赤城耕一の「アカギカメラ」

第66回:FUJIFILM X-T5導入。X-T3から買い換えて「後悔なし」の理由

読者のみなさんは、カメラを買うきっかけ、買い替えるタイミングというか「カメラを買う理由」とは何でしょうか?

今やスマートフォンがあれば単体の“カメラ”は不要としている時代ですから、新しいカメラが必要な理由を明確にしないで奥さまを説得することは難しいでしょうし、何よりも自分自身が納得できないのではないでしょうか。

いやこれは富裕層の方々には関係ないですね、新型が登場したら片っ端から買い替える、もしくは買い増さないと気がすまないでしょうから、カメラ業界にとっては、こうしたお客さまは最も嬉しいお客さまですし、中古カメラ屋さんもありがたいと言ってました。引き続き買い続けていただき、すぐに飽きて手放してください。後始末はお任せください。

筆者はカメラのレビューのお仕事もしているので、片っ端から新型カメラを買い漁っているのではないかと誤解されやすいのですが、実際はお借りしたものばかりですので念のため。

ただ、仕事のために発売から早い段階で新型カメラに触れ、自分に必要かどうか見極めることができるのはこのお仕事で唯一と言ってよい役得というものですが、もともとは節操のないカメラ好きですから、特定のカメラメーカーのカメラで満足することができず、浮気をして食い散らかしてしまうわけです。

で、何をいいたいのかといえば久しぶりに新型のカメラにお越し頂いたので、嬉しくて紹介します。その名はFUJIFILM X-T5です。

最初は筆者には不要のカメラではないかと思っていたのです。2世代前のX-T3には発売と同時に2台にお越し頂き、筆者の小商い撮影においては何も困ることはなく、使ってきたということもあります。

X-T4が出た時、ボディ内手ブレ補正機構の内蔵は嬉しかったのですが、X-T3と比較して、少し太った印象で、生活習慣病の自分の体を見ているようで納得はできませんでした。

X-T5も太めの体ではあるのですが、高さを低めに、幅を小さめに抑えてきたことで、印象が少し変わり凝縮感が増したイメージです。ボディ内5軸手ブレ補正機能を搭載し、より小型・軽量なボディを実現したことは筆者にとって最大の評価ポイントです。X-T4と比べて幅は約5.1mm、高さは約1.8mm小さくなっているうえ、重量は約50g軽量化しています。X-T3のようなスリムさがれば本当は良いのですが、X-T4がジムにいって筋トレしたくらいの印象はあります。

XF27mmF2.8 R WRを装着。いわゆるパンケーキタイプのレンズも似合う印象で、これはボディが小さくなったからだと思います。シルバーも表面の仕上げがなかなか良くて品があります。エッジの仕上げもキレイです。

それでもなお購入するのを我慢できそうだったX-T5なのですが、手に持ってファインダーを覗き、軽くAFのフォーカシングを試したが最後、これはヤバすなカメラであることがわかりました。X-H2系の576万ドットEVFには見劣りしますが、X-T5の369万ドットでも筆者には十分でありました。

とにかくAFの進化が凄まじく、フレーミングをきちっと行う前から、筆者の意思に従い、フォーカスエリアが画面内で勝手に理想的な位置に飛んでゆき「さあどうぞ!」って感じで合焦する印象なのです。像面位相差AFの測距点が高密度化していることで精度も向上しているようですね。

筆者が下手に背面のグリグリ(フォーカスレバー)を動かしてAFエリアを設定すると、気持ち的には、変化に乏しい成長のない、いつもの写真ができてしまいそうな気がしたほどです。

X-T5では少々乱暴な、イイカゲンなフレーミングをしても、AFは撮影者の意図を察知したかのようにスッと絶妙な位置にフォーカシングします。前回取り上げたキヤノンEOS R6 Mark IIも同様な印象を持ちましたが、撮影者が二日酔いでぼーっとしていても、シャッターボタンを押せば、そこそこの写真が撮れてしまいそうです。なるほど、これはサルでもそこそこの写真は撮れるかもしれません。筆者の仕事が減るわけです。

祠のスリットから見えるお地蔵さん。X-T5は何も指示していないのに勝手にお地蔵さんのアタマにフォーカスを合わせに行きました。被写体の大きさも小さいし、光線状態も難しいのに大したものです。
X-T5/XF18mmF2 R/絞り優先オート(F5.6・1/75秒)/ISO1600

素晴らしいのは、あいかわらずボディ上部にはダイヤルがたくさんあって(と言っても3つか)お約束のおじいさんに優しい「シャッタースピードダイヤル」も存在していることです。

他はISO感度ダイヤル、露出補正ダイヤルになります。XFレンズには絞り環が装備されているものが多いので、電源を入れる前にカメラの設定ができてしまうのは嬉しいところです。

ダイヤルがあると手慰み的に動かしたくなります。感触は悪くないですね。露出補正ダイヤルにはCポジションがあります。ダイヤル嫌いのアナタはボディ側のコマンドダイヤルをお使いくださいということらしいです。
CポジションはISO感度ダイヤルにもあります。こちらのダイヤルで感度設定したくないあなたのためにあります。それにしても親切ですねえ。

