新製品レビュー

Adobe Lightroom CC

GPU対応、フィルターブラシ、顔認識…定番写真ソフトがさらに進化

Lightroomは、Photoshopでおなじみのアドビシステムズ社が開発した統合写真ソフトで、写真の取り込みから閲覧、管理、画質調整、プリント、Webでの公開といった、撮影後の作業全般を1本でカバーできるのが特徴だ。先ごろ、販売が終了したApple社のApertureもにたようなコンセプトの製品だったが、Lightroomは、そのApertureからの乗り換えのための移行ツールも備えている。

そのLightroomが4月22日、最新版にバージョンアップした。

販売形態は、買い取り型のパッケージ版と、年間契約(月払い)のサブスクリプション版が用意されている。

「Lightroom 6」と呼ばれるパッケージ版は1万6,000円、旧バージョンからのアップグレード版が9,600円。

「Lightroom CC」と呼ばれるサブスクリプション版は、月額980円で「Lightroom CC」と「Photoshop CC」が利用できる「Creative Cloud フォトグラフィプラン」などが選べる。

ちなみにCreative CloudでLightroomを購読済みの場合、自動的にアップデートの通知が来ているはずだ。

※記事中の価格表記はすべて税別です。

現像モジュールの画面。このあたりは従来バージョンとの違いはない。

追加された新機能

GPU対応

基本的な機能やインターフェースについては従来バージョンと同じだが、新バージョンではGPU(グラフィック プロセッシング ユニット)も使用するように変更された。GPUを使用するかどうかについては、「環境設定」の「パフォーマンス」タブでオンオフが切り替えられる(初期設定ではオンになっている)。

「環境設定」に「パフォーマンス」タブが追加され、「グラフィックプロセッサーを使用」するかどうかを選択できる。初期設定ではオンになっている。

けしてパワフルとはいえない筆者の環境ではあまり違いは感じられなかったが(色数の多い画像でホワイトバランスのスライダーを端から端まで振るようなことをやると、オンにしたほうが色の変化がスムーズに行われるのが分かった)、ハイパワーなGPUを搭載したパソコンを使っているのであれば、現像時などのパフォーマンス向上が体感できるだろう。

顔認識機能

画像の閲覧、管理を受け持つライブラリモジュールに、新しく顔認識機能が追加された。従来なら、撮影した画像に、自分でキーワードを付けるなどの作業が必要だったが、新バージョンの顔認識機能は、そういう手間を大幅に軽減してくれる。ハードディスクのどこかに埋もれてしまった家族や友人の写真を探し出すのに威力を発揮するだろう。

使い方は簡単で、ライブラリモジュールでツールバーに表示されている「人物」アイコンをクリックするだけ。カタログに保存されている写真の中から、Lightroomが自動的に人物の顔を検出して提示してくれる。最初の段階では、すべて「名前のない人物」と表示されるが、名前を付けると「名前のある人物」に分類され、以降は検出するたびに名前の候補付きで提示してくれるようになる。付けた名前は「キーワード」として記録され、メタデータ検索やスマートコレクションで活用できる。

顔認識機能を利用するには、ライブラリモジュールでツールバーの「人物」をクリックする。
検出された人物の顔は、「名前のない」人物として提示される。
「?」をクリックして名前を入力すると、
「名前のある人物」に分類される。
人物が写っている写真で、ツールバーの「顔の領域を描画」をクリックすると、こんなふうに表示される。ここで名前を付けることもできる。
「名前のある人物」と同一と思われる人物については「?」付きで名前が提示されるので、当たっていれば右端のアイコン、外れていれば左端のアイコンをクリックすればいい。
顔認識が働かなかった場合は、手動で枠を作って、名前を付けることができる。
付けた名前は「キーワード」として記録されるので、タグによる検索やスマートコレクションによる管理が可能だ。

フィルターブラシ

現像モジュールには、フィルターブラシが追加された。補正ブラシと同じく、マウスのドラッグ操作で効果をおよぼす領域を指定する範囲選択ツールだが、段階フィルター(直線で区切った片側にだけ効果を適用できるツール)や円形フィルター(楕円の内側または外側にだけ効果を適用できるツール)使用時に、選択範囲を追加したり減らしたりするのに利用する。段階フィルターも円形フィルターも、素早い操作ができる反面、単純な形の選択範囲しか作れないのが泣きどころだったが、フィルターブラシによって、その弱点をカバーできるようになったというわけだ。

元画像(の同時記録のJPEG画像)。後述するHDRの作例用に撮ったカットだが、「フィルターブラシ」を使って補正してみる。
「ホワイトバランス」と「露光量」を補正して、「ツールストリップ」の「段階フィルター」をクリック。
「段階フィルター」は、こんなふうに直線で選択した範囲に、さまざまな調整を加えるツール。両端の線の内側は段階的に効果が変化する。
「選択したマスクオーバーレイを表示」オプションをオンにすると、効果がおよぶ領域を色付けして表示してくれる。この状態だと、ドームまで暗くなってしまう。
「フィルターブラシ」を使って、効果がおよぶ領域を追加したり減らしたりできる。つまり、範囲選択をより柔軟に行なえるようになったということだ。ここではドームと建物の一部に効果がおよばないようにしている。
効果が分かりやすいように強めに補正した分、少々わざとらしい仕上がりになってしまっているが、建物を明るく仕上げられた。この程度の作業であれば、慣れれば5分もかからない。

