特別企画
27型で6万円台! コスパ最強のフォトグラファー向けディスプレイ「SW2700PT」
どうしてこんなに安いのか、開発者に聞いてみた
2016年12月8日 11:25
今夏、BenQが発売したハードウェアキャリブレーションディスプレイ「SW2700PT」は、パネルスペックをはじめとした性能の高さと、それに見合わぬほどの低価格によって話題を呼んだ。
本稿では、このSW2700PTの開発に携わったChris Bai氏と、アジア太平洋のビジネスラインマネージャであるIvy Su氏にお話を伺った。
Chris Bai氏はBenQのカラーサイエンティストとしてSW2700PTやPGシリーズ、医療用ディスプレイなど、高品位ディスプレイのカラー定義を作成している。社外での活動にも目を向けると、ICC(International Color Consortium)のバイスチェアの役職に就いており、ISO/TC130での規格策定にも参加している色彩のオーソリティだ。プリンティング分野の仕事も手掛けていたとのことで、デジタルイメージングにおけるワークフロー全般に対して深い造詣を持つ。
SW2700PTとは
今年7月、突如として日本市場に登場したハードウェアキャリプレーション対応の27型ディスプレイ。2,560×1,440ピクセルのIPS液晶パネルに加え、10bit入力にも対応。Adobe RGBカバー率は99%を誇る。それでいて、現在6万5,000円〜7万5,000円程度で入手できる価格が魅力。
世に出したかったのは、フォトグラファーのための手軽なディスプレイ
--これまでBenQは高品位ディスプレイとしてPGシリーズを発売していましたが、これはプリプレス分野に向けた製品でした。一般消費者向けとしては今回のSW2700PTが初のハードウェアキャリブレーションディスプレイとなります。この分野に着手した契機は何だったのでしょうか?
一言でいえば、より広い層に高精度のディスプレイを使っていただきたいという考えからです。カラーマネジメントを達成するためには、そのワークフローの幾つかのポイントだけで精度を保つのでは意味がありません。ワークフロー全体を通して正しい色を保つ必要があります。
ですが現状では、一般向けのディスプレイとハードウェアキャリブレーションディスプレイの価格は乖離が大きく、導入のハードルが高いために、なかなか浸透していない。こうした状況に一石を投じたいというのが出発点でした。
それでは、プリントとディスプレイの色の違いに困っているのはどういった層であるかを考えた場合、やはりフォトグラファーだろうと。このため、SW2700PTはフォトグラファーをターゲットにした製品として仕上げていきました。
--実勢価格は6万5,000円〜7万5,000円。確かにハードウェアキャリブレーションディスプレイとしてはかなり安価に抑えられています。安価なだけでなく、パネルのスペックも豪華ですね。
製品の特性上、表示品質は最も大事な要素ですので軽々に妥協はできませんが、コストの制約もあります。ユーザが満足できる性能のラインを見極めるために、フォトグラファーが求めるパネルスペックや機能のユーザー調査を実施しました。そこで得られた結果を基にパネルの選定にあたっています。
それでも、このスペックでこの価格を実現できたのは、AU Optronics(BenQグループの液晶パネルメーカー。以下AUO)が存在したからこそですね。パネルスペックや表示品位、価格など様々な面で度重なる折衝をおこない、テストと調整を繰り返しました。
--PG2401PTとSW2700PTとの違いは何でしょうか?
