAE(1/160秒、F8、−0.7EV)/ISO 400

今回も最初から余計なことを書いていますが、じつは12-20mm F2.8 を入手しようと決心したまではいいのですが、標準小売価格37万9,500円(ソニーEマウント用)という価格をみて、すっかり元気がなくなってしまいました。焦点域からみて、日常使いのレンズではありませんから、大金を投じるのはかなりの覚悟が必要です。とはいえ欲しいといえばかなり欲しい。

そこで、手持ちのタムロンSP 15-30mm F/2.8 Di VC USD(Model A012)を下取りに出すとその差額はどうなるのかしらと、寝る前にあれこれ試算していたのですが、このレンズ、もはや下取りのお値段がつくかどうかも怪しい状態です。

SP 15-30mm F/2.8 Di VC USDの購入当初はたしか新品でも10万円そこそこのリーズナブルな設定でした。今回の12-20mm F2.8の1/3ほどか。もともと廉価であったこと、一眼レフ用の不人気のAマウントレンズということも考えると、下取り価格はまったく期待できないわけです。

もっともタムロンには超広角ズームの現行製品として、昨年16-30mm F/2.8 Di III VXD G2 Model A064が登場しましたが、これは17-28mm F/2.8 Di III RXDの後継レンズとしての存在だったようです。ミラーレス機用に特化したレンズであること、小型軽量を追求していることもあり、これも登場時はココロが動きましたが、仕様をみて見送ったのでした。

筆者所有のSP 15-30mm F/2.8 Di VC USDの登場は12年前。当然一眼レフ用の超広角ズームレンズという仕様です。

レンズ構成は13群18枚。XGM(eXpanded Glass Molded Aspherical=大口径ガラスモールド両面非球面)レンズを前群に配置、複数枚のLD(Low Dispersion=異常低分散)レンズを採用、歪曲収差や倍率色収差などを抑制したとアナウンスされています。質量は1,100gとすごい迫力でした。

個人的に描写はとても気に入って使っています。依頼仕事に使用しても裏切られることがなく、大げさではなく信頼の超広角ズームという存在です。ただ、筆者の依頼仕事撮影では、使用頻度の高いレンズではありません。それでもここぞという時に間違いなく良質の画質をもたらしてくれたことで、高い信頼を寄せております。

品のいいシャープネスだなといつも思います。カメラの傾きに気をつけたのでワイド感を抑えられました。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/18mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F8、−0.7EV)/ISO 400

ただし、現代のレンズとしてはあまりにも大きく重量級であるという決定的な問題があります。12-20mm F2.8は570g(Eマウント)ですから本レンズは倍近い重量になりますね。

ご存知の通り本連載でも、筆者は常に大きくて重たい機材はダメだと大騒ぎしているので、本レンズなど真っ先に粛清候補になるわけでありますが、それでも前述の理由において、決断できなかったわけです。

こんな立派で高性能のレンズが二束三文と評価されてしまうと個人的に悲しいですし、例のごとくで、筆者の中で“もったいないオバケ” が現れてくるわけです。

ウチにあるのはソニー用(Aマウント)なので、正式名称としては、SP 15-30mm F/2.8 Di VC USDの“VC” はないのかな。手ブレ補正はカメラ側でお願いしますというタイプですね。

そこで、本レンズは今後も筆者の戦力として活用できるのか再検証してみようというのが今回の目的です。いや、結論はすでにわかっているのです。問題なく使えます。仕事でも使っているのですから。

カメラが傾いたのではなく、トラックが傾いていたわけでして。どこか被写体の傾きには騙されないぞと心に思いながら被写体に向かうわけです。神経使うぜ。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/24mm/絞り優先AE(1/2,500秒、F8、−0.7EV)/ISO 400

プライベートな使用においては、描写性能よりも、鏡筒のデザイン、モノとしての充足感、存在感も重要で、これらが今後の人生を共にできるか否かが重要なポイントになります。

筆者は、第一面の曲率の大きなレンズを見ただけでも気持ちが高揚するほうですから、これは重量級でもガマンするべきじゃないかと。なんだか自分を説得している気分になります。

レンズの外観の魅力は第1面の曲率にかかっているのではないかと考えているので、本レンズは魅力的です。でもフィルター使いたい人はどうするんですか、後部にフィルターホルダーはないし。

一眼レフ用のレンズをミラーレス機に流用することは本連載でも何度も試み、こちらでも報告しているので、今回もまたかよと言われそうですけど、

LA-EA5マウントアダプターの登場で、評価の低いお安いAマウントレンズでも、ミラーレスのソニーαに装着することで、大いなる復活を遂げ、大活躍中であります。

LA-EA5は貧しいカメラマンの頼りになる味方というわけですが、SP 15-30mm F/2.8 Di VC USDはレンズ内モーター駆動なので、LA-EA3などのモーター非内蔵のマウントアダプターでも動作するはず。試してませんが。

