特別企画

TIPA 2019受賞記念 カラーマネジメントモニターにかけるBenQの情熱とは

5年間の取り組みが実を結ぶ 意識したのは写真愛好家のための製品づくり

ベンキュー株式会社代表取締役社長の菊地正志氏。SW240とともに。

TIPA AWARDS 2019で、BenQの「SW240」が“BEST BUDGET PHOTO MONITOR”賞を受賞した。Adobe RGBを99%カバーする24.1インチのカラーマネジメントモニターだ。

近年めざましく品質が向上し、またAdobe RGBの色域表示にも対応するモニターが増えてきている。そうした写真向けモニター市場の先端を走る製品を数多く手がけているのが、BenQだ。

授賞式の当日、自身もBENQ製品を愛用している写真家の中原一雄さんに、ベンキュー株式会社の代表取締役社長、菊地正志氏に受賞までの道のりと今後の展開などを聞いてもらった(編集部)。

TIPA AWARDS 2019で、BEST BUDGET PHOTO MONITORを受賞したBenQ「SW240」。

元々はエイサーグループのディスプレイ部門だった

――今回のTIPA AWARDS 2019では「SW240」がBEST BUDGET PHOTO MONITORとして受賞されました。2016年のBEST PHOTO MONITOR(SW2700PT)に続く受賞となります。

2014年から取り組んできたカラーマネジメントモニターでTIPAという権威ある団体から評価いただき光栄です。

ただ表示するだけではなく、コンテンツに対して忠実に色を表示するという機能は表示装置を作っているメーカーの大きなテーマであり、この取り組みが評価されました。また色の表示性能だけでなくコストパフォーマンスも含めて我々が狙って作り込んできた部分を評価していただけたことを嬉しく思っています。

授賞式では菊地社長がトロフィーを受け取り、受賞の喜びを語った。

――BenQは数年前まで写真家にとって認知度が低いメーカーだと感じていましたが、ここ1〜2年でグッと認知度が上がってきたと思います。改めてBenQブランドの歴史について教えてください。

元々はエイサーグループのディスプレイ部門を担う会社として設立され、2001年からBenQとして液晶モニターのビジネスをスタートしました。

PC向け液晶モニターの黎明期から大画面、高解像度化、色再現性などの技術を高めてきました。例えば、2006年にFullHDのPC向けモニターでHDMI端子を採用したモデルをBenQが世界ではじめて発表しました。LEDバックライトを搭載したVAパネルも世界初の技術です。

――2006年というとまだPCにHDMI端子がほとんど整備されていない時期ですよね。

BenQのグループ会社にAUOという液晶パネル会社があり、そこと連携することで液晶の最新の技術をいち早くお客さまに届けることができる体勢があります。また、ディスプレイだけでなくプロジェクターも取り扱っており表示機器全般の開発に対する強みがあります。

色にこだわる写真愛好者のために

――液晶モニターを販売するメーカーは数あれど、カラーマネジメントモニターを展開するメーカーは限られます。この分野に進出するキッカケはなんでしょう?

液晶モニターの開発を続ける中で、色の再現性にこだわるユーザーが多いと感じていました。デジカメで撮影した写真の色味を忠実に画面に再現できるというのはもちろんのこと、撮影後の編集で色を変えたときにもキチンと正しい色が表示されるモニターが必要だなと……。

当時は高価なデジカメを使って撮影してもアウトプットが普通のモニターであるために自分の考えていた色との違いを感じるユーザーも多く、きちんとアウトプットして楽しむためにもカラーマネジメントモニターが必要だと感じていました。

――開発は社内に専門チームがあるのでしょうか。

はい。色に関してプロフェッショナルな人材を中心に専門チームを持っています。開発だけでなく、世界各国にお客さまの色に関するニーズをヒアリングする部隊もあり、ここで吸い上げたニーズを開発に活かしています。

