新製品レビュー

ライカQ3 43

新レンズ「ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH.」がもたらす変化

フルサイズセンサーを搭載する、レンズ一体型機であるライカQシリーズの新モデルとして「ライカQ3 43」が発売された。

カメラ名から想像できるとおり、ライカQ3 43はすでに発売されているライカQ3のバリエーションモデルであり、ライカQ3が28mm広角レンズを搭載しているのに対し、ライカQ3 43は43mmの標準レンズを搭載していることが最大のトピック。同じレンズ一体型カメラであるRICOH GR III(28mm相当)に対するRICOH GR IIIx(40mm相当)と同様の存在と考えると分かりやすいかもしれない。

ライカQ3との違いは搭載レンズとそれに関連した事柄(例えば重さとか)、そして貼り革のカラーが変わったことのみで、基本的なカメラとしての機能はまったく同じである。今回のレビューではライカQ3との違いについてのみ言及しているので、それ以外のライカQ3の基本機能等については過去にアップされている詳細レビューを確認してほしい。

グレーの貼り革を採用

左がライカQ3 43でグレー貼り革が採用されており、右のブラック貼り革のライカQ3とは一目で見分けられる。

まずはライカQ3 43の外観から見ていこう。ライカQ3 43ではボディ前面の貼り革がグレーになっている。オリジナルQ3の貼り革はブラックなので、両機を並べると違いは一目瞭然。ライカカメラ社がQ3 43にコンサバなブラックではなく、グレー貼り革をあえて採用した正式な理由は分からないが、例えば両機を併用した際に、急いでいても取り間違わないようにという配慮なのかもしれない。

グレー貼り革のライカはミリタリーモデルなどで過去にも採用例があったりするので、初めてライカQ3 43を手にしたときも個人的にはそんなに違和感は感じなかったし、これはこれでアリとも思ったが、やっぱり貼り革はブラックの方が好みという人も多いだろう。

ライカでは有料で貼り革を交換してくれる「ライカアラカルト カスタムレザーサービス」があるけれど、基本的にカラフルなカラーが多く、現時点でライカQシリーズ用にブラックの選択肢はないようだ。

ライカQ3と同じく機種名はボディ前面にはなく、アクセサリーシューに刻印されている
操作ボタンの配置等もライカQ3とまったく同じ。ボタン等の操作部材は比較的少ないが、ライカ独自の操作ロジックにさえ慣れてしまえば快適に操作できる
液晶モニターはチルト式を引き続き採用している

レンズサイズは実質同等だが重さは若干アップ

フードを外したレンズ全長はライカQ3 43の方が約5mmほど長い。太さは同じに見えた。左がライカQ3 43
左がライカQ3 43用、右がライカQ3用の付属フード。ライカQ3 43用の方が有効長が短いものの、前面にフレアカッター状の遮光板が装備されている
付属レンズフードを装着するとレンズ長の違いは吸収されライカQ3 43とライカQ3のレンズ全長はほぼ同じになる

ライカQ3 43のレンズ外観はライカQ3と基本的に同じデザインだが、全長は実測で5mmほど長くなっている。ただし、付属のレンズフードはライカQ3用より短く作られているため、フード装着時のレンズ全長はライカQ3とほぼ同じだ。

一般的に焦点距離が長くなるほどフードの有効長も長くなるのが普通なので、ライカQ3 43の方がレンズフードも大きくなって然るべきだが、それでは携帯性に悪影響が出てしまうと考えてショートタイプのフードを採用したのだろう。フードは短くなっても画角外の光をカットするフレアカッター状の遮光板を備えているので、ショートタイプのフードでも実用性は問題ないと思う。

なお、ライカQ3 43の重さは794gで、Q3の743gに比べると51gほど重くなっている(いずれもバッテリー込み)。ボディは基本的に同じといわれているので、この51gの差はすべてレンズの重さの違いということになる。

実際にライカQ3と持ち替えてみると51gの差は体感できるもので、明らかにライカQ3 43の方が手応えがあり、バランス的にもよりレンズヘビーなのが実感できる。とはいえその差は若干であり、劇的に重くなったというわけではない。

レンズはライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH.

ライカQ3 43のレンズは新設計のアポ・ズミクロン f2/43mm ASPH.が採用されている。レンズ一体型カメラにアポ・ズミクロン銘のレンズが採用されるのは初めて
ライカQ3はズミルックス28mm f/1.7 ASPH.だった
ライカQシリーズ共通のマクロモード切り換えギミックは引き続き搭載されている。レンズ一体型機としては高額なライカQシリーズだが、こういう手間もコストも掛かる作り込みを見てしまうと、その価格にも納得せざるをえない

ライカQ3 43に搭載されたレンズは新設計のライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH.で、レンズ構成は8群11枚(非球面レンズ7枚)。APOズミクロンといえばM型ライカ用のアポ・ズミクロン M50mm f/2.0 ASPH.の解像無双ぶりが思い浮かび、撮影する前から解像性能が高いであろうと想像できる。