これだけで開発者の方と握手したいくらいなのです。先方は嫌がると思いますけど。各ダイヤルの操作感触も、年寄りの歯がグラつくような遊びはありません。はい、それでもダイヤルがキラいな人はX-H2シリーズを選びましょう。

おお、と思いましたのは、背面のLCDがチルト方式を採用していることですね。そうです、動画撮影時に便利とされているバリアングル方式ではないのです。

たぶん富士フイルムは大きな声では言わないけど、X-T5は静止画、すなわち“写真”を作るためのアイテムとしてX-Tシリーズを見直しているようにも思えるわけですね。もちろんスペックとしてはX-T5でも高品質の動画は撮れるんだけど、動画を本気で撮る人はX-H2シリーズを使ってね、100gほど重たいけど我慢して、そちらをお選びください、お願いします。みたいな割り切りがあったように思えます。

動画撮影を主にしたい方には不評なチルトタイプのLCDですね。もう諦めて静止画だけで勝負しましょう。縦方向にも動きますからね。よく出来ていると思います。

これはいい方向性だと考えています。“全部入り”の万能カメラにしてしまうと、1種類のカメラで満足しちゃうから面白くないですね。撮影スタイルや被写体によって向き不向きのカメラが存在した方が、カメラを増やす理由ができます。もっとも奥さまを説得するにはさらなるプレゼンは必要になるかと思います。

で、APS-Cサイズ・約4,020万画素の画質はいかがなもんでしょうか。もはや筆者はあまり関心がない、しかし読者の方々は強い関心をお持ちの点だと思いますが、あのね、悪いわけがないじゃないですか。とても緻密な再現性、などと書けばご納得いただけるかもしれませんが、そんなの拡大してみないとわかりません。それぐらい現行のデジタルカメラはいずれも高い水準にあります。

順光の風景。キリっとしまったディテール描写がいいですね。もはや35mmフルサイズのフォーマットと比較して、APS-Cがダメとかいう話は出てこないと思います。
X-T5/XF27mmF2.8 R WR/絞り優先オート(F8・1/1,900秒)/ISO400
串揚げ屋さんの看板人形ですけど、ただ撮影しただけではつまらない写真になってしまったので目玉だけをトリミングしてみましたが、ビクともしません。高画素機のフレキシビリティを見た思いです。
X-T5/XF18mmF2 R/絞り優先オート(F5.6・1/1,250秒)/ISO400

けれど、画像全体の品位の高さみたいなことは画像は拡大しなくてもわかります。これも解像度というよりも階調の繋がりが優秀だからではないでしょうか。センサーの名称は裏面照射型の「X-Trans CMOS 5 HR」で、画像処理エンジンは「X-Processor 5」になります。1世代目からXシリーズを使用しているわけですから筆者もトシを取るわけですわ。

約4,020万画素という高解像度により画質は素晴らしく精細ですが、少し厄介なこともあります、狙いの箇所からちょっとでもフォーカスが外れるとだらしない写真になる印象はあります。これはもちろん像を拡大せねばわからない程度ですが、隠し事がキラいな筆者は我慢できずイラつくことになります。ええ、こう見えても真面目なのです。

また今回の試用では一部にXマウント用のコシナ・フォクトレンダーのMFレンズを使用してみましたが、フォーカスリングを回すと画像拡大が自動的に行われるのはとても助かりますし、このおかげで撮影のスピードが落ちません。

Xマウント用MFレンズ、コシナ・フォクトレンダー NOKTON 23mm F1.2 Asphericalを装着してみます。第一面のレンズが小さくF1.2大口径の迫力はありませんが、APS-C用ならではのサイズ感が良いですね。絞り環、フォーカスリングの距離指標もあり、電子接点があるのでフォーカスリングと連動しての表示画像の拡大や、Exifの記録もOKです。
高周波成分の被写体なので、背景のボケは多少うるさい感じになりましたか。絞りの設定で線の細さの印象が変わる被写体の典型です。
X-T5/NOKTON 23mm F1.2 Aspherical/絞り優先オート(F8・1/1,500秒)/ISO400
もう少し近づいて撮影してみましたが、そこそこ絞り込んでも合焦点は浮き立つ感じですね。描写的にも文句ないですが、被写界深度は浅く感じます。
X-T5/NOKTON 23mm F1.2 Aspherical/絞り優先オート(F8・1/2,000秒)/ISO400
街角。このくらいの距離になるとパンフォーカス感が出るかなという印象ですが、カメラは高精細でレンズの描写も線が細いとなるとフォーカシングには慎重さを要しますね。
X-T5/NOKTON 23mm F1.2 Aspherical/絞り優先オート(F8・1/950秒)/ISO400

ただ、撮影者に「フォーカスを確実に合わせるのだ」という意識が薄く、絞って撮るんだから被写界深度に任せるぜ、みたいないい加減な撮り方をしていると、「あれれ、ここにフォーカシングしたはずなのに合焦してねえぜ、おかしいな」というトラブルが時として起こることがあります。

