赤城耕一の「アカギカメラ」

第7回:X-Pro2を使い続ける理由

FUJIFILM X-Pro2

つい先日のことだけど、筆者には富士フイルムX-Pro3が必要なのではないかと突然思い立ち、導入するためにどうしたらよいか算段を始めました。

いや、じつは思い立ったのではなくて、このところフィルムライカにモノクロームフィルムを装填して街中を歩き回る。と、いうきわめてプリミティブな撮影行為に再び没頭しはじめていて、この撮影感覚をデジタルでも楽しむためにX-Pro3が必要ではないかと考えたからですね。

ご存知のようにX-Pro3では背面のLCDモニターが隠された状態を基本とするHidden LCDを採用してますね。似たようなモデルはライカM-DとかM10-Dというやつが既にあるけれど、デジタルカメラとしては、なかなか大胆なコンセプトですよね。

X-Pro3の初期状態の背面ですね。フィルムシミュレーションの設定に応じてフィルムの箱デザインが表示されるギミックって、個人的にはちょっとなあ。業務用フィルムとかあれば表示させたいかな。

最初に結論を言ってしまうと結局はX-Pro3導入には踏み切れなかった私がここにいるわけ。今回はその理由について、つらつらと言い訳を述べてみることにしますのでお時間ある方はどうぞお付き合いください。

改めて、デジタルの利便性を考えた

X-Pro2ではOVFで撮影しています。ええ、そうです無理しています(笑)。でも目に飛び込んできたものをさらっと撮影するってのはOVFもいい感じです。コントラストが強いのでASTIA/ソフトで撮影しました。
X-Pro2 XF35mmF1.4 R(F8・1/480秒)ISO 200

出来上がりを推測して撮影するというのはフィルム撮影ではあたりまえのことであり、最近の若い人はそこが楽しいという人もいるけれど、じつはデジタルカメラを使用する場合も予測というか結果を推測をして撮影することに変わりはないわけ。問題はその結果判断をいつ、どのように確認するかということになるわけですね。

レンズ交換可能なXシリーズの初号機であるX-Pro1は発売と同時に交換レンズもすべて導入したんだけど、ハイブリッドマルチビューファインダー、すなわちOVF、EVFの切り替えという未来のライカみたいな大胆なコンセプトを持っていたことに感動しましたね。正確には同社のX100シリーズの方が早かったわけでこれがベースなんだろうけど。実際にライカカメラ社主のアンドレアス・カウフマン氏にインタビューした時、M型ライカのファインダーもX-Pro1みたいにやらなくていいのかと質問しちゃったもん。カウフマン氏からどういう答えが得られたかは、今回は内緒にしておきますけど。

X100(2011年)
X-Pro1(2012年)

OVFでの撮影はフレーミングやフォーカスの確実性はやや劣り、被写界深度もわからない。けれど表示遅延はなく、ダイレクトに眼球に光が入ってくる感覚なわけ。だから対象をそのまま切り取っていくような潔さがある。言い換えれば、半分くらいは勘を働かせて、未来を予測しながら撮影する。もっとも撮影画像を確認すれば撮影が成功か否かはすぐにわかりますからね。

心配ならばEVFに切り替えて確認すればいいわけで利便性は守られる。つまり、デジタルカメラでは、カメラの様式に関係はなく、撮影画像をすぐプレビューできるから、それが完成型ではないにしろ、とりあえず撮影が成功したか否かはプレビュー画像を確認すればわかるから安心ですよね。

しかもテザー撮影をしてみると、全コマ撮影に「ポラを切る」(インスタントフィルムを使ってあらかじめテスト撮影するっていう意味ね)感覚で撮影しているようなものであり、撮影者も現場での立ち会いのデザイナーもクライアントも「よしよし」みたいな安心感を現場で得て共有することができるわけ。これはこれで精神衛生上たいへんよろしくてビジネス上もありがたく、平和な時を過ごすことができるわけですね。

X-Proシリーズはスタイリングも機能も間違いなくM型ライカから影響を受けていると思うけど、気軽にマクロ撮影が出来てしまうことが当初はとても新鮮に感じた。フィルムシミュレーションはPROVIA/スタンダード。
X-Pro2 XF27mmF2.8(F5・1/2,000秒)ISO 200
晴天の日になんでもない百日紅の花とか撮影したくなってしまうのも富士フイルムのXシリーズの特徴でしょうかね。単純にきれいな色が見たい欲望か。フィルムシュミレーションはPROVIA/スタンダードですね。X-Pro2 XF27mmF2.8(F8・1/900秒)ISO 400

まだ私が駆け出しだった40年近い昔の話だけど、撮影後に写真の仕上がりを見るのが恐ろしく、それが原因で仕事を辞めてしまった、私より少し上の歳の同業者がいました。つまり、プロラボにポジフィルム現像を出すとおおむね2時間ほどで仕上がりますが、現像結果を見て撮影が成功したか否かを知るこの2時間がとてつもなく大きなプレッシャーになり、彼はその時間に耐えることができなかったわけ。その時にもしデジタルカメラがあったら、彼は今も仕事を続けていたかもしれませんけどね。

