赤城耕一の「アカギカメラ」
第141回:古き良き「Ai AF-S 大三元ニッコール」を最新ミラーレスで楽しむ
2026年5月20日 07:15
「大三元レンズ」って、どなたが言い出したか存じ上げませんが、F2.8通しの3本のズームレンズのことを指すそうですね。
メーカーによっても多少は異なりますが、大三元レンズの焦点域はおおむね16-35mm、24-70mm、70-200mmくらいのズームになります。これら3本のレンズを揃えれば自身のカメラシステムは「上がり」だという考え方でよいのでしょうか。筆者はこの呼び名があまり好きではないので、あまり使ってきませんでしたが、今回は便宜的に呼ばせてもらうことにします。
筆者も忙しく仕事をしていた時代は、各社の「大三元レンズ」を揃えて、悦に入っていたこともありましたが、さすがに使f用頻度が少ないメーカーのものについては、ドナドナしましたね。
ただ、例のごとく、処分し損ねた大三元レンズが筆者の手元にあることを思い出しました。いや、処分するというよりも、エポックな製品として意図的に残したという意味あいがつよいかもしれません。
これが、今回紹介する1999年発売のニコンのAi AF-S Zoom-Nikkor ED 17-35mm F2.8D IF-EDとAi AF-S Zoom-Nikkor ED 28-70mm F2.8D (IF)、そして1998年発売のAi AF-S Zoom-Nikkor ED 80-200mm F2.8D (IF)です。
この3本のズームも立派な大三元だと考えられますが、いずれもフィルム一眼レフからデジタル一眼レフへの過渡期に登場したもので、焦点距離レンジが少しだけ狭いことが、少々時代を感じさせてくれます。
もっとも筆者の価値観では、焦点距離のレンジが、スペックの優秀さを決定づけるという印象を持っているわけではありません。またこれらの3本のレンズが現役時代に「大三元」と呼ばれていたのかどうかも記憶になく、どうにもはっきりしません。
筆者の使用では、この焦点距離レンジでも実用上は問題は感じませんでした。これがもう今回の結論となってしまうのですが、よい機会ですから、少しだけ、これらのレンズの存在意義について掘り下げ、現在でも使用に耐えるのかどうかを検証してみることにしました。
まずは、ニコンのAF駆動方式についてみてみましょう。
黎明期のニコンF3 AFを除けば、ニコンのAF駆動方式はカメラ内にAF駆動モーターを内蔵し、マウント部にカプラーを設けて、レンズ側のカプラーを連結させる、「ボディ内モーターAF駆動」を基本にしていました。
AF一眼レフ黎明期では、筆者はこの方式でもとくに不満はなくて、満足していたのです。
ところが時おり逢瀬を重ねてきたキヤノンEOSを使ったとき「レンズ内モーターAF駆動」の魅力を知ってしまうことになります。
筆者には、駆動音がほとんどしないEOSのAFの高速な動作や「フルタイムマニュアルフォーカス」AF方式が眩しくみえたりしたのでした。レンズ内モーターAF駆動はもとより、USM(超音波モーター)の呼称も時代の先にゆく感じがしたものです。
この当時のニコンのみなさんは強気でしたから、絞りを絞り込んで撮影する条件では、ボディ内モーターによるAF駆動のほうが、AFの動作スピードが速い場合もあるのだと豪語するエンジニアもいました。
これはレンズの種類にもよると思いますし、どのような意味があるのかわかりませんけど、これを真に受けて考えてみると、絞りを開いた状態ではいったいどうなるのか、当然、疑問に思いますよね。いじわるではなくて。筆者はこういうつまらないことを不思議と覚えているわけであります。
話を戻しますが、今回紹介するレンズ名にある「AF-S」についてです。この時代はSWM(Silent Wave Motor ・超音波モーター)を内蔵したニッコールレンズのことを指しています。
さらに、これら3本のレンズ名の前には「Ai」の冠がつけられていますから、絞り環を有していることを意味しており、このため装着カメラを選ばないフレキシブルな使用を可能とするメリットがあります。筆者には「不変のニコンFマウント」を象徴しているようにも感じたレンズたちでありました。