PG2401PTは、BenQとして「これ以上は無いものを」という形で発表した製品ですので、パネルスペックから機能まで最上級のものを採用しました。
SW2700PTは価格を抑えることも目標の1つなので、プリプレス向けほどタイトな検品を行うわけにはいかない。歩留まりが悪化して価格が一気に跳ね上がってしまいますからね。
例えばユニフォーミティのチェックでは、見た目にはわからない色ムラもPGでは厳密にチェックがされておりましたが、SWではPGほど厳しいチェックを行っておりません。
色差についても同様です。精度を求めると、検品と調整に必要な時間的コストが大きくなります。厳密な色再現を要求されるPGの色差はアベレージΔE1.5以下を目標にしていました。このレベルになるとプロが隣接比較してもまず違いはわかりません。これに対してSWの色差は、アベレージΔE2以下を目標にしています。一般的に色差がΔE2以下にならば、大抵の人は色の違いには気が付かないとされていますので、恐らく不満を覚える方はいらっしゃらないでしょう。(注:JIS規格の分類ではΔE1.5はAA級許容差、ΔE2.0はA級許容差に分類される)
もちろん、これらの数値は単なる目標値ではなく、出荷前にすべての製品をチェックし、データシートも製品に添付しています。
機能もフォトグラファーが本当に必要としているもののみに絞り込みました。その分、Palette Master Element(付属のキャリブレーションソフト)は、シンプルで使いやすくなっています。
遮光フードをはじめ装備も本格派。モノクロモードも
--SW2700PTはOSDコントローラやモノクロモードなど、他社製品では見られないユニークな機能を用意していますね。
OSDコントローラは文字通りOSD(オンスクリーンディスプレイ)を操作するためのデバイスでして、パネル背面のポートに接続して使用します。
なぜこのようなデバイスを用意したかというと、27型というパネルサイズになると、ユーザからかなり離れた場所にディスプレイを設置することになります。表示調整やモード切替のたびに椅子から立ち上がり、パネル下のOSDコントロールに手を伸ばすのは煩雑なので、手元に置いておけるコントローラを用意しました。
十字ボタンとOKボタンでOSDの調整が行えるので、パネル下のボタンを操作するよりも楽に調整ができます。モードの切替には専用のボタンを3つ用意しているので、メニュー操作の必要さえありません。デフォルトではAdobe RGB、sRGB、モノクロモードが割り当てられていますが、ユーザが好きなモードにリマップすることも可能です。
--モノクロモードですが、これはソフトウェアで変換をかけることなく、モードを切り替えるだけでカラーデータをモノクロで閲覧できる機能ですね。まさにBaiさんが手腕を発揮した機能だったと思われますが?
モノクロモードは、ユーザがカラーデータをモノクロでプリントする前の選定に使えるようなモードとして用意したものです。仰る通り、単純に彩度を落としただけの処理はしておらず、フィルムライクな表現を目指して色設計をおこないました。カラーマップの作成に当たっては、様々なモノクロフィルムを研究し、ユーザ調査もおこなったうえでガンマカーブやコントラストの調整を行っています。
--ボディデザインについてはどうでしょう? こちらも細部を見ると色々な工夫が見受けられますが。
デザインの面では扱いやすさを主眼にしています。先ほどのOSDコントローラもその1つですね。その他にも、スタンドの上に用意したキャリーハンドルを装備したり、パネル位置の調節が容易なようにスタンドのアーム部分にはメモリをプリントしました。プレゼンなどのためにディスプレイを移動する場合でも楽に持ち運べ、原状復帰もすぐにできます。
あと、デザインでは無いですが、苦労したのは遮光フードですね。ディスプレイからの反射光を抑える素材探しが大変でした。重量の制約もありますので四苦八苦しつつ、やっと満足できるフードができあがりました。
企画の発足から約5年、色々と苦労はしましたが、目標とするスペックを維持しつつ、低価格化を実現できました。その甲斐あって、SW2700PTはTIPA(Technical Image Press Association)のAWARDS 2016で「Best Photo Monitor」として選ばれました。
--まさにフォトグラファー向けディスプレイとして狙い通りの場所に着地できた感がありますね。TIPA AWARD 2016で受賞したということは、海外では日本よりもかなり早いタイミングで発売していたわけですね。日本での発売が遅れた理由は何でしょう?
日本市場のピーキーさゆえですね(笑)。欧米で先行して発売し、ある程度のデータを集めて万端の態勢で日本市場に挑む格好になりました。日本のフォトグラファーの方々にはお待たせして申し訳ありませんでした。今までハードウェアキャリブレーションディスプレイの導入に躊躇っていた方もぜひ購入していただきたいと思います。
制作協力:ベンキュージャパン株式会社