特別企画

富士フイルムの中望遠XFレンズ3本をポートレートで一挙検証

50mm F1・56mm F1.2 APD・90mm F2の違いをみる

富士フイルムよりXF50mmF1.0 R WRが9月に発売された。56mm F1.2(APD)、90mm F2とともに中望遠域の明るい単焦点レンズがいよいよ充実してきたXシステム。ポートレートで特に魅力のある焦点距離ということもあり、各レンズの描写の違いを知りたいと思っている人や、実際のレンズ選びで迷っている読者も多いことだろう。そこで今回、ポートレートを中心に活躍している、写真家の岡本尚也さんに最新の50mmを含め、秋深まる江ノ島から鎌倉を舞台に、3本の活用のしかたを教えてもらった。モデルは、いのうえのぞみさん。ストリートポートレートを得意としている岡本さんは、これら3本の個性をどこに発見して、いのうえさんの魅力をどのように引き出していったのかだろうか。(編集部)

充実の中望遠単焦点をどう選ぶか

富士フイルム純正のAPS-Cミラーレスカメラシリーズ用のうち、中望遠域を担う単焦点レンズのラインアップをみていくと、XF50mmF2 R WR、XF56mmF1.2 R、XF56mmF1.2 R APD、XF90mmF2 R LMといった具合に、ポートレート撮影という視点で考えていっても、かなり充実した選択肢が用意されていることがわかる。

そしてこの9月にXF50mmF1.0 R WRが登場。開発自体はかねてよりアナウンスされていたものの、実物を手にすると、やはり中望遠域でF1.0というスペックからくる期待感は否が応にも高まる。XF56mmF1.2 Rとは一絞り未満の差しかなく、焦点距離もわずかに短い点が、どのような違いを生むことになるのか。それぞれのレンズの使い分けや、描写のポイントについて、ストリートでのポートレート作例を通じてお伝えしていきたい。

XF50mmF1.0 R WR

撮影日の天候は快晴。光もよくまわり、秋の気配を感じつつも風が心地いい海沿いでの撮影となった。

本レンズの焦点距離は50mm。35mm判換算では76mm相当と、やや広めの中望遠となる。今回組み合わせたボディはX-T4だ。この組み合わせだと少々フロントヘビーになる印象はあるものの、実際にモデルと移動しながら撮影してみると、取りまわしが良く、1日を通して疲労感なく撮影を進めることができた。

爽やかな風が吹いたので振り向いてもらい、海をバックに後ろから通過する船を入れ込んで撮影した。まず目を見張るのが自然なボケ味だ。正面からなので少しわかりづらいものの、フェイスラインから風で後方に揺れ動く髪、そして日傘の骨の部分にかけてがゆるやかに溶けていくようにボケており、F1.0ならではの懐の深さが感じられる。意図的に収差を残したというメーカーの訴求ポイントのとおり、肌のなめらかな描写もポイント。全体的にやさしい雰囲気で、さわやかさとやわらかさが伝わってくる繊細な描写だ。逆光となっている条件だが、日傘の縁取りにもフリンジの影響はみられない。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F1.0・1/900秒・+0.7EV) / ISO 160 / PROVIA

モデルと一緒に歩きながら顔・瞳認識をオンにして、背面モニターを見ながら撮影していった。このくらいの距離感だとコミュニケーションをとりながらの撮影が進めやすい。

AF制御は顔・瞳認識の助けもあり、スピーディかつ的確で、手前の目にきっちりとピントが合っている。背景の橋のボケ方も自然で好感が持てる。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F1.0・1/7,500秒・+0.3EV) / ISO 160 / PROVIA

移動の途中で、ふとモデルが振りかえったところを撮影。地面からの反射光がレフ変わりになって、綺麗なキャッチライトになった。髪の毛も繊細に描写していて、唇部分のグロスの艶やかさもリアルな描写だ。鼻筋からフェイスライン奥側にかけてのソフトな描写もポイント。エッジの描き方はAPDつきの56mmに近いものながら、しっかりと芯を感じさせるところが本レンズの持ち味だと気づかされる。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F1.0・1/7,000秒・+0.7EV) / ISO 160 / PROVIA

モデルに仰向けになって寝てもらい、最短撮影距離70cmをいかして、寄りで撮影。多少の高低差があったとしても地面が近くなるためファインダーによる撮影はなかなか体勢的に苦しくなってくる。こうした場面でいきるのがバリアングル式の背面モニターだ。X-T4のモニターはタッチパネル式にもなっているので、指先でピント位置をダイレクトに移動できるところもポイントだ。

