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さすが純正の使い易さ…プロも納得の使用感!キヤノンの新スピードライト「EL-5」レビュー

スピードライトEL-5
EOS R6 Mark IIに取り付けたところ。外形寸法は約80.2×139.9×123.3mm、重量は約491g(ストロボのみ)。マルチアクセサリーシュー経由でカメラ本体と連携、多彩な撮影スタイルが可能となっている

キヤノンから2023年3月発売予定の「スピードライトEL-5」(以下EL-5)は、現行フラグシップ機「スピードライトEL-1」(以下EL-1)の基本性能を引き継ぎつつ、小型化を実現した最新モデルだ。

ここでは向上したEOS Rシステムとの連動性に注目しつつ、EL-5の潜在能力をポートレートを題材に確認していきたい。「純正」ならではのメリットが作品づくりにどう影響しうるのかに着目していく。

なお、今回検証した機能のうち、カメラおよびレンズ側からコントロールする新機能は、「EOS R6 Mark II」と組み合わせた際に実現する。すべてのEOS Rボディで可能ではないことに留意いただきたい。

最大ガイドナンバー60のパワフルな発光部

まずEL-5の基本仕様を確認しておこう。光量に関しては、最大ガイドナンバー約60(ISO 100、照射角200mm時)で、フラグシップ機のEL-1に匹敵する。一方、1/1,024までの微小発光できるのも大きな魅力。微小発光は高感度撮影時に大きな力を発揮する。

照射角は24-200mmだが、搭載のワイドパネルを使用すると14mmまで対応する。発光部は上120度、下7度、左右180度に回転。さまざまなバウンス撮影に対応する。キャッチライトパネルも搭載されている

サイズに関しては上位モデルのEL-1よりは小型なのだが、ガイドナンバー60相当の他のフラッシュと比較すると、そこまで小さいという印象はない。しかし、これはトータルでの性能を踏まえて考えたい。

発光間隔は約0.1〜1.2秒で、連続発光回数は約95回以上。EL-1ほどではないものの、それでもフル発光時のチャージが約1.2秒というのはこのクラスでは相当速い。動く被写体やポージングをその都度テンポよく変えながら撮りたい場面では、チャージを気にすることなく撮影に集中できる。

フル充電時の発光回数は約350〜2,450回。もちろん、ハイスピードシンクロにも対応する。

電源はリチウムイオンバッテリー「LP-EL」を採用。バッテリー残量(%)や発光回数、劣化度を液晶画面で確認できる。フラッシュ本体は冷却ファン非搭載だが、キセノン管やLEDランプの熱を逃す経路を分ける構造で、発光部全体に熱を効率よく分散。こうした放熱設計の最適化を図ることで、発光部の小型化が実現している
バッテリー残量は数値でも確認できる。「SUB MENU」内「information」の中で確認できる
白色LEDモデリングランプを2灯搭載しているのもポイント。ワイヤレスにセットし、ライティング効果を確認する際などに使用する
ちなみに、モデリングランプの光量は調整できる。「SUB MENU」から設定する

マルチアクセサリーシュー対応で連動性が強化

EL-5はマルチアクセサリーシュー搭載のEOS Rシステム専用のスピードライトとなる。2023年1月現時点では、EOS R3、EOS R6 Mark Ⅱ、EOS R7、EOS R10に対応。旧アクセサリーシューを含む、それ以外の機種では利用できないので注意したい。

※2023年3月公開予定のカメラ側のファームアップが必要です。

マルチアクセサリーシューとは、システム拡張が可能な次世代インターフェース。EL-5はこれに対応することで、カメラ本体と連携しながらの操作が可能になる。この連動性の向上が本スピードライトの大きな特徴となっている。

左はEL-5のシュー接点部、右がR6 Mark Ⅱのマルチアクセサリーシュー。R6 Mark Ⅱのマルチアクセサリーシューに注目してほしい。奥に見える金属部に、シュー接点部の先端が接続されるわけだ。なお、購入時はそれぞれカバーが同梱される(中央)。使用しないときはカバーをつけて保護しよう

