【新製品レビュー】富士フイルムFinePix F550EXR
2009年2月に発売された「FinePix F200EXR」は、1つのCCDで3つの撮像方式(高解像度優先、高感度低ノイズ優先、ダイナミックレンジ優先)が選択できる「スーパーCCDハニカムEXR」を初めて搭載したモデルだった。その後、FinePixシリーズでは、スーパーCCDハニカムEXRを搭載するモデルが順次発売されている。
2010年9月には、スーパーCCDハニカムEXRに位相差画素を内蔵して、高速AFを実現した「FinePix F300EXR」が発売された。このFinePix F300EXRは、最薄部22.9mmのスリムなボディに光学15倍の高倍率ズームレンズを搭載したことでも話題となった。
今回の「FinePix F550EXR」は、FinePix F300EXRのボディや光学15倍ズームレンズを踏襲しつつ、新開発の1,600万画素「EXR CMOSセンサー」と、画像処理エンジン「EXRプロセッサー」を搭載。さらにGPS機能、高速連写撮影、ハイスピード動画撮影、3種類のブラケティング機能、RAW記録といった上位モデルらしい機能も数多く搭載されている。
FinePix F300EXRと異なり位相差AFは見送られたが、EXR CMOSセンサーとEXRプロセッサーの高速処理により、FinePix F300EXRと同等の最速0.16秒でピントが合う「瞬速フォーカス」を実現している。
ボディカラーはシャンパンゴールド、ブラック、ホワイト、レッドの4色。この手の上位モデルだと、ボディカラーが1、2種類のケースが多い。こうした遊び心も魅力のひとつと言えるだろう。
発売は2月26日(ブラックのみ3月5日)。実勢価格は3万7,100円前後。
■新開発「EXR CMOSセンサー」を搭載
最大の特徴である新開発の「EXR CMOSセンサー」は、集光効率の高い裏面照射型CMOSセンサーをベースにしながら、独自のEXR配列(ハニカム配列)のカラーフィルターなどを組み合わせたものである。この新しいセンサーの採用により、3つのEXR優先モードも、これまで以上に進化を遂げている。
例えば「高解像度優先モード」では、1,600万画素の全画素をフルに活用し、最も解像度の高い描写となる。「高感度低ノイズ優先モード」では、裏面照射型CMOSセンサーと画素混合EXR技術などの相乗効果により、従来よりも高感度かつ低ノイズな画像を実現。そして、「ダイナミックレンジ優先モード」では、画素の露光時間を高度に制御して、1回のシャッターで高感度と低感度の画像を合成して、最大1,600%というワイドダイナミックレンジを実現している(FinePix F300EXRは最大800%だった)。
EXRモードが「ダイナミックレンジ優先」の場合、最大1,600%までのダイナミックレンジ設定が可能になる(他モードでは400%まで)。なお、フィルムシミュレーションをVelviaやASTIAに設定すると、800%と1,600%は設定できなくなる |
さらに、EXR優先モードが自動的に設定される「EXR AUTO」は、「プレミアムEXR AUTO」へ進化した。従来の「EXR AUTO」は、6つのシーン(人物、夜景、風景、マクロ、夜景&人物、逆光&人物)を自動認識して、それに合わせてEXR優先モードが選択されていた。だが、新しいプレミアムEXR AUTOでは、10シーン(オート、風景、夜景、マクロ、ビーチ、夕日、雪、青空、緑、青空&緑)に人物の有無や逆光を判断し、そのうえでEXR優先モードが選択される。その組み合わせは49パターンにもなる。
CCDよりも読み出し速度が高速なCMOSセンサーの特性と、1つのチップにダブルCPUとEXRコアを凝縮した新画像処理エンジン「EXRプロセッサー」の高速処理によって、画像サイズLで8枚/秒、画像サイズMで11枚/秒の連写を可能にしたほか、前出の「プレミアムEXR AUTO」の高度なシーン認識機能などを実現している。
撮影画像に位置情報が記録できる「GPS機能」も搭載された。今春発売の各社上位モデルがこぞって搭載しており、本機もそうした市場のトレンドをカバーした格好だ。富士フイルムならではの機能としては、現在いる場所からの方角と距離が表示できる「フォトコンパス」機能があげられる。
