旅とカメラ、旅とレンズ

倍率10.7倍で広角~望遠を1本でカバー…旅スナップ向きのズームレンズ「タムロン 28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD」

28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD(Model A074)

この夏に発売されたタムロン「28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD(Model A074)」をお借りする機会があったので、仕事先の福岡をはじめ、山陰、山陽と西日本での旅スナップを実践してみた。

これまでも数々の高倍率ズームレンズを開発してきたタムロンだが、ここへきてまたユニークなレンズが発表された。このレポートが掲載される頃にはすでに多方面で周知となっていると思うが、あらためて書き加えると、広角側28mmから超望遠の入口となる300mmまでの10.7倍となる焦点距離を1本に詰め込んだズームレンズだ。

これだけの高倍率ズームレンズでありながらも、長さ126mmで重量もわずか610gという軽量コンパクトな筐体に収まっている。カメラボディが一眼レフから小型軽量化したミラーレスになっているのに、装着するレンズが大型で重いようでは本末転倒である。これまでの重い機材から離れて、1本の高倍率ズームレンズでの軽やかな旅撮影をしてみた。その中からごく一部だが紹介してみたい。

利便性の高い高倍率ズームレンズ

祭りで演じる猿まわしの赤い絨毯へ落ちた夏の日射し。その陰影が目に飛び込んできた。誰もいない休憩時間、ややローアングルで観客目線の広がりを28mmで捉える。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/28mm/絞り優先AE(F6.3・1/250秒・+1/3EV)/ISO 400

並んだ鳥居の柱を300mmの望遠で引き寄せる。朱色の木柱にとまっている白い羽虫が画面構成のポイントとなり、人工物に生命の営みを感じさせてくれる。ただし虫が苦手な方はクローズアップしないようにご注意を(笑)

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/300mm/絞り優先AE(F7.1・1/200秒・±0EV)/ISO 400

神社の山門。色とりどりの七夕祭りの飾りが風に揺れて楽しく踊っているように見えた。距離をやや離して撮ることで広角レンズ独特のパースを目立たなくしてみた。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/28mm/絞り優先AE(F8・1/160秒・+2/3EV)/ISO 400

今年の夏も大変暑く福岡でも連日35℃越えの中、気のせいか風鈴の奏でる涼しげな音色は体感温度を少しだけ下げてくれた気がした。ものすごい数の風鈴が風に揺れていた中の1つに焦点を絞って撮影するが、AFはかなり食らいついてきた印象。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/300mm/絞り優先AE(F7.1・1/800秒・±0EV)/ISO 400

福岡市と北九州市の中間辺りに平成の大合併で生まれた福津市というエリアがある。大学時代の友人に案内されたプチ動物園では、高い場所が好きなヤギたちが睨み合っている奇妙な光景に出逢った。近づけない場所では高倍率ズームが大活躍だった。

ソニーα7RⅤ /28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/69mm/絞り優先AE(F5.6・1/640秒・±0EV)/ISO 400

燃えるようなオレンジ色の空が博多湾の上空を染めていたのは一瞬のこと。わずか数分後にはピンクへと変化していった彷徨える夏の夕暮れ。望遠側で焦点距離を変えながら数枚シャッターを切った中の1枚。この夜、著者は40℃の高熱で倒れてしまった。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/196mm/絞り優先AE(F7.1・1/320秒・±0EV)/ISO 1,250

島根県松江市の作業部屋に吊された半被がまるで人型のように見えたのが面白かった。扇風機からの風で微妙に揺れ動く半被が止まる瞬間を狙ってシャッターを切るのだが、望遠側の手持ちでも1/30秒でブレないのは手ブレ補正機構の優秀さだろう。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/122mm/絞り優先AE(F7.1・1/30秒・−2/3 EV)/ISO 800

大樹の奥から強い逆光線が、美保関神社の境内を舞台装置のように浮かび上がらせてくれた。何気ない日常の1シーンが美しい日本の光景を、記録に残しておきたい。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/28mm/絞り優先AE(F4・1/ 250秒・+1・2/3 EV)/ISO 400

竹原市の裏通り。瀬戸内海沿いを広島市から東へ60㎞に位置する歴史ある大好きな街。写真少年だった頃以来、高校時代の友人とおよそ半世紀ぶりに訪れた。ややワイド側の焦点距離を用いて、自然な広がりで飾りじゃない赤いポストをストレートに収める。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/37mm/絞り優先AE(F7.1・1/ 800秒・−1/3 EV)/ISO 800

歴史的な街には裸電球のランプシェードが似合う。未だ明るい宵の口だが灯りが点ればそれはもう夜への道標である。よーく見ると白熱電球ではなくて電球型のLED。地球温暖化対策には有効な、流石はSDGsな町作りである。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/49mm/絞り優先AE(F7.1・1/4,000秒・−2/3 EV)/ISO 800

