赤城耕一の「アカギカメラ」

第36回:趣味と実用の狭間に揺れるニコン Z fc

早いもので2021年も、もうすぐおしまいですね。本年最後のアカギカメラのネタ、じゃなかった締めくくりとして取り上げるカメラは悩んだすえ、「ニコン Z fc」を選んでみました。

筆者はデジタルカメラはお仕事用のカメラとして位置づけているので「稼がないミラーレス機」の所有は自分で許せないのです。

ところがZ fcは発売から現在に到るまで、依頼仕事で使用してはいないのですが、大きな不満を抱くことなく一緒に過ごしております。稼がないという意味ではリコーGR IIIxもそう見られてしまいそうですが、意外なことにGR IIIxは仕事のサブカメラとして、予想以上の大活躍というかメインカメラを超えるような仕事ぶりをみせることがあり、すでに実績を挙げております。

ただ、現在所有のZ fcはボディ1台のみだし、現時点でZマウント交換レンズもNIKKOR Z 28mm f/2.8 Special EditionとNIKKOR Z 40mm f/2の2本の単焦点レンズしか所有しておらず、サブカメラとして使うにも中途半端な位置にありますから、いくら筆者がテキトーな性格でも、これでは責任のある依頼仕事を円滑にこなすことはできません。

ならばZ 6IIとか、まもなく発売されるZ 9を使えば良いではないかと言われそうですが、筆者の仕事ではいずれもハイスペックすぎて持て余してしまいます。これもまたイヤなんですよね。他にも理由はなくはないのですが。ちなみにキヤノンEOS R5だって、少しでも元を取らなければと小商い撮影にもムリして使用している状況なので、現仕事状況ではハイスペックなカメラほど扱いが悩ましくなります。

NIKKOR Z 40mm f/2を装着。鏡胴が太くて少しユーモラスな感じもしますが、とてもよく写りますね。第一面のレンズは、ハッタリとして、もっと大きくしてもいいんじゃないかと思いますが、大きなお世話ですね。このレンズにも専用フードがありません。

それにしても筆者のZマウントカメラのデビューがZ fcになるとは自分でも予想にしなかったことで、とても不思議であります。

「お前さ、そこまでデザインにこだわるのかよ」と言われてしまいそうです。ええ、こだわりますよ、あたりまえじゃないですか。あなたはブサイクなカメラがお好きなのですか? 筆者はいくら性能が良くてもイヤですけどね。あ、また余計なことを書きそうになりましたので、年の瀬を平穏無事に過ごすためにここまでにしておきます。

で、この2か月の間、Z fcのMOOK制作の企画でさまざまな取材をしました。そこで出てきたZ fcのマーケティングのキーワードでアタマに沁みたのは「プライマリー」と「セカンダリー」という文言であります。

これは説明する必要もないでしょうが、プライマリーは第一で、セカンダリーは第二のという意味で、ニコンの戦略からすると、筆者のようなジジイのコンシューマはセカンダリーの属性になるようです。

若いZ fcユーザーにZ fcを選んだ理由を聞いているみると「カワイイから」と、示し合わせたのごとく同じ答えが返ってきます。瞳をキラキラさせながら。ジジイとしては「どこがカワイイか具体的に言ってみろよ。え?」と詰め寄りたくなるわけですが、ここはカメラ市場の未来を担う若い人に嫌われないためにも堪えねばなりません。

Z fcの店頭カタログをご覧いただけるとわかりますね。ジジイ要素の入る余地は1mmもございません。ニコンDfの売り方とは大きく異なる方向性です。Z fcは一眼レフからミラーレスへ、かつマウントもFからZへ変更されているわけです。そのデザインは過去をひきずるというより、過去の良きものを生かす、ヘリテージデザインとして設計が考えられるわけです。

と、つとめて冷静に書いてみましたが、筆者自身も40年以上、ニコンと日々共にあるわけです。だから過去のことを、そう簡単に忘れることはできません、なにせ本稿の執筆中に、手慰みのカメラとしてニコンF2を持ち出して、シャッターダイヤルを1/8秒にセットして空写しし、そのガバナー音にシビれているような変態です。何か問題ありますでしょうか?

