特別企画

静止画メインの写真家が映像制作に挑戦(後編:制作手順編)

実際のワークフローから作品づくりのアプローチを紹介

昨今発売されるミラーレスは本来静止画撮影用であるにも関わらず、動画撮影を強く意識したものが少なくなく、その境目が極めて曖昧になっている。カメラによっては、モデルチェンジで操作部材などを動画撮影時の利便性を優先させてしまい、静止画メインで考えるとちょっと残念に思えるものもあるほどだ。それほどまでに動画撮影に重きが置かれると、この機会に動画撮影により積極的に挑戦してみようと考える写真愛好家も出てくるだろう。

ただし、どうしても高いハードルとなるのが編集作業である。私自身この特集の第1回で記しているとおり動画編集に関しては門外漢に近く、これまで、ごく簡単なことしかやってきていない。

写真と異なり、時間軸があり、音声もあるので一筋縄ではいかないからだ。前回は、そのような動画編集に対し、プロからアマチュアまで広く対応する「Adobe Premiere Pro」について大まかな機能や使い方など紹介した。2回目となる今回は、実際に筆者がどのように編集作業を進めていったのかを紹介する。

短編映像の編集に挑戦

今回用意した映像素材(クリップ)は波を切って走るジェットフォイルの様子を収録したもの。その迫力やカッコよさが伝わる短編動画をつくってみたいと思う。

余談ではあるが、ジェットフォイルは別名ボーイング929の名のとおり航空機製造で有名な米ボーイング社が開発設計製造し、その後川崎重工業がライセンス生産を行っている水中翼船だ。国内で20艇ほどが就航しており、東京では竹芝埠頭と伊豆諸島方面とを結ぶ4艇を見ることができる。

水面上を時速80kmほどで航行する姿は、船舶とは思えないほどスピード感あるものである。そのジェットフォイルを撮影したカメラはキヤノン「EOS R5」、レンズはマウントアダプターを介しタムロン「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2」という組み合わせだ。三脚は油圧雲台を備えるマンフロット「MVK500190XV」を使用。肝心の動画記録サイズは4K30pを選択している。

1:プロジェクトを作成する

まずはAdobe Premiere Proを起動しよう。ホーム画面(スタート画面)が立ち上がるはずだ。ここでは新たにプロジェクトをつくって編集作業を行うので、画面内の「新規プロジェクト」をクリックする。新規プロジェクトの「名前」を記入し、「場所」を設定する。ここではプロジェクト名を「Jetfoil」に設定。他の部分はそのままにし「OK」をクリックすると、画面がワークスペースに切り変わり、同時にJetfoilという名前の付いたファイルが設定した場所につくられる。今後この「Jetfoil」のプロジェクトを閲覧したり、再度編集を行う時はホーム画面に表示されたプロジェクトリストから該当するプロジェクトをクリックするか、ファイルを直接クリックしてもよい。

Adobe Premiere Proを起動させるとホーム画面を表示する。ここでは「新規プロジェクト」をクリック。
プロジェクトに名前を付け、ファイルの保存先を設定する。そのほかの部分は触らなくて大丈夫だ。

2:絵コンテをつくるようにして素材を整理

次に「プロジェクトパネル」にこれから編集する素材(クリップ)を入れていく。これは、操作手順編で述べているとおり、フォルダーなどからドラッグ&ドロップで行うこともできるし、プロジェクトパネル上部にある「メディアブラウザー」から取り込む方法も選択できる。

なお、このプロジェクトパネルに多くのクリップを入れると、ウィンドウの小ささとあいまって、どこに使いたいクリップがあるのか、探すのが大変になってしまうと予想した。そこで、少々アナログ的だが、事前にクリップを一通り見て、どのクリップを使用するか、またクリップのどの部分を使用するかを記した手書きのメモをつくって作業を進めることにした。

本来プロジェクトパネル上の「ソースパネル」を使い、プロジェクトパネルにアップしたクリップを確認しながら、下段右にある「タイムラインパネル」にどんどん落とし込んでいくやり方が編集作業の基本のようであるが、Adobe Premiere Proの操作に慣れるまでは、この方法でも悪くないだろう。絵コンテをつくっていくようなイメージだ。

プロジェクトパネルにクリップを取り込んでいく。クリップはサムネールでの表示のほか、ファイル名のみでも表示が可能。取り込んだクリップが多い場合はファイル名のみの表示が使いやすい。

3:タイムライン上に配置・調整

プロジェクトパネルに必要なクリップが入ったので、いよいよメインの作業台「タイムラインパネル」で編集に入る。

クリップをプロジェクトパネルからドラッグ&ドロップで直接タイムラインパネルに入れていくか、前述しているようにソースパネルで一旦簡単に切り出してからタイムラインパネルに入れていく。