実際に撮影してみると解像性能は想像以上で、どこまでも切れ込むように解像していく様は本当にすごい。

レンズ交換式カメラの場合、センサー前面にあるマイクロレンズの受光角度をすべての交換レンズに最適化できない(レンズごとにセンサーへの入射特性が多少異なるため)のが画質面での弱点だが、レンズ一体式カメラの場合はマイクロレンズの特性を撮影レンズ特性とガチに合わせこむことが可能であり、その意味ではレンズ交換式カメラより画質を追求しやすいという事情もある。

そうした要因もあってか、解像性能は本当に高く、当然ながら画面周辺部での画質劣化もほとんど感じられない。しかもこれだけ高解像レンズでありながら、ボケ味が妙に硬くなったりせず、実に自然で柔らかい印象なのも素晴らしい美点だと思う。

解像性能は抜群に高く、かなり細部まで明確に描写される
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F5.6・1/500秒・±0EV)/ISO 100
アウトフォーカス部にハイライトが多数あり、一般的には煩くなりがちな背景ボケだが、ごくごく自然なボケ再現となった
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/1,000秒・±0EV)/ISO 100
絞り開放で撮影。もちろん撮影距離によってボケ量は変わってくるが、絞り開放でもボケすぎず、街の様子を見せつつ柔らかくボカすことができる
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/250秒・±0EV)/ISO 100
43mmは人間の視角に近く、目に付いた被写体をサクサクとスナップするのに最適な画角
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F5.6・1/80秒・±0EV)/ISO 100
測距点移動の操作は十字キーもしくはモニタータッチで行えるが、EVFに接眼して撮影する場合はやはりジョグレバー的な入力デバイスが欲しくなる
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/100秒・-0.6EV)/ISO 100
色再現は初期設定のフィルムモード=スタンダードでは少しだけ彩度が高め、かつシャドーが起き気味な印象を持った
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F11・1/200秒・-0.3EV)/ISO 100

有用なデジタルズーム機能

ライカQ3と同じく、ライカQ3 43にもデジタルズーム機能が搭載されている。デジタルズームと言っても実際はシンプルなクロップ機能で、デジタル的な補間も行われないものの、さすがに素で6,000万画素もあると、かなりクロップしても実用画質をキープすることができる。

クロップのステップは、ノンクロップの43mmから始まり60mm相当→75mm相当→90mm相当→120mm相当→150mm相当の全6段階。

初期設定では右手親指位置のファンクションキーにアサインされており気軽に利用できる。ちなみにそれぞれのクロップ時の画素数は、記録画素数を最大に設定したときで約6,000万画素(43mm時)、約3,000万画素(60mm相当時)、約2,000万画素(75mm相当時)、約1,370万画素(90mm相当時)、約770万画素(120mm相当時)、約500万画素(150mm相当時)となる。

43mm(約6,000万画素)
60mm相当(約3,000万画素)
75mm相当(約2,000万画素)
90mm相当(約1,370万画素)
120mm相当(約770万画素)
150mm相当(約500万画素)

とても実用的なデジタルズームだが、ズーム時でもライブビュー画面が43mmの画角に固定されており、その上に白い視野枠で撮影範囲を表示するやり方はライカQ3から変わっていない。同じようにファインダー画角が一定で、レンズ交換に応じてブライトフレームのサイズのみが変化するM型ライカの雰囲気を味わえるとも言えるが、ここは素直にライブビュー画像をズームステップに合わせて拡大してくれた方が、さらにデジタルズーム機能が使いやすくなると思う。

なお、デジタルズームで実際にクロップされるのはJPEG画像のみで、RAW画像に関してはフル画面記録+クロップ情報となり、PhotoshopのCamera Rawなど対応ソフトで開いた場合、最初はクロップ状態で表示されるが、クロップ情報をOFFにしてクロップ無しのフル画像に戻すことも可能だ。

デジタルズーム時でもライブビュー像は43mm時のまま、撮影範囲のみがブライトフレーム状の白枠で表示される仕組み。望遠になるほど撮影範囲が小さくなり確認しずらくなる。

43mm(ライブビュー像。以下同)
60mm相当
75mm相当
90mm相当
120mm相当
150mm相当
最望遠の150mm相当で撮影。画素数的には約500万画素だが、レンズの解像がハンパないので、この画素数でも像のクオリティはとても高い
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F8.0・1/500秒・-1.3EV)/ISO 100
75mm相当で撮影。ここまでクロップしても約2,000万画素も残るのはさすが。ガラス窓越しの遠景撮影だが揺るぎない解像を得られた
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F5.6・1/500秒・-0.6EV)/ISO 100
60mm相当で撮影。43mmの次が60mmというのはやや残念。画素数も6,000万画素から3,000万画素へ大きく飛ぶし、使用感的にもぜひ50mmが欲しかった
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/125秒・-2.0EV)/ISO 800
60mm相当で撮影。明暗差の大きなシーンなのでRAW現像時に階調調整を行った。RAW画像の素材性は優秀で大きめの調整でも破綻しにくい
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F5.6・1/5秒・-1.3EV)/ISO 200
60mm相当で撮影。前ボケもクセがなく素直だ
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/125秒・-1.3EV)/ISO 1600
60mm相当で撮影。試用期間中、いろいろな光線状態で撮影したが、AFはほとんど迷わず、合焦も正確だった
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/2,000秒・-1.3EV)/ISO 1600
120mm相当で撮影。当たり前だが、絞り開放でも実焦点距離は43mmなので本当の120mmに比べると深度は深い。それでもこれくらいボカせる。玉ボケもキレイだ
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/250秒・±0EV)/ISO 125

