旅とカメラ、旅とレンズ
しっとりとした会津の空気をアポ・ズミクロンの描写で——ライカQ 43
2024年11月15日 07:00
毎年秋になると途端に忙しくなるものだが、今年はそれに加えて2度の国内旅行が加わった。静岡でワークショップを行った翌週は福島県の会津へ。
最近手に入れたライカQ3 43は旅には最適なカメラだ。43mmの標準域のレンズを携え、クロップ機能を使用すれば150mmまでのデジタルズームが可能、加えてIP52相当の防塵・防滴性能、ともなればこれ1台で完璧と言えよう。初秋の会津をライカQ3 43とともに振り返ってみる。
電車での旅は楽しいものだ。はじめて乗った磐越西線は平日ということもあって2両編成。猪苗代駅を過ぎると車内もだいぶ空いてきたので運転席のうしろに張り付いてまずは1枚。ライカQ3 43に搭載のライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH. は絞り開放から素晴らしい写りをするレンズだが、長く続く線路を見せたかったのでF4と若干絞って撮影。すこん、と抜けるような描写が気持ちいい。
仕事を終えて1軒目の酒場を後にすると、辺り一面深い霧に包まれていた。これ幸い、とばかりにライカQ3 43を持ち出す。ライカQ3 43は高感度耐性も高く、ISO 4000までなら非常に滑らかな写り。ISO 6400で若干のノイズが気になる程度だろうか。幻想的な夜の街をスナップしながら2次会の会場へと向かう。
翌朝、若干酒の残る身体を重く引きずりながら鶴ヶ城へと向かった。外は小雨模様。こんなときライカQ3 43の防塵・防滴性能は大いに助かるものだ。オートフォーカスも非常にスムーズ。お堀の対岸をゆく鴨を75mmにクロップして撮影して確認すると、静かな水面にまっすぐに刻まれる泳跡波も美しく描写している。線が細く、非常にナチュラルな写り。
古くからの街並みを味わいながら市中を歩いていると、猫が目の前を横切った。まだ小さい。ということは今年の春生まれの猫だろうか。警戒心が強く路地の向こうへ隠れてしまったが、振り向きざまを撮らせてもらう。なかなかの美人さん。絞り解放で撮影したが、ヒゲの先までしっかりと解像するのはさすが世界最高峰と名高いライカ アポ・ズミクロン品質である。
ようやく晴れ間ものぞいてきたところで会津漆器を扱う白木屋漆器店へ。一部は資料館になっており建物自体も素晴らしい造り。窓辺から差し込む光が美しく、応接椅子にピントを合わせて一枚。薄暗い環境下で撮影してもレンズの素晴らしさは損なわれることなく、わずかな光を捉えて立体感豊かに描写するアポ・ズミクロンクオリティ。撮るたびにその品質の高さを実感するレンズだ。
漆器の保護のため、ガラスケースのなかには水があちこちに置かれている。グラスのコースターまで会津漆器という贅沢。コップの底に反射する絵付けがきらきらと美しく撮影させてもらう。こちらは75mmにクロップした上でマクロで撮影。マクロに設定すると最短撮影距離は通常時の60cmから26.5cmに、かつ解放値はF2.8に変更される。
グラスを見て触発されたわけではないが、漆器店からほど近くの味噌田楽を食べさせてくれる店でビールを。実はこの前にも日本酒を1杯やっているが会津は酒どころだから仕方ない。ライカQ3 43以前は広角レンズを採用していたためテーブルフォトには難儀していたが、ライカQ3 43を使用するようになって格段に食事の場面で撮ることが増えた。
酒蔵の守り神だろうか。会津の街では猫を多く見かける。はっきりとした隈取りが美しい若い猫。逆光からの撮影ではあるが、毛並みを1本1本再現するような緻密な描写とともに、すぐそこに存在するかのような立体感。
会津では酒蔵とともに味噌蔵なども多くあるようだ。ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH. は歪みがほとんどないため、建造物を真正面から撮影してもその後に補正が必要になることはない。屋根に壁面、壺などほぼ同色であるものの、それぞれの質感の違いをしっかり描き出している。
帰りの電車待ちの間、ホームの駅名標がトンボの人気スポットになっているらしく(しかも警戒心が薄い)、マクロに切り替えてギリギリまで近づいて撮影。さすがにこのあとじりじりと後退されてしまったが、旅の最後になかなか面白いやり取りであった。ライカQ3 43ではマクロを使用することが格段に増えたが、それはやはりこのレンズの描写性能の高さと画角によるものが大きいのだろう。
まとめ
今年はすっきりとした秋空とはいかず、しかも週末に限って天候が崩れるのはどういうわけか。そんな気まぐれな天気を予想していたように9月末に発表と同時に発売されたライカQ3 43は、まさに旅にうってつけの1台であった。
真の標準レンズともいわれる43mmの焦点距離は、少し引けば広角レンズのように、しっかり近づけばF2の明るさを生かして中望遠レンズのようにも使用できる非常に使い勝手の良い画角。また今回の旅でも多く使用したが、クロップ機能も秀逸。欲をいえば50mmの枠も欲しいところではあったが、それは他のQシリーズのクロップ、もしくはM型ライカでカバーせよ、というライカの考えかもしれない。
しかもだ、アポ・ズミクロンをマクロで使用できるのである。マクロのアポ・ズミクロンといえばライカ アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH. は最短撮影距離が30cmということで話題になったが、ライカQ3 43に搭載のライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH. はそれを上回る26.5cm(ただし開放F値はF2.8になる)。
旅といえば食も重要なイベントのひとつ。このカメラひとつで気軽に、かつ上質な写りでテーブルフォトを撮ることができるのもライカQ3 43ならではの旅の贅沢な楽しみかもしれない。
撮影協力:白木屋漆器店