New FM2と並べて正面から記念撮影しておりますが、なるほどのヘリテージデザインですね。でもミラーレス機なのですから、一眼レフの真似をしなくても作れますよね。一部にはなぜレンジファインダー機のニコンSシリーズのようなデザインにしなかったのかという話が聞こえて参ります。筆者はどちらも欲しいかな。

Z fcがデザインの参考にしたと言われるNew FM2(1984年)では、モータードライブのMD-12を装着しトライXを詰めて、クリップオンストロボのサンパック25SRを取り付け、シャッタースピードを最高シンクロ速度の1/250秒に設定して、とある事件で捕まった犯人が護送される様子をTVクルーや他の報道カメラマンと撮影ポジションを暴力的に奪い合いながら、Aiニッコール24mm F2.8のフォーカスリングを1mに設定して、絞りを絞り込み、犯人の目前にレンズを突きつけて撮影したという経験もあるわけです。

そのころにNew FM2がカワイイとかカッコ良かったかどうかという印象はまったくありません。当時のフラッグシップ機であったF3の最高シンクロ速度が1/80秒で日中シンクロ撮影には厳しかったためで、筆者がNew FM2を選んだ理由は実用一点張りでした。

真上からZ fcとNew FM2を見比べてみますが、Z fcはどこからみても、フィルム装填できそうに見えます。New FM2の巻き戻しクランクがダイヤル的な造形ですね。

ちなみにニコンで最初に1/250秒のシンクロを実現したのは1983年のFE2ですが、これも速いシンクロ速度が欲しいためだけにまずFE2を購入した記憶があります。この頃は真面目なんで、デザインから入ったわけじゃないですね。フルメカニカルということでNew FM2をサブカメラとして使うようになります。

あとはどうですか、お正月に新宿の量販店へ行くと、New FM2は「写真学校指定教材」の札がかけられていましたけどね。なんだこのカメラは“教材”なのかよーと。でも、この時期になると、New FM2は増産したような話も聞こえてきましたが、都市伝説なのかな。

ちなみにFE2の方が指針はアナログ表示だし、NewFM2の−◯+というLED表示よりも露出のズレ量がわかりやすいんじゃねえのかと思ってましたけどね。

もっともFE2はずっと早くにディスコンとなり、New FM2は2000年くらいまで現役で売ってました。教材としては確かに優れています。そのあとはFM3Aが引き継ぎますが、そのころになるとニコンAF一眼レフのミドルクラスやフラッグシップは1/250秒シンクロが当然の仕様でしたね。

Z fcはどうなんですか。今現在の写真学校の新入学生の指定教材になるのかしら。絞り環はないけど。基本を知るために中古でNew FM2やFM3Aを買ってくださいという話になるんですかね。さすがにそれはないですよね。

Z fcのマニュアル撮影時は、露出のインジケーターが1/3刻みで出るからNew FM2よりも露出のズレ量はわかりやすいです。もっともTTL、すなわち反射光式TTLメーターの特性をどう考えるかということもあるんですが、これを話し始めると長くなるので今回は割愛します。ご自身で勉強してみてください。

カメラとの戯れという意味では、ダイヤル操作は悪くないわけですよ、カチカチとダイヤルを回す感触が。マニュアル撮影時には電源を入れなくても設定しているシャッタースピードの数値がわかりますしね。でも、Z fcはF値がわかりません。これでは露出設定の確認としては問題ですね。電源を入れなくても常時表示できるようにファームアップで機能追加できないでしょうか。あ、やっぱりいいや。老眼だとこのF値の数字が小さすぎて目を凝らさないと見えません。つまり、結局背面のLCDで絞り値を確かめることになるし。

