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Hasselblad 907X 50Cアニバーサリーエディション

限定モデルならではの特徴を掘り下げ 細部に込められたデザイン哲学を考える

ハッセルブラッドのXシリーズのミラーレスカメラ「907X 50Cアニバーサリーエディションキット」が11月24日に発売された。同社の創立80周年を記念したモデルで生産台数は世界で800台限定。今回この希少な1台を手にする機会を得た。記念モデルにふさわしい豪華なパッケージングなど、手にする喜びに満ちた本モデル。限定モデルならではの魅力をお伝えしていきたい。

907X 50Cシステムとは

本モデルの詳細に触れる前に、907X 50Cのシステムについて改めておさらいしておきたい。

907X 50Cは、約5,000万画素のCMOSセンサー(サイズは43.8×32.9mm)を搭載したデジタルバック「CFV II 50C」とカメラボディ「907X」で構成されるミラーレスカメラで、レンズは同じくXシリーズに属するミラーレスカメラ「X1D II 50C」や「X1D 50C」同様AF制御に対応したXCDシリーズが利用できる。

ボディ中央部にファインダーを備えたカメラらしい佇まいのX1Dシリーズに対して、907X 50Cシステムを構成するデジタルバック「CFV II 50C」は、500C/MなどのVシステムカメラと組み合わせて運用することも可能。ミラーレスカメラ単体としての運用に加えて、往年のVシステムカメラをデジタル化することができるシステムとなっている。特にクロームメッキが施された通常モデルはVシステムのフィルムバックさながら。その形状デザインに向けられる期待どおり、違和感なく装着できる点が特徴となっている。

特別感を強調したパッケージ

今回手にする機会を得た限定版は、ハッセルブラッドの創立80周年を記念したモデルと位置づけられている。パッケージの仕様もこれに準じたデザインで、表面に大きく80周年を示すロゴが箔押しであしらわれている。箔の色味も少しくすんだシルバーで、本限定モデルの基調色にあわせているところもニクイ演出だ。ロゴ下には「CELEBRATING 80 YEARS」の文字が同じく箔押しでデザイン。側面にはVマークがあしらわれており、ハッセルブラッドの歴史を祝う本機の特徴をよく表している。

昨今ではカメラ製品も含め、SDGsへの配慮やコスト圧縮の関係と思われる製品パッケージの簡素化が進んでおり、製品を手にした際の「購入した」という実感が得づらくなってきているように思う。時世の流れとはいえ若干の寂しさを覚えることも確かだ。

その点で本モデルの製品パッケージは、製品の特徴や位置づけ、その高額な価格をしっかりと納得させてくれる重厚感にあふれたものとなっている。試用機ながらパッケージを見た瞬間から強い期待感を抱いたのは久しぶりのこと。800台という限られた生産台数の中からオーナーとして本機を手にした方の感情は、きっとこれ以上の喜びに満ちていることが想像に難くない。

箱からして豪奢なパッケージだが、箱蓋が寸分違わずピッチリとつくられており、開封時に空気が抜けていく音がしっかりと聞こえる。重さを感じながら箱蓋を引き上げると、整然と詰め込まれた本体やレンズが姿を見せる。シンメトリックに配置された各パーツの収まりが実に美しい。

各パーツはおそらく計算尽くで配置バランスを設計しているのだろう。その配置から、カメラボディ、デジタルバック、レンズを装着した時の姿が直感的に把握できる。

本限定モデルはデジタルバック「CFV II 50C」とカメラボディ「907X」のほか、本モデルのためにデザインされたオール金属外装の「XCD 3.5/30」で構成。これらに加えて、同じくデザインをあわせたコントロールグリップとオプティカルビューファインダーが同梱。907X 50Cが示すシステムを余すところなく手にできる内容となっている。

中央のパーツがカメラボディの「907X」。ごく薄いパーツのため説明されなければこれが「ボディ」とは一見してわからないところも907X 50Cのユニークなポイント。ハッセルブラッドストア東京でも「ボディです」と説明しなければ、気づかれないことが多いそうだ

細部までこだわった「限定」らしいアプローチ

さっそく各パーツの細部に迫っていきたい。本モデルでは配色デザインのほか、細かなあしらいや手触りなども通常モデルとは異なる仕上げとなっている。スペック自体は同等ながら、全く別物といってよい仕上がりは、バリエーションモデルという枠を超えたものだ。アプローチでいえば、PENTAXのJ Limited 01がイメージとして近いように思う。ベースは同じでも特に意をこらして仕上げられていることが手にした瞬間から伝わってくる。

