新製品レビュー
ライカQ3 43
新レンズ「ライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH.」がもたらす変化
2024年10月3日 07:00
フルサイズセンサーを搭載する、レンズ一体型機であるライカQシリーズの新モデルとして「ライカQ3 43」が発売された。
カメラ名から想像できるとおり、ライカQ3 43はすでに発売されているライカQ3のバリエーションモデルであり、ライカQ3が28mm広角レンズを搭載しているのに対し、ライカQ3 43は43mmの標準レンズを搭載していることが最大のトピック。同じレンズ一体型カメラであるRICOH GR III(28mm相当)に対するRICOH GR IIIx(40mm相当)と同様の存在と考えると分かりやすいかもしれない。
ライカQ3との違いは搭載レンズとそれに関連した事柄(例えば重さとか)、そして貼り革のカラーが変わったことのみで、基本的なカメラとしての機能はまったく同じである。今回のレビューではライカQ3との違いについてのみ言及しているので、それ以外のライカQ3の基本機能等については過去にアップされている詳細レビューを確認してほしい。
グレーの貼り革を採用
まずはライカQ3 43の外観から見ていこう。ライカQ3 43ではボディ前面の貼り革がグレーになっている。オリジナルQ3の貼り革はブラックなので、両機を並べると違いは一目瞭然。ライカカメラ社がQ3 43にコンサバなブラックではなく、グレー貼り革をあえて採用した正式な理由は分からないが、例えば両機を併用した際に、急いでいても取り間違わないようにという配慮なのかもしれない。
グレー貼り革のライカはミリタリーモデルなどで過去にも採用例があったりするので、初めてライカQ3 43を手にしたときも個人的にはそんなに違和感は感じなかったし、これはこれでアリとも思ったが、やっぱり貼り革はブラックの方が好みという人も多いだろう。
ライカでは有料で貼り革を交換してくれる「ライカアラカルト カスタムレザーサービス」があるけれど、基本的にカラフルなカラーが多く、現時点でライカQシリーズ用にブラックの選択肢はないようだ。
レンズサイズは実質同等だが重さは若干アップ
ライカQ3 43のレンズ外観はライカQ3と基本的に同じデザインだが、全長は実測で5mmほど長くなっている。ただし、付属のレンズフードはライカQ3用より短く作られているため、フード装着時のレンズ全長はライカQ3とほぼ同じだ。
一般的に焦点距離が長くなるほどフードの有効長も長くなるのが普通なので、ライカQ3 43の方がレンズフードも大きくなって然るべきだが、それでは携帯性に悪影響が出てしまうと考えてショートタイプのフードを採用したのだろう。フードは短くなっても画角外の光をカットするフレアカッター状の遮光板を備えているので、ショートタイプのフードでも実用性は問題ないと思う。
なお、ライカQ3 43の重さは794gで、Q3の743gに比べると51gほど重くなっている(いずれもバッテリー込み)。ボディは基本的に同じといわれているので、この51gの差はすべてレンズの重さの違いということになる。
実際にライカQ3と持ち替えてみると51gの差は体感できるもので、明らかにライカQ3 43の方が手応えがあり、バランス的にもよりレンズヘビーなのが実感できる。とはいえその差は若干であり、劇的に重くなったというわけではない。
レンズはライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH.
