特別企画

カメラメーカーに束縛されない「フリーマウント」ストロボ宣言

マウントまたぎでストロボをシェア!古いストロボだって電波式にできちゃいます

クリップオンストロボはデジタル一眼カメラのアクセサリーの中でも代表的なアイテムのひとつであるが、最近のデジタルカメラは高感度ノイズもうまく抑えられており、光量の少ないシーンであっても常用ISO感度の範囲であれば、ISO感度を上げることでほとんど画質を損なうことなく撮影できるようになってきた。

だが被写体の"瞬間の表情"を確実に捉えたり、色や質感をより良く再現するという観点では、クリップオンストロボは依然として有効なアイテムである。

各カメラメーカーが発売している純正クリップオンストロボは、一般的にそのメーカー製のカメラでのみ使用することを想定して作られている。そのため複数メーカーのカメラを並行して使用しているユーザーは、メーカーごとにクリップオンストロボもそれぞれ購入する必要がある。

そのためA社用ストロボとB社用ストロボの2台を持っていても、それら2台の両方をA社(またはB社)のカメラと組み合わせて使用することは基本的に難しい。つまりストロボを複数台持っていたとしても、メーカーが異なっていると単純な光スレーブ発光以外で多灯ライティングに利用するのは難しいのが現実だ。

そこで今回は、対応メーカーをまたがっても使用できるシステムを紹介したいと思う。ニッシンジャパンのNAS(Nissin Air System)である。NASに対応したクリップオンストロボ「Di700A」と「i60A」を使いながら、その魅力をお伝えしたい。

NASとは一体?

Di700Aとi60Aは、いずれもキヤノン用、ニコン用、ソニー用、フォーサーズ用、富士フイルム用といった各社対応モデルが用意されている。対応メーカーのカメラと組み合わせた場合、カメラメーカーの純正ストロボと同様、TTLオート調光も含めて使用できる。

ただし、ストロボをカメラに直接装着する「オンカメラ」状態では、対応メーカー以外のカメラと組み合わせても正しくTTL調光できない。その点は純正ストロボと違いはない。

NASに対応したDi700A(右)とi60A(左)。どちらもキヤノン用、ニコン用、ソニー用、フォーサーズ用、富士フイルム用がラインナップされている。

Di700Aとi60Aの大きな特徴としては、カメラから取り外した「オフカメラ」状態でも、専用コントローラー「Air1」を使用することで、ワイヤレスシンクロ撮影ができる点が挙げられる。

これこそが、NASというニッシンストロボ独自の電波式コントロールシステムによるものだ。電波式だが、いわゆる技適マークも取得済みなので日本国内で安心して使用できる。

NASを採用したニッシンストロボについては、以前に掲載したこちらの記事で仕組みや使い方について言及しているので、ぜひご一読いただきたい。

もう少し詳しく解説しよう。

オンカメラ状態での使用では、各カメラメーカー純正品と同様のはたらきをするニッシン製のストロボだが、カメラから取り外したオフカメラ状態では、ニッシンの独自規格であるNAS方式によるコントロールに切り替わる。

これによって、NAS方式を採用したDi700Aとi60Aは各カメラメーカーのTTL調光方式に捉われずに作動させられるのである。

つまりオフカメラ状態でのワイヤレスシンクロ撮影であれば、複数のカメラメーカー用モデルが混在していても、1台のAir1からコントロールできるというわけだ。いわば「フリーマウントストロボ」と呼べるものである。

Air1。ストロボスタンドに装着した状態。実際にはカメラのストロボシューに装着して使う。

ニッシンAir1は、カメラのストロボシューに装着して使用するワイヤレスコマンダーである。キヤノン用、ニコン用、ソニー用、フォーサーズ用、富士フイルム用をラインナップしている。

2灯ライティング

ストロボ:キヤノン用Di700A×2

カメラ:EOS 5D Mark IV

ここで実際に、オフカメラでのスタジオライティングに挑戦した画像をご覧いただこう。撮影に用いたカメラはキヤノン「EOS 5D Mark IV」だ。カメラに取り付けるコマンダーAir1はキヤノン用となる。

まずはキヤノン用Di700A 2台をコマンダーのAir1からコントロールできるようにペアリングを行なう。

そのうえで実際に2台のストロボでライティングセットを構成。トップライトにバウンス用の白傘、左サイドには大きな面光源となるBOXライトを設置し、モデルの足元には白レフ板を置いている。

