【新製品レビュー】シグマDP1x

〜新エンジン搭載で魅力が増した超高画質コンパクト
Reported by 大浦タケシ

 シグマDP1xは、35mm判換で28mm相当のレンズを搭載する「DP1」シリーズ3代目となるカメラである。APS-Cサイズに準じた大型のイメージセンサーを搭載するコンパクトモデルで、画質やボケの度合いなどデジタル一眼レフカメラと変わらない描写を得ることができる。

 今回のリニューアルでは、X3ダイレクトイメージセンサー(いわゆるフォビオンX3センサー)および光学系はそのままに、画像処理エンジンと操作系のブラッシュアップが主な変更点となる。

 価格はオープン、執筆時における大手量販店での実勢価格は6万7,700円前後となる。


AF速度と操作性を改善

 これまでのDP1/DP1sから操作性が向上したDP1xだが、そのひとつが「QS」(クイックセット)ボタンの搭載だ。40mm相当の単焦点レンズを搭載する姉妹機「DP2」シリーズではすでに採用済みのもので、同ボタンを押すとISO感度/ホワイトバランス/ストロボモード/測光モードの設定が可能な「QS1」画面がまず表示され、再度押すと画像サイズ/カラーモード/画質/ドライブモードの「QS2」画面に表示が切り換わる。

「QSボタン」が備わったカメラ背面部。白と赤のデカールで、ボタンの機能も認識しやすくなった

 それぞれの設定は、該当する十字キーのボタンを断続的に押すか、押し続けて行なう。設定は循環式で、例えばISO感度ならば十字キーの▲ボタンを押すと感度が低いほうから高いほうへ順次切り換わっていき、最高感度まで行き着くと「ISOオート」となり、その後ベース感度のISO50から再び設定感度が上がっていく。逆方向へ切り替えることはできないものの、同じボタンを押すだけなので不便に感じるようなことは少なく、むしろ直感的で速やかな設定を可能としている。従来のDP1シリーズではメニュー画面に入って行なわなければならなかったことを考えると、使い勝手は大きく向上しているといってよい。

「QS」(クイックセット)画面。QS1ではISO感度/ホワイトバランス/ストロボモード/測光モード、QS2では画像サイズ/カラーモード/画質/ドライブモードに対応する

 AFスピードの向上も特筆すべきところだ。合焦に至るまでの時間が、体感的にも従来より縮小したことが分かる。これは新たに採用された画像処理エンジン「TRUE II」に依るところが大きい。同じコントラストAFのパナソニックLUMIX DMC-GH2が謳う“0.1秒AF”には及ばないものの、普段使いのスナップ撮影などではさほど不満を感じさせない。

 なお、撮影した画像の処理およびメディアへの書き込み速度も速くなっているということだが、これに関しては正直まだまだサクサク撮れるような状況とは残念ながら言い難い。特にAEブラケットでの撮影など次のシャッターが切れるようになるまで忍耐力を要するのはこれまでどおりである。ほかのコンパクトモデルやミラーレスモデルのようにストレスを感じなくなるには、今後のさらなる進化に期待したい。

 いわゆる仕上がり設定である「カラーモード」も、「DP1」シリーズとしては初めての搭載である。もともと搭載されている「DP2」シリーズのカメラとDP1xを併用したいユーザーには、仕上がりの調子が揃えやすいので朗報といえるだろう。

 モードのラインナップは、スタンダード/ビビッド/ニュートラル/ポートレート/風景/白黒/セピアの8つ(白黒とセピアはJPEG設定時のみ有効)。いずれも同様の機能を持つ他社と似たような傾向の仕上がりである。

「カラーモード」では、スタンダード/ビビッド/ニュートラル/ポートレート/風景/白黒/セピアから選択できる。なお、白黒とセピアはJPEG設定時のみ選択が可能好みの設定を登録する「マイセッティング」の設定画面。3つのパターンが登録できるので、被写体やテーマによって使い分けると便利に思える

 「マイセッティング」も「DP2」シリーズに搭載されていたもの。こちらは、あらかじめA、B、Cのいずれかに、画像サイズやカラーモードなど14の設定が登録可能で、被写体や撮影テーマによって設定を変えることの多いユーザーは便利に思うことだろう。

