赤城耕一の「アカギカメラ」
第148回:LUMIX L10でゆくLEICAモノクロームの旅
2026年9月5日 08:09
いま考えると信じられないのですが、若い頃の一時期、仕事で毎週のように飛行機か新幹線に乗る、移動ばかりの旅生活をしていたことがあります。宅配便とか大型重機の広告の仕事を担当していたからです。
旅こそが生活なのである、と周りには嘯いていましたが、場所は変われど撮影内容は変わらず。ま、若いやつはつまらない、安い仕事でも文句をいわないだろうから、いろいろなところに走らせろというわけでしょう。
たとえば東京で撮影している要件をそのまんま鹿児島で、稚内で、松山で、さらには米国で、欧州でも同じ内容の撮影をやっていたというわけです。
日本国内、都道府県でいえば全て訪れましたが、それぞれの土地のことや歴史など何も知らず、詳しいのは空港のレストランとか駅近の安居酒屋とビジネスホテルの朝食の内容くらいでしょうか。それでも仕事ですからねえ、それなりの緊張をもって臨むわけですよ、本当です。
フィルム時代ですから、機材はいまでは考えられないほど多く、大掛かりなライティングによる照明をせねばならない案件もあり、そんな時、旅するその姿は夜逃げする怪しい人みたいになりました。他のお客さんにも迷惑だったろうなあ。
それでも頑張って、依頼仕事以外にも移動中にプライベートな撮影をするのだと、トライXを詰めたライツミノルタCLなんかを同時携行していたのですが、なかなかそう満足できる撮影はできるはずもなく、中途半端に終わりました。
これらの仕事の反動もあってか、筆者はカメラマンには珍しく、旅嫌いになってしまいました(笑)。
デジタルによって、往時よりはるかに機材は軽く、X線によるフィルム被りの危険もないというのに体重とともに脚も重くなってしまい、フットワークも鈍ったというわけであります。いまは機材を用意したり荷造りするのも面倒でねえ、誰かやってくれないか。
もっとも、どこ出かけようとも、プライベートで撮影するものは錆びた配管の向こうに青空があるとか、ヤレた板塀の上にネコがいるというような景色ばかりですから、依頼仕事と同様に、場所は変われど、結局はどこでも同じものを撮影しているわけです。周りからは寂しい人にみえるかもしれないですねえ。筆者本人はそれで満足しているので大丈夫なんだけれど。
人生も終盤戦ということもあり、筆者にしては超珍しく、たまには夏休みも兼ねて、プライベートで旅に出てみようということで青森と函館、三島にほぼ連続して訪れてみたのでした。
青森は特定の地域から依頼をいただいている写真コンテストの審査員を務めているということ、函館は知人がいるということから選んでいます。両者は位置的にお隣だし。もちろんこれらの土地には、過去何度も訪れておりますが、例のごとくで何も知らないわけです。
そして日常の東京での撮影カットもまぜておくことで、いかに筆者にとって撮影場所が、旅が重要ではないのか(笑)がわかるわけです。
旅に連れてゆくカメラは悩んだのですが、こういう時にフィルムカメラを選ぶと、妙な方向で本気になってしまったり、M型ライカを携行すると、カメラの佇まいと、その背景を物語として結びつけ、情緒にうっとりとして、ロクな写真が撮れなくなるという危険があるので避けることにしました。
選んだカメラは運良く入手に成功したパナソニックのLUMIX L10であります。そう、本連載でも紹介して、LX100IIがあるからイラネ。と、とりあえず結論づけたそのカメラに結局はお越しいただいたというわけであります。
はい、そうです優柔不断はいつものことでありますから読者のみなさまも、もう慣れているはず。
でもね、さらに思うところあり、所持するカメラは本当にL10の1台のみにしました。依頼仕事ではこんな恐ろしいことはしません。バックアップ機材がないと、機材トラブルがあった時など、カメラマンから「何もできないタダの人」になる可能性があります。でもプライベートだとタダの人になっても誰も困らないのです。スマホもありますし。
よくあることですが、こうして気に入って購入したカメラと長時間共に過ごすと急にイヤなところがみえてしまったりするものですからかなり不安になりました。
でもこうしてご報告をしているわけですから、筆者はL10に満足したという結論を下したということでいいと思います。細かいツッコミはいろいろあるにせよ。ま、すべてのカメラに100点はありません。
あとはもうひとつ、今回の旅では、撮影設定に縛りを設けてみました。それはですね、すべてをモノクロームモードで撮影することを自分へのレギュレーションとしました。
これには大した意味などはありません。じつはLUMIX L10と、リコーGR IV Monochromeのどちらを選択するのかけっこう長いこと悩んでいたのですが、筆者には単機能のGR IV Monochromeを選択する覚悟が足りなかったということであります。
ここで画質がどうのとかモノクロの階調再現の優劣とか、単焦点レンズとズームの違いとかフォーマットの大きさがどうのとかいう瑣末な理由はないわけです。
単純にいえば、筆者はいまもモノクロフィルムを使って写真を撮影しているわけですから、デジタルカメラにはどうしても利便性やフレキシビリティを求めてしまうわけですね。いまさら苦労したくないというか、その特性を思い切り利用したいわけです。
逆にいうと、デジタルカメラはあまりにも高画質すぎ、情報過多ですから、色情報を削ぎ落としたほうがモノの本質が見えてくるんじゃないかと。プライベートではそんなに情報いらないんです。ほんとか?
