赤城耕一の「アカギカメラ」
第146回:PRO銘の魚眼レンズを手にして思う、マイクロフォーサーズへの期待と可能性
2026年8月5日 07:00
このたびの令和8年熊本地震により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。被災された皆さまの安全と健康、1日も早い被災地の復旧・復興をお祈り申し上げます。
毎度ユルい話をしています本連載ですが、今回もはじめさせていただきます。
この連載でもいつも話をしていますが、年を経るごとに単独行の仕事が増え、身軽に移動するために装備の軽量化を徹底しています。
携行機材を絞り、少なくすることを研究し、効率を考えるとマイクロフォーサーズ機の使用が増えたのでした。
プロは35mmフルサイズのカメラ愛用者が多いのですが、筆者は逆かもしれません。表現や撮影条件に応じてAPS-Cや35mmフルサイズ機、中判デジタルの選択もすることがあるものの、使用頻度は少なめです。
ただね、個人的にイヤなんですよね、仕事カメラと私事カメラが同じ機種だと。プライベートな撮影でも、いつもの仕事の延長みたいなことになるのが気になるのです。それに、できあがった写真が“いつものやつ”と予想できてしまうと、自分ではつまらなくなるわけです。
特定のカメラを仕事カメラとして採用すると、そのカメラとは戯れなくなるので、結果としてプライベートな時間には逆にマイクロフォーサーズ機の使用頻度が落ちます。
おまえ、そんな贅沢なことを言える身分なのかと言われそうだけどね、こういうところは譲れずワガママなわけです。もう、年寄りなんですからほっといてください。
じつは前回取り上げたLUMIX L10をあれこれ触って撮影していたら、そうか、プライベートな時間にも再びマイクロフォーサーズ機を使うのはアリかなあという気になり、それに加えて、とあるレンズを使ったことで、個人の表現としても再びマイクロフォーサーズ機を積極的に使うのはありかなあと思い始めました。
その理由はこうです。つい先日ですが、某企業の技術研究所のアニュアルレポートの撮影の依頼を受けたのでマイクロフォーサーズ機と久しぶりに魚眼レンズを用意しました。
魚眼レンズはもともと学術とか工業とか天体とかネイチャーとか科学写真に使用することが多く、一般の撮影に使われることは少ないのですが、アニュアルレポートは研究所や狭い実験施設など日常から離れた空間での撮影が想定され、少しでも多くの情報を取り入れるために魚眼レンズの使用が必然となったわけであります。
アニュアルレポートではどのような場所で仕事をしているかという報告が重要なので、多くの要素が写っていて情報を多くしてほしいという要望があり、魚眼レンズを選ぶことにしたわけです。うーむ。魚眼レンズを写真美学として考えたい筆者としては逆方向ですなあ。
しかも研究所内ではフラッシュ使用に制限があるということで、必然的にアベイラブルライト撮影になるので、魚眼レンズはOM SYSTEMのM.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROを選び、貸し出しをお願いして使用してみたというわけです。
お仕事写真をこちらには掲載できませんが、仕事終了後にこのレンズの描写にけっこうハマってしまいまして、プライベートな時間にも持ち出して撮影して、こちらでご紹介することにしました。
先に述べたように微量光下での撮影のために大口径レンズを使うことが必然となったのですが、35mm フルサイズ用の魚眼レンズは開放FナンバーはF2.8-3.5程度、本レンズは開放Fナンバーは1.8ですから、1段以上の余裕を感じます。しかも大きさは最大径62mm×長さ80mm、重さは315gですから、狭い実験室にも潜り込める感じ、携行性も抜群です。
35mmフルサイズ用の魚眼レンズの実焦点距離は15-16mmくらいですから、想定よりも被写界深度が浅く感じることがあります。
本レンズは実焦点距離8mmですから2段程度の絞り込みでほぼパンフォーカス。35mm換算画角が16mmの対角線魚眼レンズ相当になります。
また逆の意味で開放FナンバーF1.8という大口径を生かし、至近距離で絞り開放値近辺に設定するとボケの再現はどうなるのかという興味が湧きました。
その昔は、魚眼レンズにボケ味を求めるとはなんだ、みたいに怒られたかもしれませんが、本レンズの最短撮影距離は0.12mと頑張っており、条件によってはボケ味を生かすことができるかもしれません。時代は変わったのです。
