特別企画
あの名レンズがリニューアル!「PENTAX-FA Limited」をポートレートで試す
HD PENTAX-FA77mmF1.8 Limitedレビュー
2021年5月7日 07:00
リコーイメージングから新たに発売された35mmフルサイズ用レンズ「HD PENTAX-FA Limited」シリーズは、優秀な描写性能とカメラ好きの心をくすぐるデザイン、質感の高い仕上げにより、ファンの多い「smc PENTAX-FAリミテッド」シリーズをリニューアルしたものです。
ラインナップは以下の3本です。
・HD PENTAX-FA31mmF1.8 Limited
・HD PENTAX-FA43mmF1.9 Limited
・HD PENTAX-FA77mmF1.8 Limited
いまとなっては希少な一眼レフカメラ用の新レンズであり、ここにきて往年の名レンズをリニューアルしたリコーイメージングの意気込みを嬉しく感じた人もいるのではないでしょうか。
4月28日に公開した「ロングセラーがリニューアル!『HD PENTAX-FA Limited」 古き良き味と最新コーティングの組み合わせはいかに?」に続き、今回はHD PENTAX-FA77mmF1.8 Limitedを岡本尚也さんが解説します。(編集部)
元々のヌケの良さを強化した標準よりやや長めの中望遠レンズ
リミテッド3姉妹との愛称で呼ばれ、1997年に最初の43mmが発売されてから20数年もの間、根強いフアンに支持され続けている、smc PENTAX FA Limited 31mm/43mm/77mmの3本が同時にリニューアルした。
もちろん、筆者もこの3本(smc版)はフィルム時代のMZ-5やMZ-3の頃より愛用している非常に愛着のあるレンズ達だ。PENTAXがデジタルカメラに移行してからもそれは変わらず、特に35mmフルサイズセンサー搭載のK-1が登場したことによって、元々のコンセプト通りの撮影が可能となった。
smc版が持つ独自の個性は、リニューアル版にもしっかり引き継がれている。
例えば、各種の反射防止コーティングに加えて鏡筒内の細部に至るまで入念なすみ黒塗装を施し、徹底したヌケの良さを追求した光学系。
レンズ、フード、キャップ全てにいたるまで高級感のあるアルミ削り出しの素材。
アクセントに七宝焼きのフィンガーポイント(43mmは新機種から採用)を施した重厚感のある外観。
彫りこまれた文字には後から色入れをしているという徹底したこだわりが込められている。もはや、工芸品と呼んでもおかしくはないレンズだ。
実際の製品で各部を見てみよう。
フィルター径も49mmと変わらずで、凝縮感を感じさせつつもコンパクトな外観はそのままだ。
レンズフードは前にスライドさせて引き出すタイプでそのままの状態でレンズキャップを装着できる。smc版と同じで、フード内側には静電植毛を施してある。
写真には無いが、レンズキャップもアルミのプレス加工ではなく、アルミ削りだしとしている。レンズキャップだけでも高価なので、紛失や置き忘れにはくれぐれも注意したいところだ。
フォーカスリングは広すぎず、狭すぎずで、回転時にも適度なトルク感があり、率先してマニュアルフォーカスに切り変えて撮影したくなる。
絞りリングも健在で、Aポジションからマニュアル操作で任意の絞り値に変える事ができる。直感的な操作感は気持ちも上がる。これぞ、FA Limitedシリーズの醍醐味だと感じるポイントだ。
おなじみの七宝焼のフィンガーポイント(レンズ着脱指標)。HD版は素材に銀などを使う事などによって、緑色の発色がより良く出るよう工夫して改良されているそうだ。
今回のHD版で刷新された点は「HDコーティング」「SPコーティング」「円形絞り」の3点。透過率を上げる最新のHDコーティングが施されているのが一番のポイントだ。
今回はPENTAX K-1 Mark II(以下、K-1 Mark II)にHD PENTAX-FA77mmF1.8 Limitedを装着し、ポートレート作例を交え検証した。
重さも約270gと軽量なので、 K-1 Mark IIボディ約1.010g(SDカード・バッテリー込)と合わせても1.280gと軽量だ。フットワークのよい撮影ができた。
肌色の再現性、逆光耐性、ディテール……個性を伸ばしつつ新たな表現へ
撮影当日は好天に恵まれた。