シャッタースピードダイヤル。絞り優先AEを搭載した初代ニコマートELからFEまでは緑色の「AUTO」表記でしたが、その後は「A」の表記になります。「1/3 STEP」と「AUTO」の表記がよく似ているんですよ。
絞り表示窓。表示されている数字が小さいです。老眼ジジイは一生懸命に目を凝らして確認せねば見えません。だから背面のモニターを見たりします。ジジイは絞り優先AEとかマニュアル露出とか使うんじゃねえよ的な勢いです。
ISO感度ダイヤルは良いデザインですね。下に撮影モード切り替えレバーが目立たずにあるのもいいですね。撮影モードによっては、ダイヤルにいっさい触れることなく撮影が完了します。
液晶モニターはバリアングル式ですから、便利ではありますが、ひっくり返して収納すると、背面は正面や側面部分と異なり、貼り革ではなくシボ加工のプラスチックですね。思いきり安っぽいです。ここは反則です。

Z fcはいちおう、これに加えてコマンドダイヤルやサブコマンドダイヤルも備えています。これは上部のダイヤルをいじくらなくてもカメラの設定ができるように配慮されているからですね。この場合は上部のダイヤルは“虚飾”になりますね。撮影でコマンドダイヤルを多用する人が何故Z fcを購入されるのかは謎ですが、こういうことに疑問を持つのは屁理屈をこねるジジイだけのようです。

Z fcはダイヤルがカメラの軍艦部の一等地にあるんだから、ビギナーの方にも、せっかくあるものなのだから使ってみるかなという感覚になるように、もっとダイヤルの操作をアピールしてもよいかと思いますけどねえ。

とにかくAだのPだのと書かれた色気のない撮影モードダイヤルがカメラの上でエラそうにしているカメラよりも、シャッタースピードダイヤルが目立つ位置にある方がカメラをいじくりまわしても楽しく過ごせるわけです。これは筆者の好みです。

ニコンDfと比較してボディの厚みが薄いのは高く評価します。フィルム時代からマウント変更がなくシステムを引き継ぐ一眼レフシステムのほとんどが、デジタル化によって「どてら」を着たような姿になります。一眼レフですから構造的な宿命です。Zマウントは16mmという極端に短いフランジバックですから、ボディの厚みはいかようにもできそうですね。

ニコンDfと並べてみます。Dfが「Nikon」ロゴを採用したのは英断でしたし、それがZ fcにも引き継がれたのは嬉しかったですね。両者ともにグリップをつけてみました。雰囲気は同じですが、Z fcは締まって見えます。小型カメラゆえの凝縮感があります。
Z fcのカメラ軍艦部はジジイ世代に納得のレイアウトですね。露出補正はわりと頻繁に使うので、ダイヤルとして表に出してあるというのは賛成です。

お前さ、DX(APS-C)フォーマットでいいのかよ、ですか? もうライライですよね。私はOMデジタルソリューションズ(長い)とパナソニックが出しているマイクロフォーサーズ機システムのヘビーユーザーでもあるんですよ。フォーマットサイズの大きさは、通常の撮影においてはまず気にならずです。

ただし、これも何度も書いていますが、フィルム時代からのレンズ資産など、共通システムをデジタルにも流用したい場合は、なんとしても35mmフルサイズのフォーマットの機種が1台は必要だと考えています。やはり、過去のレンズの実力をすべて引き出してみたいじゃないですか。周辺なんか流れたりコントラストも低くていいんだから(笑)。

NIKKOR-N・C Auto 35mm f/1.4
中心の合焦点はシャープですね。デフォルトだとコントラストが低くて色味も黄色いから、少しだけ調整しました。とあるレタッチャーさんによれば、オールドレンズを使用したコントラストがあまり高くない写真は、後で手を入れやすいという話でした。なるほど、そういう解釈もあるのか。
Z fc NIKKOR-N・C Auto 35mm f/1.4(F2・1/640秒)ISO 200 モデル:ひぃな

筆者は、デジタル時代に新しく組み上げられたカメラシステムならば、フォーマットサイズは自由でいいと考えています。35mmフルサイズフォーマット論の話をすると、またオスカー・バルナックの話をしたくなるんだけど、もう何度もしてますからここではやめておくことにいたします。

ニコンに限らずAPS-Cフォーマットの一眼レフは、ペンタックスK-3 Mark IIIなど一部の機種を除けば、ファインダーが小さいですね。井戸の底を覗くような小さな視野しか望めないので、時として泣きたくなることがあります。個人的にはフォーマットサイズの小さな一眼レフで一番気に食わないのはファインダーが小さくなることだけでした。