L10はそれまで使用していたLX100IIと比べると全体的にかなり大きくガタイが成長した感じはあります。
とはいえ、日常使用している小さいショルダーバッグにもなんとか入ります。旅ですが、特別な撮影準備もしていません。フラッシュも持参せずでした。
前に本連載でL10を取り上げた時にも述べたと思いますが、デザイン的にはシャッタースピードダイヤルが撮影モードダイヤルになったこと、電源を入れると焦点距離設定にかかわらず、鏡筒がするすると伸びることが個人的に少々気になります。
ボディカラーはシルバーを選択。例のごとくで、この種のスナップワークに長けるカメラは、逆にカメラを目立たせたほうがトラブルがないということもあります。写真を撮る人であることをあえて世間に知らしめ撮影に挑むわけであります。小さいカメラでこそこそスナップ撮影するとロクなことがありません。
とっさの出来事を捉えるためには電源を入れっぱなしにするのが一番で、そうなると、L10の鏡筒は伸びたままです。携行にはじゃまですし、鏡筒をブツけたりしないように注意する必要があります。また筆者は格好づけとして、サードパーティのフードをつけてみました。レンズが伸びたときの先端を見たくなかったからです。
レンズが引っ込んでいる時はなかなか美しい容姿なのですが、鏡筒が伸びると、横倒しにしたマリーゴールドに似ています。あいみょんですね。まったくの嘘です。
昨今は若い頃のように、街に突撃して人混みに斬り込んでゆく、みたいな撮影はしませんから、タイムラグは気にならないほうですが、筆者の撮影ではさほど問題になりませんでした。ま、シャッターチャンスを逃したり、外したりしても、人生はそんなものだと達観している自分がそこにいるわけです。
L100IIを使用している時は明暗差の大きな場所などは、露出の基準を定めるために、シャッタースピードダイヤルや絞り環を使用したマニュアル露出での撮影をよくしていたのですが、L10は撮影モードですから、「M」(マニュアル露出)設定の時に、上部ダイヤルをシャッタースピードに、背面ダイヤルを絞り設定に割り当ててみましたが、そこそこ快適に使えました。AE時設定では、上部ダイヤルをダイレクトに露光補正に割り当てています。
このダイヤルはファンクションダイヤルという位置づけなのでしょうから、ダイヤルには露光補正量の数値の刻みはなく、露光補正量はLCDかEVFの表示数値を見なければなりません。またマニュアル露出時のシャッタースピードやF値の表示も同様に小さい。
年寄り老眼野郎には少々辛いですね。ダイヤルを回している時だけ、各数字をデカく表示するとか、できないものでしょうか。
先の“モノクローム縛り” 撮影ですが、L10のモノクロームモードは5種もあります。
その違いがどうか、という検証も面倒なので、そういうテクニカルなところは他のレビューワーさんにお任せして、今回はさらに絞って「LEICA モノクローム」設定のみで撮影することにしました。
これも本家LEICA M11 Monochromeの立ち位置と価格が、筆者にはあまりにも現実離れしているということもありまして、少しでもそこに近づくのだということで選択してみました。ライカと仲良しのパナソニックなのですから、ライカの考えるモノクロームを享受してみることもいいのかなと思いました。
パナソニックのアナウンスでは、LEICAモノクロームの特徴として「ライカがその長い歴史の中で積み上げてきた絵作り思想を、L2 Technology(エルスクエア・テクノロジー)協業の中で学び取り入れ再現した。ハイライトが明るく、より硬調でダイナミックな印象のモノクロ表現で、深い黒と白のコントラストが特徴です。」とあります。
そうなんですか? なんだかよくわかりませんなあ。
筆者の場合は、正直なところ、モノクロで撮影するのだという気分が盛り上がればそれでOKというわけであります。全編モノクロでゆくのだと決心すれば、それなりの覚悟を持って撮影に挑まねばなりません。重要なのはこの覚悟でありましょう。
LEICAモノクロームの撮影スタイルに設定しても、ハイライトとシャドーの簡易調整、コントラスト、ダイナミックレンジ設定、フィルター効果や、粒状性も選ぶことができますが、あまりあざとくなるのも筆者の好みではありませんので、なるべくノーマルに設定しています。でも試して撮影してみると、見た目がつるんとして綺麗なので、ほとんどの画像で粒状性をLOWに設定しています。一部にはフィルターも使用しています。
もっとも銀塩フィルム調に仕上げることを目標とするならば、ライカM4にトライXを詰めて撮影したほうが、自分としては納得できますので、LEICA モノクロームの再現はデジタル独自のものと考えた方が自分でも納得がゆきます。
先に申し上げたように、今回も結局はどこに行こうが、どこで撮ろうが、筆者が毎日プライベートで撮影すると同じような写真になってしまいました。場所と被写体に必要以上に寄りかからない日常の写真制作姿勢を自分自身で確認した「旅」になったというわけです。


































