【新製品レビュー】シグマSD1
シグマ「SD1」が6月10日に発売された。新開発のX3ダイレクトイメージセンサーを搭載し、「SD15」の上位に位置付けられる意欲作である。2月に開催されたCP+2011で製品版に近いプロトモデルを展示し、来場者の注目を集めていたことは記憶に新しいところである。
本テキスト執筆時における販売価格は、大型量販店で驚きの70万円となる。なお、6月30日に新ファームウェア(Ver.1.01)が公開されたが、本テキストおよび作例はその前に執筆、撮影したことをお断りしておく。
■従来と同様の先鋭感のまま画素数がアップ
SD1のトピックは、冒頭にも記した新しいX3ダイレクトイメージセンサーの搭載だ。RGBの3層構造からなるいわゆる「フォビオンセンサー」だが、その開発元の米国フォビオン社は、2008年にシグマの完全子会社となった。SD15やDPシリーズに搭載されるセンサーは傘下となる以前にベースが開発されたものであるのに対し、今回のSD1のセンサーは、シグマの傘下となって初めて登場した。それがどのように影響しているか興味あるところである。
新しいX3ダイレクトイメージセンサーのサイズは、23.5×15.7mmといわゆる一般的なAPS-Cサイズとなる。焦点距離倍数も1.5倍だ。これまでのセンサーサイズは一回り小さい20.7×13.8mm。その結果焦点距離倍数も1.7倍だったので、少しでも広い画角が欲しいときなどツラく感じることも少なくなかった。センサーサイズのアップは、大きな進化に感じられるし、デジタル専用レンズの性能をフルに活かすには現実的な選択に思われる。フォビオンがデジタル一眼レフカメラを開発、製造するシグマの子会社となったから実現できたものといってよいだろう。
画素数はこれまでの有効1,406万画素(468万画素×3層)から一挙に有効4,608万画素(1,536万画素×3層)にアップ。従来のSDユーザーやDPユーザーは、実際の画像解像度(約465万画素)からプリントの際など心もとなく感じることが多かったが、SD1(約1,475万画素)では、大判プリントなどでも不足を感じるようなことはないだろう。ちなみに、一層構造のため色を補間しローパスフィルターを必要とするベイヤセンサーにくらべ、フォビオンセンサーはRGB3層それぞれで感知する構造になっていることと、ローパスフィルターを搭載していないため、より立体感のある高い解像感が描写の特徴のひとつである。SD15やDPシリーズでも、見た目には1,000万画素クラスに迫る解像感を持つが、SD1は3倍以上に画像解像度はアップしているので、3,000万画素クラスの解像感といってもよいだろう。
実際、撮影した画像をチェックするとその高い解像感に驚かされる。エッジはその部分だけシャープネスを強くかけたかのように際立ち、センサーが要因となるような偽色の発生もない。パソコンに表示した画像を拡大していくのが楽しみに思えるほどである。反面、解像感が高いために手ブレや三脚ブレが現れやすく、レンズ自体の特性がダイレクトに描写に影響する。SD15同様シグママウントを採用するが、SD1の高い解像感を活かしたければ、同マウントのレンズでもなるべく最新のデジタル特性に対処したものを使用するのが無難なように思える。
X3ダイレクトイメージセンサーは、有効4,608万画素(1,536万画素×3層)。センサーサイズは23.5×15.7mmで、いわゆるAPS-Cサイズとなる | レンズ交換時にミラーボックス内にホコリが侵入するのを防ぐダストプロテクター。SDシリーズでは伝統的に採用されている。 |
多画素化に伴い、映像エンジン「TRUE II」は2基搭載する。高速の画像処理を行なうとともに、RAWとJPEGの同時記録も可能となった。さらに、バッファメモリーには最新の「DDR III」の採用により最大7コマの連続撮影と5コマ/秒の連写速度を実現。処理速度およびメディアへの書き込み速度は従来に比べると速くなっている。ただし、ベイヤーセンサーを積む性能的に同等クラスのカメラと比べてしまうと、まだ少し及ばないところもある。メニューやクイックセット(QS)の操作についても、画像書き込み中は通常時よりボタンの反応がやや悪くなり、正直使い勝手が良いとはいいづらい。
新しいセンサーとデュアルTRUE IIとなれば、期待したくなるもうひとつがノイズ特性である。これまでフォビオンセンサーといえば高感度時のノイズレベルがお世辞にも芳しいとはいえないからだ。掲載した作例をパソコンの画面で50%の拡大率で見た場合、RAWでは輝度およびカラーノイズともISO800までなら実用といえるレベル。ISO1600になると被写体によっては目立ちはじめてくる。JPEGではそれよりも1段低くISO400までなら使えるレベルで、ISO800になると顕著に現れる。これまでのフォビオンセンサー搭載モデルとくらべると改善されていることが分かる。しかし、こちらについてもベイヤセンサーモデルにくらべると物足りなく感じられるので、さらなる進化に期待したいところだ。