マウントアダプターのLA-EA5はそれなりの厚みがあるので、使用するとどんどん装着レンズが長くなるのですが、ま、もうここでくるとどうでもいいですね。

一眼レフ用のとくに広角レンズ系は、すべてとは申しませんが、ミラーレス機に流用しますと、周辺域の画質が弱くなるケースが多いように思います。

これは射出瞳径や位置の問題、カバーガラスの厚みの違いなどによって起こる宿命的な要因もあるのでしょう。ま、これも考え方次第。文献複写に使うわけじゃないんだから、画面中心付近がシャープに写ればOKという考え方もあるのです。

坂の途中ですし、引きがありませんから見上げるアングルしかないわけです。それでも、見苦しさは避けたいので、カメラを捧げ持ったり、焦点距離を選んだりして苦労しているのであります。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/18mm/絞り優先AE(1/4,000秒、F8、−1EV)/ISO 400

筆者の感覚では、街中のスナップでは20mmレンズくらいまでの画角では、特別に意識せずとも、カバーできる領域ではないかという印象です。これはファインダーを覗かなくても写る範囲がある程度わかるとか、パースペクティブがどのくらいの強さかをあらかじめ想像できる領域という意味です。

それよりも焦点距離が短く、画角が広くなると、異次元の空間となり、筆者としては覚悟を持って使うべきではないかと考えるわけです。15mmもそうだし、12mmなら、なおさらですね。

15mmに設定すると何をどうしていいかわからないんですが、日常の片隅の光景でも異次元描写をすることがあり。雲が芸をしていたりすると完璧なんです。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/15mm/絞り優先AE(1/4,000秒、F8、−0.7EV)/ISO 400

もっとも12mm、15mmというレンズは、風景、星景、建築、工事写真などで使用されることも多いのではないでしょうか。

これらをモチーフとした撮影時は落ち着いて撮影する方が多いのでは。まずはレンズのクセを抑制して撮影するためにカメラを水平、垂直の位置にするためには、しっかりとしたカメラの構え、フレーミングが必要となるからであります。

ところがスナップでは手持ち撮影が多いのですから、気を遣うことはできません。このことは今回の作例でもみてとれるでしょうけど、街中のスナップでは、強調したくないパースペクティブが発生してしまう、画面が微妙に傾くなどの見苦しい問題が発生することがあります。これもまた個人の価値観にも左右されますが、筆者はだらしなく感じてしまうのでNGとすることも多くなります。

これくらいの範囲で撮れるだろうということでノールックで挑戦したのですがダメですね。若干のカメラの傾きで動きが出ました、というのは嘘です。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/15mm/絞り優先AE(1/800秒、F8、−0.3EV)/ISO 400

被写体と正対するために腰を落としてファインダーを覗かねばならないことがありますが、これが面倒だとか、膝が痛いからと、日中晴天下ではよく見えないバリアングルLCDに頼りすぎて、画面が傾いてしまうこともよくありますが、これはすべてカメラの構えに緊張感が欠落しているなどの理由、つまり撮影者の怠惰な撮影方法、手抜きしていることが如実に写真に反映されてしまうということです。これが超広角域のレンズの怖さでありますね。さらに油断していると15mmでも筆者自身の足が見切れたり、自身の影が画面内に入ります。12mmだともっと大変ですぜ。がんばってください。

画面が傾いた写真とかパースペクティブを強調している写真が悪いと言っているわけではありませんのでこれも念のため。とはいえ、正しいカメラホールディングを鍛錬することで、撮影者に幸せがもたらされるのは事実だと考えている筆者であります。

今回もカメラはソニーα7CRを使用してみました。本レンズを装着すると見た目はものすごくバランス悪いですが、ところが、使用している時はさほど気にならない。でも街ですれ違う人がみんなこちらを見ているような気がします。機材のバランスが異様に映るからでしょうか。自意識過剰でしょうか。

AFは激速とはいえませんが、たいへんスムーズに動作します。嬉しいです。画質面でも重箱の隅をつつくような見方をしなければ、まず実用上の問題は感じませんでした。開放からコントラストも十分あり、線も細い描写ですね。周辺光量低下も小さいのは驚きですが、これもレンズの大きさが貢献しているのでしょう。なんか余裕です。

東京の京橋で。工事の撮影をしてたら、おじさんの乗る自転車が画面に飛び込んできたので脊髄反射でシャッターを切ってしまいました。カメラは下に振られてしまっていますが、おじさんによって画面下方のスキマを埋ることができました。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/15mm/絞り優先AE(1/2,500秒、F8、−0.3EV)/ISO 400