GPS機能を搭載する |
GPS機能の設定は、F-モードメニューとセットアップの両方から行なえる |
位置情報が記録された画像は、再生時に画面の上の方に「GPS」と表示される。また、画面下部には緯度経度や地名表示が表示される(セットアップメニューの位置情報表示の設定による) |
なお、ほかのGPS機能搭載機にもいえることだが、条件的には問題なさそうなのに、地域によっては位置情報の取得に相当な時間を要したり、取得できないケースもあった。
上位モデルらしく、露出制御方式は、プログラムAE、絞り優先AE、シャッター優先、マニュアル、というフルモード仕様。ただし、絞り値のステップは3段階しかなく、しかもNDフィルターを併用する方式なので、自由にボケ効果が変えられるわけではない。もっとも、センサーサイズの小さいコンパクトデジタルカメラでは、あまり重要視される部分ではないだろう。
斜めに配置されたモードダイヤル上には、上記の4つの露出モード以外に、EXR、オート、Adv.(アドバンストモード)、SP(シーンポジション)がここから選べる。
そのうち利用価値が高いと感じたのはAdv.(アドバンストモード)だ。内容は「ぐるっとパノラマ360」、「ぼかしコントロール」、「連写重ね撮り」の3種類で、特に「連写重ね撮り」のノイズ感を抑えた高感度画質には感心した(通常撮影よりも画角は少し狭くなるが)。
なお、ぼかしコントロールと連写重ね撮りでは、セットアップメニュー内の設定により、処理前の画像を同時記録することができる。
最高画素のL(1,600万画素)で設定できるのは「8コマ/秒」まで。「11コマ/秒」が設定できるのはM(800万画素)以下となる |
露出補正が操作しやすいのも評価したい。十字キーの上に割り当てられた露出補正ボタンを押してから、上下ボタンやコマンドダイヤルで設定。MENU/OKボタンを押さない限り、撮影後も継続的に補正値を変えられるのだ |
■スタイリッシュで高級感あるボディ
FinePix F300EXRを踏襲したスタイリッシュなボディは、手にした際の質感が高く適度な重量感もある。だから、ボディサイズや実際の重さ(撮影時約215g)以上の存在感や風格が感じられる。
また、シボ革風のラバーグリップを装着した「ノンスリップグリップ」は、不安定になりがちなスリムタイプボディのホールド感を高める役割を果たしている。そして、斜めモードダイヤルやコマンドダイヤルなど各操作パーツの操作性も良好。ズームレバーによるズーム操作も、動きがスムースで速度調節も可能で、なかなか使いやすい。
斜めに配置されたモードダイヤル |
上面にあるON/OFF(電源)ボタンを押すと、かなり素早く起動する。と同時に、内蔵ストロボが自動的にポップアップする。そう、発光モードの設定とは関係なしに。ボク個人としては、常にポップアップする仕様はあまり好きではないが、実用的にはさほど問題はない。ポップアップしたストロボは、指で押さえると容易に引っ込むのだが、ストロボを発光させないのなら、その状態でも撮影できるのだ。
ポップアップ式のストロボを採用する |
このカメラが属するクラスを考えると、3型プレミアムクリア液晶モニターの46万ドットという仕様には、やや物足りなさも感じる。だが、明るさやメリハリ感は十分なので、けっこう明るい場所でも視認性や見映えは良好である。
前述のとおり、従来モデルのような位相差AFは採用されていない。その代わり、EXR CMOSセンサーとEXRプロセッサーの高速処理によって、同レベルの速さ(最速0.16秒)でピントが合う「瞬速フォーカス」を実現している。実際に操作してみても、たしかに一般的な高倍率ズーム機よりAFが速い印象を受ける。
高速処理による連写とハイスピード動画撮影も本機の特徴だが、操作性の面で少し気になる点があった。
撮影メニューで「連写」を設定した後に、再生やほかのメニュー操作を行なうと、撮影前にもかかわらず連写の設定が解除されてしまうのだ。また、連写撮影後に再生をすると連写は解除されるのだが、その再生操作を行なわないと連写の設定は維持される。