広島郊外にあるご存じ宮島のシンボル、厳島神社の大鳥居の夕景という絵葉書写真を撮ってみる。同じ構図であっても焦点距離を変えて切り撮り方を工夫すると、印象の違う写真が出来上がるのがズームレンズの醍醐味の1つである。こちらは標準域画角の焦点距離51mm。日本郵便さん、新しい切手のデザインに使ってくださいませ。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/51mm/絞り優先AE(F11・1/1,000秒・−2/3 EV)/ISO 800

焦点距離28mmで松の木を多めに取り込んだら、安土桃山時代の屏風絵のようにも見えた(笑)このカットに限らずストレートな逆光での撮影も多く試みたが、当初思っていた以上に逆光耐性はあると感じた。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/28mm/絞り優先AE(F11・1/1,000秒・−2/3 EV)/ISO 800

宮島から本州側への帰路。揺れるフェリーの船上での撮影も手ブレ補正機構に助けられた。ファサード越に美しい夕景を撮ったのだが、2つのランプがまるで大きな満月が浮かんでいるかのように見える不思議な絵柄となった。

ソニーα7RⅤ/28-300mm F4-7.1 Di III VC VXD/28mm/絞り優先AE(F4・1/100秒・+ 1/3 EV)/ISO 800

まとめ

この旅で使用したカメラボディは筆者のメイン機のひとつでもあるソニー「α7RⅤ」。小型軽量ながらも約6,000万画素のイメージセンサーを搭載した高画素機である。バッテリーとメモリーカード込みの重量が723g。本レンズの重量は610gなので、望遠側へズーミングしてレンズ全長が繰り出した時でも、前のめりになることなくバランス良く保てていた。

運搬時には軽ければ軽い方が良いのだが、撮影時にはただ軽ければ良いというものではなく、ボディに装着したときのホールディング・バランスが重要だと思う。その点ではとても相性が良く、またAFの動きももたつくことなく静粛性にも優れているので、ストレスなく快適に撮影を進められた。

レンズにとっては悪条件の1つとなる逆光線下での撮影。それを好む筆者が最も懸念していたのは逆光耐性だったので、かなりストレートな真逆光などの過酷なシーンでも撮影してみた。もちろんわずかなフレアやゴースト、滲みが出る場面も見受けられたが、レンズ性能テストではない限り概ねクリアで、実際の仕事で使う範疇では充分な結果だった。

今回の撮影旅行では三脚を一切使用しなかった。夜明けから日没後までの時間帯や薄暗い屋内などの場所でも多く撮影したが、手ブレ補正機構VCを搭載していることでいろいろな場面で手ブレによる失敗から救われた。これからのズームレンズにはなくてはならない機能とも言える。

その他に掲載カット数の関係で紹介出来なかったが、最短撮影距離19cm(広角端)と寄れることや、最大撮影倍率1:2.8のワイドマクロとしての撮影が実現したのも特徴の1つである。

フルサイズ対応レンズで望遠域が200mmや300mmくらいまでのズームレンズはこれまでも各社から数多く発売されているが、広角側28mmからのスタートで望遠側300mmとなると数少ない。ポートレート撮影などでは200mmまであれば大抵はまかなえる。しかしスポーツ写真や鳥、鉄道、飛行機などの動きモノ撮影となるともっと望遠側があればというシーンも多いので、そうなるとやはり300mmがあることで撮れる写真の領域が広がる。

望遠に特化したズームレンズならもっと長い焦点距離のレンズはたくさんあるので、広角側は別のレンズでまかなうというのなら話しは別だ。しかし広角から望遠までを1本でカバー出来てしかも軽量コンパクトとなると、少しでも荷を軽くしたい旅スナップでは利便性が高い。以前はワイド/標準/望遠ズームの3種類のレンズを入れた重いカメラバッグを携えての旅だったが、今回はこのレンズ1本で撮影出来る身軽さから、絵作りに専念出来る旅を味わえた。

ミラーレスカメラになりレンズ設計の幅も広がった今後は、28-300mm F4-7.1 Di III VC VXDのような広角から望遠までの焦点距離をカバーする高倍率かつ軽量コンパクトタイプのズームレンズが増えていくような気がする。

(はるき)写真家・ビジュアルディレクター。広島市生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科卒業。フリーランスでポートレート撮影をメインに雑誌・広告・音楽・映像メディアなどで作品を発表。「第35回・朝日広告賞、グループ入賞&写真表現技術賞」、「PARCO PROMISING PHOTOGRAPHERS #3」、「100 Japanese Photographers」ほか多数受賞。「普通の人びと」「Tokyo Girls♀彼女たちの居場所。」「The Human Portraits 1987-2007」「Automobile Americanos〜Cuba Cuba Cuba〜」「熱い風」「遠い記憶。」「遠い記憶。II」「アンソロジィ」ほか個展多数開催。プリント作品は国内外の美術館へ収蔵。九州産業大学(KSU)芸術学部写真メディア学科客員教授、長岡造形大学(NID)視覚デザイン学科非常勤講師、日本写真家協会(JPS)会員。