スタート時間は太陽の位置も高く輝度差も激しい状態だったが、HDコーティングの恩恵でゴーストやフレアに悩まされる事無く撮影に集中できた。
APS-C専用のDA LimitedシリーズのHD化でも感じたことなのだが、コーティングが最新になっただけでも透過率の違いからなのか、非常に色乗りもよくコントラストのつき方も良くなっている。
薄いピンクの肌再現性も良く、健康的な肌色が好印象だ。
77mmという焦点距離は近景での圧縮効果でも生きると感じた。
◇ ◇ ◇
1段高い位置に立ってもらい、太陽を背にした逆光条件での撮影を試みた。シャドー部を持ち上げるための補助光源としてレフ板を使用した。
絞りは開放であるのにも関わらずゴースト、フレアは見受けられない。
髪の毛トップのハイエストライト部分もとばずにきっちりとディテールを描き出している。
若干のパープルフリンジも見受けられるが、モデルの立ち居地や撮影者が移動するなどして主光源の位置をずらすことで回避できるレベルだ。
コントラストの低下もみられなく、率先して逆光撮影にも挑める。
◇ ◇ ◇
モデル左上方から強めの斜光が差している。輝度差の激しい条件での撮影となったが、髪の毛トップ部分のハイエストライトから胸元、背中部分のシャド-部分まで階調の繋がりを維持しつつ、スッキリと描写している。
全身なのでF2.8まで絞っているが、背景の点光源も円形を保っていて綺麗だ。F4までは自然な円形を楽しめるとのことなので、率先して絞り込んで背景を入れ込んでいける。
◇ ◇ ◇
ブルーのタイル張りの壁をポイントカラーに、レフ板で光をまわしながらライティング。フラットな光源下での撮影だが、コントラストのノリも良く、メリハリのある1枚となった。
髪の毛1本1本も線の細い上品な描写で、シャドー部分の階調の繋がりも黒ツブレすることもなく、描き分けている。
「白いワイシャツの貝ボタンの輝きを描き出す」とメーカーホームページでもうたっている通り、モデル着用のワンピースの袖ボタンに注目して欲しい、見事に白色を描き分けていることが見て取れる。
赤系色のヌケの良さをきっちり描写するように設計されているので、肌や唇部分もより自然に健康的に表現することができた。正にポートレート撮影にぴったりなレンズといえよう。
◇ ◇ ◇
「どこで撮影したか」という記録的な情報もストリートでのポートレートでは重要な要素となるので、あえて引いて背景を入れ込んでみた。
モデルから後ろにかけてスッキリとなだらかにボケていく感じが気持ちいい。消失点となっているハイライト部分のボケ味も自然な雰囲気で良好だ。
標準域から少し長めの中望遠レンズと考えると、小さな声の指示でもモデルとのコミュニケーションが図れるので、ストリートでのポートレートでは有利だ。
これでオートフォーカス時の音がより静かであれば、という気持ちはあるけれども、このコンパクトさと歩留まりのよさを知ってしまうと、そんな考えをも忘れさせてくれる魅力がある。
ボディ側モーターとのカップリング機構を配した駆動方式であるが、K-1 Mark IIのボディ側モーターも強力なので、撮影中に合焦スピードで困る事は無かった。
意図的にレンズ補正は「オフ」にしてゆるやかで嫌味のない周辺減光をあえて残した。
◇ ◇ ◇
路地裏で手すり越しに1段上方から撮影した。坂上からカメラを構えているのだが、K-1 Mark IIの大きなファインダーの見えの良さとあいまって、ファインダーを覗きつつも周りの状況も把握しながらフレーミングできた。
筆者は普段ミラーレスカメラも仕事で使うが、光学ファインダー機の覗き心地にも魅力を感じている。光学ファインダーはレンズを通した絵をそのまま見られるので気持ちがいいし、リアルタイムに被写体を追えるというメリットが、この作例カットのように「ふとした瞬間」を写し止めるのに、功を奏している。
その瞬間をしっかりと狙っていける点に光学ファインダーならではの優位点があると、改めて感じた。
◇ ◇ ◇
ユキヤナギの花が通りを彩っていたので、モデルには花の中央の部分にしゃがんでもらい、1枚のカットで前ボケと後ボケを狙った。右側に消失点を設けることで、奥行き間を強調して立体感も意識した。
元々のsmc版も前、後ボケ共に綺麗に描写したが、HDコーティング化したことでヌケの良さが更に増して、誇張しすぎないクリアなボケ味も自然な感じの1枚となった。