まつ毛から衣装の前面がクッキリと解像し、奥にかけて素直にボケているのがわかることと思う。ピント面は手前側の瞳のまつ毛の部分。最短撮影距離でのF1.0の被写界深度の浅さは、かなり使いこなしがいのあるポイントだと痛感する。

それにしても晴天下でのF1.0の明るさはシャッタースピードがメカシャッターの最高速度である1/8,000秒を優にこえてくる。ピーカンの日ではNDフィルターを用意するか、電子シャッターへの自動切り替えをオンにしておくのがオススメだ。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F1.0・1/26,000秒・-1.0EV) / ISO 160 / PROVIA

撮影の合間で立ち寄ったカフェの一角でのワンシーン。35mm判換算76mm相当の画角は、撮影者が後ろに引けない場面でも構図がとりやすい。店内照明はローライト気味。レンズの明るさとボデイ内手ブレ補正のメリットが十二分にいきるシチュエーションだ。余計な心配がなくなるぶん、自然な表情を切り取ることができた。

モデルの背景のボケ方にもぜひ注目して欲しい。モデルと背景、そして撮影者の距離関係はそれほど離れていないため、どうしても煩雑な印象になってしまいがちなシチュエーションだが、自然な立体感と適度な背景のボケで、その場の雰囲気も写しとめることができた。さらに背景を滑らかにしたければ、APDつきの56mmを、表情にフォーカスしたければ90mmが選択肢になってくるだろう。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F1.0・1/90秒・-0.7EV) / ISO 160 / PROVIA

日が傾きはじめ、駅のホームに光が灯る。たそがれ時をイメージしての撮影。“どのような時間にどのような場所にいたのか”とういう、記録的なスナップでも本レンズの焦点距離がいきてくる。なだらかに溶けていく背景から、夕日の当たった部分まで階調を保ちながら描き出してくれた。モデルから背景にかけての分離もよく、立体感あるカットに仕上がった。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F1.0・1/800秒・±0EV) / ISO 160 / PROVIA

フィルムシミュレーションの活用は富士フイルムならではの醍醐味だ。「ETERNAブリーチバイパス」を使用して海をバックに撮影した。実際は夕日の中で撮影しているので、ホワイトバランス自体は暖色系に寄っているが、寒色系の雰囲気で、かつローキーな露出設定で夏の終わりを演出してみた。

奥側の腕が適度にボケていることもあり自然と手前側の瞳に視線を誘導できる。それでいて、56mmや90mmのように背景がぐっと引き寄せられてくることもなく、ごく自然な雰囲気に仕上がっているところもポイントだ。それぞれの要素はわずかな違いでしかないが、F1.0の明るさと50mmという焦点距離の両要素が組み合わさることで、表現できたワンシーンでもある。これ以上ボケたり背景が溶けてしまうと海バックであることがわからなくなってしまっていただろう。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F1.0・1/2,000秒・-1.3EV) / ISO 160 / ETERNAブリーチバイパス

XF56mmF1.2 R APD

35mm判換算85mm相当の焦点距離となる本レンズは、ポートレート撮影でよく使用するレンジであり、目の延長線的な自然な描写が得られる。筆者は「アポダイゼーションフィルター無し」のモデルを使用しているが、本レンズはずっと気になる存在であった。

アポダイゼーションフィルターは光量を減衰させるものであるため、開放F値はF1.7に留まってしまうが、ボケ像の輪郭が滑らかになる分、ピントの合った被写体部分はキリッとエッジが立ち、立体感と相まって独特な空気感を描き出してくれる。

予算が許すのであれば、アポダイゼーションフィルターありなしで併用して、シチュエーション別に分けて使用したいと思ったほどだ。本体重量も405gと軽く、サイズもコンパクトなため、常にカメラバッグに入れておける。

横位置のフレーミングでモデルを大きく切り抜いて撮影した。線が細い描写で、髪の毛1本1本を丁寧に描写してくれている。

いま一度、50mm F1の作例に戻っていただきたい。見比べてみると違いは明らかで、やわらかさを感じさせていた50mmの描写に比べて、ぐっとエッジやコントラストが際立っていることに気づくはずだ。それでいて、背景のボケはエッジが立たないこともあって、溶け合うような印象だ。こうした効果もあり、背景からの被写体の分離もすさまじく、特に人通り多い場面で画面を整理したい時に有効だと感じた。