――キャリブレーション用のソフトウェアも自社開発ですか。

ソフトに関しては初期の段階から一部X-Riteさんと協業を行いながらキャリブレーション用ソフトウェアの開発を行っているほか、パントーンやカルマンの認証を取得するなど、色に関する企業との連携もしております。

さらに、弊社の開発を担当するクリス・バイはICC(International Color Consortium)の副会長も務めており、ICCのカンファレンスにも参加するなど業界団体との連携もとっています。

――カラーマネジメントモニター分野への進出に当たってどのくらいの準備をしたのでしょうか。

BenQとして最初のカラーマネジメントモニターは2014年に発売したPG2401PTでした。これを発売するまでに約2年間、ヨーロッパ、アメリカ、日本、中国、オーストラリア、台湾の6つの地域で計15社の印刷会社と、200名の写真家からのニーズや実際のワークフローのヒアリングを行い開発を行いました。

BenQ初のカラーマネジメントモニター「PG2401PT」(2014年発売)

――当時はいろいろ苦労もされたのでは?

PG2401PTを発売した当時は印刷系の会社さんに使っていただくようマーケティングを行いました。BtoBですね。モニターの性能自体は良いと言ってくれる会社さんも多かったのですが、既に日系メーカーのモニターがかなり先行していたこともあり、そこに入り込むのは非常に困難でした。

正直なところ、最初の2年はかなり苦戦しました。しかし、カラーマネジメントモニターのニーズ自体はヒアリング時に手応えを感じており、苦戦していた時期も本社からのサポートは厚く、これからの時代のためにしっかり育てることができたのが今の成功に繋がっていると考えています。

――その後、2016年に発売したSW2700PTが爆発的なヒットになりましたよね。私もすぐに飛びつきました。ここから“カラーマネジメントモニターのBenQ”という認識が広まってきたと思いますが、ターニングポイントとなったのは何だったのでしょうか?

弊社はもともとコンシューマー向け製品が得意で、性能と価格のバランスをとりながら「PG2401PT」をブラッシュアップさせた「SW2700PT」(※編集部注:ハードウェアキャリブレーションに対応する27型ディスプレイ。6万円台の販売価格ながらAdobe RGBのカバー率が99%を誇る)を発売しました。

ここで行ったのが一般の方にBenQ製品を試していただくアンバサダープログラムでした。これを通じてエンドユーザーに寄り添う形でのコミュニケーションが生まれた所が大きかったと思います。

アンバサダー向けのイベントでは参加した半数以上の方が実際にSW2700PTを購入に繋がったという実績もあり、自信もつきました。

6万円台でハードウェアキャリブレーションに対応した「SW2700PT」(2016年発売)。

――アンバサダーはどのような人なのでしょう?

一般の方達です。プロなど著名人のアンバサダーをいうのは他のメーカーさんでも取り入れている所も多いですが、BenQのアンバサダーは一般のお客さまが大半です。

弊社のアンバサダープログラムは無報酬で、純粋に製品を試用していただき、自由に発信していただきます。私たちがこれが良いよとか、あれが良いよという上からの押し売りをするのではなく、使っていただく、発信していただく場を提供するというイメージです。その結果、BenQなかなか良いね!と言ってくださる方が徐々に増えていきました。

――徐々にファンが増えていった

そうですね。アンバサダープログラムというよりはBenQファンクラブみたいな感じです。

イベントに来て下さる方の熱量もかなり高く、今年のCP+では地方のアンバサダーがBenQブースに立ち寄って、あれ買ったよと言って下さる方も多かったのは嬉しかったですね。

アンバサダープログラムを通じて、良い点、悪い点含めて製品の適正な評価を頂けたという所が現在の開発にも活きています。

ユーザーの使い方を考えて

――今回TIPA AWARDS 2019を受賞したSW240を開発したキッカケは?