たしかに現像が仕上がるまでの2時間は、撮影内容によっては結構スリリングな時間に感じることもあって、胃の痛くなる様な思いをすることがあるわけですわ。急ぎの仕事で、もう覚悟を決めて腹を切ったつもりで、すべての撮影済みフィルムを「+1で! 本番全部流し」(テスト現像しないでプラス1段の増感現像を指示し、全部のフィルムを現像してしまうこと)なんてやるわけですよ。もちろんしくじっていたら取り返しがつきませんし、そこから二度と仕事は来ないだろうし。

フィルム時代のプロは1/3絞りの設定の違いで仕上がりが変わるシビアなカラーポジフィルムを使うわけで、技術的な失敗の他に、カメラが壊れていた、なんてこともなくはなかった。私は仕上がりを待つ間に一杯やって、その恐怖を忘れるようにしてましたから今もカメラマンを続けることができています(笑)。そのこともあって、現在のデジタル時代はすごく幸せなんですわ。

でもね、何にせよ基本的にはフィルムでもデジタルでも写真は一期一会の気合いを持って撮影するわけですよ、ホントは。

X-Pro3に触れて、X-Pro2を見直す

X-Pro3 DRシルバー

こうして今さらながらデジタルの利便性をというものを考えてしまったわけです。X-Pro3が出てきた時に、これは自分の甘えた精神を鍛え直すのにいいカメラなんじゃないかと少しだけ思ったことは確かですね。

惹かれたのは他にも理由があって、X-Pro2とX-Pro3の差はデザイン的にはさほど変わらないんだけど、トップカバーと底面カバーをマグネシウム合金製からチタン合金に変更しているのにはちょっとグラっときましたねえ。しかも「デュラテクト」と呼ばれる表面硬化技術とかを使ったりしてさ、これって、耐久とか硬度自慢よりも、ボディを心地よくシリコンクロスで磨くために採用したんじゃねえのかな。隠れチタンカメラ好きですからね私の場合。

表面の仕上げなんぞ正直なところ写りには関係ないし、だからどうした、ということでもあるんだけど、スペックとか写りとかは関係ないところにカネをかけたカメラが好きなわけ。

ちなみにこの10年の間に発売されたデジタルカメラで使い物にならないようなものは一台もないわけだから、そろそろカメラもスペック以外にもこういう見直しが必要だと思うんだけどねえ。どうなんですか? 売れませんか? ダメか。

で、前述したようにうちのX-Pro2くんには引退していただいて、X-Pro3さんにお越しいただく算段をしていたわけです。このところ正直言ってX-Pro2くんは出撃の機会があまりなかったこともあるんだけど。

かわいそうだから最後に思いきりX-Pro2を使うかと、このところプライベートでもアサインメントにも、どこへ行くにも携行しているんだけど。ところがこれをきっかけとしてX-Pro2をまた見直しちゃったわけですわ。

曇天でもなかなか良い感じの色再現になりますね。フィルムシミュレーションをVelvia/ビビッドで撮ってみたけど、コントラストが低めの条件なのでマッチングも良い感じでした。
X-Pro2 XF35mmF1.4 R(F2・1/3,800秒)ISO 200
X-Pro1では構造上内蔵できなかったとされた、視度調整機構がX-Pro2で入りましたが、やればできるじゃないかと思いました。

X-Pro2は、X-Trans CMOS IIIとX-Processor Proの組み合わせ、しかもジョイスティックなAFエリアセレクターを持つ初めてのXシリーズ機ということがまず良かったんだよね。X-Pro1の弱点をしっかりと潰すという意味ではとても良い仕事をしているなあと思いました。

デザイン面でもX-Pro1で最高に気に食わなかった、あの丸いAF補助光窓が四角になった、たったそれだけのことで涙が出そうになりましたから私。

かつて実像式のレンジファインダーカメラにはブライトフレームの採光窓が必要で、最近のM型ライカではLED照明でフレームを表示するのだけど、X-Proシリーズにも採光窓はない。すると、この空きスペースには何か欲しいところ。X100シリーズみたいにストロボの発光部でもいいんじゃないかな。個人的には内蔵ストロボなんか絶対に発光させないけど。まあでもX100のストロボ発光部はデザイン的にはあまりよろしくはないからやめた方がいいか。X-Pro4ではカッコいいやつをお願いしたいぞ。これが成功したらデザイナーさんに一杯ご馳走します。銀座ではなく大宮の居酒屋になると思うけど。

