赤城耕一の「アカギカメラ」

第67回:X-T5とは別腹です。パンケーキレンズの似合うFUJIFILM X-E4

スピリチュアルな出来事って、世の中にたくさんあるそうだけど、筆者にも思い当たるふしがなくもないのです。それは好きなカメラができて、うちに来てくれないかなあと念じていると、いつの間にか仕事場のテーブルの上にそのカメラがあるという超常現象です。

これは一度や二度ではないところに謎を感じます。ただ、超常現象が起きると、財布が極端に軽くなったり、2か月後にやってくるカード明細を見て、失神しそうになるほどの経済的損失が生じたりすることがあります。

正直なところ、昨今は強く念じてまで欲しいというカメラは本当に稀です。筆者に経済力が乏しいということもあるのですが、欲しくてもしばらく我慢しているうちに次機種が出てしまうので、欲しかったことすら忘れてしまうという、期間限定の妄想物欲なわけです。筆者はこれで我慢することを学びました。

ただね、もし欲しかったカメラがすぐにディスコンになり、その後継機も出てこないとなればいかがでしょうか。つまり代わりなるカメラがないわけです。いや、もしかすると、将来的にはあるのかもしれないですが、これは入手しておかねば大変な後悔をするのではないかという脅迫されたような気分になってきます。

パンケーキタイプのレンズが似合うカメラです。でもあまり全体的に色気はありません。ぱっと見はコンパクトカメラっぽいけど、レンズ交換ができちゃうという感覚がいいんじゃないかと思います。

毎度ながら、回りくどい話から始めておりますが、今回のお題はFUJIFILM X-E4でございます。前回にX-T5を褒めちぎっていながらなぜX-E4を取り上げるのかと申しますと、X-T5と同時にうちにお越しいただいたカメラでありますゆえご紹介するわけです。

X-T5は筆者にとっては業務色の濃いカメラだけど、X-E4は遊び心優先モードを備えている感じもしました。筆者の中ではこのことがとても重要に感じたわけです。

本連載でも何度となく申し上げておりますが、ミラーレス機なのにカメラ上部が盛り上がっているスタイルは一眼レフカメラに媚びているようで、正直なところあまり面白くないわけです。ファインダーを高性能にするため、また見やすい位置にするためセンター位置において上部を盛り上げるという理屈はわかりますけどね。

もちろんアサインメントではカメラとの戯れている時間などまるでないわけですから、デザインよりも性能や使いやすさ優先モードで選びます。だけど業務色の濃いカメラをプライベートで持ち出すことはないわけです。

FUJIFILM X-Pro1登場の時に、喜びのあまり落涙しながら入手に走った筆者としては、X-TシリーズよりもX-ProやX-Eシリーズのようなフラットな、小型弁当箱デザインが好みなわけです。たとえ多少見づらい内蔵ファインダーだったとしても許せますね。

X-E4の登場は2021年です。つい先日みたいな話ですが、既に昨年の後半の時点でディスコンになっていたようです。何ということでしょうか。

筆者はX-E4のデザインは大好きでしたが、その存在を軽んじていたのは、価格帯の問題でしょうか。その気になればいつでも購入することができるぜと簡単に考えていたわけです。

昨今はカメラ雑誌も少ないものですから新型カメラに触れる機会も減り、X-E4に実際に触れることもなかったのですが、昨年、とある同業者と宴席で隣になり筆者はX-E4に濃厚接触することになり、このウイルスに感染してしまったようです。怖いですね。宴席に座るときは周りを見渡し、カメラ好きの危険人物からは避けていたというのに、上着のポケットからパンケーキレンズのついたX-E4が出てきたというわけです。これは不意を突かれました。

感心したのは、直角に切り立つ角張ったボディシェルであること。先に申し上げたとおり、ボディ上面に出っ張りがないことなど、見方によってはストイックな印象のカメラであることも気に入りました。小型軽量は正義であるとする筆者の価値観と合致したX-E4でありますが、ワタシはちょっと違うカメラだぜと主張しているようにも感じていました。これはXシリーズの多くに存在するシャッタースピードダイヤルの存在感によるものかもしれません。