特にXCD 3.5/30は光学系は同じながら手触りや質感が全く別モノとなっている。このデザインアプローチで仕上げられた他のXCDレンズも手にしたいと思わされる出来だ

本体部:907X 50C

907XとCFV II 50Cの細部に迫っていく。基本的な仕様および機構は通常モデルと変わらない。本限定モデルではCFV II 50Cの天面メーカーロゴ部分に往年のVシステムを思わせる手書き風の書体が用いられている。彫り込みで表現されているところも特徴だ。本モデルでは、プレートであしらわれている銘板以外のロゴを含めた各種刻印の多くが、同じように彫り込みで表現されている。

「HASSELBLAD」の銘板部分は取り外すことができる。この部分に「907X オプティカルビューファインダー」を装着することになる
参考:通常モデルのロゴ部分。均質な印象のあるロゴとなっていることが見てとれる

正面姿はクロームメッキが眩しい通常モデルに対して主張控えめな印象。クロームメッキがクラシックな姿を踏襲したものなら、本モデルはクラシックは意識しながらも、それをさらにモダナイズしたものだとも言えそうだ。

側面に銘板がつけられているのも限定モデルらしいデザイン。80周年ロゴとメーカーロゴ、「SINCE 1941」の文字があしらわれている。フチ部に用いられているグレーがかったシルバーの色調をメーカーは「ルナーグレーカラー」と表現している。907X、CFV II 50Cのプレートもこの色調で統一されている。ストラップ環まで同系色で仕上げてきているあたりにもトータルデザインを徹底しようという意気込みが感じられる。

起動画面も本モデル限定のデザインだ。決して起動時間が短いモデルではないものの、つい表示を見ている間に撮影準備が整う。スナップ等でも使い勝手のいいモデルなだけに起動時間が早いに越したことはないのだが、いじらしさを感じさせるのは、本モデルならではの特権なのかもしれない。

Xシステムとして先行して登場したX1D II 50Cにも言えることだが、本モデルも含めUSB Type-C端子を有するiPadを用いてテザー撮影運用ができるのも大きな強みだ。ノートPCのほうがデータ保存や操作性の面で秀でている側面はあるものの、どうしても設置スペースを確保して運用する必要がある。これに対してiPadなどのタブレットデバイスであれば外ロケなどでも運用がしやすくなる。ワンマンオペレーションで撮影をする場合も大画面かつ高精細なディスプレイが使えるメリットは大きいだろう。

CFV II 50Cの銘板部。80周年ロゴ含めしっかりと彫り込まれ、塗料が流し込まれたものとなっている。直接手が多く触れる部分だが、そうそう使用に伴ってかすれて消えてしまうことがなさそうだ。

また本モデルではグレインレザーが用いられている。通常モデルよりも厚みのある感触で、グリップがしやすいと感じた。ツルツルとしたクロームメッキも魅力だが、本モデルで採用されているマット塗装は手指への当たりも含めグリップのしやすさに貢献しているように感じられた。実際に最小構成で撮り歩いてみた印象からも、通常モデルよりも安定性が高くなっていることが実感された。

限定モデルらしく細かな部材の選定やデザインへのこだわりが強く伝わってくる本製品だが、思わぬ発見もあった。

CFV II 50Cは右側面にバッテリーとメディアスロットが設けられているが、本モデルではこのスロットカバーの開閉が少し固めになっていたのだ。

と、ここで急に細かいことを言い出したようにみえるかと思うが、実は907X 50Cの運用で、このスロットフタは使用感に大きく関わっている。

というのも、907X 50Cはデジタルバックそのものが本体の大部分を占めていることから、通常のカメラ製品にみられるようなグリップ部を有していない。この独特の形状が本機ならではの使用感につながっているわけだが、その特徴ゆえにグリップはボディを包み込むようにしてホールドすることになる。その際に手のひらがスロットカバー部に触れて意図せず開いてしまうことがあったからだ。

構えている時は問題ないのだが、シャッター操作時に手を動かした時に手首をひねったり、腕を引いた際にボディに触れている手の平が手前側に動き、それにつられてスロットカバーがスライドしてしまいやすかったのだ。もっとも500系などフィルム時代のスタイルを考えると、右手はボディに添えてホールドの役割を果たし、左手指をレリーズにかけるという使い方のほうが正しいのかもしれない。巻き上げレバーという自然と右手指に与えられていた操作系がなくなったことで、右手でレリーズする使い方が可能になった、という考え方ができる。とはいえ、ボディ形状ゆえについ右手で操作したくなるのも事実。伝統をとるか、新しいスタイルを築くか、使い方がユーザーに委ねられているところにも使いこなしの面白さがある。