SW240の24インチ、16:10という仕様は日本のユーザーからの意見を聞いたのがキッカケです。

これまでは欧米向けの大画面を中心に開発をしていましたが、実際にお客さまから意見を聞くと作業スペースの関係で27インチ以上は厳しいという声も多かったのです。また、普段大画面を使っているプロユーザーのサブモニターとして、再現性は重視したいが、より廉価なものが欲しいというニーズも多くありました。弊社は台湾の企業なため本社も親日で、日本のお客さまの声は本社の開発チームにも届きやすいのです。

アスペクト比16:10のパネルを採用したSW240。

――私もSW240を何度か使わせていただきましたが、廉価ながら発色は素晴らしいと感じました。

私たちはユーザーが本当に必要としている機能をよく見極め、不要なものを搭載しないことでコストパフォーマンスを高めています。

例えばこれまでは標準で搭載していたモニターフードはSW240では別売りにしました。メインのモニターにはフードを付けているがサブモニターには不要という声も多かったからです。

また弊社はアイケア機能も得意で、環境光の色に応じて画面の色を変える最新の技術も有していますが、SWシリーズには搭載していません。色を正確に見るのに画面の色が変わってしまっては意味がないですから。スピーカーも付けていないんです。

スペックだけを上げていくのではなく、お客さまの使い方を考えた製品開発を重視しています。

――OSDメニューの操作性もなかなか良いと感じました。

モニターに限らずプロジェクターなど他の製品でも開発時にユーザーのワークフローを如何に快適にするかというところを重点課題として取り組んでいます。メカニカルな設計をするチームとは別にユーザーの声を聞きそれを形にしていくUI,UXを担うチームもあり設計チームと連携して開発にあたっています。

――BenQのカラーマネジメントモニターには「モノクロモード」という独特なメニューがありますがそれもユーザーの声から生まれたのでしょうか?

はい。開発当時の写真家からのヒアリングから生まれた機能ですね。ワンカットで狙った写真が撮れるということはあまりなく、多数のカットからベストなカットを選ぶことが多いというワークフローを考えたとき、モニター側でモノクロ化してしまえば作業効率が上がるのではという考えてモノクロモードを取り入れました。

SW2700PTでは1パターンのモノクロ表示ですが、SW240を含む以降のモデルではガンマが変わった3パターンのモノクロ表示を選ぶことができるようになっています。これもお客さまの声によって実現しています。

――製品のアフターサポートはどのような体勢でしょうか。

カラーマネジメントモニターは高機能な製品なのでお客さまのレベルも高いです。それに対応出来るサポートメンバーの強化も進めています。コールセンター、修理センターも日本に用意しています。また、SWシリーズは3年間保証ですが、もし壊れてしまった場合、修理期間中に代替機を用意するセンドバックサービスも今年の4月から開始しました。

――それはいいですね。それより前に購入した製品も対象ですか?

はい。AQCOLORシリーズ(SW、PVシリーズ)のモニターであれば4月よりも前に購入いただいた方も対象です。保証期間内であれば修理は無償で行い、代替機は税別5,000円(送料込み)でご利用いただけます。修理期間中も作業が滞ることがないためプロユーザーにも安心してお使いいただけます。

――すでに24インチから32インチまで多くのカラーマネジメントモニターがラインナップしています。今後はどのような製品を投入していく予定でしょうか?

現在は静止画編集向けのモニターが中心になっていますが、今後は動画編集にも対応した製品作りをしていきたいです。動画の場合、静止画とは異なる色域が使われることも多いためこの辺りの対応を考えています。

SWシリーズはコストパフォーマンスにも優れ、これから写真、映像の世界を目指す若い方にも多く使っていただいています。そうした方達の助けになることができればこれよりハッピーなことはありません。

今後も頂点を目指すだけでなく、裾野をどんどん広げてゆきより多くのお客さまに使っていただけるカラーマネジメントモニターを展開していきたいと考えています。

インタビューを終えて筆者(左)と。

制作協力:ベンキュージャパン株式会社
撮影:曽根原昇

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。