シャッタースピードダイヤルの存在が筆者には嬉しいのです。デザイン的な意味の方が強いのですが。面白いのはここにもP(プログラムAE)ポジションがあることです。モードダイヤルから移転してきたみたいですが、絞り位置に関係なく設定すればPでの撮影になります。

そして我慢することができずに買いに行きましたよX-E4。しかし、どこにも売っていないのです。量販店でもカメラ店でも、ネットを調べたら、プレミアをつけている店もあるくらいです。これは後継機の登場は望み薄であるとする推測に基づいたものでしょうか? ったく。ところが諦めかけた時あったのです。長く懇意にしている荻窪のカメラ屋さんにて、ええ、業界で有名なアノ店です。

じつはこちらにはX-T5でお世話になったのですが、この時、さりげなくX-E4の話を振ってみたらキャンセル品を1台在庫していたというわけです。まったく余計なことをしてくれたぜ。

何となく念じていたこともあり、X-E4は向こうからやってきたわけですからスピリチュアル感があります。こういうトランス状態でカメラを購入するのはかなり久しぶりのことでした。ええ、今になって、懐の痛みが重症化して大変なことになっておりますけれど。

X-E4、ハードの性能面をみると、イメージセンサーは裏面照射型の有効約2,610万画素のX-Trans CMOS 4。画像処理エンジンはX-Processor 4だから、X-T4やX-S10などと同等の画質となります。筆者には十分すぎます。富士フイルムのXシリーズにはX-H2やX-T5が登場するまでは画素数ヒエラルキーを感じさせなかったのがいいところです。

X-E4導入にあたり最も気になったのがIBIS(ボディ内手ブレ補正)が非搭載であることでした。もっとも、X-E4に惚れた最大の理由はフラットなシンプルデザインですし、カメラの機能に甘えるでないと、写真の神様に言われたようにも感じたので諦めることにしました。

そしてX-E4、入手してからダイジダイジにすることなく、筆者と一緒に動き回り始めました。

純正のサムレストとサードパーティ製のグリップを装着してみました。ボディ単体ですとグリップ感が少し弱いので、見た目の格好だけでなく有効なアクセサリーだと考えています。

街中でX-E4を見てみると、購入までに妄想している時とは異なり、そう突出した高級感を感じることはありません。と、いうか見せびらかそうと思っても目立たないんです。残念なことに。待てよ? これはカメラとしては街に潜む特性があるということにもなりますから、スナップシューターのアイテムとして強力なカメラなのかもしれません。コンパクトなサイズですからどこにでも連れて歩けます。カメラバッグを用意するのが野暮に見えてしまうかもしれません。

AF性能も筆者には十分です。ボタン類が少ないことも好みであります。ビルドクオリティはさほど悪くはないのですが、シャッターボタン周りがちょっと嫌いです。押下感触も気に食わないし、なんか遊びがあるし。このあたりに気合いが入っていれば、さらに愛せるモデルとなったでしょう。もっともスナップとか、女の子を撮影するのに使うのならばネガな要素は見つからないX-E4です。

コシナのXマウント用NOKTON 23mm F1.2 Asphericalを装着しました。絞りリングや距離指標があるのでスナップには便利です。電子接点を備えておりフォーカスリングの動きと画像拡大が連動するので、絞りを開いている状況でもMFのストレスがありません。
東京の桜は散り始めてしまいました。青空バックの希少なショット。コシナ・フォクトレンダーのXマウントレンズはフォーカスリングを回すのに連動してライブビュー表示を拡大できます。絞りは開き気味ですが描写性能もたいへん優秀です。
X-E4/NOKTON 23mm F1.2 Aspherical/絞り優先オート(F2.8・1/4,000秒)/ISO160
古いバーのステンドグラスです。店のファサードのために下方が明るく上部が暗いという悪条件です。階調のつながりもよく、カメラとレンズが双方で協力して頑張って再現している印象です。
X-E4/NOKTON 23mm F1.2 Aspherical/絞り優先オート(F4・1/640秒)/ISO400

皆さんの大好きなフィルムシミュレーションはRAW現像時に反映させることにしておりますので、被写体ごとに向き不向きを考えて選択しています。もっとも本稿で紹介するような作例作品は別として、筋を通して作品をまとめて提示する場合は整合感も重要になりますから、作者の表現意思のわかるものを選ぶべきでしょう。