スロットカバー部。「H」エンブレムもしっかりとしたエッジ部と同じ素材・仕上げとなっている。レザーもエンブレムをまわりこみながら、形状にあわせてしっかりと抜かれており手ぬかりはない。細かな意匠ひとつひとつが全体のデザインに緊張感と統一感を与えていることがよくわかる部分だ

もちろん試用モデルが多くの手を経て経年変化してきているだろうことも考慮に入れなければならないだろうが、知己の通常モデルユーザーに本限定モデルを触ってもらったところ、やはり同じ感想を抱いていたので、本モデルならではの大きなグッドポイントになっていると言えそうだ。

対応記録メディアは通常モデルと同じくUHS-II対応SDカードのデュアル構成となっている

また今回の試用で見つけた安定したホールド感が得られる持ち方もあった。このスロットカバー上部に親指をかけて、ちょうどL字を描くように中指をシャッターボタンにかけるという持ち方だ。手の位置を変えることなく操作できたので、長時間これでホールドし続けるのは安定性にかけるものの、いくつかまとまった枚数を速写で捉えたいシーンで有効な持ち方だと感じた。

レンズ:XCD 3.5/30

同社によれば、本限定モデルでは「SWC」の通称で知られるBiogon 38mm F4.5レンズを備える超広角Vシステム「ハッセルブラッドSWC」をインスピレーション源としてデザインされたモデルとなっているという。

キットレンズにXCD 3.5/30を採用した理由も、この源流としているモデルの「超広角」を意識した故なのだろう。メカメカしさや全体的な美しさという点ではSWCは高度に完成されたシステムという印象があるが、本機の全体的にモダナイズされた雰囲気も、一方で一つの完成形だと言えるのではないだろうか。

斜め俯瞰から見ると少々レンズ全長が長めに感じられるかもしれないが、ホールドした際の手への収まりは見た目以上に高い。コロンとした907X 50Cの形状によるところも大きいが、真俯瞰から見るとイメージしていた以上にコンパクトであることが実感できるサイズ感となっている。

またデザイン上のポイントとして、ボディにレンズを装着した際のロゴと文字の配置バランスが整っている点も全体的な統一感向上に一役買っている。左側面部から見ると、CFV II 50Cの銘板からストラップ環、レンズの「HASSELBLAD」銘と「80TH ANNIVERSARY」の刻印が一直線に並んでいることがわかる。

文字色に関してもボディ側が黒文字となっているのに対して、レンズ先端側の「80TH ANNIVERSARY」は刻印だけで、レンズ外装色に溶け込んだ仕様となっている。

見た目の重心バランスも先端側に向けて軽やかになっていくデザインは、モダンさを強調するのとともに、全体的な軽快感も底上げしてくれているような印象がある。全て計算尽くでデザインされているのだろうが、実にニクイ演出だと感じる。細部まで緊張感が行き渡っているからこそ、全体のシェイプが丹精整った印象に引きあげられているのだと実感される。

底面側。シリアルナンバーのほか、多くの場合シール貼付での対応となっている環境対応表示なども彫り込みで表現されている。

三脚取りつけ用のネジ穴は光軸上の配置。となりのねじ穴はコントロールグリップ取りつけ用のねじ穴だ。向かって左端の5つのピン接点もコントロールグリップ用のもの。

本キットのレンズはオール金属外装となってはいるが、しかし金属ならではの硬質な感触はない。誤解してほしくないのは、決して剛性感に劣っているという意味ではないこと。金属素材ながら柔らかな手触りが得られる仕上げとなっており、その組み立て精度の高さと相まって非常に気持ちのよい操作感が得られる仕上がりとなっているのだ。

AFレンズながらねっとりと動くフォーカスリングは質の良いMFレンズさながら。シャリシャリした金属同士が擦れ合う感触は皆無で、時にAFレンズであることを忘れそうになる。

また、通常はゴムで仕上げられているローレットも金属素材に置き換えられていることで全く印象が違う仕上げになっている点もポイント。「H」マークをデザインの基調に用いているが、決してウルサイ印象もなく、また指掛かりの柔らかさも得られた。

おそらく彫り込みが適度にコントロールされていることが理由だろう。指に刺さってくるような深さでないこともあり、リングのトルク感とあわせて、とても上質な操作フィーリングを生んでいる。こうした仕上げは、ぜひ通常モデル展開でも見てみたいと思わせるもので、多少のコスト上昇があったとしても、これが標準になっても多くの人が受け入れてくれるのでは、と思わされた。繰り返しになるが、それだけ上質な仕上がりであることを、あらためてお伝えしておきたい。

