カシオが語る「超発想」デジカメの作り方(後編)

~HDRアートのコンセプトとハイブリッドGPSの測位技術

 カシオは7日、同社のデジタルカメラ新製品を中心とした説明会を実施。本誌では3月10日に掲載した「カシオが語る「超発想」デジカメの作り方(前編)」において、説明会の前半部分を取り上げた。

 今回はその後編として、説明会の後半で触れた「HDRアート」や「ハイブリッドGPS」の詳細について取り上げる。前編と併せてご覧頂ければ幸いだ。

写真革命と本格志向

 まず同社商品企画部の今村圭一氏は、同社が2011年のフラッグシップと位置づける「EXILIM EX-ZR100」の概要説明を行なった。

EX-ZR100。写真のブラックカラーは3月11日発売

 現在、製品カタログなどで「写真革命」のキーワードを掲げている同社。その根底には「高速連写性能を使って時間の壁を越える」という発想や、“フリースタイルカメラ”を謳うEX-TR100を代表例に「カメラの撮り方・使い方にも革命を起こしたい」といった思いがあるとした。EX-ZR100の前身となる「EX-ZR10」は、主にHDRアートにおける写真表現の革命を狙ったものという。

EX-TR100(2011年4月発売予定)EX-ZR10(2010年11月発売)

 EX-ZR100の進化テーマは「さらなる本格へ」。EX-ZR10を一般向けとすれば、もう少し本格的なユーザーがターゲットだという。ズーム比の向上、グリップの配置、モードダイヤルの搭載など、マニアの要求にも応えるより上級なものを目指したそうだ。外観の高級感も意識したポイントという。

EX-ZR100の基本スペック利便性の追求ポイント

 また、光学を補助する超解像技術の採用で、スリムタイプのボディでありながら25倍相当(光学12.5倍)のズームも可能とした。1cmのマクロ撮影が行なえるのも本格性の追求によるという。合焦速度0.14秒を謳うAFや0.37秒の撮影インターバルなど、利便性の追求も行なっている。

自由度が増したHDRアート

 続いて今村氏は、EX-ZR10から搭載している「HDRアート」のコンセプトと開発の経緯について説明した。

 企画のディスカッションにおいて「カメラの性能飽和で一般ユーザーの写真を撮る感動が薄れているのでは」という仮説があり、北米などで人気のHDR写真にヒントを得たという今村氏。表現力を少し変えることで、改めて写真撮影を楽しんでもらう狙いだ。同社のディスカッションではこのような仮説を立てることがよくあると今村氏は話す。

 写真文化についても「写真を好きな人はどういうことを思って写真を撮っているのだろう」と立ち返り、HDRアートはユーザーの“自分らしさ”を表現する助けになるのではと考えたそうだ。

写真文化の延長線に位置づける

 説明会ではEX-ZR10からEX-ZR100におけるHDRアートの機能進化点も紹介した。「自由な表現を謳いながらも表現の幅が狭かった」と今村氏はEX-ZR10を振り返り、EX-ZR100ではHDRアートのレベル調整を可能とした点をアピールした。味付け程度という効果のレベル1から、より強烈な表現をしたいユーザーに向けたレベル3までを選べる。

 また、EX-ZR100では新たに露出補正やカラーフィルターなどの画質調整と効果を掛け合わせることも可能になっている。HDRアートはモノクロとの相性が良いという今村氏は、白黒フィルターにマイナス補正を組み合わせるといった表現テクニックも紹介した。HDRアートには「ただ写真を撮っただけでは気づかなかった部分に気づく効果もある」といい、普通の写真とは違う緩急を感じてもらえれば、としていた。

HDRアートのかかりを3段階から選べるようにHDRアートとカラーフィルターなどの組み合わせ例
露出補正やコントラスト調整を可能とし、表現の幅を広げた

 今後も写真表現を広げる機能を通じ、ユーザーに「写真には飽きた」と言われないような商品開発をしていきたいと締めくくった。

 なお説明会では、同社戦略統括部SP戦略部の仁井田隆氏がHDR技術にまつわる他社との差別化ポイントも解説。同社は他社のデジタルカメラが採用するエリア分割式の合成ではなく、ピクセル単位で採用する絵を選んでHDR合成を行なっている点を強調した。

