2011年版「GPSデジカメ」の傾向と対策

Reported by 本誌:鈴木誠

 2011年、コンパクトデジカメ界隈で一番のトピックは「GPS搭載機種の増加」だろう。2010年の時点ではまだまだ珍しい機能という印象だったが、ここ1年でだいぶ状況は変わったように思う。

 そこで、今年も昨年に引き続き、各社のGPSデジカメを一堂に集めてみた。前回の執筆時にGPSデジカメをリリースしているのは2社だけだったが、今年は一気に8社に増えている。混戦状態の最新GPSデジカメ、本稿が自分に合った1台を見つける一助になれば幸いだ。

可能性が広がったGPSデジカメ

 カメラ内に地図データまで搭載してしまったカシオ「EXILIM EX-H20G」を筆頭に、付加機能の搭載が目立っている。撮影画像への位置情報記録だけでなく、トラックデータ(移動経路)を記録できる機種がいくつか登場した。そうした機種をサブカメラとして持ち歩けば、GPSロガーの代わりにもなりうる。

 今回はGPSデジカメをラインナップしている7社(パナソニック機ベースと見られるライカを除く)から、1台ずつ紹介する。同一メーカーが複数のGPS搭載機種をラインナップしている場合は「スリムタイプ」で「より高いズーム比のモデル」を選択基準とした。

 試用にあたり、いずれもバッテリーは事前にフル充電しておき、スタート地点でカメラ本体に入れた。以降はポイントごとに立ち止まり、7台をメーカー名50音順で撮影した。最新の位置情報を取得できない場合の挙動など、気づいた点も併せてチェックしている。

なるべく同条件になるよう1つのバッグに入れて持ち歩いた。公正を期すため、バッテリーもスタート地点まで抜いておいた

オリンパスTough TG-810

 タフネス性能に定評があるToughシリーズの最上位モデル。同社初のGPS搭載機でもある。3型92万ドットの液晶モニターは高い視認性を誇る。レンズは広角端28mmからの5倍ズーム。USB充電にも対応。発売は3月25日。実勢価格は3万5,500円前後。

Tough TG-810

 撮影画像には位置情報、方位、ランドマーク名を記録。GPS情報を強制受信したところ、2分弱で更新できた。測位できない場所では前回の位置情報を記録する。2m耐衝撃や10m防水に加え100kgfの耐荷重など、同シリーズらしいタフ性能も魅力の1台だ。

 撮影画像は付属ソフト「ib」でパソコンの画面上にマッピングできる。トラックデータ記録機能は持たないが、ランドマーク名の表示と記録に対応する。

GPS受信状況の確認と更新を行なう画面付属ソフト「ib」で撮影画像をマップ上に並べたところ

カシオEXILIM EX-H20G

 地図データをカメラ内に搭載した唯一のモデル。ジャイロセンサーの搭載により、GPS電波を受信できない場所でも自律測位で撮影地点を記録する。広角端24mm相当からの10倍ズームレンズを搭載し、HD動画記録にも対応。発売は2010年11月。実勢価格は3万1,700円前後。

EXILIM EX-H20G

 現時点では最強のGPS関連機能を誇るモデルだろう。GPSデジカメの「屋内では測位できない」、「電池が持たない」といった弱点の解消を図っているからだ。詳しい仕組みは既報の記事で確認頂きたい。とにかく、GPSデジカメとして特別な意識をしなくても使えるよう配慮されている印象だ。

 パソコン用の付属ソフトは持たないが、ログデータはGoogle Earthなどに向けKML形式で書き出すことができる。トラックデータは自律測位とGPS受信後に行なう補正のおかげか、屋内でも自然に記録されていた。撮影後に一晩放置しても、無駄な電池の減りは感じなかった。

再生画面でも測位状況を確認できる撮影画像をマップ上に表示したところ。撮影者の現在地を確認することもできる

キヤノンPowerShot SX230 HS

 高倍率ズームレンズを特徴とするPowerShot SXシリーズの最新モデル。広角端28mm相当からの14倍ズームレンズと裏面照射型CMOSセンサーを採用する。フルHD動画の記録にも対応。発売は3月3日。実勢価格は3万4,800円前後。

PowerShot SX230 HS

 GPSによる位置情報の付与以外に、電源OFF時の定期的な測位とトラックデータの記録にも対応。記録間隔は「カメラの動作状況により一定でないため」として公表していないが、おおむね1分間隔で測位しているようだ。電源投入時に測位を待たされることもあまりなかった。

