特別企画
容赦ない“ぐるぐるボケ”再び…あのロモグラフィー「ペッツバール」レンズ第2弾
New Petzval 58 Bokeh Control Art Lensでポートレートに挑戦
2016年6月15日 07:00
ロモジャパンのクラウドファンディングプロジェクトの第2弾として登場したレンズが「New Petzval 58 Bokeh Control Art Lens」だ。
第1弾「Lomography×Zenit New Petzval Art Lens」は、焦点距離85mmという、いわば“ポートレートレンズ”としての立ち位置で大きな印象を与えたレンズだったが、今回の「New Petzval 58 Bokeh Control Art Lens」の焦点距離は、標準レンズに近い58mm。比較的おとなしいと言われる標準画角の中、様々なシーンでPetzval独特のぐるぐるとした渦巻きボケが堪能できると、期待が高くなる。
ジョセフ・ペッツバール博士によってペッツバール式レンズが発明されたのは1840年。前年に発明されたばかりの「ダゲレオ・タイプ」は、特に露光時間がかかるが故のポートレートに不向きという面があり、それを改善するためのレンズ開発が行われる。
研究の結果、160mm F3.6のペッツバール式レンズが発明された。比較的明るいレンズとしては初の製品であり、ポートレート撮影に大きな影響を与えるようになった。
このペッツバール式レンズの設計や外観デザインなどを継承し、現在のデジタル・フィルムの両カメラに装着できるよう発売されたのが本製品なのだ。
独特な見た目と絞りシステム
New Petzval 58 Bokeh Control Art Lensは繰り返しになるが焦点距離は58mm F1.9。レンズ構成は3群4枚、最短撮影距離は0.6m。
外観は現代の一般的なレンズとはかなり異なる。カラーは真鍮製のボディにブラス(ゴールド)とブラックが用意されている。マウントはキヤノンEFとニコンFの2種だ。税込での直販価格はブラス(ゴールド)が9万6,120円、ブラックが10万8,000円。
特徴的なのは絞り。ウォーターハウス式絞りシステムと呼ばれるユニークな絞り機構を採用。大きさの違う穴の空いたプレートがあり、それを挿入することで、絞りの口径を調整する。慣れるまではかなり戸惑うが、それも面白さ。ゆっくりと撮影することになり、それがなんともクラシカルだ。
プレートはF1.9〜F16までの7枚が標準装備。このプレートの穴をハートや星形など、様々なカタチに開けることで、そのカタチがボケになって現れるので、オリジナルのボケの形を自作できる(いくつかは別売にて用意されている)。
それとピントリングがないのも特徴的。代わりにフォーカシングノブがあり、ピント調節を行う。これもなんともクラシカルなのだ。
強烈な“ぐるぐるボケ”は健在 ポートレート撮影での使いこなしが楽しい!
早速実写に出かける。
今回はキヤノンEOS 5D Mark IIIに装着した。その姿はなんとも目立つ! 撮影中、通行人の方々が何度も声をかけてくださった。多くは「カッコイイ!」というもの。初めはお声に戸惑ったものの、そのうち、モデル共々その声に嬉しくなってきてしまった。注目度という点ではものすごいポテンシャルだ。
ペッツバールレンズの描写の最大の特徴はぐるぐるボケ。第1弾のNew Petzval 85 Art Lensと異なり、New Petzval 58 Bokeh Control Art Lensには、ボケの自由度が効くボケ調整リングが搭載された。ボケレベルが1〜7の範囲でコントロールでき、絞りプレートと合わせて、好みのボケ効果を探れるのがこのレンズの最大の楽しみだ。
今回はポートレートなので、ほとんどF1.9〜F4までのプレートで撮影した。
撮影を開始してすぐに困ったのが縦位置だ。ポートレートは縦位置が多い。縦位置グリップ装着で撮影を試みたのだが、それだと絞りプレートが抜け落ちてしまう。なぜなら、絞り挿入口が斜めについており、グリップを上に持つと絞り挿入口が斜め下を向いてしまう。グリップを下にすれば斜め上を向き、抜け落ちることはない。気をつけたいところだ。
ピント合わせはすべてライブビューで行った。
ファインダーではなかなか難しい。絞りプレートや調整リングでボケを作り、それを含めた構図を決めた後、ライブビューでピント拡大し、微調整しシャッターを切る……といった具合だ。一種の儀式みたいに感じて行っていたのだが、そもそも、ぱぱっとスピーディに撮影を行えるレンズではないので、ピント合わせのまどろっこしさみたいなものは感じなかった。むしろしっかりとした構図やポーズの決定と、モデルとの呼吸合わせなど、写真を創っている実感が湧いた。
開放F値が明るく、また絞ってもF4までしか使わなかったこともあり、手ブレが気にならない程度のシャッタースピードになるISO感度を設定したため、ほとんどが低感度で撮影できた。
ぐるぐるボケは、画面中心にある被写体を注目させる効果がある。ポートレートの場合、背景を大きくぼかして人物を浮かび上がらせる手法をよく用いるが、このレンズで撮影すると、背景の大きなボケ+ぐるぐるボケのダブルでの注目効果で、写真を見る者に与えるインパクトは大だ。
ボケ調整リングの効果は絶大で、大きな変化をもたらす。
ただし、ピントを合わせてからボケ調整リングを動かすと、せっかく合わせたピントがずれてしまう。コツとしては、構図に合わせて好みのボケの量を先に決めてから、ピント合わせを拡大で行うことだ。
ぐるぐるボケ以外の、画面センターあたりのボケは素直で、ポートレート向きだ。
ポートレート的な観点で申すと、こうしたぐるぐるボケに本来のふわっと優しい描写がプラスされ、10代の女のコの不安定で少し危なげな雰囲気とマッチした。
また動きのあるポーズでダイナミックさも演出できるので、このぐるぐるボケをどのような心理で使うかが、このレンズの使いこなしにつながるポイントだ。
レトロなボケなのに現代的なコントラストもあり、ピント面のキレもあるので(ただし、ボケ調整7まで動かすと、絞り開け気味ではなかなか難しいが…)、そのアンバランスさがなんとも魅力なのだ。
インパクトを与え、かつ画面の中心付近の被写体を際立たせる効果があるので、ここぞという時の被写体を見せる力として使用するのは面白い。個性という点では非常に尖っていて、スパイス的な要素が強いレンズだということだ。
一方で、撮影そのものはスローリーな操作ゆえ、落ち着いた気分になれるので、ゆったりとした心地いい時間が流れた。不便という意味ではなく、じっくり観察する操作の面白を蘇らせてくれた。
ただ最短撮影距離が0.6mとやや長い。せめて0.5mなら、アップの撮影が楽しめるのに、そこが残念だ。
でも目立つし、ゆっくりの撮影、写真の仕上がりの楽しさと、濃い趣味性を持つレンズ、私はとても面白く感じた。目立ちたいから、私はゴールドで!
モデル:山田あみ(ソレイユ)