写真左手のグリーンの部分を見ていただきたい。輪郭部が滑らかにボケていて、アポダイゼーションフィルターの効果が実感できるポイントだ。レンズは焦点距離が長くなるほど、背景を手前に引き寄せる「圧縮効果」が強くなる。特に作例のように背景の情報量が多い場面で印象的な1枚をつくりだせることだろう。

FUJIFILM X-T4 / XF56mmF1.2 R APD / 絞り優先AE(F1.2・1/8,000秒・±0EV) / ISO 160 / PROVIA

上の例と同じ場所で、ニーアップほどになる位置までモデルとの距離をとって、背景のビルを引き寄せるようにして撮影した。歩きながら振り向いてもらい、動きのある1枚に仕上げた。顔・瞳認識もしっかり追従。フォーカススピードにも問題はない。

FUJIFILM X-T4 / XF56mmF1.2 R APD / 絞り優先AE(F1.2・1/13,000秒・±0EV) / ISO 160 / PROVIA

移動時にふと見つけた店先で。モデルの背景を思いきって引き寄せることで、店先の賑やかさと街の情景を入れ込んだ。色や形といった背景の情報量が多い場面だったが、絞りを開放にすることで整理している。

ホワイトバランスは暖色に転んでいるが、あえてタングステン寄りの色味を残した。店内からの点光源もポイントになっている。

背景とモデルとの分離の良さは50mmに並ぶものがある。だが、ここまでなら被写体との距離のとりかたでコントロールできる範囲だ。撮り比べてみての大きな違いは描写の硬軟にあると言えそうだ。収差を残したことで柔らかさを伴った描写が特徴の50mm F1.0に対して、本レンズでは髪の毛の描写に見られるようにコントラストが高く、1本1本をきっちりと描き出すシャープさがポイントになっている。

FUJIFILM X-T4 / XF56mmF1.2 R APD / 絞り優先AE(F1.2・1/680秒・-1.0EV) / ISO 160 / PROVIA

路地裏で撮影。モデル後方にハイライト部分を入れ、消失点を意識して奥行き感を演出した。光線状態は全体的にフラットだったので、フィルムシミュレーションはVelviaを選び、色彩を豊かにした。

背景がうるさくなりがちな場面でも、それらが溶け合うようにしてモデルを浮かび上がらせていることがわかる。色ノリの良さや柔らかくしすぎない描写を求めるのであれば、本レンズのほうがマッチするかもしれない。

FUJIFILM X-T4 / XF56mmF1.2 R APD / 絞り優先AE(F1.2・1/1,100秒・-0.7EV) / ISO 160 / Velvia

XF90mmF2 R LM WR

今回試用した3本の中では最も焦点距離が長く、35mm判換算で137mm相当となる。最近のポートレート撮影では85mmに次いで人気のあるレンジだ。AFがリニアモーター駆動であるところも高速な動作と正確な制御につながっている印象。最短撮影距離も60cmと、スナップショットやネイチャーフォトでも使いどころの多い1本だ。

座った状態で振り返ってもらい、背景の砂浜をフレームいっぱいに引き寄せて、夏の終わりを感じさせる1枚に仕上げた。

撮影時の状況はかなりの輝度差があり、見極めが難しいシチュエーションだったが、ハイライト側の砂浜から髪の毛のシャドー部分まで見事に描ききってくれた。

描写はシャープながら硬すぎることもなく、実にポートレート向きの1本だと感じる。これまでの2本よりも大きく焦点距離が伸びているため、ボケ量も大きくなり、圧縮効果も高まってくる。この特徴をどのように画面整理にいかしていくかが、使いこなしのポイントになるだろう。

FUJIFILM X-T4 / XF90mmF2 R LM WR / 絞り優先AE(F2.0・1/420秒・+0.7EV) / ISO 160 / PROVIA

太陽が傾き斜光になってきた。今度は少し引き気味にして、モデル膝上から背景の海を入れ込んだ。目線を外して、少しアンニュイな表情となる刹那をねらった。

特筆すべきは、開放絞りで撮影しても衣装の生地感や髪の毛にいたるまで見事に描き出している点だ。絞り開放からのシャープな解像を謳っているとおり、その結像性能の高さは折り紙つきであることが実感できる。