 ただし、セッティングの変更はメニュー画面に入って行なわなければならず、スピーディに切り替えられないのはちょっと残念。撮影モードダイヤルでA、B、Cの3つのセッティングが選べ、しかも撮影モード自体も「マイセッティング」に登録できれば、使い勝手はより一層向上するように思える。


DP2シリーズに準じた進化

 外観上これまでの「DP1」シリーズから大きく変化したのが、カメラ背面部だ。前述の「QSボタン」が加わったほか、ボタンレイアウトが「DP2」シリーズと同じとなる。また、各ボタンの機能表記も白もしくは赤のデカールですべて表示されるため、視認性が大きく向上している。これまで筆者のような老眼持ちは辛い思いをしていただけに、これだけでも大きな進化に感じてしまう。撮影モードダイヤルには「SET UP」モードが新たに加わった。従来、メニューのなかに入っていた日付/時間、言語など撮影と直接関係のない設定は、この「SET UP」モードへと移動しており、メニューも含め使いやすく整理された感じとなる。

バッテリーはほかのDPシリーズと同じ。持ちも同じで、ハングアップは速い。予備はできるだけ多く持っておきたい新たに消費電力を抑えるパワーセーブモード機能を搭載。バッテリーの持ちのあまり芳しくないDP1xでは、ぜひ活用したい機能だ。
ストロボは従来と同じ手動ポップアップ式を採用。ガイドナンバーも6(ISO100・m)と変更はない。ストラップ用のホール。左右両端に備わる。ストラップはコンパクトモデルのものが流用できる

 冒頭で述べているように、キーデバイスであるX3ダイレクトイメージセンサーには今回変更はない。センサーサイズは20.7×13.8mmで、一般的なAPS-Cサイズのセンサーよりも一回りほど小さい。有効画素数は約1,400万画素とアナウンスされているが、これは2,640×1,760画素にRGBの3層分をかけたもので、ベイヤー配列のイメージセンサーに対する表記方法である。フォトショップなどで確認すれば一目瞭然だが、画像の実画素数は有効画素数の1/3である約465万画素となる。

 ISO感度はRAW選択時で50から3200まで、JPEGでは50から800まで。高感度でのノイズレベルについてDPシリーズは従来からあまり芳しいものではないが、RAWに限ってみればわずかに改善されているようである。ちなみに、実用レベルといえるのはISO400あたりまでとなる。

 搭載するレンズについてもDP1sから変更はない。レンズ構成は5群6枚。グラスモールド非球面レンズを1枚搭載する。描写については、文句のつけどころの少ないレンズで、画面全域で高いシャープネスを誇り、非常にヌケのよい描写が得られる。周辺減光は開放値で見受けられるものの、1段絞ると大きく改善される。弱いタル型のディストーションがあるほかは、色のにじみなどのようなものは少なく気持のよい描写が楽しめる。前述の撮影後のメディアへの書き込み速度の遅さを帳消しにしてしまうほどの描写特性といってもよいだろう。

レンズはSIGMA LENS 16.6mmF4。グラスモールド非球面レンズ1枚を含む5群6枚のレンズ構成となる。最短撮影距離は約30cm

 最小絞りはF11。回折現象の影響も出始めるわけではないが、少なくともあと一段絞れたら使い勝手はさらによくなることだろう。

 「DP2」シリーズも含めてDPシリーズの「オート」ホワイトバランスは不安定で、色が転んでしまうことが多いが、このDP1xも残念ながら例外ではない。AEB撮影など、シャッターを切る度に色合いが変わってしまう。RAW現像時に調整すればいいのかも知れないが、正直やはり面倒といわざるを得ない。メーカーには早期に対応してほしいところである。ちなみに、筆者は個人的にもDPシリーズを所有するが、多くの場合、ホワイトバランスは「晴れ」に設定している。

画像ソフト「SIGMA Photo Pro」の画面。現在のバージョンは4.2。以前からすると処理時間も速く、結果も安定している

まとめ

 DP1xに限らずシグマのDPシリーズは、近年のデジタルカメラの中で特に際立って“尖った”カメラである。メディアへの書き込み時間など我慢を強いられるところもいくつか存在するし、画質的に見てRAWフォーマットでの撮影が前提なのも普段使いでは不便だ。今回改善された操作性にしても、他社にくらべればチグハグしたようなところも未だ見受けられる。