メインカメラとなり得るライカQシリーズ

初代ライカQが2015年に登場したとき、ライカカメラ社のプロダクトマネージャーであるステファン・ダニエルさんに別の焦点距離バージョンは出さないのか聞いたことがあった。そのときは「もし出すとしたら焦点距離は何mmが欲しい?」とか逆質問されて、実現の可能性は意外とありそうだなと感じた。

しかし、その後、ライカQ2、ライカQ3とモデルチェンジするにしたがって2,400万画素から4,700万画素、そして6,000万画素へと高画素化され、それに伴ってデジタルズーム(クロップ)の実用性も向上。別の焦点距離のレンズを搭載するモデルが追加される可能性は消え失せたかに思えた。

実際、2023年に再びダニエルさんにインタビューした際に「別焦点距離のリクエストも多く寄せられていると思うが、デジタルズームがそれに対するライカの答えですか?」という問いに「その通り」という答えだったので、ああ、もう28mm以外のライカQシリーズは出ないんだなと思っていた。

ところが突然の43mmバージョンの登場である。まさに青天の霹靂というか、俄には信じられなかったほど意外だった。

-1.3EVの露出補正を行いシルエット表現にした。ライブビュー像と実際に記録される画像との差は少なく、イメージ通りに撮影できる
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F8.0・1/1,000秒・-1.3EV)/ISO 100
撮っていて感じたのは43mmの万能性。好みもあるが、50mmではなく43mmを採用したのは正解だと思う
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/500秒・-0.6EV)/ISO 100
合焦した部分の解像は驚くほど高め。距離に応じてなだらかにボケ量が増す様もとても自然だ
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/400秒・-1.3EV)/ISO 100
電子補正も効いていると思うが、歪曲収差もよく補正されている
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F5.6・1/200秒・±0EV)/ISO 100

という個人的な感慨はさておき、ライカQ3 43はとても実用性の高いカメラだと思う。50mmに比べてやや広めで、人間の視野により近い標準レンズを搭載した単焦点モデルとして、これ1台でもいろいろな被写体や撮り方に対応できるのはもちろん、ライカQ3と併用すればより守備範囲を広げられるはずだ。

画質も素晴らしいし、操作性も良く、カメラとしての作り込みも申し分ない。何よりフルサイズのレンズ一体型機としてレンズバリエーションがあるのは現時点では唯一無二。今後もその存在感は増すばかりだろう。

レンズ一体型カメラはどうしてもサブカメラ的なポジションになりがちだが、ここまで高性能だと充分メインカメラとして使えるわけで、むしろそういう使い方の方が似合うというか、超望遠とかズームが必要ない人にとってはライカQ3そしてライカQ3 43はメインカメラとして最有力候補になりえるチョイスになるはず。

確かに3桁万円に達する価格は高価ではあるけれど、最近はミラーレス機の価格も高くなってきているし、超高性能レンズ+ボディと考えれば少しは納得しやすいかも。レンズ交換式とは違い、カメラさえ手に入れてしまえば、レンズ沼にズブズブとハマらずに過ごせるという意味ではむしろ安全かもしれない。

Q3に比べるとややレンズヘビーだが、両手で構える限り扱いにくさは感じない。片手派の人はグリップが必須かも
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.0・1/400秒・-0.6EV)/ISO 100
マクロモード切り換え時の最短撮影距離は26.5cmで、43mmという焦点距離の割に近接できる
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.8・1/80秒・-0.6EV)/ISO 100
マクロモードでも解像低下はまったく感じられない
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.8・1/125秒・-0.6EV)/ISO 1250
ISO 1250で撮影。RAW現像時のノイズリダクションは未適用だがノイズはそれほど気にならない
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2・1/80秒・-1.0EV)/ISO 1250
高解像度なレンズではあるものの、質感の再現性も高いので決して無味乾燥なカリカリ描写にはならない
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2・1/80秒・-1.0EV)/ISO 2500
軸状色収差があると目立つシーンだが、まったく確認できない
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2・1/320秒・-0.6EV)/ISO 100
60mm相当で撮影。動体ブレを活かしたいときに手ブレ補正はとても有効でスローシャッターも安心して切れる
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F5.6・1/3秒・-1.3EV)/ISO 200
これは撮影時のクロップではなく、RAW現像時に画処理で150mm相当までトリミングしたもの。比較的画面周辺部なのだが、均質性に優れたレンズ描写のため画質に乱れはほとんど感じられない
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F2.2・1/125秒・-1.3EV)/ISO 1600
フィルムモード=モノクロで撮影。メリハリのあるモノクロ表現だが、過度に高コントラストにならず、なかなか上手い画作りだと思う
ライカQ3 43/ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH./絞り優先AE(F11・1/80秒・-0.6EV)/ISO 200
河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。