 トラックデータの形式はLOGファイルで、アップル「Aperture 3」でそのまま読み込めた。付属ソフト「Map Utility」からGoogle Earth用ファイル(.KMZ形式)として書き出すこともできる。同ソフトでは「測位に使用した衛星数」と「HDOP」(水平精度劣化度)のスライダーを調整することにより、精度が低いと見られる通過点をルートから除外することができた。調整後に改めてログデータを書き出すことを想定しているのかもしれない。今回試した7台では唯一の機能だった。

再生画面。緯度や経度の表示でも測位状況を確認できる付属ソフト「Map Utility」の画面。経路として採用する地点情報の精度を調整できる

ソニーサイバーショットDSC-HX9V

 2010年にヒットしたGPSデジカメ「サイバーショットDSC-HX5V」の後継であり兄貴分のモデル。電子コンパスも引き続き搭載している。レンズは広角端24mm相当からの16倍ズーム。撮像素子は裏面照射型CMOSセンサー「Exmor R」を採用。USB充電にも対応する。発売は3月11日。実勢価格は4万1,800円前後。

サイバーショットDSC-HX9V

 GPS周りの仕様としては、ログデータは記録せず、電源OFF時の定期的な測位も行なわないというもの。撮影画面のアイコンなどでGPSの測位状況を細かく確認することができるため、撮影時にそのまま捕捉を待てばいいのか、それとも一旦場所を移動したほうがいいのか判断しやすい。

 付属ソフト「PMB」内のマップビューでは、地図上に撮影地点とカメラが向いていた方向を示すアイコンが表示される。Google Earth用にKML形式のファイルを書き出すこともできる。従来機は測位完了前に撮影した画像には前回の撮影地点を書き込んでいたが、今期モデルでは測位前に撮影した画像には位置情報を記録しない仕様のようだ。

GPS衛星の捕捉状況を示す画面。写真のようにゲージが緑になると測位可能にPMBのマップビューを開いたところ。カメラの向きも表示される

 ソニーではほかにも、30倍ズームレンズを搭載する「サイバーショットDSC-HX100V」や、有機ELディスプレイと屈曲光学系を採用した「サイバーショットDSC-TX100V」、DSC-HX5Vの純粋な後継機といえる「サイバーショットDSC-HX7V」の3つのGPSデジカメをラインナップしている。

パナソニックLUMIX DMC-TZ20

 2010年に発売した12倍ズームのGPS搭載モデル「LUMIX DMC-TZ10」の後継機。広角端24mm相当からの16倍ズームレンズとMOSセンサーを採用。新たにAVCHDのフルHD動画記録に対応した。発売は2月25日。実勢価格は3万2,500円前後。

LUMIX DMC-TZ20

 GPSの測位は、電源OFF時にも定期的に行なうよう設定可能。ランドマーク名は漢字表示にも対応した。測位前に撮影すると前回地点を記録する。ランドマーク名の表示更新が測位完了の合図のようだ。マニュアルによると測位更新には2〜3分かかるとし、おおむね公称通りの印象だったが、かなり長くかかる時もあった。電源OFF時の測位はバッテリー残量が一定まで減ると停止するようになっている。

 付属ソフトの「PHOTOfunSTUDIO 6.1 HD Lite Edition」では、引き続き撮影地のランドマーク情報をもとに、都道府県や市町村ごとに分類して表示可能。カメラ本体だけでなく、パソコン上でもランドマーク名を修正することができる。主な使い勝手は従来モデルのDMC-TZ10と同様だ。

再生画面にランドマーク名を表示しているところ。意図しないランドマーク名の場合、撮影時や撮影後に修正可能付属ソフトでは撮影場所の地域ごとに振り分けて表示できる

 パナソニックの現行モデルには、タフネス性能と気圧センサーを備えたGPSデジカメ「LUMIX DMC-FT3」もある。

富士フイルムFinePix F550EXR

 広角端24mmからの15倍ズームレンズと、裏面照射型CMOSセンサーをベースにした「EXR CMOS」センサーを採用するモデル。「一眼レフ並み」を謳うAF速度も特徴だ。フルHD動画記録に対応する。発売は2月25日。実勢価格は3万800円前後。

FinePix F550EXR

 GPSのトラックデータを記録メディアに保存可能。測位間隔はおおむね1分間隔のようだ。電池残量がある程度まで減ると、電源OFF時は測位しなくなる仕様になっている。撮影画像にはランドマーク名も記録でき、測位できない場所では前回の撮影地点を記録する。