EL-1と同等の電波通信ワイヤレス機能

電波通信ワイヤレス機能を使うと、カメラから離れたところにスピードライトをセットして、ライティングを行うことができる。この機能に関してはEL-1と同程度のスペックを備えている。センダー、レシーバー共に15台までセットでき、最大5グループに分けて発光モードや光量の調整ができる。通信可能距離は約30m。なお、光通信ワイヤレス機能にも対応する。

ワイヤレス発光は主にふたつのやり方がある。まずはセンダーにEL-5を使用する方法だ。カメラ本体との連動性は、この方式での接続がもっとも高い
EL-5をセンダーに使用する場合、センダーとしてのみ使用する方法(画面右)と、センダーと通常発光の両方を有効にする方法(センダー発光/画面左)のふたつから選べる。後者に設定すると、ワイヤレスで1灯セットした場合でも、カメラにセットしたEL-5もフラッシュが発光するため、2灯ライティングが可能になる
もうひとつは、「スピードライトトランスミッター ST-E10」を用いる方法がある。ST-E10はマルチアクセサリーシュー専用の電波通信トランスミッター。EL-5同様、2023年1月現時点、R3、R6 Mark Ⅱ、R7、R10で利用できる。バッテリーレス設計で、電源はカメラから供給される
ST-E10をカメラに取り付けた状態。ST-E10は小型軽量なのも大きな魅力。これがあれば、EL-5が1灯でもワイヤレス発光が行える
ワイヤレス接続の仕方は従来機と変わらない。ワイヤレス/連動撮影設定のマークを選び、センダーとレシーバーを各スピードライトでセット。チャネルとIDを合わせたら設定完了だ。これはIDの設定画面
無事接続されると、このようにLINKが緑色に点灯する
うまく接続できていないとLINKは無灯のままで、EL-5をセンダーにしている場合は、ワイヤレス表示にこのようなマークが点灯する。接続がうまくできているかどうかを確認したい場合は、このLINK表示を確認してみよう

EOS Rシステムと連携してできることとは

では、EL-5とマルチアクセサリーシュー搭載のカメラ本体を連携させることで具体的にどんなことが行えるようになるのか、リストアップしてみよう。この連動性が他のスピードライトとの決定的な違いであり、EL-5を利用する最大の強みになってくる。

カメラ本体から簡単にストロボ機能の設定が可能

カメラ本体との連動性という意味でもっとも大きな特徴となるのが、この部分だ。現状ではEOS R6 Mark IIに限られるものの、EL-5のジョイスティックで「メニューダイレクト」を選ぶと、カメラ本体の画面に「ストロボ機能設定」を表示しながら、そのままスピードライトをコントロールできるようになる。

これはカメラに取り付けて使用する際だけでなく、ワイヤレスで使用する際にも適用できるから非常に利便性が高い。ワイヤレスでの多灯ライティングでも、カメラからそれぞれのスピードライトの発光モードや光量などが調整できるのだ。

注)今回検証した「メニューダイレクト機能」「クイックストロボグループ制御」「AF補助光の自動調光機能」「コントロールリング機能割当」といったカメラやレンズとの連動機能は、現在のところEOS R6 Mark IIでしか対応していません。

なお、EL-5とカメラ本体それぞれがオートパワーオフの状態でも、EL-5の「メニューダイレクト」を選ぶ、またはカメラ側のシャッターボタンを半押しすることで、EL-5とカメラ本体の両方の電源をオンに戻せる。これも互いが連動しているからこそできることだろう。

ジョイスティックで「メニューダイレクト」を選ぶと(初期設定ではジョイスティックで上を選ぶ)、このようにカメラ側の画面にストロボ機能設定をダイレクトに呼び出すことができ、そのまま設定を自分好みに変更できる。なお、ST-E10使用時は「MENU」ボタンを押すと、ダイレクトに「ストロボ機能設定」を表示しながら、スピードライトをコントロールできる