もちろんミラーレス時代を迎えてからはこの不満はまず出てきません。ボディサイズが極端に小さなカメラは別として、スペースがそこそことれるミラーレス機ならば、EVFの倍率を稼ぐことができるからです。

だからZ fcで撮影している時は、DXフォーマットのカメラだということを忘れてしまいます。Z fcのファインダーは心地いい見え方の部類に属するのではないでしょうか。もちろんスペックに厳しい人はもっと高性能のEVFを望まれるんでしょうが、筆者の撮影では、これでまず問題を感じたことはありません。重要なのは、思わずファインダーを覗きたくなるような大きな丸型のアイピースを有していることです。Z fcの好きな部位を挙げろと言われたら、筆者はアイピースと言ってしまうかもしれません。

Z fcのボディを握った印象で、最初は少し頼りなく感じるのは事実です。小型の28mmや40mmの単焦点レンズを使う場合にはホールディングバランスも問題はありません。ただ、Z fcに大きなズームレンズや大口径レンズ、あるいはFTZアダプターを使用し、Fマウントの望遠やズームなどの長めのレンズを装着するような場合はバランスが少々悪くなるので、グリップ感が欲しいところです。このためかZ fcには「Z fc-GR1」なる純正アクセサリーが用意されました。このグリップには「Made in Japan」の表記がありますね。ボディもレンズもタイでの生産ですが、グリップは日本製なわけです。ま、どうでもいいんですが。

GR-1は付属の大きな六角レンチでボディに締めつけて固定します。使用しているうちに緩んでくると思うのですが、カメラとの戯れタイムの時に、ついでにグリップの締めつけもせよということなのでしょうか。

ただ、このグリップは付属の六角レンチでボディ側の三脚穴に締め付けて取り付ける方式です。コインでクルクルじゃありません。グリップとカメラボディ双方の締め付けが緩むことがありますが、レンチは常に持ち歩いて弛緩した心と共にボディを引き締めるのを忘れずにという意味なのでしょう。グリップ装着のままでのSDカードやバッテリーの交換は問題ありません。でも、それ以上の魅力を放つアクセサリーにはなっていないことについては、少し考えてみる余地はありそうです。

せっかくグリップも入手したので、FTZを使って、古めのFマウントニッコールでも遊んでみました。作例にあるAiズームニッコール80-200mm f/4.5なんかは超絶によく写ったりします。入手価格は本日の日替りランチくらいでした。Z fcの薄皮を剥いたようなクリアな画質をよく手助けしている感じです。みなさまの大好きなクセのある描写をするズームニッコールオート43-86mm F3.5の初期型なんかはどうかと申しますと、周辺域はカットされてしまうので、本当の特性はわからないのですが、画面中心“だけ”がシャープなことがわかります。でも意外にコントラストあるよね。これはZ fcのもともとの画質がいいからなんでしょう。

Zoom-NIKKOR 80-200mm f/4.5
現役時代は欲しくて欲しくて仕方なかった望遠ズームの代表格でした。F値は暗いけど、ミラーレスならファインダーが暗くならないから関係ないです。素晴らしくよく写りますが、ズームリングが経年変化でスカスカです。
Z fc Zoom-NIKKOR 80-200mm f/4.5(F8・1/125秒)ISO 125
Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm f/3.5
ズームレンズ黎明期の頃の製品です。標準2倍ズームですが、43mmは準標準域でしょう。設定はほぼテレ端ですが、中心以外は暴れる感じです。描写が悪くないのはZ fcボディ側の画質が優れているからでしょう。かつてこのレンズの最良描写をする焦点距離や撮影距離、絞り値などが、ニコンからアナウンスされていました。
Z fc Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm f/3.5(F3.5・1/200秒)ISO 250

Z fcのフランジバックが16mmと短いからだろうけど、FTZもFTZ IIもデカいですよね。どうにもなりませんよね、これ。それにしてもデカければAF駆動モーター仕込めるじゃないの。あ、すぐに話がそれてしまいます。すみません。

