ライカカメラ社から、モノクロ専用デジタルカメラ、ライカMモノクロームが登場した。ライカMモノクロームの液晶モニター部にはM9-Pと同様、サファイアガラスを採用している。
※試作機のため、発売時には外観が異なる可能性があります。 |
ボディはライカM9/M9-Pを受け継ぐM型ライカのトラディショナルなデザイン。ところが表面の仕上げは全く異なる。ボディカラーはブラックのみ。シルバーやスチールグレーはラインナップされていない。しかもM9、M9-Pのブラックは、塗装したブラックペイントなのに対し、Mモノクロームはブラックにメッキしたブラッククロームだ。
ブラックペイントは光沢感があるが、Mモノクロームのブラッククロームは艶のない、マット調の仕上がりだ。またシボ革はM9ブラックとM9-Pが、M3やM2時代を思わせるヴァルカナイトなのに対し、Mモノクロームはソフトな感触の素材を使用している。
さらに注目なのが、ライカMモノクロームには、どこにも「Leica」のロゴがないことだ。M9では赤丸のライカバッジがボディ正面に付いていて、M9-PにはトップカバーにLeicaのロゴが入っている。ところがMモノクロームは、そのどちらもない。無記名の真っ黒いカメラだ。
ライカMモノクロームとライカM9-P(右)。外観シルエットは全く同じだ。なおM9-Pに装着しているレンズは、ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.。 |
よく見ると、背面に「LEICA CAMERA MADE IN GERMANY」の刻印がある。これはM9にもあるが、ブラックボディは白い塗料が使われている。だがMモノクロームはボディと同色。そしてアクセサリーシューに「MONOCHROM」とシリアルナンバーが入る。こちらもやはり周囲と同色で、よく見ないとわからないほど。Mモノクロームは、ライカを持っている、あるいはカメラを持っている、ということを、周囲に目立たせない仕上がりなのだ。
それでふと思い出したのがアンリ・カルティエ=ブレッソンだ。ブレッソンはシルバークロームのライカが街で目立ってしまうのを嫌い、ボディにブラックテープを貼って、ブラック仕様にしていた話は有名だ。それを見かねた当時のエルンスト・ライツ社が、ライカM3のブラックペイントを製造した、という話もある。真偽のほどはともかく、ライカMモノクロームは、ブレッソンのライカと同様、極めてステルス性の高いカメラといえる。
ちなみにライカのブラッククローム仕上げは、1971年のライカM5が初。ブラックペイントは使い込むと塗料が剥がれ、真鍮の地金が見えてくるが、ブラッククロームはガンメタリックになる。Mモノクロームも使い込むとガンメタリックになるのだろうか。
左が筆者が使用しているライカM9のブラックペイント。艶のある仕上げだ。それに対し右のMモノクロームはブラッククローム。マットな仕上がりはクールな印象だ。 | バッテリーやメモリーカードは、M9、M9-Pと同じく底蓋を開けて装填する。底蓋はライカの伝統だ。バッテリーはM9/M9-P、さらにはM8/M8.2と共通。メモリーカードはSDHC。SDXCには対応していない。 |
■お世辞抜きに高い鮮鋭度
ライカMモノクローム最大の特徴といえば、当然モノクロ専用機であるということ。そのために撮像素子もモノクロ専用を開発した。撮像素子は35mmフルサイズの1,800万画素。大きさと画素数はライカM9/M9-Pと同じだが、モノクロ専用の新設計。カラーフィルターは搭載されていない。もちろんM9/M9-Pと同様に、ローパスフィルターは搭載されていない。
ライカカメラ社によると、カラーフィルターを外したことで感度と解像感が上がったとのこと。筆者は普段、ライカM9を愛用していて、ローパスフィルターなしの解像力の高さはよく知っている。カラーフィルターがないと、いったいどんな写りなのかとても興味があった。
撮影している感覚は、ライカM9と大差ない。本体やシボ革の感触が異なるくらいだ。しかしカラーフィルターを外して感度が上がったぶん、ベース感度がISO160からISO320になった。そのため日中の屋外では、F8やF11など絞り込むことが多かった。フィルムのM型ライカにISO400のモノクロフィルムを入れて撮影している感覚に近い。最高感度もライカM9/M9-PのISO6400からISO10000になった。最低感度は拡張でISO160に設定できる。
CCDにカラーフィルターがないため感度が上がり、ISO320がベース。最高感度はISO10000。またISO160に下げることもできる。 |
再生画像ももちろんモノクロ。M型ライカのデジタルは液晶モニターが2.5型の23万ドットと決して高精細ではない。しかしMモノクロームはモノクロ専用なので色調を気にする必要がなく、構図とピント、ブレの確認がある程度できればいいので、特に不満と感じることはなかった。それよりM9-Pと同じくサファイアガラスなので、キズがつく心配が少ないのがありがたい。
撮影したデータをパソコンに取り込み、拡大表示してみると、鮮鋭度の高さにお世辞抜きで驚いた。ライカカメラ社の言うとおり、たしかに解像感はM9/M9-Pを上回っている。使用したレンズ、アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.の描写力が高いせいもあるのだろうが、被写体の質感再現の高さは、1,800万画素以上を感じさせる。