HDR合成・パノラマ合成

従来バージョンではPhotoshopなどの外部エディターとの連携が必要だったHDR合成とパノラマ合成が、Lightroom単体で行なえるようになったのも新しい点だ。これまでは、Photoshopでの作業後にTIFFやPSD形式で保存した画像をLightroomに戻す仕様だったため、例えば合成後に、ホワイトバランスを再調整する必要が生じたときなどには、最初からやり直さないといけないという面倒くささがあった。

それに対して、新バージョンでは、合成した画像は自動的にDNG形式(Adobeの標準RAW形式)で保存される。拡張子は変わっても、RAWであることには違いはないから、調整の余裕度はTIFFやPSDよりも格段に高い。素材の段階での調整内容を合成後の画像に引き継がせることもできるので、作業全体の効率化がはかれるはずだ。

また、HDR合成では、風で揺れた木の枝などがズレた状態で合成されることによる「ゴースト」現象を除去するレベル、パノラマ合成では、合成の際の投影法(素材画像をつなぎ合わせるための変形のさせ方)を、プレビュー画像を見ながら選択できるところも使いやすいと感じた。

ライブラリモジュールで合成したい画像を選択して、「写真」メニューの「写真を統合」から「HDR」を選択する。ショートカットキーは「control+H」。
HDR合成に使った画像(の同時記録のJPEG画像)。絞り優先AEで撮って、露出補正で3段の露出差をつけている。
雲のエッジが二重になっているが、とりあえず「ゴースト除去」は「なし」でやってみる。「自動階調」オプションは、好みと違う方向の調整になるケースも多いのでオフにしている。
合成後の画像はDNG形式で保存されるので、ホワイトバランスや露光量などの調整は合成してから行なう。
ハイライトと白レベルを下げて白飛びを抑えつつ、シャドウの階調を持ち上げている。黒の締まりが悪くなると不自然に見えやすいので、黒レベルを下げて意図的に黒つぶれを起こしている。
今度は動く部分がある場合。信号待ちの自動車の台数が違っている。露出差は2EV。
「ゴースト除去」が「なし」でのプレビュー画面。自動車のボンネットなどが変に透けている。
「ゴースト除去」「なし」で合成して調整した状態。
出力画像。あからさまにへんてこな写りである。
「ゴースト除去」を「弱」に設定。「ゴースト除去オーバーレイを表示」をオンにすると、画面のどの部分で「ゴースト除去」を行なっているかが分かる。仕上がり画像上でチェックすべきポイントを覚えておく。
パッと見には目立ちにくいが、自動車のエッジがわずかに見えている。
今度は「ゴースト除去」を「中」に設定した。
出力画像。ゴーストはほとんど分からないが、あると知っていてみると、うっすらとエッジの一部が見えている。
「ゴースト除去」を「強」に設定。広い範囲でゴースト除去が行われているのが分かる。
出力画像。自動車のゴーストは完全に消えている。ただし、ゴースト除去によって、部分的にノイズが目立つことがあるので、その場合はノイズ軽減処理を行なうこと。
お次はパノラマ合成。つなぎ合わせる画像を選択して、「写真」→「写真を結合」→「パノラマ」を選択する。ショートカットキーは「control+M」。
パノラマ合成に使った画像(の同時記録のJPEG画像)。地下に潜る階段の途中で手持ち撮影した。露出がばらつかないようにマニュアルに設定している。
初期設定では「投影法を自動選択」オプションはオン。ここでは「球面法」が選択されている。
「自動切り抜き」オプションをオンにしておくと、変形によってできた余白をカットするように、自動的にトリミングしてくれる。ただし、余白ありの状態の縦横比をキープするので、必ずしも最適解とはかぎらない。なお、「自動切り抜き」は合成後に解除することもできる。
合成後に調整した状態。
「自動切り抜き」なしで「球面法」による合成後に調整して出力した画像。
こちらは「円筒法」でのプレビュー。「球面法」よりも上下方向(正確には、パノラマで振った方向に対して直角方向)に伸びる傾向となる。
「円筒法」で合成後に調整して出力した画像。
「遠近法」でのプレビュー。「球面法」や「円筒法」では避けられない歪曲収差が補正される。ただし、画像の状況によってはうまく合成できないケースが多い。
「遠近法」で合成後に調整して出力した画像。
11コマで約180度振った元画像(の同時記録のJPEG画像)。
「球面法」では寸詰まりになってしまうので、ここでは「円筒法」を選択。
合成後に調整した状態。これだと建物がまっすぐに立ちすぎていて、かえって不自然に見える。
「レンズ補正」パネルの「手動」タブで「垂直方向」を「+20」にして、少し遠近感を付けた。このほうが、視覚的に落ち着くと思う。
トリミングして出力した画像。

まとめ:より完成度を増した統合型写真ソフト

そのほか、ウェブギャラリーがHTML5対応になったことや、スライドショーに動画を含めることが可能になり、パンやズームといったエフェクトが使えるようになったことも改良点としてあげることができる。

サードパーティー製のRAW現像ソフトというと、それだけでハードルが高いように感じる人も多そうな気もするが、メーカー純正のRAW現像ソフトよりも軽快に動作するし、価格的にもかなり抑えられている(プロの定番となっているPhotoshopとセットで月額980円で利用できるプランも用意されているのだ)。また、30日間、全機能をフルに使える体験版も用意されているので、一度ご自身で試してみていただきたい。

北村智史