Z fcで楽しく撮影できたのは、日中シンクロ撮影です。マーティン・パーとか、ブルース・ギルデンとか須田一政のような写真を即座に作ることができます。ええ、もちろんウソです。

サンパックの古い小さなクリップオンタイプのスピードライトが机の引き出しから出てきました。電池を入れたら発光したので今回使用しました。GN17(ISO 100)ですが、お遊びには十分。仕事でダイレクトにストロボを被写体に向けて発光させて撮影することはないので楽しめました。

マニュアル露出の設定で、カメラ上部からシャッタースピードとISO感度、見えづらいけどF値の設定確認ができるわけですから、そこから使用するスピードライトのGN(ガイドナンバー)を考えつつ、それらと定常光との理想のバランス露出を得るわけです。それこそFE2とかNew FM2の時代と大きく変わりはありません。Z fcの最高シンクロ同調速度は1/200秒ですから、NewのつかないFM2と同じです。ダイヤル数値には200数値はないので、もし最高シンクロで同調させたい場合はダイヤルを「1/3 STEP」に合わせて、コマンドダイヤルで1/200秒に設定する必要があります。これは少し残念。「X」のポジションが欲しかったですね。

ストロボ使用時の適正露出の算出式は、GN÷撮影距離=F値となります。距離指標数字のないミラーレス機でフルマニュアルのスピードライト撮影をする場合は、フラッシュメーターを使用するなどして露出決定をせねばなりません。そんなことは面倒くさいですね。もし日中シンクロで軽く遊びたいと考えた人は、中古カメラ屋さんのジャンクボックスに300円で転がっている小さなクリップオンタイプの外光オートストロボを入手すれば大丈夫です。ええ、光ればいいです。試し撮りして調光精度が悪けりゃ、絞りかISO感度で調整してしまえば済むことですから。

フィルムカメラでは撮影の途中でISO感度を変えることはできません。デジタルでは撮影のたび、自由自在にISO感度設定を変えることができますから、スピードライト側のGNを変えるのと同じ理屈になります。ちなみにニコン純正の超優秀スピードライトを使えば、カメラとスピードライトの全てをAEで設定しても“適正露出”を得るのは容易です。けれど撮影者が考える絞りやシャッタースピードによる効果を加味した“理想的な露出”にするにはAEでも設定に工夫が必要になります。もちろんZ fcのようなダイヤルを有さないカメラでも同じ撮影はできますよ。でもね、撮影時の“気分”はかなり違います。

冬のロマンティックな日差しを暴力的にスピードライト光でブチ壊してみました。風景写真好きな人には怒られますね。でも写真はなんでもありと考えていいわけです。
Z fc NIKKOR Z 28mm f/2.8 Special Edition(F11・1/200秒)ISO 200
情緒を重んじる花鳥風月写真でもスピードライト光を浴びせかけてしまうという、情け容赦のない筆者です。嘘です。日中シンクロの効果をただ試してみたかったわけです。
Z fc NIKKOR Z 28mm f/2.8 Special Edition(F11・1/200秒)ISO 400
これも日中シンクロしています。不思議な非日常的な画になりました。スピードライトを使わなければ、葉っぱの部分は真っ暗ですね。絞りを少しずつ変えて、背景の青空とのバランスが最適と思われる画を選んでみました。
Z fc NIKKOR Z 28mm f/2.8 Special Edition(F9・1/200秒)ISO 200

ま、こうやってZ fcを実際に使ってみると、趣味と実用の狭間のバランスが取れていることがわかります。もしブラックボディが出たら、購入して仕事に使用してもいいのではないかと考えているくらいです。

ただね、趣味の部分でかぎって言えば、一言申し上げておきたいことがあります。これはZ fcそのものことではありません。使用しているNIKKOR Z 28mm f/2.8 Special Editionと同40mm f/2のことです。2本とも恐ろしく良く写ります。描写に関しては、なんのツッコミもできません。さすがとしか言いようがないというか、Zシリーズのカメラとレンズで撮影した画像は従来よりもステージが一つ上がったような高画質という印象を持っています。