 付属ソフトでは記録メディアから読み込んだトラックデータをGoogle Earth用のファイルとして書き出すこともできた。非公式ながら、記録メディアから読み込んだNMEA形式のファイルもGoogle Earthでそのまま開くことができた。

ランドマーク名表示に対応。撮影画面には測位状況のアイコンも表示付属ソフトの画面。試したバージョンでは経路が2重に表示されてしまったが、Google Earthでは正常に表示された。サムネイルをダブルクリックすると画像を全画面表示する

 富士フイルムでは、タフネス性能を持つ「FinePix XP30」もラインナップしている。

ペンタックスOptio WG-1 GPS

 携帯用のカラビナを同梱するアウトドアモデルにGPS機能が加わった。レンズは広角端28mm相当からの5倍ズーム。レンズ周囲に5灯のLEDを備え、近接撮影や自分撮り時のフレーミング確認に使用できる。発売は3月18日。実勢価格は3万7,500円前後。

Optio WG-1 GPS

 電源OFF時の測位間隔は最短15秒に設定可能。電源を入れるとすでに測位完了の表示になっており、そのまま撮影してもちゃんと位置情報が埋め込まれていた。ログ記録は電池残量が一定まで減ると中断する仕様で、一晩放置しても最低限の撮影ができるだけの余力は残っていた。

 付属ソフト「Photo Impression」では撮影地域別の振り分けなどが可能。カメラが書き出す移動中の位置情報データ(KMLファイル)を確認したところ、通過点の位置情報だけを記録し、時刻はスタート地点とゴール地点のみ記録しているようだった。記録されていた経路は、測位間隔を短く設定したせいか実際の移動ルートを大きく外すこともなく、参考に持っていた単体GPSロガーのトラックデータに近い軌跡を示した。

初回以外の起動時は測位待ちがないため不安になるが、再生画面で確認するとちゃんと測位しているのがわかる付属ソフトのPhoto Impressionで撮影画像を地域別に表示しているところ

 ペンタックスでは、Optio WG-1からGPS機能を省いた「Optio WG-1」も用意。GPSモデルと異なるカラーバリエーションを展開している。

個性豊かなラインナップを歓迎

 今回も“GPSデジカメ”とひとくくりに比較を行なったが、試用するうちに各機種ごとの得意な利用シーンが伺えて、それぞれに個性を感じた。ユーザーの好みや用途によってふさわしい選択は変わってくるだろう。何よりもまず、選択肢がここまで増えたことを歓迎したい。

 高倍率ズームレンズの搭載機種では、カシオEXILIM EX-H20Gの旅行に向けた機能に圧倒的こだわりを感じた。とはいえ、画質の満足度も高いキヤノンPowerShot SX230 HSと、BDレコーダーなどとも相性の良いAVCHD記録に対応したパナソニックLUMIX DMC-TZ20も甲乙付け難い。サイバーショットDSC-HX9Vの安定した暗所画質はスナップ撮影派にとって味方になるだろう。

 また、海や山に持ち出したくなるタフ性能に特化するオリンパスTough TG-810と、ラフに常用したいカジュアルさも兼ね備えたペンタックスOptio WG-1 GPSも、タフネスデジカメ同士どちらも魅力的だった。USB充電への対応も、利用シーンによっては魅力的なポイントだ。

消費電力低減と測位時間短縮に期待

 いまGPSデジカメを使う際の対策としては、バッテリー残量の意識に尽きるだろう。機種によってはトラックデータを取りっぱなしで「朝起きたら電池切れ」という可能性もある。多くの機種では、カメラとGPSロガーが同じバッテリーを消費しあっているような印象をどうしても持ってしまう。

 それも踏まえて2012年のGPSデジカメに期待を述べるなら、上に挙げた消費電力の低減と、測位時間の短縮だろう。消費電力についてはカシオが一歩抜きん出ており、他社の追随に期待がかかる。測位時間は、どうしても基地局の位置情報などを使える携帯電話やスマートフォンと比べると分が悪いものの、何らかのブレイクスルーを望みたい。どちらもより多くのユーザーが「メカ」を意識することなくGPSデジカメを楽しめるようになるための大きなポイントだと思う。

 最後にわがままを述べてしまったが、上記の2点さえ意識すれば2011年のGPSデジカメも魅力十分。まずは今年の夏にどの機種を連れ出すか、筆者も改めて店頭で悩んでみたい。





本誌:鈴木誠

2011/6/1 00:00