 合成時には画像解析による動体キャンセルも行なっており、これらの処理を1,000万画素の画像に対し数秒で完了できるのは「EXILIMエンジンHS」のパワーがあってこそとアピールした。

ライフスタイル別提案から生まれた旅カメラ

 同社QV事業部商品企画部の萩原一晃氏は、カメラ本体にGPS機能と地図データを内蔵したデジタルカメラ「EXILIM EX-H20G」のコンセプトと、同機が採用する測位技術「ハイブリッドGPS」の仕組みについて解説を行なった。

EX-H20G(2010年11月発売)

 “旅カメラ”として訴求するEX-H20Gの成り立ちは、同社デジタルカメラのユーザーアンケートの結果によるという。10倍ズームレンズと1,000枚の撮影可能枚数を特徴とする「EXILIM Hi-ZOOM EX-H10」および「同EX-H15」と、5倍ズームを搭載する高機能コンパクト機「EXILIM ZOOM EX-Z2000」の2者で傾向を比較したところ、旅向けのコンセプトを打ち出したEX-H10およびEX-H15のほうがより“積極的な購入動機”だったという。

EX-H15(2010年3月発売)EX-Z2000(2010年2月発売)

 現在のようにカメラ技術が成熟してくると、一般ユーザーには安いカメラでも十分に間に合うため、世帯平均年収と共にラインナップ全体の価格も下がっていく危機感があると萩原氏は語る。その状況でもユーザーに“もう1~2万円”を払ってもらうためのアイデアとして、ライフスタイル別の機種展開を行なうことにしたそうだ。EX-H20Gは「旅に最適なカメラ」と位置づけた。

 EX-H20Gをライフスタイルから訴求する素地として、現在はジオタグ(位置情報)を活用するカメラが受け入れられる状況になってきているという萩原氏。携帯電話のコンテンツや地図と画像の組み合わせなどが周辺のインフラとして広がってきたと分析する。

ライフスタイル別展開のイメージジオタグ活用の市場

 写真への位置情報記録はやがてデジカメの基本機能になると同社では予測。それでも現状はまだまだ導入期と判断し、位置情報と親和性の高い旅行にフォーカスした製品にしたという。ターゲットは「旅行者」と設定し、観光、趣味の散歩、山歩き、鉄道、釣りなどに向ける。

 そうして発売したEX-H20Gの購入者アンケートには、狙い通りに積極的な購入理由が目立っているという。ほかのモデルと比較しても買い替えより買い増しの比率が高く、事前に機能を調べてから購入しているユーザーが多いそうだ。

デジカメ向けの測位技術

 萩原氏は続いて、EX-H20Gが特徴とするハイブリッドGPSの仕組みに触れた。GPSを用いた測位はデジタルカメラで利用するには問題点があるとし、「位置の確定に時間がかかる」、「屋内で電波を受信できない」、「消費電力が高くなる」の3つを挙げた。

 それに対しカシオがEX-H20Gでとった解決策は、「電源オフ時のGPS間欠受信」、「モーションセンサーによる自律測位」、「電源制御による低消費電力化」だった。測位は撮影時に1秒ごと、カメラの持ち歩き時は10分ごとに行なう。カメラが長時間静止している時はGPSの間欠受信もやめ、カメラが動き出したことだけを検知できる状態に移行するという。

GPS機能の技術的問題点カシオがEX-H20Gに盛り込んだ解決策

 なお、モーションセンサーによる自律測位の精度はGPS信号ほど高くなく、時間とともにずれた位置のジオタグを打ってしまうという。

 そこでEX-H20Gでは、ふたたび屋外でGPS信号の受信に成功すると、それまで行なっていた自律測位とのズレを計算。すでに画像に埋め込まれたジオタグに対しても補正を行ない、屋内の撮影でもズレをより小さくしているという。

ハイブリッドGPSの電力制御ジオタグ補正のイメージ。自律測位で記録した経路を、GPS信号とのズレを踏まえてあとから補正する

 萩原氏は最後に「ユーザーはこれらの“技術のうんちく”を意識することなく、ジオタグが記録された写真を活用して楽しんでもらえば」と語った。



(本誌:鈴木誠)

2011/3/11 00:23