撮影結果がこれ。

オフカメラによるライティングは、撮影者の意図した方向から被写体を自在に照らすことができる。それにより、立体感のある姿を捉えられるというわけだ。

特にトップライトの存在は人物の頭の上や肩上面などを照らす太陽光の再現となる。これこそがライティングの基本である。

3灯ライティング

ストロボ:キヤノン用Di700×2 + オリンパス用i60A×1

カメラ:EOS 5D Mark IV

Di700Aを2台使用した2灯を基本とし、トランスルーセント傘にi60A 1台を組み合わせた1灯を追加した。ここではフォーサーズ用のi60Aをキヤノン用Air1に追加でペアリングさせて、対応カメラメーカー混在の状態でコントロールしている。

2灯のみでは消えきれなかった顔の影や顎下の影を弱めると同時に肌の肌理を整え、くすみを取り色味を引き出す効果が得られる。白い服の皺も目立たなくなる。

2灯ライティングの写真と3灯ライティングの写真を見比べていただくと、肌のくすみや色味の違いがよくわかると思う。これはトランスルーセント傘によるフロントライトの効果だ。

そして思い出していただきたいのは、ここではキヤノン用とフォーサーズ用のストロボが混在しているということだ。このようにNASに対応したストロボであれば、異なるカメラメーカー用のストロボであっても、同一のAir1とペアリングすることが可能なのである。

4灯ライティング

ストロボ:キヤノン用Di700A×2 + オリンパス用i60A×1 + 580EX II

カメラ:EOS 5D Mark IV

NASの一員であるワイヤレスTTLレシーバー「AirR」も使ってみよう。AirRは、NAS非対応のクリップオンストロボに装着することで、そのストロボをNAS対応にする製品だ。

AirR

ニッシンのストロボ以外でも、キヤノン用、ニコン用、ソニー用と組み合わせられる。活用すれば、電波式ワイヤレスコントロール機能を持たないストロボでもAir1からのコントロールが可能となる。

AirRにキヤノンのクリップオンストロボ580EX IIを組み合わせたところ。

580EX IIは少し前の機種であり、また電波コントロールの機能は搭載されていないが、AirRと組み合わせることでAir1からのシンクロおよび調光が可能となる。

ただし、AirRはコントロールするAir1と同じカメラメーカーモデルに揃えなければ遠隔制御はできないという特性がある(例外としてマニュアルでのシンクロ発光のみ可能)。

AirRと580EX IIを組み合わせて、先の撮影セットに4灯目として追加する。ストロボ発光部にはスポットライト用のアイテムを装着してある。なおストロボに繋がっているケーブルは外部電源からのもの。

それまで黒つぶれしていた髪に光が射したことによって、艶やかで立体感のあるポートレートにできた。

AirRを活用すれば、これまでに所有してきたストロボも有効に活用できる。「あと1灯欲しい」といったときにあるととても役立つアイテムだ。

5灯ライティング(その1)

ストロボ:キヤノン用Di700A×2 + ニコン用Di700A×1 + フォーサーズ用i60A×1

カメラ:EOS 5D Mark IV

・トップライト:アンブレラバウンス Di700A キヤノン用
・左:BOXライト Di700A キヤノン用
・左奥:ストリップライト Di700A キヤノン用
・右奥:ストリップライト  Di700A ニコン用
・背景布越し:バックライト i60A フォーサーズ用
・撮影カメラ:キヤノンEOS 5D Mark IV + Air1 キヤノン用

ストロボはすべてニッシン製だが、複数の対応メーカーモデルが混在していることがわかる。いずれもひとつのAir1にペアリングされた状態だ。

なお、Air1ではストロボをA、B、Cの3グループに分けて調光できる。そこで今回は各ライトを下記のようにグループ分けしている。光量比としてはA>B>Cの比率だ。

- Aグループ:トップライト&バックライト
- Bグループ:左右スプリットライト
- Cグループ:BOXライト

この作品のライティングはトップライトを重視した。若干斜め後方の高い位置から注いでいるトップライトをメイン光としている。モデルにも光の流れを明確に伝えそれを意識したポーズをとってもらった。

ただ、メインライトのみでは人物の表情が影に覆われてしまって活きてこないので、補助光として左サイドより面光源のBOXライトを発光させ、顔や体のトーンを調整した。ライトを高い位置にしているのは、メインライトからの光の方向性を崩さないためだ。