セメント工場。奇妙な世界観を感じたので撮影してみました。撮影時から筆者にはモノクロな光景に見えたので、フィルムシミュレーションをACROSに設定しました。コントラストが高い条件ですが、ハイエストライトからディープシャドーまでの繋がりは見事です。
X-E4/XF18mmF2 R/絞り優先オート(F8・1/1,800秒)/ISO400
「いつもの青空」が気に食わなかったのでフィルムシミュレーションを「クラシッククローム」にして渋めにしてみました。さほど大きな意味はありませんが、少しシリアスな再現性になったようです。
X-E4/XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS/絞り優先オート(22.3mm・F9・1/1,100秒)/ISO400

カメラの大きさ、形状から考えると、X-E4は背面LCDを使用する撮影も多くなります。特にLCDをチルトさせた場合など首を垂れて撮影するポジションになるので、「撮らせていただきます」という謙虚な姿勢をみせることができます。被写体側は誰もそうは思わないかもしれませんが、撮影者の気持ちが写真撮影には重要になってきます。本当です。

街の光景。反射的にカメラを構えてノールックでシャッターを押しました。バランスとか構図とかを意識していませんがうまくハマりました。とにかく何かを見つけたら撮っておく精神です。
X-E4/XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS/絞り優先オート(18mm・F9・1/1,250秒)/ISO400
LCDのチルトはアングルの自由度を確保しているという点ではありがたい存在で、被写体に対して攻撃的な雰囲気にはならず、頭を下げるスタイルになります。剛性感も悪くないですし、使いやすいと思います。
こちらは内蔵のファインダーを覗きながら、人物の動きで光景が変わりつつあるところを連続してシャッターを切っています。ポジションとして一番面白いところを選びました。
X-E4/XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS/絞り優先オート(22.3mm・F8・1/1,600秒)/ISO400
ファインダーアイピースが丸型なのはいいですねえ。年寄りはそういうつまらないことを気にするものなのです。EVFの使用頻度はユーザーの好みで違ってくるでしょうけど、ここぞというときは役立ちますし、存在意義は個人的に大きいと考えています。

このところ、富士フイルムの各種カメラが入手しづらいのは生産調整をしているのか、それとも世界情勢を反映し、半導体や各種パーツなどの供給不足の問題なのか、さまざまな理由が考えられます。けれど、単純に申し上げればX-E4がディスコンになったのは、当初の期待ほど数が出なかったということも大きな理由としてあるのでしょう。しかし、その姿の消し方が、あまりにも唐突で違和感を感じました。

X-E4の兄貴分にあたるフラットタイプというかレンジファイダーカメラスタイルのX-Pro3もディスコンになった今、趣味性を強く打ち出すモデルが富士フイルムXシリーズから少なくなりつつあるのは筆者としては不満、いや不安です。もともとレンズ交換式のXシリーズはX-Pro1から始まっていますから筆者には思い入れもあります。

「“X-E5”も“X-Pro4”も将来的に出てくるから楽しみにしていてね」くらいのことを言っていただけると、筆者としても今夜から安心して眠ることができます。それともこれらのカメラが実現し、発売されるように、これから念じなければならないのでしょうか。どんな感じでしょう? 富士フイルムさん。

山茶花が生き残っていたので、葉の間にカメラを突っ込むようにして撮影しました。明暗差が大きいですがイメージ通りです。
X-E4/XF27mmF2.8/絞り優先オート(F4・1/3,500秒)/ISO400
プラットホーム。下ばかり向いて歩いているためでしょうか。珍妙な光景に感じるものを足元でも見つけることがあります。カメラが小さいので、こうした光景に出会うと意味のあるなしにかかわらず躊躇なく撮影します。
X-E4/NOKTON 23mm F1.2 Aspherical/絞り優先オート(F8・1/1,800秒)/ISO400
通りすがりに光と影のバランスに感じ入るものがありシャッターを押してみました。長いこと写真をやっているとノールックでも、カメラを水平に構えることができるのです。つまらない自慢ですね。
X-E4/XF27mmF2.8/絞り優先オート(F8・1/680秒)/ISO400
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)