FUJIFILM X-T4 / XF90mmF2 R LM WR / 絞り優先AE(F2.0・1/800秒・+0.7EV) / ISO 160 / PROVIA

先のカットよりモデルに寄って撮影した。最短撮影距離が60cmとあって、とにかく寄れる印象だ。

ただ、注意点は寄りばかりのカットだと背景情報を伝えきれないので、適度に距離をとってバランスよく撮っていきたい。

50mm F1や56mm F1.2 APDとは異なり、フェイスラインの輪郭部や手・指のエッジが際立つことが見てとれる。これに加えて背景のボケ量が大きいことが、被写体を浮かびあがらせることにつながっている。これまで見てきた2本の描写からうって変わって、ドキュメンタリータッチに近い描写になっているといえようか。

FUJIFILM X-T4 / XF90mmF2 R LM WR / 絞り優先AE(F2.0・1/500秒・+0.7EV) / ISO 160 / PROVIA

晩秋の色づきはじめた景色を背に、見返りでのカットに。写真右側の点光源を消失点として、坂道での起伏感をいかして奥行き感を強調した。点光源にみられる口径食も嫌な感じがなく、画面の演出に一役かってくれている。

フェイスラインや髪の質感は実にシャープ。衣装の毛羽立ちも描き出しており、とにかく解像感が高いレンズという印象だ。

FUJIFILM X-T4 / XF90mmF2 R LM WR / 絞り優先AE(F2.0・1/200秒・+0.7EV) / ISO 160 / PROVIA

モデルに坂の上に立ってもらい、あおる構図で全身をフレームに収めた。顔・瞳認識をオンにして、くるくると回転してもらう中で、動きのある瞬間をねらった。被写体ブレも躍動感を演出するカットに仕上がった。

F2.8まで絞っているが、前後のピントが心配な場合はコンティニュアスAFにして、顔・瞳認識をオンにしておけば、ピント面で前後する被写体の動きをフォローすることもできて、歩留まりよく撮影できる。

FUJIFILM X-T4 / XF90mmF2 R LM WR / 絞り優先AE(F2.8・1/125秒・+0.7EV) / ISO 160 / PROVIA

海側に突き出しているテトラポッドの手前に腰掛けてもらい、ローアングルから表情をねらった。撮影者側の足場も砂浜で安定しないので、背面モニターをウェストレベルで保持して、上から覗き込むようにして撮影している。

連なるテトラポッドと海をフレームに収めることで、この焦点距離ならではの画面効果を引き出している。全体的に背景が迫ってくることもあり、モデルの立体感を描き出しながらも、背景との一体感のようなものを生み出すことができている。

この効果をどういかしていくか、ということと、ボケ感のコントロールが本レンズの醍醐味でもあるだろう。コントラストや結像性能はXF56mmF1.2 R APDに近い印象で、ここまで見てきた流れだとXF50mmF1.0 R WRの個性が際立つように感じられる。

FUJIFILM X-T4 / XF90mmF2 R LM WR / 絞り優先AE(F2.2・1/340秒・±0EV) / ISO 160 / PROVIA

あらためてXF50mmF1.0 R WRをみてみよう

3本のそれぞれの使い所のポイントと、描写の違いをみてきた。ここであらためてXF50mmF1.0 R WRをみてみよう。

条件は逆光。1枚目は光源は直接画面に入っていないものの、太陽が直上にくる時間帯でのカットだ。F1.0で撮影しているが、フレア・ゴーストの影響もみられず、コントラストの低下もよく抑えられている。

あらためて見てみると、背景とモデルとの関係が素直で、描写自体のやわらかさに、レンズの特徴を見出すことができる。それでいてボケ量が大きいため、分離のよさが際立っているのだとわかる。全体的にやさしさが感じられる描写が本レンズの持ち味ではないだろうか。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F1.0・1/5,800秒・+1.0EV) / ISO 160 / PROVIA

続けて、若干絞ってF2.0で撮影したカット。画面内に太陽を入れているがフレア、ゴーストはともに見られない。光線状態を気にせずにシャッターを切っていけるのは、とても心強い。

シャープネスは向上しているけれども、やわらかさも維持されている描写で、エッジが立ちすぎない描写と立体感の共存が不思議な感覚をもたらす。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F2.0・1/3,000秒・+1.0EV) / ISO 160 / PROVIA