 しかし、コンパクトなボディから生み出される画像は驚くほど上質で、大いに写真を撮る気にさせる。これ1台で日常の記録から本格的な作品撮りまで楽しめるといってもよい。こだわりのある写真愛好家のサブ機に相応しいカメラである。


実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしのRAW画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • RAW現像はSIGMA Photo Pro 4.2.0.1046で行なっています。

・カラーモード

スタンダード
DP1x / 約1.6MB / 2,640×1,760 / 1/40秒 / F8 / 0.0EV / ISO50 / 16.6mm
ビビッド
DP1x / 約1.6MB / 2,640×1,760 / 1/40秒 / F8 / -0.3EV / ISO50 / 16.6mm
ニュートラル
DP1x / 約1.4MB / 2,640×1,760 / 1/40秒 / F8 / 0.0EV / ISO50 / 16.6mm
ポートレート
DP1x / 約1.6MB / 2,640×1,760 / 1/40秒 / F8 / 0.0EV / ISO50 / 16.6mm
風景
DP1x / 約1.6MB / 2,640×1,760 / 1/40秒 / F8 / -0.3EV / ISO50 / 16.6mm

・歪曲収差/絞りごとの描写
F4
DP1x / 約1.5MB / 2,640×1,760 / 1/10秒 / +0.3EV / ISO100 / 16.6mm
F5.6
DP1x / 約1.6MB / 2,640×1,760 / 1/6秒 / +0.3EV / ISO100 / 16.6mm
F8
DP1x / 約1.6MB / 2,640×1,760 / 1/3秒 / +0.3EV / ISO100 / 16.6mm
F11
DP1x / 約1.5MB / 2,640×1,760 / 1/1.2秒 / +0.3EV / ISO100 / 16.6mm

・感度
ISO50
DP1x / 約1.9MB / 1,760×2,640 / 1/1.2秒 / F5.6 / 0.0EV / 16.6mm
ISO100
DP1x / 約2.1MB / 1,760×2,640 / 1/2秒 / F5.6 / 0.0EV / 16.6mm
ISO200
DP1x / 約2.3MB / 1,760×2,640 / 1/4秒 / F5.6 / 0.0EV / 16.6mm
ISO400
DP1x / 約2.3MB / 1,760×2,640 / 1/8秒 / F5.6 / 0.0EV / 16.6mm
ISO800
DP1x / 約2.5MB / 1,760×2,640 / 1/13秒 / F5.6 / 0.0EV / 16.6mm
ISO1600
DP1x / 約2.7MB / 1,760×2,640 / 1/30秒 / F5.6 / 0.0EV / 16.6mm
ISO3200
DP1x / 約2.8MB / 1,760×2,640 / 1/50秒 / F5.6 / 0.0EV / 16.6mm

・作例
DP1x / 約1.7MB / 2,640×1,760 / 1/80秒 / F6.3 / -0.7EV / ISO100 / 16.6mmDP1x / 約1021K / 1,760×2,640 / 1/80秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO100 / 16.6mm
DP1x / 約2.5MB / 2,640×1,760 / 1.0秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO50 / 16.6mmDP1x / 約1.6MB / 2,640×1,760 / 8秒 / F4 / 0.0EV / ISO50 / 16.6mm
DP1x / 約2.0MB / 2,640×1,760 / 1/320秒 / F11 / -0.3EV / ISO100 / 16.6mmDP1x / 約1.1MB / 2,640×1,760 / 1/200秒 / F9 / -0.3EV / ISO100 / 16.6mm
DP1x / 約992K / 2,640×1,760 / 1/250秒 / F11 / -0.3EV / ISO100 / 16.6mmDP1x / 約1.7MB / 1,760×2,640 / 1/320秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / 16.6mm
DP1x / 約1.3MB / 1,760×2,640 / 1/200秒 / F9 / -0.7EV / ISO100 / 16.6mmDP1x / 約1.2MB / 1,760×2,640 / 1/200秒 / F10 / -0.7EV / ISO100 / 16.6mm
DP1x / 約974K / 2,640×1,760 / 1/100秒 / F8 / +0.3EV / ISO50 / 16.6mmDP1x / 約1.4MB / 2,640×1,760 / 1/25秒 / F11 / 0.0EV / ISO50 / 16.6mm
DP1x / 約1.1MB / 2,640×1,760 / 1/30秒 / F11 / -0.7EV / ISO50 / 16.6mm




大浦タケシ
(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。

2011/2/1 00:00