またM9/M9-Pでは決して高感度に強いとはいえず、筆者自身も上げてISO800までだったが、MモノクロームはISO1600でも常用でき、ISO3200や6400でも実用になる。ISO800を過ぎたあたりからノイズは出てくるが、高感度として違和感のない仕上がりで、フィルムの粒子にもどことなく似た印象。暗い場所に強くなった。
そしてM9/M9-PではRAW(DNG形式)がメインといえるカメラだったが、MモノクロームのJPEGはとても実用性が高い。ハイライトからシャドーまでのトーン再現も良好で、適度なコントラストもある。逆にRAWはややメリハリに欠ける。これはあくまで筆者の想像だが、JPEGでは撮像素子から受けた光を画像処理エンジンでモノクロ写真として生成。それに対し、RAWは撮像素子で受けた光の情報をそのままの状態で記録しているのかもしれない。RAW現像時や、Mモノクロームユーザーは無料でダウンロードできるモノクロ専用ソフト、Silver Efex Pro 2などで好みのモノクロ写真に仕上げる、という作りに感じた。
モノクロ専用機として満足度の非常に高いカメラだが、先に述べた通りベース感度がISO320と高い点が気になることがあった。鮮鋭度が高く、手ブレ補正もないので、感度が高いと高速シャッターが切れる点では便利だ。しかしF2やF1.4など大口径レンズで浅い被写界深度を得たい場合は難しい。ISO160に落とせるものの、ダイナミックレンジは狭くなり、トーン再現に物足りなさを感じる。明るい場所で絞りを開けたい条件では、NDフィルターが欲しくなるかもしれない。
ライカ伝統のレンジファインダー、しかもモノクロ専用という、35mmフルサイズ機の中では個性派ナンバーワン。デジタルでモノクロ写真をやっている、あるいはやりたい人には、一度使うと病みつきになるほどの魅力(もしくは魔力)を持っているカメラだ。
ライカMモノクロームでは、黒つぶれや白飛びが確認できるクリッピング機能が装備された。どの程度で警告を出すか設定も可能。シャドー部は0%から5%まで6段階。 | シャドー部のクリッピング。黒つぶれした部分が青く点滅する。 |
ハイライト部は100%から95%まで6段階。白飛びが確認できる。 | ハイライト部のクリッピング。白飛びした部分が赤く点滅する。 |
■「究極の50mm」と組み合わせる
なお今回使用したレンズは、ライカMモノクロームと同時に発表された、ライカ アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.。すでにご存知だと思うが、69万3,000円もする50mm F2だ。硝材の選択から芯出し、アポクロマート、非球面、フローティングなど、製造から描写性能まで、すべての面で一切の妥協を許していないレンズだ。
外観は50mm F2というスペックのせいかコンパクト。ライカMモノクロームによく似合う。ユニークなのが内蔵レンズフードで、反時計方向フードを回すと伸びてくる。しかしこのレンズに限らず、ライカの内蔵フードはどれも長さが短く、充分な効果が期待できない。街のスナップでは目立たないというメリットはあるが、できればしっかりした外付けフードも用意されると嬉しい。
描写性能は、絞りを開けても絞っても画面隅々まで安定している。しかもボケは柔らかく、被写体の形を崩さない。さすが値段だけのことはある写りだ。ライカMモノクロームの高解像力を存分に引き出せるレンズ、という印象を受けた。設計、製造、性能、すべてがトップを行く「究極の50mm」といえるだろう。
従来モデルのズミクロンM f2.0/50mmはピントリングに指掛けレバーがなく、リングを摘んで回すが、アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.は指掛けレバーが装備された。左手の人差し指1本でピント合わせが行なえる。 |
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
- 撮影には発売前の試作機を使用しているため、製品版とは異なる可能性があります。
- 作例の一部カットのみ、Photoshopでゴミ消しを行なっています。
・ライカM9-Pとの比較
こちらはライカMモノクロームで撮影。レンズはアポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.。実に解像力の高い仕上がりだ。トーン再現も良好。M Monochrom / APO-SUMMICRON-M f2/50mm ASPH. / 約6.7MB / 5,216×3,472 / 1/16秒 / F8 / 0EV / ISO320 |
・モノクロの色調
モノクロの色調は、ノーマルのニュートラルの他、セピア、寒色、暖色の3種類を用意。それぞれ色調の強さを弱と強が選べる。 |
通常(ニュートラル) / M Monochrom / APO-SUMMICRON-M f2/50mm ASPH. / 約9.0MB / 5,216×3,472 / 1/45秒 / F8 / 0EV / ISO320 |
・感度
・作例
2012/8/24 00:00