ボタンカスタマイズでさらに連携を強化できる

「メニューダイレクト」と合わせて、ぜひ利用したいのが「ボタンカスタマイズ」による連携だ。好きなボタンに「クイックストロボグループ制御」を割り当ててみよう。登録したボタンを押すだけで、発光グループごとの設定を簡単に切り替えできるようになる。この機能はとくに多灯ライティングを行う際に重宝する。移動せずにカメラからそれぞれのスピードライトの光量調整や発光モードの切り替えが行えるのだが、これをカメラの液晶画面上でスピーディーに操作できるのが大きなポイントだ。

「ボタンカスタマイズ」の設定画面。ここでは「絞り込みボタン」に「クイックストロボグループ制御」を割り当てた
「クイックストロボグループ制御」を選んだ際のカメラ本体の画面表示。ストロボの発光モードが「Gr」(グループ)のとき、カスタマイズしたボタン(ここでは「絞り込みボタン」)を押すだけで、このようにカメラの液晶画面にグループごとの発光モードや光量を表示しながら、設定変更できるようになる。それぞれの機能は、メインダイヤルやサブダイヤルなどの3つのダイヤルを使って操作を完結できる

コントロールリングに光量調整機能を割り当てる

カメラ本体だけでなく、レンズとの連携も行える。「ダイヤルカスタマイズ」で「コントロールリング」に「調光補正/発光量」を割り当てよう。コントロールリングを操作するだけで、発光モードがETTL時は調光補正が、M(マニュアル発光)時は光量調整が簡単に行えるようになる。

このコントロールリングを使った操作や前述の「クイックストロボグループ制御」を使った操作は、ファインダーを覗きながら行えるのが大きな魅力だ。つまり、ファインダー越しに撮影しながら光量の微調整などが直感的に行えるのだ。

「ダイヤルカスタマイズ」の設定画面。ここから「コントロールリング」に「調光補正/発光量」を割り当てる
このように右上に調整値が表示され、逐一確認しながら操作し、撮影に臨める

このコントロールリングによる光量調整機能は、前述のように発光モードをETTLまたはMにして利用したい。また、オンカメラ(カメラにEL-5を取り付けて通常発光する状態)で使用する際やワイヤレスでの1灯ライティング、またはグループがひとつだけの多灯ライティングでの使用がおすすめ。というのは、この機能はグループAにセットしたスピードライトのみがその対象となるためだ。他のグループに設定した場合は作動しないので注意。発光モードが「Gr」の際は、同様にグループAのみ対象となるが、ETTL発光時にしか利用できない。

カスタム発光モードとカスタムモードを連携する

EL-5ではよく利用する発光パターンを事前にカスタム発光モードとして登録できる。ここで登録した発光モードはカメラのカスタムモードと連携できる。

例えば、カメラ側で撮影モードをC1に合わせると自動的にEL-5の発光モードもC1に変更されるのだ。スピードライト使用時に頻繁に利用する撮影モードと発光モードの組み合わせがあれば、ここに登録して連携させるといいだろう。切り替えが素早く行える。この機能はオンストロボのみで利用可能。ワイヤレス発光には対応しない。

カスタム発光モードの登録はEL-5の「SUB MENU」から行う。C1からC3まで3パターン登録できる
カメラ本体との連携は、「C.Flash mode settings」内で「Camera shoot.mode link」にチェックを入れる必要があるので注意
無事登録が完了していれば、カメラ側の撮影モードをC1にすると、EL-5側でも先ほどC1に設定した内容が自動的に呼び戻され使用できる。この切り替わりは実際にやってみると、結構感動する

その他の便利な機能

実際の撮影風景を見ていく前に、他にふたつほど便利な機能があるので紹介しておきたい。

ひとつは「EFメモリー」だ。この機能を有効にすると、ETTL発光で割り出した光量が、マニュアル発光に切り替えてもそのまま引き継がれる。ETTL発光でおおよその光量を割り出し、マニュアル発光に切り替えて固定したり、微調整しながら最終的な光量を決めていくことができる。「EFメモリー」はオンストロボの際、またはセンダーをEL-5にしてワイヤレス発光する際に利用できる。ST-E10使用時は非対応となる。

もうひとつは、ワイヤレス発光の際、レシーバーのモデリングランプをセンダーから点灯させたり、消灯できることだ。わざわざレシーバーまで移動して操作する手間が省ける。これもST-E10使用時は非対応。センダーをEL-5にしてワイヤレス発光する際に利用できる。