ただ、最短撮影距離ではワーキングディスタンスが恐ろしく短く、レンズ前から被写体までの距離はわずか2.5ほどになり、本当に被写体と衝突してしまいますから、被写体を痛めたり、レンズを傷つけないような配慮は必要です。
筆者はボケ味に無頓着なほうなので、あまりうるさいことはいいませんが、本レンズの絞り開放の最短撮影距離の画像をみると高周波成分の多い被写体では、横風で草が揺れるような、ワサワサとする感じもあるけれど、8mmという焦点距離のレンズとしては立派な再現性だと思います。わずかに絞るだけでボケのクセは改善されてゆきます。
レンズ構成は非球面レンズ1枚、スーパーEDレンズ3枚、EDレンズ2枚、スーパーHRレンズ1枚、HRレンズ2枚を含む15群17枚とのこと。かなり贅沢です。
筆者はフォーサーズのZUIKO DIGITAL ED 8mm F3.5 Fisheyeのユーザーでもありますが、通常撮影では信頼できる描写であるものの、明暗差の大きい条件で時おり発生する色収差に悩んでいましたが、本レンズにまったく不満はありませんでした。
絞り開放から画面中央では見事なシャープネスを得ることができます。最短撮影距離ではわずかにコントラストが低いという程度。これ以上望むものはないくらいです。とても線の細い画という印象です。
大口径魚眼レンズなのに周辺域まで均質に感じる画質になるとはすごいことです。おそらく2段絞りこめば、画面全体でまったくスキがない描写になるはず。すばらしい。さすが“PRO” 名を冠するレンズであります。
周辺光量が多すぎる! などと、わけのわからないいちゃもんをつけたくなるくらい、これもまた余裕を感じます。開放ではもっと周辺が暗くなってもいいぞ(笑)。過去の魚眼レンズの写りを予想しているとその印象は良い方に大きく裏切られます。
魚眼レンズですから、当然大きな歪みは発生します。ところが本レンズは昔の魚眼レンズと異なり、四隅が引っ張られるような、暴れる描写をしないのです。これは、ものすごく素晴らしい特性だと思います。
特性的に魚眼レンズは画面中央は歪みはありませんから、どうしても写真は日の丸構図っぽくなりますが、それもまた開き直っていいんじゃないかと思えてきます。ええ、人間なんて勝手なものですよ。
ただね、いくら高性能魚眼でも画面周辺にガールフレンドの顔を置いて撮影すると、大きな怒りを買う可能性があり、時として取り返しのつかない事態が発生することがありますので、本レンズで女性を撮影するような場合は十分に注意してください。
魚眼レンズを久しぶりに使うとその歪みの面白さから、当初は撮れ高が増したようにみえるわけです。
これはね大いなる勘違いというやつでして、魚眼レンズで撮影した画像をしばらくみていると、「ふつうの写真がただ歪んでいるだけ」という現実にぶつかってしまうことがあります。こうなると早い段階で飽きてしまう。つまり魚眼レンズで撮る必然って、そう現実ではないんですよ。
逆にいうと魚眼レンズを使う必然、適するモチーフとはなにかを探すことになるわけです。こうなると禅問答に近いものがあるのですが、ただ広い風景を魚眼レンズで撮影したところで大きく広がりのある写真になるだけで、とにかく空は広いし、被写体は小さいし。水平、垂直線はひん曲がっているだけだし。主題は米粒よりも小さいなんてことが起こりかねないので何に感動してシャッターを押したのか、撮影者自身が忘れてしまうくらいです。
使いこなしのコツとしては、被写体がレンズ面に衝突することがないように留意しつつ、ただひたすらに近寄ることでありましょうか。でもね、わずか数cmだけ、アングルを変えただけで、かなり効果が変わります。
本レンズは焦点距離8mmの魚眼レンズで開放FナンバーF1.8という正気の沙汰とは思えない仕様です。絞りを開いて撮影してみると、時として驚くべき個性的な描写をみせることがあるわけでして。その個性を写真表現として昇華させることは並大抵のことではありませんが、使いこなす楽しみのあるレンズだと思います。
このレンズは性能面でも、また、その仕様に比した重量や大きさの面でも、マイクロフォーサーズ用の交換レンズという特性をうまく生かしています。
同様のぶっ飛んだ仕様のレンズをもう少し考えていただけると、現在のところ、少しおとなしめにみえてしまうマイクロフォーサーズシステムの人気の起爆剤になるんじゃないかと思うわけです。ひたすらそれを楽しみに、これからもOM SYSTEMとLUMIX Gシリーズの愛用し続けますぜ。



