これまでフォビオンセンサーは、RAW専用の感が強かった。というのも、RAWの画質にくらべカメラから直接吐き出されたJPEGは今一歩及ばなかったからである。しかし、前述のとおりRAWとJPEGとの同時記録が可能となったこともあり、SD1ではJPEGの画質も見直されている。RAWで撮影した画像とJPEGで撮影した画像を比較してみると、RAWのほうが色の鮮明度やコクといったものはJPEGよりも上回っているものの、明確な違いというまではない。ハイライトやシャドーの階調再現性も同程度といってよいものである。むしろ、RAWはやや赤みの残る色あいで、JPEGのほうがどちらかといえばナチュラルな印象といってよい。ノイズは比較的低感度でも現れやすいものの、これらからはちょっとした撮影のときなどJPEGでも対応できるようになったといえるだろう。
使用メディアはCFとなる。ユーザーに対し裏面を表側にしてスロットに挿入する | バッテリーはSD15と同じBP-21を使用。残念ながらSD1のバッテリーの持ちは、よいとはいい難い |
インターフェースとして、シンクロ、USB/AV-OUT、レリーズ、DC-INを備える。 | 発光部が思いのほか高くポップアップする内蔵ストロボ。ガイドナンバーは11(ISO100・m) |
グリップは凹凸が大きく、しっかりとホールドできる。シャッターボタンは人差し指が自然とかかる絶妙な位置に置かれる | 誇らしげな「SD1」のバッチ。SD15ではゴールドだったが、SD1ではシルバーとなる。フォント(書体)も変更されている |
ストラップは三角環を介してアイレットに装着する(写真では三角環は外してある)。平べったい金具タイプよりもアイレットのほうが、高級感があるように思える |
■AFや操作性も強化
SD1ではファインダー回りにも大きく手が入っている。まずはファインダー倍率だが、大型のペンタプリズムの採用で0.95倍を実現する。SD15は0.9倍であるが、SD1はセンサーサイズが大型化されているので、その差の0.05倍以上の違いがある。実際、従来のSDシリーズとは比較にならないほど広々としたファインダー画面で、ピントの状態などこれまでとは段違いに把握しやすくなっている。さらにピントの山も掴みやすく、MFでのピント合わせも容易としている。視野率は縦、横とも98%となる。
ライバルと肩を並べたファインダー。倍率は0.95倍、視野率は98%。アイピースを覗くと、広々としたファインダー画面が広がる。AFも11点ツインクロスセンサーを搭載する |
AFは新開発の11点ツインクロスセンサーを採用。各ラインの位相をずらした千鳥配列をタテとヨコで構成した凝ったもので、これまで中央のみクロスの5点であったことを考えると、性能も使い勝手も飛躍的に向上している。特に画面の広い範囲をカバーするため、三脚にカメラをセットした際や、スポーツなど動体撮影ではその恩恵を強く受けることだろう。さらに、「AF微調整」機能も内蔵。レンズ個々に調整することを可能としている。
ファインダーの話とは少し離れるが、シャッター音が静かなのもSD1の魅力ある特長だ。これはミラー駆動とシャッターチャージを各専用のモーターで駆動させるとともに、駆動方法の変更や部材の強化を図ったためで、特にミラーについてはその振動もよく抑えられている。カメラとしての品位が感じられるうえに、カーボン製の軽い三脚を使ったときなどの三脚ブレも抑えられそうだ。
操作部材もいくつかこれまでと異なっている。まずは、コマンドダイヤルだが、それまでシャッターボタンと同軸であったものが独立。ダイヤルの一部がボディから顔を出す一般的なタイプとなり、「Aダイヤル」と呼ぶようになった。さらに、カメラ上部の背面側に「Sダイヤル」が新たに備わり、このふたつのコマンドダイヤルで各設定を行なう。特にメニュー系の設定では、Aダイヤルは十字キーの上下ボタンと、Sダイヤルは左右ボタンと同じ役目をするのは便利に思えるところだ。
新たに備わった「Sダイヤル」。露出補正の調整などカメラを構えたまま右手親指の自然な動きで操作できる | ペンタ部を中心にして「ドライブダイヤル」(左)と「モードダイヤル」が備わる。それぞれ指標の位置がカメラに対して斜めとなる |
SD15ではシャッターボタンと同軸であったコマンドダイヤルは、ダイヤルの一部がボディから顔を出す一般的なタイプなり、「Aダイヤル」と呼ぶようになった。露出補正ボタンはシャッターボタンの横に置かれる |
また、カメラ上部にあった撮影情報を表示する液晶パネルは廃止され、背面の液晶モニターに撮影情報画面として表示される。作例の撮影などで使ってみた限りにおいては、液晶パネルの廃止は操作性にさほど影響がないように思われる。ちょっと心配に思われるのが、シャッターボタンの横に設置される露出補正ボタンだろう。しかしこれも作例などの撮影で使ってみた印象としては、シャッターボタンと間違えるようなことはほとんどなく、むしろ右手人指し指のわずかな移動で済むため速やかな操作が行なえる。