AFはニコンF4以降に登場したニコン一眼レフカメラに対応します。
また、絞り環が備えられていますから、MFにはなりますが、...ニコンのAi方式を採用したTTL AEとマニュアルの一眼レフカメラでは機能の制限なしにTTLメーターを使うことができるわけですね。
さらに、これらのAi AF-Sニッコールには絞り環のF5.6位置に「カニの鋏」を取り付けるガイド穴も設けてあります。これは、やろうと思えば絞り環にメーター連動用の「カニの鋏」をとりつけ、ニコンのAi化以前のTTLメーターを内蔵したニコンF2フォトミックなどのカメラボディに装着しても、絞り環を往復するガチャガチャ動作を行えば、TTL開放測光を行うことが可能になるということを意味しています。
カニの鋏を取り付ける改造サービスはもう行われていないと思いますし、その改造を実行したユーザーも決して多くはないでしょう。だから、そこまでして新旧相互互換性にこだわるニッコールの面倒見のよさに筆者は感動し、「AF駆動モーターを内蔵したニッコール」に惹かれたというわけであります。
じつはこれ以前にレンズ内にAF駆動用のコアレスモーターを内蔵した「AF-I」ニッコールというものが1992年に登場していますが、筆者はこの時分から、多くのAFニッコールは「レンズ内AFモーター駆動」に置き換わるのではないかと予想していました。
実際にそれは主要レンズで次々と実現します。時代がさらに進むとAFニッコールの多くは「Gタイプ」となって、絞り環が省略されてしまいます。このために「Ai」の冠はなくなり同時に完全な新旧相互互換性は失われることになります。
これはコスト削減も考慮されると思いますが、ボディ側から絞りをコントロールするための、メカ駆動の安定性を求めたということもあるのかもしれませんね。
こう考えてみると、AF駆動モーターをレンズに内蔵し、かつ絞り環のあるAi AF-Sニッコールレンズは意外にも種類はあまり多くなく、生産数が少ないことになります。
こうしたフレキシビリティな使用が可能な希少種のニッコールを使うという楽しみも確かにあるのですが、Fマウント規格を確実に堅持しつつも、新旧カメラボディと新旧レンズの相互互換を、あたりまえのように実現しようとする心意気に、えらく感動してしまいました。
だからこそ、Ai AF-Sニッコールは魅力にみえるのであります。そこからは、あらゆる努力を惜しまずにユーザーの利便性を考えた末に生まれた、「エンジニアの知恵と努力」が感じられます。筆者としては涙が出る思いで、これらのレンズをみていたのでした。
ここまで書いて、不安になりました。たぶん10年前くらいまでは、ニコンユーザーの皆さんには、こうした話も解説なしで問題なく通じたかもしれませんが、今は難しいでしょうか。でも筆者も年寄りですし、細かく解説するのも疲れるので、興味のある人は調べてください。簡単に回答は得られると思います。
今回はニコン純正のマウントアダプター「FTZ」と「FTZII」を使用して、現在の愛機のニコンZ5IIとZ50IIに装着して使用してみることにしました。
Ai AF-Sですから、レンズ内モーターレンズです。だからAFは当然問題なく動作し、フルタイムMFも楽しむことができるのではという目論見であります。
いずれも少々重たく、携行するにはそれなりに覚悟が必要になってくるレンズたちではありますが、見た目よりも撮影時はバランスが良かったりするのです。
鏡胴の少しざらついた縮緬状の塗装に触れると、モノとしての立ち上がり方が指の感触からも感じることができました。機能的な面でみても、AFの動作も問題ありませんでした。
もっともAFの速度など往時のSWMの非力さを感じてしまうこともあって、現行ニッコールレンズに到底及ぶべくもありません。けれど、レンズ内のAFモーター駆動により、カメラ側の指令に従って、懸命に素早くスムーズにサーッとAFが動作し合焦するさまを見ると、図体は大きいけれど、そこには「忠実に動くぜ」という気持ちまで感じてしまうのです。
ニコンZの像面位相差によるAFは、一眼レフ時代の位相差AFよりも高い精度で機能するのではという期待も高まります。また、顔認識も機能しますから、レンズのポテンシャルをより引き出せるのではないかという期待も生まれるわけです。