「EFメモリー」は「SUB MENU」内の「FEM」で設定変更する。初期設定はOFFになっているので注意。ちなみに、ETTL発光とマニュアル発光では光量調整の段数の刻み方が違う。そのため、切り替えても同光量にならない場合があるが、これは微調整して対応しよう

SCENE 1:カスタム発光モードで、硬めと柔らかめの2パターンを撮る

ここからは実践編。EL-5の特徴を生かした撮影を紹介していこう。まずは、オンストロボでカスタム発光モードを利用して撮影してみた。ここでは2パターンをC1とC2に登録した。

ひとつは直当てで硬めに光を照射する際のセットとして、EL-5側のC1にマニュアル発光(光量1/8)を、カメラ側のC1にはマニュアルモード(F8、1/200秒、ISO100)を登録。フラッシュ光のみで撮るイメージの組み合わせにした。

もうひとつは天井バウンスを使い、柔らかな光を照射する際のセットとして、EL-5側のC2にETTL発光(調光補正+1)を、カメラ側のC2には絞り優先オート(F1.8、ISO200)を登録。その場の環境光も生かして撮るイメージの組み合わせにした。

毎回同じシチュエーションで撮影することを想定した。それぞれのセットを登録しておくことで、その都度、細かく操作する必要がなくなり、撮影モードを切り替えるだけで、常に同程度の露出値でフラッシュを使った撮影が行えるようになるわけだ。

カスタム発光モードC1の撮影風景
カスタム発光モードC2の撮影風景
オンストロボからの直当て。極力環境光を排除し、EL-5からのフラッシュのみで被写体をとらえる硬めのライティングだ。EL-5は光の広がり方も滑らかで美しい。光質も申し分ない。こうした撮影スタイルのときは、事前にカスタム登録しておくとスピーディーに撮影に移行できる
EOS R6 Mark II/RF50mm F1.2 L USM/マニュアル露出(F8、1/200秒)/ISO100/WB:5300K/EL-5×1灯
窓から入る自然光をベースにしたライティング。EL-5のフラッシュ光を天井バウンスさせ、補助光として使用。光に包まれるような柔らかなトーンを意識した。自然光を取り入れる場合は、時間帯や天候に露出は左右されるが、事前にカスタム登録しておくことで、微調整のみで済む
EOS R6 Mark II/RF50mm F1.2 L USM/絞り優先オート(F1.8、1/125秒)/ISO200/WB:5300K/EL-5×1灯

SCENE 2:ST-E10を使った1灯ライティングで、射し込む太陽光を演出する

ST-E10があると、EL-5が1灯あればワイヤレス発光が気軽に楽しめる。ここではシンプルにモデルに向かって右後方よりEL-5を直当てした。撮影はETTLを使用。コントロールリングに「調光補正/発光量」を登録していたため、そのままコントロールリングを回して光量を微調整しながら撮影が行えた。直感的に光量を変えられるのは非常に便利だ

EL-5を1灯右後方から半逆光気味に照射。なお、EL-5とライトスタンドの接続にはアンブレラホルダーが便利。自由に角度を調整できる
右後方からの1灯ライティング
右後方からフラッシュを照射することで、右側面の体や髪にハイライトを入れ込み、立体感を演出。透明感のある描写を目指した。最近発表されたばかりのRF135mm F1.8 L IS USMを使い、開放F値で撮影しているが、ボケが非常に滑らかで美しい
EOS R6 Mark II/RF135mm F1.8 L IS USM/マニュアル露出(F1.8、1/200秒)/ISO250/WB:5300K/EL-5×1灯
環境光のみで撮影

SCENE 3:ST-E10を使った2灯ライティングで、陰影とスポットライトを演出する

ST-E10を用いたライティングをもうひとつ。ここでは2灯ライティングにした。1灯目は左手前からモデルに向けて照射。EL-5にディフューザー付きのアンブレラホワイトを取り付け、柔らかい光をつくり出している。2灯目はグリッド付きのEL-5を背後の棚に向けて照射し、アクセントにしている。