先にも触れたが、赤系の再現性良さも相まって健康的な肌色と落ちてゆく夕焼け空のグラデーションも忠実に再現できている。
◇ ◇ ◇
夕日が速度を増して落ちていく刹那を狙った。77mmという焦点距離はこういったシチュエーションでの撮影の際、モデルの背景を適度な圧縮効果で引き寄せ、より自然に表現できる。
強い太陽を背にしてのカットだがフレアやゴーストもみられずクリアな描写だ。
地面の土色から芝生のグリーンまでの繋がりがなだらかにボケて美しい。ハイライトからシャドーにかけてのグラデーションも素直で髪の毛も1本、1本、柔らかく描き出している。
smc版でも充分に「味のある」描写を得ることができたのだが、新たに施されたHDコーティングの恩恵を受け、こうした刻々と変わる光線状態でも焦ること無くシャッターに集中できたことも付け加えておく。
◇ ◇ ◇
smc版と逆光耐性を比較
smc版とHD版のコーティングの違いを比べるためにモデル後方に太陽の位置がくるように撮影した。
かなりの輝度差があるにも関わらず、smc版の方も大健闘している。
正直、判断の難しいところであるのも確かではあるが、細かいところをみていくと若干ではあるが、HD版の方が地面の反射部分は白とびせず粘っていてヌケ感もよく、円形絞りの恩恵もあり、ザワつかない感じで綺麗にボケている。
フレアも少なく、コントラストも若干高くなっているのと同時にワンピースの柄の部分もくっきりと再現されている。
パープルフリンジは両カット共にモデル手の甲の上側の部分に確認できるが、HD版の方が若干ではあるものの、smc版より抑え目に感じられることがわかる。
なお、両カット共にレンズ補正は「オフ」にしている。
今回のコーティングの変更により、より強い逆光下でも威力を発揮することであろう。
◇ ◇ ◇
まとめ:撮影の楽しみを教えてくれるLimitedレンズ
総じて“味わいのあるLimitedレンズ”というのが本レンズから受ける印象だ。
最新光学系のレンズも色々な焦点距離で充実してきているPENTAXだが、20数年前のsmc版からあえてレンズ構成は変えず、コーティングと円形絞りだけの変更という潔い決断に非常に好感が持てる。FA Limitedレンズ が使いたいからという理由でPENTAX機を購入するという根強いファンが多いというのもうなずける。
筆者自身、ポートレート撮影の際は最新光学系のHD PENTAX-D FA ★ 85mmF1.4ED SDM AWやズームレンズのHD PENTAX-D FA ★ 70-200mmF2.8ED DC AWなども使用しているが、写真展示に使うような印象的な写真が撮りたい時はsmc PENTAX-FA77mm F1.8 Limitedを好んで愛用している。このレンズでないと表現できない何か、数字では表せない何か、を本レンズは秘めているからだ。
なによりも、このレンズを装着して光学ファインダーを覗くと高揚感に包まれる。
被写体をミラーで反射し、プリズムを通った像をファインダーで確認するという行為が昔から染み付いているので、その分気持ちも上がってくる。
昨今では、ミラーレス機が無音で撮影できる時代にはなったが、ミラーが駆動して写し止めた! という実感は何にも変えがたいものがある。”いま写しています”と合図にも聞こえるようなシャッター音も、モデル側にも伝わりやすく、1シャッター毎の1ポージングチェンジの部分やコミュニケーション部分においても必要な要素だと感じる。
コンパクトなHD PENTAX-FA77mm F1.8 LimitedをPENTAX K-1 Mark IIに装着して、モデルと一緒に動き回り、大きなファインダーを覗いてシャッターを切るフィーリングは”やはりフルサイズセンサー機でのポートレート撮影は楽しい!”と、少し忘れかけていた何かを再認識させてくれる。
話を戻すが、HD PENTAX-FA77mm F1.8 Limitedは質感・完成度も高く、高い趣味性だけではなく所有欲までも満たしてくれる。
旧来の本レンズの良さもアップデートしつつボケは優しく、白の立ち方といい立体感にも違いを感じることができる。
現代レンズのカリカリした描写にも飽きてきている方やsmc版を使っている方、そして、スターレンズでポートレートを撮っている方にもお勧めできる1本である。
提供:リコーイメージング株式会社
モデル:れい