撮影結果はご覧のとおりですが、いずれのレンズも描写は侮れない結果となりました。クラシックな味わいという情緒的な曖昧さよりも、完全実用主義の魅力といいましょうか。
これらのレンズは現在は中古で入手するしかありませんが、いずれも不人気のようで、廉価に設定されています。
積極的におすすめするわけではありませんが、ニコンZでもストレスのない使用が可能になるわけですから、使用頻度があまり高くない焦点域のズームの場合は、戦力の一員として取り入れても損はないでしょう。
Ai AF-S Zoom Nikkor ED 17-35 mm F2.8 D IF-ED
Gタイプのニッコールが登場してからも現行であり続けましたから、そこそこ長命のレンズだと思います。その間に価格改定された記憶がありますが、最終的には27万5,000円でした。
当初はニコン初の本格的なデジタル一眼レフであるニコンD1用の標準ズームレンズとして用意されました。それでも35mmフルサイズ(FXフォーマット)のイメージサークルをカバーし、絞り環を備えていたわけですから、ニコンとしても、デジタルにもフィルムにも全方向に対応する互換性を狙っていたのでしょう。筆者としてはルックスが好きですね。根元に向かってくびれる、その形とか。質量は745g。
レンズ構成は10群13枚(ガラスモールド非球面ガラス2枚、複合型非球面ガラス1枚、EDガラス2枚)で、現行の同クラスのレンズと描写を比較すれば、さすがに特筆する点は少なく、たとえば特別にシャープとかヌケが良いなどとは言いませんが、実用としては問題ないわけです。絞りも若干効くタイプのようです。
明暗差の大きな条件ではエッジにフリンジを感じたりすることもあるのですが、いじわるな見方をしなければこれも問題ないのでは。
今回の3本の中ではいちばん使用頻度が高いレンズで、このためかフォーカスリングのゴムが白くなってきました。夏に汗かいて塩をふいた黒いTシャツみたいで格好悪いんですが、まだ交換できるのかな。
Ai AF-S Zoom Nikkor ED 28-70 mm F2.8 D(IF)
登場した時は個人的に喜びました。その太い鏡筒に感動しつつ、標準ズームもついにAF-S化したというニコンの本気度に感動して受け入れたというわけであります。価格は24万2,000円となっておりますが、無理してお越しいただいた記憶があります。
当時の取材時の記憶のままで話をすると、本レンズは女性のエンジニアが貢献したと言われたことを思い出しました。もちろん、男性が設計しようが女性が設計しようが良いレンズは良いわけで、そのことに大した意味はありません。質量は935gなのでそれなりにずしっときますが、Z5IIに装着してみると、さほど気にならなかったのです。ほんと。うまくバランスがとれたのでしょうか。不思議です。
正直、ワイド端が28mmなのに、この鏡筒の太さはなに?と感じなくはありません。FTZを装着するとくびれが強調されます。これがまたいいですね。でもね、11群15枚、EDレンズ2枚を使用しており、非常に良好な写りをしますね。品格があるというか。
Ai AF-S Zoom Nikkor ED 80-200mm F2.8 D(IF)
価格は26万9,500円でした。14群18枚構成。うちEDレンズは5枚。質量は1,580g(三脚座取外し時は1,450g)となっています。さすがに常時持ち歩くには躊躇してしまう重量ですが、今回久しぶりに使用したら、すばらしい描写をするわけです。
構成枚数が多いのにクリアで、絞りによる描写性能の変化は小さいようです。最短撮影距離は1.5mですから、いまではやや遠く感じますけど、この当時としては頑張っている印象です。
ニコンの80-200mmズームはMF時代からみると直進式のほうが種類が多いけど、本レンズは回転式で個人的には使いやすく感じました。レンズ先端にゴムが巻いてあるのは、レンズを置く際のクッション代わりなのでしょうか。三脚座は取り外し式ですが、筆者はここを掴んで撮影することもあり、そのまま使用しています。
