ちなみにソースパネルで切り出したクリップはタイムラインパネルに入れた後も切り出す前の長さに戻したり、再度調整が可能なので心配する必要はない。

プロジェクトパネルからタイムラインパネルに取り込む前に、ソースパネルで一旦簡単に切り出してからタイムラインパネルに入れていくと作業が煩雑にならなくて済むことが多い。ソースパネルで切り出したクリップはタイムラインパネルに入れた後も切り出す前の長さに戻すことが可能。

あと個人的には、一度に使用する全てのクリップをタイムラインパネルに入れるのではなく、1本から数本程度入れた段階でクリップの切り出しと繋ぎ合わせを行った。そちらの方が作業が煩雑にならないように思えたからである。

切り出しではツールボックス内のリップルツールやレーザーツールなどを使い、タイムラインパネル内のトラックの長さ(時間)を調整していく。作業を終えるたびに「プログラムパネル」に表示されたプレビューを見て確認し、必要があれば再度トラックを調整していく。なんとも根気のいる作業だが、自分の思った部分を切り出し、上手くつながると達成感も大きい。

なお、幾度もプレビュー再生と調整を繰り返すわけだが、このとき便利だったのがプレビュー再生にショートカットキーを使うこと。作業は飛躍的にスムーズになる。参考までに再生時に知っておくと便利なショートカットキー(デフォルト設定の場合)を以下に記しておく。

再生および停止:「スペース」キー
1フレームバック:「←」キー
1フレーム進む:「→」キー
前の編集点へ移動:「↑」キー
次の編集点へ移動:「↓」キー
早送り:再生時に「L」キーを押す(押すごとに加速する)
逆再生:再生時に「J」キーを押す(押すごとに加速する)
停止:「K」キー

4:視覚効果を整える

ある程度動画としての形が見えてきたため、タイトルを入れてみた。今回はクリップの上に文字を乗せている。基本的なやり方は「Photoshop」などと同様「文字ツール」を使い、プログラムパネルに表示されている画像の上に配置していくだけだ。

書体や文字の大きさ、色などの設定についてはソースパネルにある「エフェクトコントロール」から行うことができる。このパネルでは文字に輪郭線や影などを付加できるほか、動きを与えるモーションの設定も可能としている。今回はシンプルにジェットフォイルの本来の名称である「Boeing 929」とだけ入れてみた(それしか今のところスキルがないのが正直なところ)。文字を書き込むと同時にタイムラインパネルにタイトル用のトラックが表示されるので、タイトルの表示時間を調整することが可能だ。

タイトルなどはプログラムパネル上の映像に文字ツールで書き込む。書体や文字の大きさ、色などの設定はソースパネルにある「エフェクトコントロール」から行う。

次に行ったのが、繋いだクリップとクリップの間に入れる効果だ。一般にトランジションなどと呼ばれるものである。ワークスペース最上段メニューの「エフェクト」から「ビデオトランジション」あるいは「ビデオエフェクト」を選択し、そのなかの効果をドラッグ&ドロップでトラックのクリップとクリップの間に入れていく。

クリップとクリップをスムーズに切り替えるトランジションは、ワークスペース際上段にあるメニューから「エフェクト」→「ビデオエフェクト」→「トランジション」、または「エフェクト」→「ビデオトランジション」→「ディゾルブ」などから設定する。使いたいトランジションを選択したら、映像トラック上のクリックとクリップの間にドラッグ&ドロップで入れる。

今回使ったトランジションは、ビデオトランジション内の「トランジション」から「グラディーションワイプ」、ビデオエフェクト内の「ディゾルブ」のなかにある「ホワイトアウト」だ。

どのような効果のトランジションであるのかは、実際にトラックに入れて確認してみるしかない(事前に確認する良い方法が見つからなかった)ので、ちょっと面倒に感じるところだが、動画がトランジションを介して切り替わる様子は、自分の撮影したものながらちょっと上手く思えてしまうほどだ。

なお、トランジションの切り替わる時間に関しては、トラック上に配置したトランジションにカーソルを置き、「control」キーを押しながらクリックすると「トラジションのデュレーションを設定」という項目があるので、そこで調整する。デフォルトは1秒だ。