もちろん設定絞り値や撮影距離もよっても印象は異なりますが、画質が高精細になるほどレンズというのは1点にしかフォーカスしないのだという光学理論を思い知らされることになります。パンフォーカスの印象を強めたい場合は安全をとって、さらに絞りたくなりますが、今度は回折現象の影響が出てきます。カメラ内機能の「点像補正」にも限界はあると思うので、お手持ちのレンズの絞り設定による変化は見極めておく必要があります。

とくに開放絞りを多用する“レンズの味追求派”は慎重にフォーカシングを決めたほうが、モニターの前で失望し、こぼす涙の量は減り、より強い説得力を持ってX-T5を写真仲間に自慢することができるでしょう。

おそらくパンフォーカスになるのではと踏んで撮影しましたが、そうは簡単にはいきませんでした。描写的には素晴らしいですね。
X-T5/XF27mmF2.8 R WR/絞り優先オート(F8・1/1,800秒)/ISO400

富士フイルムユーザーがとっても大好きなフィルムシミュレーションには「ノスタルジックネガ」が追加されています。これでアウトプットのプリントをニューカラー仕上げに追い込めば、誰でもスティーブン・ショアになることができます。ええ、嘘です。

フィルムシミュレーションを「クラシックネガ」に。ここでの印象は悪くないですし、プロファイルはニューカラーを意識したということですが、やはり最終的にはプリントで評価してみたいものです。
X-T5/XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS/絞り優先オート(18mm・F8・1/640秒)/ISO400
すっきりとヌケの良い描写です。フィルムシミュレーションは「PRO Neg.Hi」にしてみました。大した意図はないのですが。
X-T5/XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS/絞り優先オート(23.3mm・F8・1/2,200秒)/ISO400
フィルムシミュレーションを「ACROS」にして、モノクロの調子をみました。曇天でコントラストが低い条件でしたが、デフォルトでも締まりのある再現になっています。
X-T5/XF18mmF2 R/絞り優先オート(F8・1/1,250秒)/ISO400
早春の海なんですが、海の色をあれこれ試していたら結局フィルムシミュレーションは「ベルビア」が良いのではという結論になり。あれこれ細かい調整しなくても済みますね。
X-T5/XF27mmF2.8 R WR/絞り優先オート(F8・1/1,700秒)/ISO400

使用感は先ほど申し上げたとおり、各所の動作部に不満はなく、メカシャッターの感触も悪くありません。ただ、シャッターボタンの押し心地はもうちょい考えるべきではなかったかと思いますね。X-E4あたりとそんなに変化のない印象なのは残念ですねえ。

AFが進化し、さらなる高解像度になったことで、とても充実感を感じるのがX-T5だと思いますね。価格的にも、少し頑張れば購入できるぜ的な設定にしていることも素晴らしいと思います。きっと富士フイルムはもっと高額に設定したかったに違いないと思いますが、我慢したのでしょうか。それともフラッグシップのX-H2シリーズと差別化しねえとマズいということになったのでしょうか。いずれにしてもユーザーにはありがたいことですし、これは昨今の社会状況を鑑みれば、表彰ものの価格設定であります。

逆光での性能低下なども見られず優秀なレンズですね。X-T5のポテンシャルをフルに引き出すにはいくつかの推奨レンズもあるらしいですが、そんなことに縛られているとつまらないですぜ。
X-T5/XF18mmF2 R/絞り優先オート(F8・1/2,000秒)/ISO200
カメラがコンパクトなので、どこへでも連れて行ける、すぐに取り出してシャッターが切れるという印象を持ちます。スナップにも適したカメラだと思います。
X-T5/XF18mmF2 R/絞り優先オート(F8・1/180秒)/ISO400

キーデバイスが第5世代になったという区切りをつけたことも、X-T5への買い替えに導かれましたし、これは富士フイルムの策略に乗った感じですが、筆者に後悔はありません。X-T3からの乗り換えでは、これまで書いてきたように確実に「X-T5を買う理由」があったからです。

ただ、アサインメントに使うには第5世代のXシリーズカメラはもう1台ないと不安ですし、まさかここからX-H2系のカメラを追加して、プロらしさを気取るというのも筆者には似合いそうもありません。じゃあフォーマットの大きなGFXシリーズにステップを上げるのかと言われれば、気軽に使うというところに重点を置きたい筆者の機材選択とはどんどん離れ、高画質追求方向になってしまいます。もっとも筆者に予算が潤沢にあればとっくにそういう方向には進んでいたとは思いますけれど。

と、いうことで、現在は今後の富士フイルムXシステムの拡充をどうするか考えているところであります。いろいろと考えて妄想しているうちが楽しいんですよ。実現しちゃうと途端につまらなくなりますし。

みなさんはよくお分かりかと思いますけど、X-T5のような極めて確実性の高いカメラを使うと、X-ProシリーズのでたらめなOVFの見え方がまた恋しくなるものなのです。こちらの進化形もどうぞよろしくお願いしますよ。

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)