おそらくこのレンズが巨大で重たいのは、大口径超広角ズームであっても、高画質への追求を徹底した思想によるものではないかと想像できるわけであります。性能の追求なら大きさや重さはかまわないという設計思想なのではないかと。

開放でも十分な実用性能です。ピント位置による画角変化(フォーカスブリージング)もほとんどわからない程度です。これくらいの超広角になると画面隅が引っ張られるように写るものもあるのですが、本レンズは強いクセがありません。もし丁寧に観察して、開放絞りで四隅の描写が気になるようなら少し絞ってやればいいだけのことです。周辺光量はもっと落ちてもいいのですが、十分すぎますね。

歪曲収差がきちんと補正されていると気持ちがいいわけです。かなりの明暗差ですけど、シャドーも潰れませんね。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/30mm/絞り優先AE(1/1,250秒、F8、−0.7EV)/ISO 400

組み合わせ的に、カメラ内での収差補正は行われていないと思うのですが、歪曲収差はタル型ですが、補正は優秀なほうではないかと思います。普通の建築物撮影ならば気にならないと思います。

画質の印象評価は撮影者によっても変わります。筆者は周辺の多少の画質低下などは、問題なく許容してしまうほうですから、心配もしていないわけですが、本レンズは一眼レフ時代の超広角ズームレンズとして相当に優秀だと思いますね。おそらく本レンズをベースとしているのがリコーイメージングのHD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRだと思われます。しかし、言い訳もできないほど両者はそっくりですな。

一眼レフ用設計ということもあり、なつかしの距離指標があります。でも距離の刻みはインフの次が1m、次が0.5mですから目測設定は厳しい。ま、動くのが見えるからいいか。

世の中にはオールドレンズのいわばクセのある低い画質を面白がる愉しみもあることは存じておりますし、筆者も自ら愉しむこともあります。

とはいえすべてのレンズ設計者はその時代に合わせて入手可能な硝材やコーティングで知恵を絞り、高い画質を追求しています。筆者はそうした知恵を感じるレンズにグラっとくるわけです。本レンズは超広角ズームの最高峰を目指すという尊敬に値する1本だと考えるわけであります。

少なくとも、12年前まではここまでの大きさ、レンズ構成にしないと、当時考えうるタムロンが考える最高峰の超広角ズームレンズの画質を得られなかったということなのでしょう。

テレ端で開放絞りにして、レビュー記事っぽく撮りました。ボケ味なんかは無視したいレンズですけど、予想以上に自然であらためて驚いたり。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/30mm/絞り優先AE(1/3,200秒、F2.8、−0.7EV)/ISO 400
これもテレ端。曇天の路地の光景ですが、クリア感がなかなかよろしいですね。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/30mm/絞り優先AE(1/250秒、F4、−0.7EV)/ISO 400

干支が一回りした程度の時間経過、カメラの様式が変わっただけでも性能をさらに向上させて、しかもレンズの小型軽量化が達成できたことはすばらしく、そのスピードに年寄りは驚くわけです。すごいぞ12-20mm F2.8(笑)。

カメラのミラーレス化による、ショートフランジバックがいかに交換レンズの小型軽量化に貢献したのかがわかるわけですねえ。

ただ、一方で、これは筆者個人の考え方ですが、よほどの支障が生じないかぎり、カメラ、レンズは可能なかぎり長く使ってあげたほうがいいんじゃないかと考えています。そう筆者がケチなだけですけど、使えるものは使うという精神で、もう少し我慢し、SP 15-30mm F/2.8 Di VC USDと付き合い超広角域撮影の鍛錬を積むことにしました。そして、12-20mm F2.8のためお金を貯めようかと。コツコツと。

これを無事入手に成功したら、晴れて本連載で報告することにいたしましょう。誰も待ってないか(笑)。

ドキッとする光景に出会いました。これと対峙するには、15mmでなければならぬということで地面すれすれの位置から撮影しました。バリアングルのLCDでも、周囲が明るくてよく見えない。まあ、こんなものではないかと。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/15mm/絞り優先AE(1/2,500秒、F8、−0.7EV)/ISO 400
毎日拝んでいる給水塔なんですけど、ある時に近隣の家が壊されて思いがけぬところから撮れました。こういうつまらないことにも喜べるんですよね。
ソニー α7RC/15-30mm F2.8 SSM/24mm/プログラムAE(1/800秒、F10、−1.3EV)/ISO 400
作例写真家としてはもっとパースペクティブを強調したカットがないとマズいんじゃないかと無理にビルを見上げて撮影してみたのですが、あとで焦点距離を確認したら20mmでした。まあ、保守的な年寄りですからこんなもので許してください。
ソニー α7RC/TAMRON SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD A012S/20mm/絞り優先AE(1/2,000秒、F11、−0.3EV)/ISO 400
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(JSPA)会長。著書に「アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。」(インプレス)「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。