ライカQ3 43に搭載されたレンズは新設計のライカ アポ・ズミクロン f2/43mm ASPH.で、レンズ構成は8群11枚(非球面レンズ7面)。APOズミクロンといえばM型ライカ用のアポ・ズミクロン M50mm f/2.0 ASPH.の解像無双ぶりが思い浮かび、撮影する前から解像性能が高いであろうと想像できる。
実際に撮影してみると解像性能は想像以上で、どこまでも切れ込むように解像していく様は本当にすごい。
レンズ交換式カメラの場合、センサー前面にあるマイクロレンズの受光角度をすべての交換レンズに最適化できない(レンズごとにセンサーへの入射特性が多少異なるため)のが画質面での弱点だが、レンズ一体式カメラの場合はマイクロレンズの特性を撮影レンズ特性とガチに合わせこむことが可能であり、その意味ではレンズ交換式カメラより画質を追求しやすいという事情もある。
そうした要因もあってか、解像性能は本当に高く、当然ながら画面周辺部での画質劣化もほとんど感じられない。しかもこれだけ高解像レンズでありながら、ボケ味が妙に硬くなったりせず、実に自然で柔らかい印象なのも素晴らしい美点だと思う。
有用なデジタルズーム機能
ライカQ3と同じく、ライカQ3 43にもデジタルズーム機能が搭載されている。デジタルズームと言っても実際はシンプルなクロップ機能で、デジタル的な補間も行われないものの、さすがに素で6,000万画素もあると、かなりクロップしても実用画質をキープすることができる。
クロップのステップは、ノンクロップの43mmから始まり60mm相当→75mm相当→90mm相当→120mm相当→150mm相当の全6段階。
初期設定では右手親指位置のファンクションキーにアサインされており気軽に利用できる。ちなみにそれぞれのクロップ時の画素数は、記録画素数を最大に設定したときで約6,000万画素(43mm時)、約3,000万画素(60mm相当時)、約2,000万画素(75mm相当時)、約1,370万画素(90mm相当時)、約770万画素(120mm相当時)、約500万画素(150mm相当時)となる。
とても実用的なデジタルズームだが、ズーム時でもライブビュー画面が43mmの画角に固定されており、その上に白い視野枠で撮影範囲を表示するやり方はライカQ3から変わっていない。同じようにファインダー画角が一定で、レンズ交換に応じてブライトフレームのサイズのみが変化するM型ライカの雰囲気を味わえるとも言えるが、ここは素直にライブビュー画像をズームステップに合わせて拡大してくれた方が、さらにデジタルズーム機能が使いやすくなると思う。
なお、デジタルズームで実際にクロップされるのはJPEG画像のみで、RAW画像に関してはフル画面記録+クロップ情報となり、PhotoshopのCamera Rawなど対応ソフトで開いた場合、最初はクロップ状態で表示されるが、クロップ情報をOFFにしてクロップ無しのフル画像に戻すことも可能だ。
デジタルズーム時でもライブビュー像は43mm時のまま、撮影範囲のみがブライトフレーム状の白枠で表示される仕組み。望遠になるほど撮影範囲が小さくなり確認しずらくなる。
メインカメラとなり得るライカQシリーズ
初代ライカQが2015年に登場したとき、ライカカメラ社のプロダクトマネージャーであるステファン・ダニエルさんに別の焦点距離バージョンは出さないのか聞いたことがあった。そのときは「もし出すとしたら焦点距離は何mmが欲しい?」とか逆質問されて、実現の可能性は意外とありそうだなと感じた。
しかし、その後、ライカQ2、ライカQ3とモデルチェンジするにしたがって2,400万画素から4,700万画素、そして6,000万画素へと高画素化され、それに伴ってデジタルズーム(クロップ)の実用性も向上。別の焦点距離のレンズを搭載するモデルが追加される可能性は消え失せたかに思えた。
実際、2023年に再びダニエルさんにインタビューした際に「別焦点距離のリクエストも多く寄せられていると思うが、デジタルズームがそれに対するライカの答えですか?」という問いに「その通り」という答えだったので、ああ、もう28mm以外のライカQシリーズは出ないんだなと思っていた。
ところが突然の43mmバージョンの登場である。まさに青天の霹靂というか、俄には信じられなかったほど意外だった。
という個人的な感慨はさておき、ライカQ3 43はとても実用性の高いカメラだと思う。50mmに比べてやや広めで、人間の視野により近い標準レンズを搭載した単焦点モデルとして、これ1台でもいろいろな被写体や撮り方に対応できるのはもちろん、ライカQ3と併用すればより守備範囲を広げられるはずだ。
画質も素晴らしいし、操作性も良く、カメラとしての作り込みも申し分ない。何よりフルサイズのレンズ一体型機としてレンズバリエーションがあるのは現時点では唯一無二。今後もその存在感は増すばかりだろう。
レンズ一体型カメラはどうしてもサブカメラ的なポジションになりがちだが、ここまで高性能だと充分メインカメラとして使えるわけで、むしろそういう使い方の方が似合うというか、超望遠とかズームが必要ない人にとってはライカQ3そしてライカQ3 43はメインカメラとして最有力候補になりえるチョイスになるはず。
確かに3桁万円に達する価格は高価ではあるけれど、最近はミラーレス機の価格も高くなってきているし、超高性能レンズ+ボディと考えれば少しは納得しやすいかも。レンズ交換式とは違い、カメラさえ手に入れてしまえば、レンズ沼にズブズブとハマらずに過ごせるという意味ではむしろ安全かもしれない。