このあたりの設定に関するメーカーの考え方が、ボクにはいまいち理解できない。なお、ほかの撮影モードや機能の設定に関しては、不満や疑問を感じる点は少なかった。液晶モニターの表示切り換えの画面が、えらく短い短時間で消えてしまうのには困った程度だ。
記録メディアはSDXCメモリーカード。USH-Iにも対応を表明している。 | バッテリーはリチウムイオン充電池のNP-50。撮影可能枚数は約300枚 |
HDMIミニ端子を備える。1,920×1,080/30fpsのフルHD動画記録が可能。音声はステレオ |
■メリハリが効いた画質
24-360mm相当の光学15倍ズームの描写性能は、カメラボディのサイズやズーム倍率を考慮すると、おおむね良好といえるだろう。シビアにチェックすると、画面の周辺部などで像の乱れが確認されるシーンも出てくる。だが、シャープ感の高い絵作り(画像処理)の効果もあって、全体的にはメリハリが効いていて好印象な画質に感じられることが多かった。また、色再現に関しても、自然で適度に鮮やかだ。
広角端 | 望遠端 |
有効画素数が1,200万画素から1,600万画素へアップしている点に関してだが、実写結果を見る限りでは、大きな破綻も見られず、予想以上に良好な画質だった。高感度画質に関しても、ノイズ感の少ない好感の持てる絵作りだった。
FinePix F550EXRは、FinePix F300EXRの上位モデルという位置づけになるが、そのひとつの証となるのが、「RAW」や「RAW+JPEG」の記録方式が選べる点である。撮影したRAWデータは、付属ソフトの「RAW File Converter」(SILKYPIX)で現像することができる。
もちろん、RAW現像では多くの項目が調整可能だが、必ずしもJPEG画像より高画質が得られるわけではない。今回の撮影でも、何度かRAWデータを現像をしてみたが、同時記録(RAW+JPEG)のJPEG画像以上のクォリティを得るのは難しかった。逆にいえば、現在のカメラの画像処理エンジンは、かなり高度な処理をおこなってJPEG画像を生成している、ということにもなる。
上級機らしく、RAWおよびRAW+JPEGでの撮影が可能。ただし、RAWとJPEGで設定が別の画面になっている点が気になった |
■まとめ
2010年9月にFinePix F300EXRが発売された時は、光学15倍ズームレンズをスリムなボディに搭載した点が大きな特徴だった。現在では、各社から同様の製品が発売されるようになったが、それでもFinePix F300EXRのボディデザインの完成度や、ズームレンズのスペック(倍率やカバーするズーム域)の高さは、まだまだトップレベルにあるように思える。
そんなボディデザインやレンズ仕様をそっくり受け継いだ本機は、FinePix F300EXRを知る者の眼には、さほど新鮮さを覚えないモデルに映るかもしれない。
だが、EXR CMOSセンサーとEXRプロセッサーが可能にする、1,600万画素での安定した画質や、高速連写撮影の機能などは、従来のFinePix F300EXRにはなかった魅力ポイントである。そしてEXRモードも、EXR AUTOがプレミアムEXR AUTOに進化しただけでなく、ダイナミックレンジ優先や高感度低ノイズ優先の画素数が、600万画素から800万画素へとアップされている。地味な点だが、こういった基礎的な部分でのレベルアップもうれしいものだ。
さらに、GPS機能やRAW記録などの付加価値によって、FinePix F300EXRを含めた同じジャンルの製品とは一線を画する、本機ならではのハイグレード感も魅力といえるだろう。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
・画角
広角端 / FinePix F550EXR / 約5.2MB / 4,608×3,456 / 1/800秒 / F3.5 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 4.4mm | 望遠端 / FinePix F550EXR / 約5.4MB / 4,608×3,456 / 1/180秒 / F5.3 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 66mm |