アンブレラはモデルに近い位置から照射し、奥の背後にはあまり光が漏れないようにしている。発光モードは「Gr」を利用。モデルに照射した1灯は光量を固定し微調整しながら撮りたかったため、マニュアル発光で調整。結果的に1/16の光量で照射した。一方、グリッド付きの1灯はETTL発光(−1調光補正)で自動調光しながら照射している。このように、発光モードを「Gr」にすると、それぞれに光量の割り出し方を変更できるのもいい
アンブレラは直径85cmのSサイズ。専用のディフューザーを付けている。EL-5にアンブレラを付ける場合は、アンブレラホルダーが必要になる
グリッドは格子が入ることで、スポット光をつくり出せるアイテム。ここでは照射範囲が比較的広めのグリッドで対応した
2灯による完成カット
広角でぐっとモデルに寄り、遠近感を強調しながら撮影した。アンブレラによるメインライトは、やや角度をつけることで、右側面に濃いシャドウが入るように角度や高さを調整している
EOS R6 Mark II/RF15-35mm F2.8 L IS USM/マニュアル露出(F2.8、1/160秒)/ISO100/WB:5300K/EL-5×2灯
メインライトのみ
背後のライトのみ
この撮影では「クイックストロボグループ制御」を用い、2灯の光量をカメラ本体から調整した。EOS R6 Mark Ⅱの場合、3つのダイヤル操作で直感的に調整できる。こうした多灯ライティングでは非常に重宝する機能だ

SCENE 4:センダーにEL-5を使用した、より連動性のあるライティングを実践

今度はセンダーにST-E10ではなくEL-5を使用し、ワイヤレスでの2灯ライティングをしてみた。

カメラに取り付けるセンダーのEL-5は発光しない設定にした。メインライトはアンブレラシルバーを装着したEL-5。これを右正面近くからモデルに照射。さらにモデルの背後、見えない位置にカラーフィルター付きで1灯をセットし、後ろの壁に向けて照射している。

この撮影ではカラーフィルターによる光の広がり方をモデリングランプで確認している。センダーがEL-5の場合、カメラ位置からモデリングランプの切り替えが可能なので、非常に楽だ。とくにこの場所は狭い空間だったため、なおさらこの機能が重宝した。

また、光量は「FEメモリー」を使用して決めている。つまり、ETTL発光である程度の光量を割り出し、その上でマニュアル発光に切り替え、引き継いだ光量に対して微調整している。これも、EL-5をセンダーとして利用するからこそ可能になるワークフローだ。

かなり狭い空間での撮影。手前から照射したアンブレラシルバーは、コントラストの強いメリハリのある描写が特徴。光が広がりにくく、背後に光が漏れにくい。カラーフィルターはマゼンタを使用。モデルに向けたメインライトの光量は1/32、背後の1灯の光量は1/16で撮影した
2灯による完成カット
ほぼ自然光が入らない暗所。カラーフィルターはこういう場面で効果的なアクセントになる
EOS R6 Mark II/RF50mm F1.2 L USM/マニュアル露出(F1.2、1/200秒)/ISO100/WB:5300K/EL-5×2灯
メインライトのみ
背後のライトのみ

カラーフィルターを付けると光量の大きさによって色の出方が変わる。この場面では最終的にメインライトの光が少し背後に漏れているため、2灯ライティングのカットのほうが、色が薄くなって見えている。

SCENE 5:センダーにEL-5を使用して、ハイスピードシンクロで撮る

通常フラッシュは、同調速度(EOS R6 Mark Ⅱの場合、メカシャッター時で1/200秒)を超えて使用すると、シャッター幕が写り込んでしまう。これを回避できる機能がハイスピードシンクロだ。この機能を使うと、晴天時の明るい屋外でも、高速シャッターを使用しながら背景をぼかしたフラッシュ発光が可能になる。

ここではEL-5の機動力を見るために屋外に出た。モデルに対し、ハイスピードシンクロでワイヤレス発光してみた。センダーにはEL-5を使用。発光モードをマニュアル発光にし、コントロールリングで光量調整しながら撮影を行った