ACROSモードが内蔵された時は「けっ、俺なんかフィルム使いだから、リアルACROSを使っているんだぜ」と反発しましたが、今なぜか使用頻度が高かったりします。
モノクロのACROSモードは品がいいんだよね、再現の。フィルムと比較してどうのというより、そうだACROSモードがあるからXシリーズを持ってゆくかと思わせるもんね。
X-Pro2 XF27mmF2.8(F3.2・1/450秒)ISO 400

最近は新型カメラにおいては画素数のことなんかまったく気にしていないんだけど、X-Pro2の画素数は有効2,430万画素で、もう私には必要にして十分すぎますね。

連写速度は最高で8コマ/秒。これも私には速すぎなんで3コマ/秒に切り替えて、ぽしょぽしょ撮るんだけど、この撮影感覚がすごく体と合うわけ。X-Pro1ではもっさりしていた動作感覚が向上して、EVFの遅延表示も少なくなって、とても使いやすくなったことも嬉しかったですね。

それにすごいのは、X-Pro2のOVFは使用レンズに応じてファインダーを変倍させること。これは35mmフィルムレンジファインダーパノラマカメラという特異な存在の富士フイルムTX-1とかTX-2のそれにならったんだろうけど、もう凝りまくりのコストかかりすぎ。X-Pro3ではこれは省略されましたね。そりゃそうだ。私も設計者ならヤメましょうって言うかもしれん。工場でも組み立てが面倒くせえと思われているに違いない。

正直にここで言ってしまうと、私の聞く限り、X-Proシリーズのユーザーは誰もふつーの撮影にOVFなんか使わないわけですよ。なぜならばEVFを使うのが「ミラーレスカメラ」の本質だからです。これは当然ですよね。その使わないOVFに莫大なカネをかけているわけですから富士フイルムは大したものなんですよ。

でね、それで思い出したんだけど、X-Pro3でさらにヤなのは、EVF使用時にファインダー窓を外から見た場合シャッターが下りること。なんか見た目が男らしくない感じしません? せっかくツッパってX-Pro3を導入してですね、「出来上がりを想像しながら撮影するフリ」をしてみたのはいいけど、実はEVFでしっかり撮影前も画像を確認しながら撮影し、その結果もファインダー内で確認している。つまり、その姑息な撮影スタイルが周囲にバレてしまうわけです。

X-Pro3のEVF使用状態の時のファインダー窓を外から見る。文字通り外観を遮断した感じです。ならX-T4やあるいはX-E3を使う方がいいんじゃないのかなあ。

「あ、あいつX-Pro3使っているのにEVFで見てる」みたいに指を差されたりしたら、私なんか舌噛んで死にたくなります。噛まないけど。X-Pro2は偉いよなあ。EVFに切り替えても外観からみるファインダー窓はそのまま変わりませんからねえ。"レンジファインダーライカを使いこなしているオレ"を自分で演出できるわけですよ。考えすぎか。

あ、X-Pro3のオーナーの方、怒らないでください。姑息なのは私のほうですね。X-Pro2でスナップしても、下向いてしっかりとその都度画像確認しています。そして結果をみて、よしよしとかしていますから。まわりからみると、とても女々しい行為ですね。でもね、なんか文句あります?

X-Pro2ではOVF表示時にファインダー右下に小窓のEVFの拡大表示をさせることが可能になりましたが、これを思いついた設計者は天才です。
露出補正ダイヤルを「C」ポジションにして、コマンドダイヤルで露出補正できるようにするってのも天才設計者のなせる技でしょうか。
都市風景なんだけど、こうした建物とか硬質な金属のディテール再現も意外とVelvia/ビビッドが適していたりします。シャドーの再現性の良さも見事ですね。
X-Pro2 XF35mmF1.4 R(F8・1/420秒)ISO 200

正直なところ、今もフィルムライカを使い、想像力を全力で使い、撮影している私としては、その撮影感覚を最新のデジタルカメラ無理して求める必要はない。言い換えれば、X-Pro3にまで求める必然はないことに気づいてしまったわけです。

思い出しました。「アサヒカメラ」でX-Pro3をレビューした時にも、街中でささっと撮影して、脇道の路地裏に走り、撮影が成功したか否かを確認してたもん。まだ試作機だったから、動作面での不安もあったけどさ。たぶんいま私がX-Pro3を使うと、LCDを下に開きっぱなしで、よだれかけをかけたままみたいな、だらしない姿で撮影することになりそうです。これだけは避けたい。

X-Pro3でLCDを見るには背面カバーを引き出して下ろします。なんか大袈裟ですね。街中でやるとなんかカッコ悪いです(個人の印象です)

せめてデジタルカメラを使う時くらい、少しはラクさせてくれと思い直したわけです。だからカメラの背面にはモニターが必須です。今後ともX-Pro2と一緒に頑張っていくぞと決意を新たにした10月でございました。おしまい。

X-Pro2の背面。何を言いたいわけじゃないですが、背面にLCDがあるのは世界の平和みたいな感じがするわけです。

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「銀塩カメラ辞典」(平凡社)