ちなみにレンズのフィルター径は77mm。大型センサー機用の現代レンズらしく存在感のあるつくりとなっている。

レンズ後端部はゴムシーリングが設けられている。レンズ側とボディマウント側の組みつけ精度が相当に高いのだろう。レンズ装着時は抵抗感を一切感じることなく「ネットリ」とした感触でレンズの着脱ができた。通常モデルも触らせてもらったが、少し金属のシャリ感が感じられるものだったことをお伝えしておきたい。ストア東京スタッフに聞いたところ、マウント自体の精度は通常モデルと変わらないとのことだったので、撮影性能に直結する部分ではないが、一種官能的ですらある着脱感はちょっと病みつきになりそうに感じた。意味もなくレンズの着脱をしてしまう程度に、気持ちのよい感触だったことは、改めて強調しておきたい。

レンズを907Xに装着した状態で、CFV II 50Cを取り外したところ。レンズを装着した状態だと少々フロントヘビーとなるが、CFV II 50Cも相応の重量があるため、セットアップ時の重量バランスは見た目以上に良い。手のひらでホールドするスタイルもバランスの良さを引き出しているように思う。

フル装備形態に

本限定モデルでは、通常モデルでは別売となっているコントロールグリップとオプティカルビューファインダーも、デザインをあわせたものが同梱されている。レンズフードも装着してフル装備状態にすると以下のような姿になる。

いかにも戦闘力があがった印象になるが、一方でどこか軽やかさを感じさせるデザインでまとめられている印象を抱くのは、各パーツが曲線的に配置されており、ゴテゴテした、いかにもな「盛った」感を発していないことが理由だろう。

コントロールグリップを装着した状態でも三脚ネジ穴は光軸上の配置を保っている。グリップの取りつけネジも出っ張って干渉してしまうということがなく、底面はフラットになる。こうした細かなところも丁寧に仕上げられているところも好感触。オプション装備ながら、トータルバランスやデザインに配慮して設計されていることがよくわかる。

こうした細部を見るとつくづく「用の美」という言葉が思い出されるが、まさに本製品は工芸的な魅力とカメラとしての実用性が同居した稀有な例となっているように思う。

オプティカルビューファインダーは907Xの天面銘板プレートを外して装着する。手書き風のロゴが見られなくなるのは寂しさがあると思いきや、ビューファインダーのロゴが手書き風になっていることに気づく。「これは絶対に計算してやっている」、そんな感想を抱かされる部分だ。

通常モデルに準じた基本仕様となっているとおり、本モデルでも背面モニターのチルトが可能。目一杯引き出した状態だとちょうど上から覗き込むハッセルらしい使い方も可能となる。その独特の形状からレンズを真上に向けた状態での安定性が非常に高く、超広角の画角にあわせてあおったり、パースをつけたりといった撮影がやりやすい点もポイント。水平位置も撮影者自身の軸線とカメラの軸線が合うことから、とりやすく感じた。特に建築撮影や海などで水平線を入れた撮り方をしたい場合に使いやすさを実感できるように思う。

45度前後の角度でもクリック感を伴ってモニターが固定される。腰だめにしてカメラを構えた際にも見やすい位置にモニターがくる。ストラップを併用して3点支持すれば、スローシャッターなどもいけそうな感触だ。

同梱物をチェック

最後に本限定キットの同梱物をあらためて見ていきたい。シンメトリックに配された箱の中の、右側の箱には製品保証書やマニュアル、レンズフード、シンクロ撮影用のストロボケーブルなどが収められている。

レンズフードの下にある黒いパーツはバッテリーの端子カバーだ。その下の黒い枠は、500シリーズなどのボディ側スクリーン上に置くことで本カメラのフォーマットサイズに画面を合わせるためのパーツ。いつかはスクエアフォーマットのバリエーションモデルが登場することを期待したい。

ストラップは約3cmほどの幅をもつ一般的なサイズ。シルバーグレーに近い色合いで本限定モデルとのマッチングも高いことが窺われる。

左側の箱には充電・通信用のUSBケーブル(Type-C→Type-A)とレザー素材の巾着型レンズケースが入っていた。USBケーブルは少し硬めの布素材がまかれたようなつくりとなっており、しなやかな曲がり具合が感じられた。

バッテリーは1個同梱されており、持ち自体も良い印象。こまめに電源を切りながら撮り歩いたところ400カット前後を撮影することができた。ただスリープモード等を多用しながら撮り歩くスタイルであれば、予備があったほうが安心だろう。

