交換レンズレビュー

XF 56mm F1.2 R APD

“滑らかなボケを生みだす”アポダイゼーションフィルターの実力は?

富士フイルムから個性的なポートレートレンズが登場した。「XF 56mm F1.2 R APD」は、既存のXF 56mm F1.2 RにAPD(アポダイゼーション)フィルターを搭載したレンズである。

今回はFUJIFILM X-T1で試用した。発売は2014年12月。実勢価格は税込17万7,090円前後

APDフィルターは滑らかで階調豊かなボケを生み出す特徴があり、ボケ味に期待のかかる大口径中望遠レンズだ。今回はベースとなる「XF 56mm F1.2 R」との違いを意識しながら、XF 56mm F1.2 R APDの魅力を探ってみよう。

デザインと操作性

本レンズは35mm判換算85mmに相当し、開放F1.2という大口径を誇る。レンズ構成は8群11枚で、EDレンズ2枚、非球面レンズ1枚を採用し、基本構成はXF 56mm F1.2 Rと同様だ。

開放F1.2という大口径レンズだが、APS-Cセンサー用ゆえに重量405gに収まっている

もっとも大きなちがいは、非球面レンズの手前にAPDフィルターを搭載している点である。APDフィルターは周辺部の透過光量を抑え、柔らかいボケを生み出す。APDフィルターを搭載したAFレンズは世界初だという。

レンズ構成は8群11枚。7枚羽根の円形絞りを採用している。最短撮影距離は0.7mだ

このAPDフィルター搭載にともない、絞りリングの刻印が変更されている。通常の白い絞り値の下に、赤い数字が刻印されているのがわかるだろう。APDフィルターを搭載すると、非搭載レンズに比べて透過光量が減少する。

赤文字の絞り値は、APDフィルターの減光を考慮した明るさを示している

この減少分を加味したものが赤い絞り値だ。そして、白い絞り値と赤い絞り値の差が大きいほど、APDフィルターの効果が大きく現れるという。

単純に引き算してみると、開放絞りがもっともAPDフィルターの効果が大きいということになる。なお、本レンズには約3段分のNDフィルターが同梱されており、明るい場所でも開放撮影しやすいように気配りしている。

XF 56mm F1.2 R APD(右)とXF 56mm F1.2 R(左)は、APDフィルターの有無以外、同等の機能性だ

鏡胴外装は金属製で、ブラックペイントの輝きが美しい。ピントリングはやや重めのトルク感で、開放でのMF操作も微調整しやすかった。絞りリングは1/3段のクリック感があり、こちらも滑らかで心地良い操作フィーリングだ。

本レンズには純正ND8フィルターが付属し、これを使うことで晴天下でも開放撮影しやすい

遠景の描写は?

開放F1.2の大口径レンズだが、開放近辺で滲みはさほど感じられず、周辺部もしっかりと解像している。周辺減光もほぼ気にならない。F4〜F5.6を境に、シャープさがぐいぐいと増していく。

ポートレートレンズというとやわらかい描写をイメージしがちだが、シャープさといいコントラストといい、思いの外硬派な描き方のレンズだ。

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中央部
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F1.2
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
周辺部
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F1.2
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

ボケ味は?

さて、お待ちかねのボケ味はどうだろう。今回はXF 56mm F1.2 R APDとXF 56mm F1.2 Rを用意し、同一シーンで1段ずつ絞りながら撮り比べてみた。

近接域での比較

まず近接域で開放撮影したカットを見ると、XF 56mm F1.2 Rは玉ボケの形がくっきりと見えるのに対し、XF 56mm F1.2 R APDはなだらかにボケて玉ボケは目立たない。