おまけ:玉ボケ(丸ボケ)描写にみる3本の違い

街明かりを背に、点光源の出方を含めた描写を見ていった。

XF50mmF1.0 R WRは画面周辺部に若干の口径食がみられるが、中央部分はほぼ円形となっており、非球面レンズ特有の年輪ボケはみられない。夜間のポートレート撮影だけではなく、スナップショットも楽しめるだろう。

FUJIFILM X-T4 / XF50mmF1.0 R WR / 絞り優先AE(F1.0・1/75秒・-0.7EV) / ISO 320 / PROVIA

XF56mmF1.2 R APDはアポダイゼーションフィルターの効果もあり、点光源のエッジがなだらかに溶けている。画面周辺部も粒の揃った綺麗な円形を保ちながら奥行き感のあるボケ方をみせる。この辺りが「APD」無しのXF56mmF1.2 Rとの違いなのだと思う。

FUJIFILM X-T4 / XF56mmF1.2 R APD / 絞り優先AE(F1.2・1/85秒・-0.7EV) / ISO 1250 / PROVIA

XF90mmF2 R LM WRは、圧縮効果も相まってモデルのすぐ後方に玉ボケを引っ張ってくることができた。50mmと56mmの作例と光源の位置を合わせるために、少し上方からカメラの角度を変えて撮影している。ボケの形状は画面周辺部まで形の整った綺麗な円形となっており年輪ボケも見られない。これからの季節、イルミネーションを背景にしたポートレート撮影には絶好なレンズだろう。

FUJIFILM X-T4 / XF90mmF2 R LM WR / 絞り優先AE(F2.0・1/28秒・-0.7EV) / ISO 400 / PROVIA

まとめ

富士フイルムの中望遠域を担う単焦点レンズから、特にポートレート撮影におけるレンズの選択に、嬉しい悩みをもたらしてくれる3本を比較撮影してきた。

今回試用した3本は焦点距離も近く、スペックだけみていくと、大きな差はないように感じられるかもしれない。だからこそレンズ選択の悩ましさが高まってくるわけだが、しかし使い比べていくにつれて、各レンズにはそれぞれ個性のある描写があり、併用と共存が十分に可能であることが分かってきた。理想を言えば3本(あるいはAPDの有無で4本)を揃えてシチュエーション別に使っていきたいところだが、なかなか現実的には難しいことも事実。富士フイルムの嬉しくも難しい提案には、いちユーザーとして、とても悩まされている。

そんな時にオススメなのが、自身の撮影スタイルを振り返ってみることだ。筆者自身も今回使い比べていく中で、それぞれの役割を探しながら撮影を進めていった。どれが最良の1本であるのかはユーザーそれぞれで異なってくる部分だが、以下、筆者の結論をお伝えしよう。

XF50mmF1.0 R WRに関しては、このレンズでしか撮れない空気感や“味”などが非常に気になっているのは確かであり、新しい表現の幅もひろがると思う。背景をボカして整理するか、引き寄せて余計なものを省くかというように、コントロールの仕方で変わってくるところだが、筆者の場合、次の1本には重さや価格面、所有しているXF56mmF1.2 Rと“焦点距離が被らないこと”などを考え、XF90mmF2 R LM WRを選ぶであろう。

理由は普段よく使用する85mmに加えて、35mm判換算で137mm相当の圧縮効果で背景を引き寄せて整理し、ピンポイントで被写体に集中して狙いたいからだ。以下、3点がそのポイントである。

[1]描写もカッチリしていて、コントラストのノリもよい
[2]540gと軽く、何よりも寄れてフットワークよく撮影できる
[3]前ボケ、後ボケ共に美しい

実際、撮影日で一番シャッター数が多かったのはXF90mmF2 R LM WRであった。

と、このように悩める富士フイルムXシリーズにおけるポートレート撮影でのレンズ選択において、これら3本(あるいは4本)のレンズのどれをチョイスすべきか悩んでいる人はもちろん、次の1本を考えている人にとって、今回の撮り比べが参考になれば幸いだ。

モデル:いのうえのぞみ
撮影協力:Cafe Grand Line

岡本尚也

東京都渋谷区生まれ。アパレル会社、広告代理店勤務ののち、フォトスタジオアシスタントを経て独立。ポートレートを主体に撮影をこなす。現在、主にアパレル、ファッション分野のフォトグラファーとして活躍中。カラーマネージメント関係の講師も務める。リコーフォトアカデミー講師。