新製品レビュー

LUMIX S1RII

ついにモデルチェンジを果たした「LUMIX S」フラッグシップの実力を見る

2025年3月に発売されたパナソニックの「LUMIX S1RII」は、フルサイズの撮像センサーを搭載したLマウントのミラーレスカメラ。2019年3月に発売された「LUMIX S1R」の後継機にして、最新のフラッグシップ高画素モデルということになります。

しかし約6年の歳月を経て進化した、「LUMIX S1RII」の性能と仕様の進化には本当に驚くべきものがあります。まさにこれぞフルモデルチェンジ! 「LUMIX S5II」など下位機種の性能進化を取り込みながら、前モデル比で向上した本モデルの実力をぜひご覧ください。

画質が向上、常用感度も広がった撮像センサー

搭載する撮像センサーは有効約4,430万画素のフルサイズ裏面照射型CMOS。前モデルの「LUMIX S1R」は有効約4,730万画素でしたので少し減っています。でも4,000万代の高画素センサーにとって、差し引き300万画素程度の差はハッキリいって誤差レベル。得られる画像の精細感にはほとんど影響がないと考えて問題ないと思います。

撮像センサー自体の性能は進化していて、常用感度がISO 80~51200に広がった(「LUMIX S1R」はISO 100~25600)ほか、LUMIX独自の絵作り思想である「生命力・生命美」に基づいた画質も向上しています。新たに設定できるようになった低感度のISO 80で撮影した画像が下のもの。大変素晴らしい解像感と質感を見てとることができます。

LUMIX S1RII/LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S./24mm/絞り優先AE(1/200秒、F8.0、+0.3EV)/ISO 80

像面位相差センサーが採用されたことによるAF性能の向上、演算処理の高速化を実現した高性能エンジンとの組み合わせによる約40コマ/秒の高速連写なども、見逃せないところですが、そちらは後ほど。

小型化されたボディサイズと操作性

外形寸法は、幅が約134.3mm、高さが約102.3mm、奥行が約91.8mmで、質量が約795g(バッテリー、SDメモリーカード1枚含む)となっています。

前モデル「LUMIX S1R」は、幅が約148.9mm、高さが約110mm、奥行が約96.7mmで、質量が約1,016g g(バッテリー、SDメモリーカード1枚含む)でしたので、大幅な小型軽量化を達成していることになります。

このサイズは、外観デザインのよく似た「LUMIX S5II」の外形寸法(134.3×102.3×90.1mm、約740g)とほぼ同じ。個人的には「LUMIX S1R」のずっしりしたサイズ感に頼もしさを覚えていたのですが、一般的には小型軽量化を望む声が大きく、人気を博している「LUMIX S5 II」に寄せてきたということでしょうか。いずれにしても、並々ならぬ努力で小型軽量化に挑んだことを感じずにはいられません。

前モデルで長所のひとつだった576万ドット・120fpsの有機ELファインダーは、本モデルにも引き継がれています。パナソニックから聞いたところでは、同じ仕様でもさらに見え具合は向上しているとのこと。実際に覗いてみても、その精細で滑らかな表示品質の良さにはウットリするものがあり、下位モデルである「LUMIX S5II」とのアドバンテージを実感させてくれます。

3.0型約184万ドットの背面モニターも進化を遂げています。前モデルでは縦位置撮影と横位置撮影の際に光軸をズラさず撮影できる3軸チルト式が採用されていましたが、本モデルでは動画撮影機能を強化した「LUMIX GH7」などと同じくバリアングル式とチルト式を組み合わせた「チルトフリーアングル構造」を採用。各種ケーブルを本体に接続した場合でも、干渉しにくいように配慮されています。

バリアングル構造があるので動画撮影での用途が広がります。さらに本モデルでは横位置下方向のチルトを利用した場合でも、従来よりモニターが下向きに大きく展開するようになりましたので、静止画でのハイアングル撮影でも光軸をズラさず撮れるようになりました。

「LUMIX S5II」と同様に冷却ファンを内蔵しており、ファインダー部の両脇にダクトの排熱口が配置されています。動画撮影の仕様に対しては余念がありませんね。

動画撮影と言えば、LUMIXの上位デジタルカメラは「動画記録ボタン」が輝かしい赤であるのが特徴となっていて、本モデルも例にもれずモードダイヤル横の押しやすい位置に配置されています。