方向性のあるメイン光と補助光で被写体を描画する光をつくり上げたうえで、より印象を強めるためのライティングをプラスする。

モデルの着ている真っ赤な衣装の印象を強めるため、両サイド後方からスプリットライトを入れ、体の輪郭にハイライトをつくりボディラインを強調すると同時に、発色のよい衣装の赤色を際立たせてソリッドな印象とする。

そして最後にアクセントライトとして、布背景の裏側からスポット光を透過させてバックライトをつくり、ダークな背景色のなかにハイライトを描き人物がより浮き立つようにした。

5灯ライティング(その2)

ストロボ:キヤノン用Di700A×2 + ニコン用Di700A×1 + フォーサーズ用i60A×1

カメラ:OM-D E-M1 Mark II

メインカットの撮影が終わった後に、カメラをオリンパスOM-D E-M1 Mark IIに持ち替えてオフショットを撮影。被写界深度の浅い写真を撮りたかったので、光量を抑えるために全体の発光量を下げる必要があったが、ライティングはメインカット(5灯ライティング)のまま流用している。

カメラを代えた際、全ストロボをフォーサーズ用のAir1にペアリングし直しているが、ストロボをすべてフォーサーズ用に付け替える必要はないので、結果的にライティングを組み直すための手間と時間はかからずに済んだ。

15灯ライティング

ストロボ:たくさん(対応メーカー混在)

カメラ:EOS 5D Mark IV

最後にちょっと面白い撮影を試みてみた。Air1とペアリングされたDi700Aとi60Aを、モデルの背後にいっぱい並べて発光させることで、人物が光の中に溶け込むようなライティングを作ってみたのだ。

並べたストロボは15台ほど。対応カメラメーカーは混在状態である。これを一斉に発光させ撮影を行なった。

結果はごらんの通りである。ふとした思いつきで試してみたライティングだったが、意外なほどカッコイイ写真となった。そう、ライティングとは、思いつきから始まる光遊びなのだ。

フリーマウントスタイルでワイヤレスライティングにチャレンジ

今回は基本的なライティングから応用ライティング、そしてちょっとお遊び要素を入れたライティングと、3パターンのストロボライティングをご覧いただいた。

カメラメーカーの規格に捉われることなく、複数のカメラメーカー用モデルのストロボを無駄なく活用できることこそ、フリーマウントスタイルをとるNASストロボの特徴だ。

この記事を読んだことでライティングに興味を持っていただけたならば、ぜひともワイヤレスコントロールが可能なニッシンのNAS対応ストロボを使って、色々と試してみてほしい。きっと、楽しみながら個性的な作品が作れるはずだ。

編集部から追加情報2つ!

その1:CP+2017にはNASシステム新コマンダー「Air10s」がお目見え

今回使用したAir1の上位モデル「Air10s」が4月に発売されます。発売に先立ち、2月23日に開幕する「CP+2017」のニッシンジャパンブースで展示されます。

Air10s

8チャンネル対応や1/3EVステップ制御などのハイスペックに加え、TTLモードの発光量を記録し、マニュアルモードにした時に置き換える「TTLメモリー機能」を新たに搭載。より使いやすそうなコマンダーに進化しています。

その他CP+2017のニッシンジャパンブースでは、ライティングにまつわるステージデモを連日実施。基本から面白ネタ(?)まで取り揃えてお待ちしております。

CP+2017
開催日時:2月23日(木)〜26日(日)
会場:パシフィコ横浜

昨年CP+2016でのニッシンジャパンブースの様子

その2:今回使用したスタジオは……

今回使用したスタジオは、ニッシンジャパン本社1階に新しくできた「スタジオ1」。これまでのニッシンジャパンスタジオより広くなりました。

特筆すべきは天井の高さ。今回の記事のように、モデルの上から照射するトップライトも楽にセッティングできます。背の高いモデルさんがハイヒールを履いてもOK!

利用予約はこちらをご覧くださいませ。
http://www.nissin-japan.com/self_studio.html

制作協力:ニッシンジャパン株式会社
モデル:いのうえのぞみ

礒村浩一

(いそむらこういち)女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。全国で作品展を開催するとともに撮影に関するセミナーの講師を担当。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆多数。近著「オリンパスOM-Dの撮り方教室 OM-Dで写真表現と仲良くなる」(朝日新聞出版社)、「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド」(玄光社)、「一眼カメラの選び方がわかる本 2016」(晋遊舎)など。カメラグランプリ2016選考委員。