別途求めることにはなるが、本バッテリーに対応したダブルチャージャーはUSB Type-C接続での充電に対応しており、使い勝手が非常に高い。チャージャー自体も金属製で剛性感が高い仕上がりとなっており、またコンパクトサイズのため嵩張ることもないので、ぜひ一緒に揃えておきたいアクセサリーだ。

バッテリーもX1D II 50Cと共通のものが用いられているところも嬉しいポイント。両カメラを同時に運用するというケースは稀だろうとは思うが、システムとして運用する際の拡張性もしっかりと考えられているところも嬉しいポイントだ。レンズが共通していることもあり、どちらかを揃えれば、拡充していく時のハードルが下がるのは大きい。

もはや工芸品といっていいモデル

手にする喜びに満ちたモデルだ。これがごく短い間ながら本機を試用する間に抱いた素直な感想だった。通常モデルのクロームメッキ仕上げもクラシカルな趣で味わい深いが、適度にモダンな佇まいになった本モデルは、また違った使い勝手をユーザーにもたらしてくれると感じた。

というのも、光沢を抑えた配色はシルバー仕上げのレンズがセットされているにも関わらず、街中での撮影に溶け込んでくれたからだ。グリップや光学ファインダーを外した907X 50Cの最小構成で撮り歩いた際には、手のひらにボディが収まるため威圧感や撮っている感を与えないのだろう。とてもスナップ向きのカメラだと感じた。

本モデルでセットになっているレンズの焦点距離は30mm。35mm判に換算すると、およそ24mm前後の画角となる。「SWC」をインスピレーション源としているという製品コンセプトのとおり、超広角での運用を企図したレンズチョイスということなのだろう。

レンズ部でまず特筆すべき点は、オール金属外装ながら柔らかな手触りが得られていることだろう。フォーカスリングに配されている「H」の彫り込みがエッジがたっているだけに、見た目だけでは手に痛そうに思えるが、触れてみると全く逆の感触がある点が面白い。実用上もしっかりと握りこめる仕上がりとなっており、このデザインラインにした他のレンズも使ってみたいと思わされた。シルバーの仕上げも光沢感控えめで主張しすぎないため、ボディデザインとのマッチングがとても高い。

超広角の画角に加えて、大型センサーならではの豊かな階調や情報量をいかした撮影ができるのも本モデルならではの体験だと思える。冬の空気感や硬さを増した光の中での撮影は、レンズの耐逆光性能や繊細な描写が際立って感じられるものだった。

ローアングルで背面モニターを覗き込むようにして撮影するスタイルや、真上にレンズを向けた撮影がしやすかったのも、907X 50Cならではのポイント。さらに本モデルでは超広角の画角となるため、アングルを少し変えるだけでも画面構成が大きく変わってくる。その意味でも使用するほどに気づきがあり、楽しさが倍増していくという側面もあると感じた。

カメラ内で生成されるJPEGの画質も安定している印象だ。RAWデータから起こす場合は、さらに豊かなトーンが記録されていると思うとゾクリとさせられる。
907X 50C / XCD 3.5/30 / 絞り優先AE(F4・1/350秒・±0EV) / ISO 100

おいそれと手が出せない価格であることは事実だが、全体の仕上げや各パーツの精度からは並々ならぬ意気込みが伝わってきた。言わば同社の哲学がしっかりと詰め込まれているモデルだと言えばいいだろうか。一つひとつの質感や操作感からは「もはや工芸品」という感想を強く抱かされた。撮影をするための道具でありながら、モノとしての哲学が凝縮されたプロダクトは実は少ないものだ。そうした意味でも、本モデルを含め907X 50Cが提示する世界観は唯一無二。その感触や考え方、モノとしての潔さに共感できるのであれば、ぜひ検討をおすすめしたい。通常モデルよりも高額であることは確かだが、本限定モデルでしか得られない魅力や、モノとしてのつくりこみの素晴らしさは確かに宿っている。

デジタルデバイスの常として製品自体のモデルチェンジサイクルは確かに存在する。が、同社のカメラは、そのサイクルも長めで、一つひとつの製品の魅力も色あせづらい。決して多機能であるというわけではないし、そもそも現今のミラーレスカメラという枠組みの中で考えるのであれば手ブレ補正機構だって備えていないのだから、それだけでもデメリットが大きいように感じられるのは自然な流れだ。だが、そうしたデメリットに見える部分を覆すだけの哲学が詰め込まれていることもまた事実。惜しむべき点は、世界全体で800台しか生産されないため、手にすることそれ自体のハードルが高いことだろうか。同ストアでは抽選販売が行われていたが、一部のカメラ専門店等でも製品の取り扱いがあるようだ。

本誌:宮澤孝周