気合いの入った本モデルの場合、レンズマウント右下(カメラを正面から見て)にも「サブ動画記録ボタン」があります。こちらも押しやすい位置に配置されていますので、動画を撮る際にはどちらか手の伸ばしやすい方のボタンを押すと良いでしょう。なのですが、静止画撮影の場合には、あまりにも押しやすい位置にボタンがあるため、意図せず動画記録が始まってしまっていることが多々ありました。状況に応じて機能を無効にするか、あるいは他の機能を割り当てるという対応も必要かもしれません。

メモリーカードはCFexpress type Bカードと、SDメモリーカード(UHS-II対応)のダブルスロット。前モデルもダブルスロットを採用していましたが、目まぐるしく進化するメモリーカードの憂き目にあって、XQDメモリーカードとSDカードの対応になっていましたので、本モデルでようやく最新のメモリーカード事情に対応できたと言ったところです。前モデルは、XQDメモリーカード対応でもファームアップによってCFexpress type Bカードを使うことができましたが、その場合の最大転送速度は大きく制限されてしまっていました。

付属するバッテリーは容量2,200mAhの「DMW-BLK22」。すべての動作と性能が保証されるものではありませんが、USB PDに対応しているので、対応する充電器およびモバイルバッテリーでの急速充電と給電ができます。

シリーズ最速の連写と像面位相差で強化されたAF

「新開発イメージセンサーの搭載により、高画素と高速連写を両立しました」とパナソニックのWEBサイトに紹介されています。そう、「LUMIX S1RII」はフルサイズの有効約4,430万画素でありながら、AF追従でメカシャッターなら約10コマ/秒、電子シャッターなら約40コマ/秒の高速連写ができるのです。LUMIX Sシリーズ中最速で、メカシャッター、電子シャッターともAF非追従で9コマ/秒だった「LUMIX S1R」と比べると格段に進化しています。

シャッター全押し前の瞬間をさかのぼって記録できる「プリ撮影」機能ももちろん搭載されています。プリ撮影でもAF追従で約40コマ/秒の連続記録ができますので、「LUMIX S5II」の30コマ/秒や「LUMIX S9」の約15コマ/秒よりチャンスに強くなっています。

被写体認識機能ももちろん搭載。「人物」「動物」「車」「バイク・自転車」「列車」「飛行機」など6種類の被写体について、自動的に認識してピントを合わせてくれます。

そんな高速連写とプリ撮影と被写体認識を使って、ユリカモメの飛び立ちを撮影してみました。結果は、勢い余った激しい自分の手ブレのために、数コマだけピントの怪しい画像があった程度で、ほとんどのコマで素晴らしく正確にピントを合わせつづけてくれました。

比較した訳ではありませんが、LUMIX Gシリーズも含めたパナソニックの現行機種のなかでは、1番優秀なAF性能なのではないかと感じるところです。少なくとも前モデルと比べれば、比較にならないほどの高性能であることは確かです。

LUMIX S1RII/LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S./300mm/シャッター優先AE(1/2,000秒、F5.6、+0.66EV)/ISO 500

ただし、積層型センサーを搭載しているわけではないため、高速で動く被写体ですと電子シャッター特有の像の歪み(いわゆるコンニャク現象)はそれなりに現れます。下の作例でも(ユリカモメがブレているのはご容赦を)、本来は真っすぐなはずの背景が斜めに歪んでいることが見てとれると思います。通常はそれほど気になる程度ではありませんが、素早く動く被写体を撮るときは考慮したいところです。

LUMIX S1RII/LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S./300mm/シャッター優先AE(1/2,000秒、F5.6、+0.66EV)/ISO 800

先進的な8K動画のボディ内記録

「LUMIX S1RII」は前モデル「LUMIX S1R」に比べ、動画性能も大幅に進化しています。なかでも顕著なのが、LUMIXとしては初となる8K動画(8.1K / 8K30p 4:2:0 10bit)に対応したこと。RAW動画のカメラ内部記録(CFexpress type Bカードのみ)にも対応していますので、シンプルなシステムで自由度の高い高画質動画を撮影できます。

手ブレ補正も強力かつ充実した内容になっています。電子手ブレ補正の「強」「標準」、あるいは「OFF」などは多くのカメラで設定できる機能ですが、本モデルは広角レンズ使用時に、電子手ブレ補正であってもクロップされない「クロップレス」が搭載されています。この機能は現在のところ「LUMIX S」シリーズレンズ使用時にのみ設定可能ですが、決して他社製Lマウントレンズでの設定および使用を排除しているわけではないそうです。将来的な展開が楽しみですね。

