赤城耕一の「アカギカメラ」
第8回:ニコンDfとFマウントニッコールを再検証(予備知識編)
2020年10月20日 06:00
ニコンのAi MFニッコールレンズはディスコンになり、この記事が載る2日前に確認したところ、Ai AFニッコールもリストから消えたようです。これで「絞り環」を有するニッコールレンズは現行製品として存在しないことになります。
アカギ家には「絞り環のないFマウントニッコールは買ってはいけない」という厳しい家訓があり、マジメな私は忠実にこれを守ってきました。
理由は単純で、うちにはフィルムニコン一眼レフ初号機の「F」(1959年)からはじまる歴代のニコンFマウント一眼レフカメラがたくさんあり、いまだに現役使用しているので、絞り環のないニッコールはMF一眼レフでは役立たずになるからですね。
ちなみに絞り環のないGタイプと呼ばれるレンズをニコンFに装着すると、すべて最小絞りで撮影することになるのではないかと予想されます(試したことはないけれど)。それでもどうしても使うという覚悟があるなら止めませんけど、誰もやりませんね。これはニコンF2(1971年)でもF3(1980年)でもそうだと思います。
ニコンF4(1988年)ではGタイプレンズを装着してもPとPHとSモードは使えるはずですが、これだけではいくらなんでもねえ。あ、F5(1996年)とか現行のF6(2004年)とかではGタイプでも当然イケます。
さらにFマウントニッコールには「E」のつくレンズがあって、これは電磁絞りの意味だから、メカニカルで絞りを動作するピンがなく、これをF、いや、それどころか世界で唯一の現行(2020年10月20日現在)フィルム一眼レフカメラの「F6」に装着すると、どうなるかといえば……。知りませんし、知りたくもありません。
規格は同じニコンFマウントでもインターフェースをいつのまにか変えてきたというのがニコンのやり方です。もちろん新旧互換を完全に踏襲しろなどと言ったらカメラやレンズの発展にとって大きな障害になることは明白であり、ニコンは少なくとも旧ニッコールレンズのことはずっと面倒をみるよ、という片側互換を維持することでユーザーからの信頼を繋ぎ、カメラの機能やレンズの性能を向上させてきたわけです。これはこれで大したものだと思います。
「お前さ、今を生きる正しいニコンユーザーは新発売のニコンZ 7IIを買い、FTZアダプターを用意して、Fマウントニッコールはそれで活用するんだよ!」と主張される方がいらっしゃるのですが、たしかにそのとおりです。それが正しい道ですし、ニコンに貢献することになります。
もっといえば超高性能だらけのZニッコールを駆使して現代を切り取るのがデキるカメラマンのあり方ではないかと思いますよ。Zマウントを見ると、これまでのFマウントに抱いてきたニコンエンジニアの不満を全て解消するかのような仕様になっています。
しかしですね、デキないカメラマンもここにいるわけです。うちにあるニッコールレンズはAFレンズでもカプラーを使用せねばならない方式のレンズがほとんどなので、そうなるとFTZアダプターではAFが動かな……。あ、このあたりでヤメておきますか。
で、このように"不変のFマウント"でもそれなりの遍歴があったわけですが、レンズとカメラの相互互換という観点から考えると、ニコンF4はすごかったですね。
マウント外周にあるAi連動ピンを跳ね上げれば非Aiニッコールも装着でき、2本しか用意されなかったニコンF3AF用のAFニッコールも、AF-IとかAF-Sニッコールも、AFが動作しちゃうという。え? AF精度が疑問だ? 古臭い? ですか。そんなことわかっています。とにかくAFが動くか動かないかがここでは重要な問題なんですわ。それにMFのAiニッコールSタイプレンズならば、マルチパターン測光できちゃうんですぜ。
ニコンFマウントの選択
ちなみにニコンFマウントは大きく分けて、Ai化の時、AF化の時、デジタル化の時の3回、マウントを変更するチャンスがあったと聞いています。