トランジションの長さは変更することが可能。デフォルトでは1秒。
トランジションを入れた映像トラック。クリップとクリップの間にある茶色の囲みがトランジションだ。

5:BGMを追加

ここまでで一通り再生してみる。我ながらいい感じに仕上がっていると思うのだが、音声がまったくダメである。風切り音が強く、“ボソボソ、ガサガサ”というノイズが入っており、始終うるさくとても聞けたものではない。そこでAdobe Stockから音源素材(楽曲)を借りて、画像に被せることにした。このAdobe Stockはクラウド上にあるストック素材で、音源素材もそのひとつ。オーディオを購入すればライセンスフリーなので版権を気にする必要がない点もポイントだ。

音声削除の手順は、右クリック→「リンクを解除」→「音のみ削除」で実行可能。

音声をカットするには、まず映像トラック(V1)のカギマークをクリックし鍵をかける。
音声トラック(A1)を選択し、deleteキーで削除する。掲載したキャプチャーは前半部分の音声をカットした状態。

次にAdobe Stockの楽曲をトラックに付加するには、パネル最上段の「オーディオ」をクリック。「エッセンシャルサウンド」というパネルが画面右にあらわれる。その中の「ムード」および「ジャンル」から希望するイメージをクリックすると、それに応じた楽曲がいくつか表示される。楽曲は再生ボタンにより試聴することも可能だ。

映像に付加するには、タイムラインパネルまで使用したい楽曲をドラッグ&ドロップする。今回は映像の長さに対し時間的に音源が足りなかったため、不足する部分には同じ楽曲を再度入れてみた。また、音声トラックにトランジションを入れ、急に楽曲が始まったり終わったりするのを避けている。音源を入れ終わり改めて全編通しで再生すると、楽曲の効果は極めて高く、自画自賛ながらぐっと雰囲気ある映像に仕上がった。

これで使用したい曲が確定したら、右クリック→「ライセンス」を選択し、購入することでこの曲が使用可能になる。

Adobe Stockの音源素材は、ワークスペース際上段にあるメニューから「オーディオ」を選択。「ムード」および「ジャンル」から楽曲を選んでいく。タイトルの部分にある▶︎をクリックすると試聴が可能だ。楽曲をドラッグ&ドロップで音声トラックに落とすと映像に付加される。

6:書き出してみよう

最後に書き出しだ。メニューバーの「ファイル」から「書き出し」→「メディア」とクリックしていくと、画面右に書き出しのためのパネルが表示される。気にしておきたいのが、操作手順編でも述べているように「書き出し設定」のなかにある「形式」だ。

通常は汎用性の高い「H.264」に設定しておくのがおすすめだが、他にも「基本ビデオ設定」を「ソースに合わせる」にしておくとよいだろう。書き出しにかかる時間は、動画記録サイズや映像の長さ、パソコンのパワーなどによって異なってくるが、それ相応の時間を要することは知っておきたい。ちなみに今回の映像の書き出しにかかった時間は、1.4GHz Intel Core i5のCPUを積むMacBook Proで10分ほどであった(エンコードではGPUの処理性能も利用できるため、これらのスペックが快適な処理を実現するための鍵となる)。

映像を書き出すにはまず「ファイル」から「書き出し」→「メディア...」を選択する。

初心者の場合、設定を「H.264」に設定するほかは、変更する必要はないだろう。「書き出し」をクリックすると映像の生成を開始する。

7:完成とまとめ

恥ずかしながら何とか自力でここまで編集することができた。実際にできた映像がこちら。

あとは、かつてPhotoshopに始めて触れ、そして扱いに慣れていったように、Adobe Premiere Proも使いこんでいくだけと言えるだろう。その過程で効率よく編集する方法や、一捻りある効果・演出なども取得していければと思う。

もちろん素材となる動画に関しては精度の高い撮影ができるようになることも大切で、静止画とは違った被写体へのアプローチを考えていく必要があることは言うまでもない。現時点ではAdobe Premiere Proの購入プランは基本的に月額2,480円(税別)の単独プランと、月額5,680円(税別)でPhotoshop、InDesign、Illustrator、Acrobat Pro DC、Adobe XDも使用可能なCreative Cloudコンプリートプランから選ぶことができる。

決して安い映像編集ソフトではないが、機能が多彩で、ユーザーの期待に余すことなく応えてくれるため、使い込めば使い込むほど、また映像編集のスキルがアップすればするほど、手放せないものとなりそうである。動画を撮影できるカメラが気になっている人や、そんな今どきの性能を備えたカメラを手にした人、スマホで手軽に動画を楽しんでいる人で本格的な編集もしてみたいと思っている人など、動画はじめてユーザーの方の参考にしてもらえれば幸いだ。

機材協力:アドビ株式会社、DJI JAPAN株式会社、ヴァイテックイメージング株式会社

大浦タケシ

(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。