また、フォトスタイルには新しく動画撮影用として「シネライクA2」が加わりました。広いダイナミックレンジと豊かな階調表現が特長とのこと。

そんな「シネライクA2」を使って、4K60pのサンプル動画を撮ってみました。落ち着いた色調やコントラストは、いかにも動画向きといった感じで、とても好ましい画作りなだけに、動画だけでなく静止画撮影でも活用したくなります。

作例

AFと被写体認識が向上したことで、大口径レンズの浅い被写界深度でも安心してピントを合わせることができました。さらには、ファインダー性能が非常に優秀であることや、抜群に使いやすい「チルトフリーアングル構造」の存在が、このカメラの信頼感をますます高めてくれています。

LUMIX S1RII/LUMIX S 50mm F1.8/50mm/絞り優先AE(1/160秒、F1.8、+0.3EV)/ISO 800

高画素モデルであってもダイナミックレンジは相当に広いようで、いかにも白とびしてしまいそうなハルニレの白い花弁を見事に描写してくれました。LUMIXの絵作り思想である「生命力・生命美」を最も活かすことのできるカメラは、本モデルであると考えて問題ないと思います。

LUMIX S1RII/LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S./105mm/絞り優先AE(1/500秒、F4.0、+0.66EV)/ISO 80

「生命力・生命美」の思想は全てのフォトスタイルに適用されています。筆者が個人的に気に入っている「ライカモノクローム」で撮影した下の作例ですが、まだ人の温もりを残しているかのような下駄の存在感や、時代の重みを感じさせる木材の質感が見事に表現されています。シチュエーションに合わせてさまざまなフォトスタイルを、次々に試してみたくなります。

LUMIX S1RII/LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S./36mm/絞り優先AE(1/60秒、F4.0、-0.66EV)/ISO 160

「LUMIX S5 II」相当にまで小さく軽くなった本モデル。今回は標準レンズを付けたミラーレスカメラが1台収まる程度の小型ショルダーバッグに入れてスナップ撮影をしてみましたが、移動中も撮影中もまったく負担を感じることはありませんでした。なるほど、小さいことは利点が多い。

LUMIX S1RII/LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S./46mm/絞り優先AE(1/80秒、F4.0、-0.33EV)/ISO 80

本モデルの静止画撮影における手ブレ補正効果は、「B.I.S.」(ボディ内手ブレ補正)で中央8.0段・周辺7.0段、「Dual I.S.2」(ボディ側とレンズ側の強調制御)で中央7.0段・周辺7.0段となっています。これは非常に優秀な手ブレ補正効果と言えましょう。

下の画像は焦点距離300mmでシャッター速度1/1,000秒ですので、それほど手ブレを心配する必要はないかも知れませんが、手持ちでローアングル撮影の望遠撮影という不安定な姿勢だったため、やっぱり手ブレを起こさないかは不安になってしまうところです。でも「LUMIX S1RII」はキッチリと手ブレを抑えてシャープな写真を撮ってくれました。使っていて安心感を覚えるカメラです。

LUMIX S1RII/LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S./300mm/絞り優先AE(1/1,000秒、F5.6、+0.66EV)/ISO 400

まとめ

小柄かつ高性能で人気の「LUMIX S5II」相当にまでサイズ感をシェイプアップしながら、静止画撮影も動画撮影も全方位的に性能を大幅に高めた「LUMIX S1RII」。本モデルならLUMIXの最高進化を余すことなく体感できるはずだと思います。

前モデル「LUMIX S1R」が発売されたのが2019年3月で、本モデルが発売されたのが2025年3月。実に6年の歳月が過ぎていることから考えれば、圧倒的な性能進化の向上についても、「さもありなん」と言ったところでしょう。その間に発売されたモデルの良いところを吸収しながら、性能をさらに高めているのが本モデル「LUMIX S1RII」です。

デジタルデバイスにおける時代の流れというのはなかなか残酷なものがありますが、いまLUMIXの提唱する「生命力・生命美」を、あらゆるシチュエーションで享受しながら万全な撮影システムを整えられるのは、本モデルをおいて他にないと感じた次第です。

【2025年4月10日】初出時に「質量が約1,696g(バッテリー、SDメモリーカード1枚含む)」と記載しましたが、正しくは「質量が約1,016g(バッテリー、SDメモリーカード1枚含む)」になります。お詫びして訂正いたします。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。