いずれの時もニコンはマウント変更に踏み切ることなく、Fマウント規格を守りました。
Ai方式の導入
ここから少し細かく話をすると、1977年にニコンは開放F値自動補正方式(Ai= Automatic Maximum Aperture Indexing)を導入します。いわゆる装着レンズの絞り環の往復運動である「ニコンのガチャガチャ」を行わずともボディ側に装着レンズの開放F値を伝えることができるようにしたわけですね。
私はこの儀式めいたガチャガチャをするのがニコンの楽しさだと思ってましたから、Ai化したあともガチャガチャしてましたけどね。
往時のニコンの凄さは、旧ニッコールオートレンズも改造によってAi化できた(例外あり)ことで、このために旧型のレンズのために専用の絞り環パーツを製造してしまうという、信じられないくらい親切なユーザー対応をしたことです。しかも新しいAi化されたニコンのボディを買うと、レンズ1本のAi改造を無料とするような対応をしてましたよ、たしか。偉いよなあ。
露出モードの"両優先"対応
Ai化した後にニコンが取り組んだのは、絞り優先AEとシャッター速度優先AEが切り替えられる両優先化ですね。シャッター速度優先AEやプログラムAEではボディ内から絞りをコントロールする必要があるので、これに適したレンズを用意する必要があったわけです。
これはAiニッコールのSタイプ(1981年から発売)として登場しましたが、すでにこれよりも先、ニコンEM(国内1980年/海外1979年)の交換レンズとして用意された「ニコンレンズシリーズE」はSタイプでした。
このあたりも謎なんだけど、EMの後継機であるニコンFG(1982年)がプログラムAEを採用していたので当然の方向性だったのかも。本格的な両優先AE+プログラムAEの一眼レフとして登場するのはニコンFA(1984年)ですが、AiニッコールSタイプレンズはそのポテンシャルを生かす意味で用意されたわけですね。FAはマルチパターン測光と呼ばれる多分割測光を採用しています。
電子接点を備えたPタイプ
あとMFニッコールで目立つのは、Pタイプレンズでしょうか。電子接点を採用しています。AiニッコールED500mmF4P(1988年)とかAiニッコール45mmF2.8Pとかがあります。後者なんか、Pタイプの接点を使わないニコンFM3A(2001年)と同時に登場していますからねえ。ある意味ではAiAFニッコールとの共存というか、広くはデジタル一眼レフにも使用してもらえるように考えたんじゃないでしょうかねえ。
勝手なことを言わせてもらえば、この時ニコンは他のMFニッコールレンズもPタイプにすればよかったんじゃないのかなあ。あるいは有償でかつてのAi改造みたいにMFニッコールに電子接点を設けるようにするとか、柔軟性が欲しかったですねえ。コシナから発売されているFマウント互換のフォクトレンダーとツァイスの交換レンズは、VF.2、ZF.2という名称で電子接点が設けられていますが、これはPタイプレンズと同等の機能を有しています。
そのルックスに驚いたAF対応
AF化の時も驚きましたね。ニコンのAF一眼レフの初号機はニコンF3AF(1983年)ですが、これはプロトタイプがどういうわけか間違えて世の中に出てしまいました、みたいなカメラでしたね。ファインダーなんかエイリアンの頭みたいな大きさでね。
これも交換レンズが2本しか用意されず、AF駆動方式がレンズ内モーター駆動だったりするんですよ。先進的ですな。この2本の交換レンズ、すごいのはカニのハサミがちゃんとあるんですよ。つまり、ニコンフォトミックFTN(1968年)やニコマートFT2(1975年)とかに装着して"ガチャガチャ"できるんですよ。あり得ないでしょうこの新旧互換性。そこまで古いカメラでも面倒見るのかよという。