・歪曲収差
広角端 / FinePix F550EXR / 約5.0MB / 4,608×3,456 / 1/56秒 / F3.5 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 4.4mm | 望遠端 / FinePix F550EXR / 約5.0MB / 4,608×3,456 / 1/20秒 / F5.3 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 66mm |
・感度
最低感度のISO100やISO200などは全体的に良好な描写だが、ISO400になると少しノイズ感が増えてきて画面の一部(日陰部分の葉など)では、色の冴えがやや低下している。だが、このあたりまでは十分に許容範囲の画質である(ボク個人としては)。だが、ISO800になると、全体的にザラついた描写になり、ISO1600になるとザラつき感よりも、シャープネスの低下の方が気になってくる。
ISO100 / FinePix F550EXR / 約5.9MB / 4,608×3,456 / 1/5秒 / F3.8 / -0.3EV / WB:晴天 / 5.7mm | ISO200 / FinePix F550EXR / 約5.8MB / 4,608×3,456 / 1/8秒 / F3.8 / -0.3EV / WB:晴天 / 5.7mm |
ISO400 / FinePix F550EXR / 約6.0MB / 4,608×3,456 / 1/15秒 / F3.8 / -0.3EV / WB:晴天 / 5.7mm | ISO800 / FinePix F550EXR / 約6.1MB / 4,608×3,456 / 1/30秒 / F3.8 / -0.3EV / WB:晴天 / 5.7mm |
ISO1600 / FinePix F550EXR / 約5.9MB / 4,608×3,456 / 1/58秒 / F3.8 / -0.3EV / WB:晴天 / 5.7mm | ISO3200 / FinePix F550EXR / 約6.0MB / 4,608×3,456 / 1/120秒 / F3.8 / -0.3EV / WB:晴天 / 5.7mm |
ISO6400 / FinePix F550EXR / 約3.6MB / 3,264×2,448 / 1/220秒 / F3.8 / -0.3EV / WB:晴天 / 5.7mm | ISO12800 / FinePix F550EXR / 約1.9MB / 2,304×1,728 / 1/450秒 / F3.8 / -0.3EV / WB:晴天 / 5.7mm |
・ダイナミックレンジ優先
EXRモードを「ダイナミックレンジ優先」にして、ダイナミックレンジ設定を変えて撮影してみた。このケースでは、曇天空の最も明るい部分の階調再現に違いが見られた。
ダイナミックレンジ設定を「AUTO」に設定しておくと、絵柄(画面内の明暗差など)によって、ダイナミックレンジが400%などに自動設定されるが、感度もISO400などに上がってしまう。だから、低感度で撮影したいなら、ダイナミックレンジは手動で設定するようにしたい。
フィルムシミュレーション
・連写重ね撮り/高感度・低ノイズ優先
ライトアップされた夜景を、3つの撮影モードの計4パターンで撮り比べてみた(プログラムオートは、他のモードに合わせて画素数をLとMに設定)。最も高感度(自動設定のみ)ながら「連写重ね撮り」の低ノイズ&高画質(シャープネス)ぶりが印象的だ。
・連写
最高画素の画像サイズL(1,600万画素)で、8枚/秒の連続撮影。走る列車の動きを、かなり小刻みに撮影することができた。
・作例
・動画
28.5MB / 1,280×720 / 30fps / H.264 |
【2011年3月30日】記事初出時、内蔵ストロボに関して、閉じた状態でロックをしない旨の記述がありましたが、正しくはロックするため、該当する記述を削除しました。
2011/3/30 00:00