ハイスピードシンクロは、通常発光時よりも光量が落ちる。なるべく大光量を維持するためにモデルにライトを近づけ、直当てした。マニュアル発光で光量は1/2だ
ハイスピードシンクロで撮影
背景が大きくボケて、ドラマチックな仕上がりになった。直当てすることでハイライトとシャドウをドラマチックに演出。ライトをかなり近づけて照射していることもあり、体の下半分が大きく光量落ちしている
EOS R6 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM/マニュアル露出(F5、1/1600秒)/ISO100/WB:5300K/EL-5×1灯
自然光のみで撮影
通常発光

ハイスピードシンクロを利用しないと、こうした明るい日中では絞りを絞って全体の露出を調整することになる。ここでは絞りをF13まで絞った。背景ボケはそれほど大きくない

SCENE 6:センダーのEL-5も発光させる3灯ライティング

最後にセンダーとしてカメラに取り付けたEL-5を発光させる(センダー発光)3灯ライティングを実践してみた。ここもハイスピードシンクロで撮っていく。

まず、左右後方からEL-5を2灯同じグループに設定し、ワイヤレスで照射。モデルの両側面にハイライトを入れ、独特の立体感を演出した。加えて、カメラに取り付けた1灯から上半身全体の光量を補っていく。

「クイックストロボグループ制御」から、それぞれの光量を調整したのもポイント。この機能は本当に多灯撮影での大きな武器になる。鳥瞰的な視点で光量を判断できる。

また、この撮影も「FEメモリー」を使用。左右後方からの2灯は、ETTL発光でおおよその光量を割り出したのち、マニュアル発光に切り替え、微調整している。センダー発光による正面からの1灯はETTL発光のまま調光補正で微調整しながら撮影した。これは、撮り手(私)が前後に動きながらさまざまな構図で撮影したかったため。ETTL発光を保持することで、モデルとの距離が変化しても常に標準露出を割り出そうとしてくれる。

3点から挟み込むようなライティングになっている。いずれも直当てだ。後方左右からの2灯の光量はフル発光。正面から照射したセンダー発光の1灯は、ETTL発光だがやや強めに光量が割り出されたため、−1前後を目安に調光補正して撮影を行った
3灯による完成カット
ハイスピードシンクロを利用し、背景をボカしつつ、また暗く落としながら、モデルが浮き上がるように立体感のあるライティングをした。直当てによる硬い光が夕方の雰囲気とマッチしてドラマチックな描写に仕上げている
EOS R6 Mark II/RF15-35mm F2.8 L IS USM/マニュアル露出(F2.8、1/2000秒)/ISO100/WB:5300K/EL-5×3灯
両サイドの2灯のみで撮影
自然光のみで撮影

まとめ

キヤノンはEL-5を“次世代モデル”と形容しているのだが、これはまさしくスピードライトがよりカメラやレンズとシンクロし、新たな表現を可能にするという意味で“次世代モデル”だ。単なる“最新のスピードライト”という枠を超えている。ライトのコントロールがカメラ本体やレンズから容易に展開できるシステムは、純正のスピードライトだかこそできることだ。非常に新鮮な体験だったし、今後の展開に向けても期待が持てる。他のカメラメーカーからそれほど意欲的なストロボが出てきていないことを踏まえると、その本気度を歓迎したいし、評価されるべきことだろう。

デジタルカメラの時代になり、小光量でも十分明るい写真が撮れるようになった。クリップオンタイプのフラッシュの需要も高まっている。スタジオ撮影などでも、そう遠くない将来大型ストロボではなく、こうした小型機材が主流になる時代もやってくるかもしれない。そんな予感がするアイテムだ。

モデル:安島萌(GATHER)
ヘアメイク:Luna Yoshikawa
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社

フォトグラファー。1976年東京生まれ。写真家テラウチマサト氏に師事後、2003年独立。ポートレートを中心に活動。著書としてこれまでに40冊以上を手がける。最新著書に『上手い写真は構図が9割』(玄光社)、『まねる写真術』(翔泳社)、「一生ものの撮影レシピ」(日本写真企画)など。ポーラミュージアムアネックス(2015年/銀座)など、写真展も多数。Profoto公認トレーナー。日本写真芸術専門学校講師。