で、いくらなんでもAFニッコールレンズが2本だけじゃまずいんじゃねえのか、ということもあったんでしょうね、MFニッコールをAFで使うためのTC-16(1984年)というテレコンバーターを用意するわけです。気遣いが違うぞこの頃のニコンは。
1.6×のテレコンだから使いやすくはないんですが、それでもそれなりにイケるんですよこれが。実際に使用しましたが、画質的にも大丈夫だったもん。このTC-16はニコンF-501(1986年)とかF4でも使用できました。なんせこのテレコンにはAF駆動用のモーターが仕込んであるんですぜ、どこぞのマウントアダプターとはえらい違いだぜ。……あ、いけませんね。また本題から話がそれてしまいました。
後に登場するAF一眼レフのニコンはカプラー方式、すなわちボディ内モーターのAF駆動方式を本格採用するわけですが、先に述べたようにニコンF4ではF3AF用ニッコールレンズも、カプラー方式のAFニッコールも、レンズ内にAF用のコアレスモーターや超音波モーターを仕込んだAF-I、AF-SニッコールもAFで使うことができます。さすがにステッピングモーター採用のAF-Pレンズはダメだと思うけど。もっともそこまでは望みませんけどね。F5やF6には、ニコンF3AF用のAFニッコールレンズは装着してくれるなということなのですが、まあ、これはニコンF2フォトミック(1971年)あたりでガチャガチャしたりするのが良いかもしれないですな。
デジタルでもFマウントを継承
デジタル化の時代となり、ニコンはD1を発売しました(1999年)。これも当然のようにFマウントを踏襲しました。でも、デジタル一眼レフに非Aiニッコールは装着しちゃイヤ、みたいな仕様になっていましたね。ボディ側のマウント外周にあるAi連動ピンを跳ね上げることができないからですね。もっとも21世紀にもなって、今さらニッコールオートでもなかろう。ということになったのかもしれませんねえ。つまんないですが、この時はデジタルカメラの開発が大変で、遊び心を持つ余裕はなかったんじゃないかなあ。
おかしいのは、Ai連動ピンを持たないエントリークラスの一眼レフでは非Aiニッコールも装着できちゃうことですかね。マウントの周囲にAi連動ピンがない、カメラボディ内にもAFモーターはない。つまりボディ側にレンズと干渉するものがないので装着時の制約がないわけです。私なんかこのためだけにD40(2006年)を購入しました。ええ、この組み合わせではメーターが動きませんが、撮影画像とヒストグラムみる時間的な余裕がありさえすればまず問題なく使えちゃうし。これは現行のD7000とか5000とか3000シリーズも同様じゃないかなあ。試してないけど。
ニコンDfに再注目
で、余計なことを書いてきまして、やっとここからが本題なんですが、AiのMFニッコールやAi AFニッコールのディスコンにあたって、急にニコンDf(2013年)に再び注目したくなったわけです。
ええ、もちろん他のニコンデジタル一眼レフでも、MFニッコール装着時に焦点距離と開放F値を入力できるものなら、ほぼストレスなしにMFニッコールも使うことができ、とくに問題も見つからないんですよ。けれどAi連動ピンを持ちながらこれを跳ね上げることができるのはDfのみということもあり、ニコンFマウントの互換性をあらためて追求した機種として、今後も長く残ってもらいたいという希望を強く持っています。
ニコンDf登場からまる7年。存在意義あるカメラだと思いますよ。デジタルカメラとしては異例ともいえるロングセラーだし、一方で、予想よりも販売が伸びなかったということもあり、後継機の噂は常に上がりつつもそれが実現していないということもあるわけです。
自分のトシのせいなのかどうかはわからないのだけれど、ニコンDfに限らず、こうした趣味性の高いカメラの販売数はなぜ予想より伸びないのか理解できず謎なわけです。今なおデジタルカメラは最新のスペック、かつ超高性能でなければ認められないのでしょうか。Dfの再検証とMFニッコールレンズについてのあれこれは、次回にお伝えしようと思います。