旅とカメラ、旅とレンズ
小気味よい2本の単焦点レンズで、ゆっくり京都を撮り歩く
OM SYSTEM「M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 lI」「M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II」
2025年6月19日 07:00
京都。家族が住んでいるこの街並みは、私にとって馴染み深い場所。連休に京都を訪れ、いつも歩いている街を少し違った視点で歩いてみた。KYOTOGRAPHIE「KG+」に参加したり、大学院を修了したりと、迎えた節目の年に、家族や大学院の仲間と過ごした時間やその空気を、写真で振り返りたくなったのである。
撮影には、OM SYSTEM OM-3と、リニューアルされたM.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 II、25mm F1.8 IIの2本を選んだ。どちらも旧型から愛用してきた単焦点レンズの後継モデルで、私にとって思い入れの深い存在だ。
17mmは、錦市場のような雑多な空間や、校舎の開放感ある光景を自然に捉えられる画角。街並みを“広がりすぎず、狭すぎず”の距離感で写せる点が心地よい。
一方、25mmは標準画角らしい自然な遠近感を持ち、鴨川沿いの人々の気配や、マトリョーシカのような小さな被写体にもすっと寄れるレンズで、その自然な遠近感と柔らかなボケが印象的だった。
馴染み深いこの町で、記憶を重ねるように、2本のレンズとともに京都の街並みを撮り歩
いた。
細い路地にも京都らしい“きちんと感”が漂っている。F2.8に設定し、前ボケを活かして撮影。手前の花が、たぬきの置物をやわらかく包み込むように写り、奥行きと温かみのある描写が得られた。
元明倫小学校を活用した京都芸術センターでは、展示やワークショップ、アーティスト・イン・レジデンスなど多様な文化活動が行われている。この日はワークショップの成果展が開かれ、夕方には雨が上がり、光が差し込んだ瞬間を捉えた1枚。校舎の空気感を自然に捉え、F1.8の明るさを活かし、時間の重なりを感じさせるような柔らかい描写が得られた。
京都の中心部に位置する錦市場は“京都の台所”として知られ、多彩な食文化が集まるスポットである。通り人が多い中、雑多でエネルギッシュな市場の雰囲気と臨場感のある風景を切り取ることができた。
II型はコーティング性能が向上し、照明の反射や逆光にも強い。F1.8の明るさにより、暗所でも安心して撮影でき、浅い被写界深度で被写体を際立たせられる。日常のスナップからドキュメンタリー撮影まで幅広く対応できる、信頼性の高いレンズである。
商店街を歩いていると、食欲をそそる香りが漂っていた。移動途中に「天下一品」で昼食をとることに。注文したのは定番の“こってりラーメン”で、濃厚なスープと弾力のある麺が疲労感を和らげる1杯となった。主役であるラーメンを手前に、副菜の餃子を奥に並べての撮影。
新京極通は、伝統と現代文化が混在するエリアである。アニメ文化に親しむ外国人観光客が、京都・新京極のゲームセンターでガチャを楽しんでいた。撮影に快く応じてくれた2人の姿が印象的だった。
撮影は、「スターダスト」や「京都オリンピア」などのゲームセンター前で行った。現在はプライズゲーム専門店として営業。UFOキャッチャーをはじめ、明るくポップな店内には観光客や若者が集まる。京都中心部で、ゲームセンターが街の風景として残り続けていることが、記録としても貴重である。
商店街で気さくに話しかけながら、笑顔で撮らせてもらった1枚。標準画角ならではの自然な遠近感と、開放F1.8で撮影したことにより、人物の表情はシャープに捉えつつ、背景は柔らかく美しいボケ感が再現され、天井のカラフルな照明も破綻なく描写されている。
AFは静音かつ高速で、混雑した環境でも的確にピントが合い、OM-3との組み合わせにおける機動性と描写性能のバランスの良さを実感した。
やがて日がくれ、周辺の小道で見つけたレトロなカフェを、M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 IIで撮影。広すぎない画角がムーディーな雰囲気のある外観風景を捉え、暗部も階調豊かに描写できた。
友人の写真展の帰り、路地でマトリョーシカを見つけた。M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 II、絞りは開放F1.8を使用。浅い被写界深度により主題を効果的に浮かび上がらせ、前後の階調もなだらかで自然な立体感が得られた。ボケは柔らかく、硬さのない描写が印象的である。
M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II にて、最短撮影距離0.25mまで寄って撮影。絞りは開放F1.8。前景のシルエットを際立たせつつ、背後のイルミネーションは滑らかにボケ、光源のにじみも美しく描写された。自然な画角と柔らかなボケ味が、このレンズの魅力である。
夜の鴨川沿いは、昼間の喧騒とは違った表情を見せてくれる。街灯や車のライトが水面にほのかに反射し、静かに流れる川音とともに、独特の情緒が漂う。そんな中、川べりで寄り添うカップルや、ベンチで談笑する家族の姿が目に留まった。
ISO 4000に設定し手持ちで撮影。色ノリも良好で、暗部も粘り強く描写してくれた。高感度ながらもムードを損なわず、柔らかな光が夜の空気感を引き立て、情感のある1枚に仕上がった。
まとめ
今回の京都では、あえて多くを撮らず、じっくりと見つめるようにシャッターを切った。
そうした「歩く」「見つける」「撮る」という流れのなかで、自然に寄り添ってくれたのが、この2本のレンズである。
両レンズは開放F1.8から高い解像力を備え、ボケ味も柔らかで、にじみのような美しさがある。夕方の校舎に差し込む光や、濡れた石畳の反射、夜の鴨川沿いに浮かぶ人影など、微細な光のグラデーションを豊かに描写してくれた。OM SYSTEM OM-3 との組み合わせでは、高感度ISO設定でもノイズの増加を感じにくく、安心して撮影に集中できた。
AFはMSC(Movie & Still Compatible)機構により、静音かつ高速。混雑する市場や室内でもスムーズにピントが合い、ストレスがない。マニュアルフォーカスクラッチの操作性も秀逸で、意図したピント面へ直感的に合わせられるのも大きな魅力だ。II型へのリニューアルでコーティング性能が向上し、逆光や強い照明下でもフレアやゴーストが出にくく、透明感のある仕上がりが得られた点も良かった。
17mmは112g、25mmは137gと軽量で、長時間の街歩きでも疲れにくい。OM-3と組み合わせた際のバランスも良く、全体として非常にコンパクトで扱いやすいシステムにまとまっている。
写真は単なる記録ではなく、自身の視点や記憶を静かに確かめる行為でもある。撮影機材としての信頼性はもちろんのこと、それ以上に、この2本のレンズには“使いたくなる理由”がある。写りの良さ、自然な距離感、軽やかな操作性──すべてが、写真を撮る楽しさを改めて思い出させてくれる。
これからも旅の途中で、あるいは日常の何気ない瞬間の中で、この2本のレンズが多くの人の写真生活に静かに寄り添ってくれることを期待している。