ニコン一眼レフ時代の画から比較すると、NIKKOR Zレンズは薄皮のベールを剥がしたようなクリアな描写という印象を持っています。高画質ですが、あまりにも性能が高いので少し無機的にも見えてしまいますね。大口径レンズはそうでもないんだろうなあ。
Z fc NIKKOR Z 28mm f/2.8 Special Edition(F8・1/640秒)ISO 200
毎度通りかかる床屋さんの裏路地に干してあるタオル。AEの露出精度がなかなか優秀ということです。Z fcは光の分析に長けているカメラという印象です。
Z fc NIKKOR Z 28mm f/2.8 Special Edition(F8・1/640秒)ISO 200
吉祥寺を歩いていたら、提灯が宙を漂う感じで飾られていたので、軽く一枚撮影。昨今話題の40mmもとても秀逸な写りですね。無理をしていない余裕を感じさせます。Z fcでは35mm判換算で60mm相当となり、これも使いやすい画角です。
Z fc NIKKOR Z 40mm f/2(F6.3・1/800秒)ISO 1600
コロナの影響でしょうか。東京の街のイルミネーションは、ど派手なイメージのものが少ないように思います。考えようによっては品の良いものが多いようです。この40mm F2は点光源も素直な描写をします。
Z fc NIKKOR Z 40mm f/2(F3.2・1/100秒)ISO 100
ガラスのツリー。紫の色彩につられて撮影してみましたが、肉眼で見た印象と大きく変わらないのはさすがだと思いました。画に透明感があるのもこの条件では助かりました。
Z fc NIKKOR Z 40mm f/2(F3.2・1/160秒)ISO 100

でもこれを趣味のものとして考えると、もうすべてをブチ壊す勢いなのもまたこの2本のレンズでもあります。それはマウント部分がプラスチックであることです。もうね、レンズ外したくないもんね。後ろを見たくなくて。あ、だからプラマウントにしているのだと言わないでください。信頼性・耐久性などは問題は一切ないでしょう。でも、正直「これはないだろう」とひとりごちてしまうほどです。ええ、しつこいようですが筆者の場合はデザインと質感がカメラおよびレンズの評価の最上位の要素になっています。

NIKKOR Z 28mm f/2.8 Special Editionのプラマウント部ですね。AIニッコールに似せたフォーカスリングのパターンにするなら、もう少し過去製品に踏み込んだリスペクトをして欲しいと思います。

まだあります、この2本のレンズには専用フードが用意されていません。フィルター径をニッコール伝統の52mmとしながら、これを用意しないのはあり得ません。光学エンジニアのみなさんはコーティングが優れているからフードは必要ないと言います。そんなこと当たり前です。不要なものだから欲しいんですよ。すべてはデザインを整えるために必要です。

いま、ニコンSシリーズ用のニッコール2.8cm F3.5のフードや2.1cm F4のフードが中古でいくらするか調べてみた方がいいと思います。実用としては役立たたない、なんの変哲もない「金属の輪っか」にどのような価値があり、血眼になって探している人がいるかを。これを知らなければ、スマホ時代をいま、本来は不要になったカメラやレンズを買っていただくための理由を見つけることができません。

仕方がないので筆者は中古カメラ店に行って、Ai AFニッコール28mm f/2.8D用のHN-2を探して装着しました。まったく、カンベンしてくださいよ。え、見た目が気にくわないなら金属マウントのニッコールZを買え!ですか? んー。それはあまり面白くないオチですね。

Z fcには純正グリップをつけて、NIKKOR Z 28mm f/2.8 Special Editionを装着して、Ai AFニッコール28mm f/2.8D用のHN-2フードを装着。それなりに全体の印象は変わりますよね。

と、いうことで本年最後の「アカギカメラ」はこのあたりでお開きにしたいと思います。読者のみなさまにはたいへんお世話になりました。謹んで御礼申し上げます。2022年もどうぞよろしくお願いします。ステキな新年をお迎えくださいませ。

上方からの角度でみると、New FM2とZ fcは兄弟機と錯覚してしまうほどよく似ています。フィルム一眼レフカメラのデザインが優れているという意味ではありません。良いものは良いという不変の価値観とともに、そこに新鮮さを見出す若者がいるということなのでしょう。
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)