ボディシェイプは、エッジが際立ちモダンでスマートな印象である。特にグッと上方に伸びたペンタ部と凹凸の大きいグリップが、これまでのSDシリーズとは一線を画す。メリハリあるグラマスクなシェイプとえる。ボディ重量は700g(電池、カードを除く)。レンズを装着するとそれなりの質量となるが、このグリップのお陰でしっかりとホールディングできる。ボディはマグネシウム製。接合部や操作ボタンにはシーリング部品を組み込み防塵防滴ボディとなる。もちろんマウント部にはシグマ独自のダストプロテクターを備え、レンズ交換時などミラーボックス内へのホコリの侵入を抑える。
液晶モニターはSD15と共通で3型約46万ドットとなる。残念に思えるのが、ライブビュー機能を搭載していないこと。最近の風景撮影の傾向として、三脚を使用した撮影ではライブビューで厳密なピント合わせを行なう写真愛好家が多いようだが、そのような要望に対応できない。ボディ本体価格を考えれば、あってもおかしくない機能だと思う。
「撮影設定」その1 | 「撮影設定」その2 |
「撮影設定」その3 | 「撮影設定」その4 |
画像の再生に関する機能を設定する「再生設定」その1 | 「再生設定」その2 |
日付や言語などカメラの基本状態を設定する「カメラ設定」その1 | 「カメラ設定」その2 |
「カメラ設定」その3 | 「カメラ設定」その4 |
ピクチャーセッティングでは、画像のパラメーターの調整と、カラースペース(色空間)の設定を行なうことができる。 |
AFボタンを備えるSD1では、AFロックもしくはオートフォーカスを駆動させる機能を割り当てることができる。AFボタンによるフォーカシングに慣れているユーザーはぜひ活用したい | AF微調整機能も新たに搭載する。この機能もライバルを意識したものだろう |
クイックセット(QS)メニューの内容は、SD15と同じだ。直感的で速やかな設定を可能とする |
ファンクションボタンを押すと表示されるファンクション画面。撮影に関する情報を一度に確認できるほか、各設定をこの画面で直接変更することもできる |
■まとめ
SD1の発売に合わせて、「SIGMA Photo Pro」は、バージョン4.2からバージョン5.0となった。これまでと大きく異なるのが、見た目だ。白を基調としていたものから、アドビの「Lightroom」などと同様、黒に近い濃いグレーへと変更されている。視覚的に写真が締まって見えるうえに、画像のまわりが明る過ぎて気になるようなことがない。画像調整用のパレットは、作業系と情報系が分離し使いやすくなるとともに、ボタンやスライダーなど洗練されたデザインとなり視認性も向上している。
SIGMA Photo Pro5.0の画面は、白を基調としていたものから、黒に近い濃いグレーへと変更されている。画像調整を行なうと、これまでよりも早く画像に反映される |
さらに、バージョン4.2までは画像調整を行なうとレビュー画面にその結果が反映されるまで時間を要していたが、バージョン5.0では比較的速やかに画面に反映される。スピーディに調整作業ができ、ストレスはほとんど無い。ただし、その代わりとなるが、RAWからJPEG/TIFFへの生成はこれまでよりも時間を要する。しかしながら、ライバルメーカーの現像ソフトも生成時間は似たりよったりのものなので、総合的には使い勝手は向上しているといってよいだろう。
SD1はスペックも操作性も、そしてボディシェイプもライバルと想定されるカメラ並みにぐっとモダンになった。連写でレスポンスよくシャッターを切っていく動体撮影などには厳しいところもあるが、風景やスナップなどの撮影では不足を感じさせるようなことは少ない。むしろ、色乗りのよさや高い解像感など、このカメラならではと思えるところも多い。
実は、このレビューから遡ること2カ月ほど前、β機で撮影する機会を与えられたが、その時の感想は、発売されたらすぐに手に入れたいと強く願うものであった。その夢自体は、70万円前後という実勢価格により、ものの見事に打ち砕かれてしまったが、未練は消え去ることがない。このカメラを手にできる写真愛好家が羨ましい。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- RAW現像ソフトはSIGMA Photo Pro 5.0です。
・作例(RAWとJPEG)
・感度(RAWとJPEG)
【2011年7月5日】記事初出時、「画像書き込み中は液晶モニターのブラックアウトが続き、メニューやクイックセット(QS)の設定すらもままならないのは、正直使い勝手が良いとはいいづらい。」と記載していた箇所を、「メニューやクイックセット(QS)の操作についても、画像書き込み中は通常時よりボタンの反応がやや悪くなり、正直使い勝手が良いとはいいづらい。」に改めました。
2011/7/5 00:00