XF 56mm F1.2 R APD
XF 56mm F1.2 R
F1.2
F1.2
F1.4
F1.4
F2
F2
F2.8
F2.8
F4
F4
F5.6
F5.6
F8
F8
F11
F11
F16
F16

中距離での比較

中距離のカットでは、XF 56mm F1.2 R APDの方が前ボケの階調がよく、立体感が感じられる。合焦距離を問わず、絞り込むにつれて両者の差は少なくなり、F5.6前後でほぼ似たような描き方になる。APDフィルターは開放近辺ほど効果が得やすいという話だが、それを裏付ける結果となった。

XF 56mm F1.2 R APD
XF 56mm F1.2 R
F1.2
F1.2
F1.4
F1.4
F2
F2
F2.8
F2.8
F4
F4
F5.6
F5.6
F8
F8
F11
F11

また、XF 56mm F1.2 Rの開放撮影はコントラストがややマイルドだが、XF 56mm F1.2 R APDは開放からコントラストが良好だ。APDフィルターで周辺部が減光されるため、コントラストが締まって見えるのかもしれない。

逆光耐性は?

逆光条件での撮影は、フレアはさほど気にならない。ただし、光源を写し込むと赤斑状のゴーストが見受けられる場面があった。ゴーストの有無はライブビューで確認できるので、逆光条件ではこの点に留意しながら撮影したいところだ。

太陽が画面内に入る逆光で撮影。
太陽が画面外にある逆光で撮影。

作品

頬骨のあたりからボケはじめ、ナチュラルに背景の大きなボケへと続いていく。

X-T1 / 1/35秒 / F2 / +0.67EV / ISO200 / 絞り優先AE / 56mm

肌の明るさに合わせてハイキーで撮影した。ハイライトにもう少し粘りがほしい。

X-T1 / 1/80秒 / F1.2 / +1.33EV / ISO2000 / 絞り優先AE / 56mm

前ボケとなった膝に着目しよう。輪郭が自然にやわらかくボケている。

X-T1 / 1/80秒 / F1.2 / +1.67EV / ISO800 / 絞り優先AE / 56mm

開放寄りのF1.4での撮影だが、合焦部が実にシャープだ。

X-T1 / 1/450秒 / F1.4 / +0.33EV / ISO200 / 絞り優先AE / 56mm

褪せた黄色を褪せたまま再現してくれた。華美になることなく、自然な色再現だ。

X-T1 / 1/8000秒 / F1.4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 56mm

通常だとザワつきそうな背景だが、APDフィルターが功を奏し、なだらかにボケている。

X-T1 / 1/300秒 / F1.2 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 56mm

F5.6で壁を撮影してみた。周辺部まで確実に結像し、平滑性の高い描写力だ。

X-T1 / 1/160秒 / F5.6 / -0.67EV / ISO200 / 絞り優先AE / 56mm

シャープでハイコントラストな描き方なので、オールラウンドなスナップレンズとしても活躍してくれるだろう。

X-T1 / 1/600秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 56mm

まとめ

実写からもわかるように、APDフィルターは開放近辺でこそ効果的だ。そのため、XF 56mm F1.2 R APDは開放メインで使っていくことになるだろう。その点、本レンズは開放からシャープでコントラストの付き方がよく、積極的に開放撮影できるレンズだ。

ただし、女性ポートレート撮影に関しては、コントラストが強すぎる印象を受けた。肌の明るさを基準に露出を合わせると、ハイライトが白飛びする場面が多い。

女性ポートレートは開放のやわらかい描写を活かすことが多いと思うが、そうした撮り方をしたい場合は、XF 56mm F1.2 Rの方が使いやすいだろう。XF 56mm F1.2 R APDは絞り値を問わない描写の安定感、そして開放近辺のボケの美しさが魅力と言える。

(モデル:Alex)

澤村徹

(さわむらてつ)1968年生まれ。法政大学経済学部卒業。ライター、写真家。デジカメドレスアップ、オールドレンズ撮影など、こだわり派向けのカメラホビーを提唱する。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線撮影による作品を発表。玄光社「オールドレンズ・ライフ」シリーズをはじめ、オールドレンズ関連書籍を多数執筆。http://metalmickey.jp