新製品レビュー

ニコン Z5II

高感度性能の向上が顕著に 上記機種並みのスペックを詰め込んだ“フルサイズエントリー”

4月25日(金)に発売予定のニコン「Z5II」は、FXフォーマット(フルサイズ)のイメージセンサーを搭載したZマウントのミラーレスカメラ。

前モデル「Z5」から5年近い時を経て、全面的にブラッシュアップされた本モデルは、フルサイズZシリーズのなかではローエンドモデルながらも、実のところミドルクラスと同等、あるいはそれ以上の実力を秘めていると実感しました。特に、高感度性能とコストパフォーマンスの高さには注目したいところです。

イメージセンサーの刷新で高感度に強く…

本モデルは有効2,450万画素の裏面照射型CMOSセンサーを搭載。スペックこそオーソドックスであるものの、安定した性能で実績の高いイメージセンサーでもあります。また、前モデル「Z5」は表面照射型でしたが、今回のモデルでは現在主流の裏面照射型になりました。さらに、画像処理エンジンは「EXPEED 6」から「EXPEED 7」に進化し、処理速度が約10倍に向上しています。

撮像センサーが変わっても有効画素数に大きな違いはないため、見てすぐ分かるほどの解像感の変化というのは、じつのところほとんどありません。しかし、画像処理エンジンの速度が上がったためカメラのレスポンスが良くなり、サクサクとストレスなく撮り回ることができるのが良いところ。フルサイズ2,400万画素クラスの軽快感を存分に楽しめるようになった印象です。

Z5II/NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3/25mm/絞り優先AE(1/100秒、F5.6、+0.67EV)/ISO 100

裏面照射型センサーになり処理速度が向上したことで、常用最高感度も「Z5」のISO 51200からISO 64000へとアップしました。上位モデルで最新の「Z6III」と同等です。

その常用最高感度であるISO 64000で撮影したのが下の作例。実際に常用最高感度を使うことがあるかどうかはともかく、上限が高いというのはカメラを使う上で安心感があるというもの。「Z6III」との高感度画質の差は実用上ほとんどないそうですが、理論的にはわずかながら本モデルのほうが上になるそうです。ハイエンドモデルの「Z9」と「Z8」の常用最高感度はISO 25600ですので、事実上ニコンのフルサイズモデルのなかで、本モデルが「Zf」と並んで最も高感度に強いということになります。

Z5II/NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3/36mm/絞り優先AE(1/250秒、F5.6、-0.33EV)/ISO 64000

なお、前モデル「Z5II」と同様に、ボディ内手ブレ補正機構(イメージセンサーシフト方式5軸補正)を備えています。

外観デザインとサイズ感

外観デザインは、一眼レフカメラでいうところのペンタ部が「Z9」「Z8」「Z6III」といった上位モデルのデザインに寄せられたことによって、シリーズとしての統一感が強くなりました。個人的には精悍で好ましく、全体的な高級感も増したと感じましたが、いかがでしょうか?

「Z5II」の外形寸法はというと、幅が約134mm、高さが約100.5mm、奥行が約91.8mmで、質量が約700g(バッテリー、メモリーカード含む)となっています。一方の前モデル「Z5」は、幅と高さは同じですが奥行は約69.5mmで、質量が約675g(バッテリー、メモリーカード含む)となっていました。

ファインダーは約0.8倍の約369万ドットと、倍率や精細感こそ前モデルと変更ありませんが、「Z8」や「Z9」と同等の輝度3,000cd/m²の明るさがあるため、明るい屋外でも快適に被写体を確認することが可能です。

背面モニターは、前モデルの上下チルト式からバリアングル式へと変更。どちらが良いかは好みによると思いますが、動画撮影も含めて考えるとバリアングル式のほうが利便性は高いのではないかと思います。サイズは同じですが約104万ドットから約210万ドットへと、精細感が大きく向上しているのも何気にポイントです。

背面を含め、全体的にボタン類のレイアウトは前モデルから、ほとんど変わりはありません。割り当てられた機能に多少の違いはありますが、Zシリーズの多くのモデルが採用しているレイアウトですので、買い替えをしても使い方に戸惑うことがあまりないのは良いところです。また、フルサイズZシリーズではローエンドに位置する本モデルですが、前モデルと同じく、ちゃんと「サブセレクター」(いわゆるジョイスティック)を装備しているのも素晴らしいですね。

独立したメモリーカードスロットは前モデルから引き続き、SDカードのダブルスロットを採用。ローエンドクラスなのに嬉しい仕様をちゃんと引き継いでくれています。両スロットともUHS-IIに対応しています。

付属するリチャージャブルバッテリーは「EN-EL15c」が1個。撮影可能コマ数は、背面モニターだけを使用する条件で静止画約470コマ、動画約120分となっています。

大きく進化したAF性能

いろいろな面で大きく進化している「Z5II」ですが、特に注目したい進化点のひとつがAF性能の向上になります。

とくに被写体検出が最新性能になったのが、それをよく物語っていると思います。特定のAFエリアで「人物」か「動物」かの2択だった前モデルに対して、本モデルは「オート」を含めた「人物」「動物(犬や猫など)」「鳥」「乗り物(車、バイク、自転車、列車)」「飛行機」の6モード(検出対象としては9種類)から被写体を選択することができます。

その被写体検出も上位機種並みに高い性能を備えています。被写体の画面内に占める割合が小さい場合や、背景との混ざり合いが難しい場合であっても、前モデル「Z5」より大幅に進化して、高精度であることを今回の試写より実感しています。

Z5II/NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR/600mm/絞り優先AE(1/320秒、F6.3、+0.33EV)/ISO 400

スピード性能も大きく進化

スピード性能も大きく進化していて、例えば「AF-S」(シングルAF)と「AF-C」(コンティニュアスAF)を自動的に切り換える「AF-A」に設定していた場合でも、動く被写体と静止している被写体の挙動を高精度に選び分けてくれます。

シャッターボタン半押し状態から全押しした瞬間に、そこから遡って記録してくれる「プリキャプチャー記録」機能も搭載しており、最大1秒前からの連続撮影を記録できます。

プリキャプチャー記録ができるレリーズモード上の「ハイスピードフレームキャプチャー」は、「C15」で最大約15コマ/秒、「C30」で最大約30コマ/秒と十分なスピード性能です。ただし、記録できるファイル形式はJPEGのみで、画質モードはNORMALのみになりますので、そこはご注意ください。

そのハイスピードフレームキャプチャー「C30」で撮影したのが下の作例です。カワセミが予想外の方向に飛び立ったため、ちょっと妙な構図ではありますが、ピントは正確にカワセミの動きを捉えていることが分かります。最大でも約4.5コマ/秒の連写速度でAF性能も前時代的だった前モデルに比べれば、動体撮影での歩留まりの高さは歴然だと実感しました。上位モデルにおよぶものではなくとも、ローエンドクラスとは思えないほどの高い性能であることは間違いありません。

Z5II/NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR/600mm/シャッター優先AE(1/2,000秒、F6.3)/ISO 2500

便利な「ピクチャーコントロールボタン」の搭載

前モデルにはなくて本モデルにあるものの1つが「ピクチャーコントロールボタン」です。このボタンを初めて搭載したのが、2024年12月に発売されたAPS-Cサイズモデルの「Z50II」でしたので、ニコンのフルサイズモデルでは初搭載ということになります。

「ピクチャーコントロールボタン」を押せば、すぐにピクチャーコントロールの設定画面が呼び出せるという優れもの。あらかじめ用意された31種類のカラープリセットや、自分でカスタムしたカスタムピクチャーコントロールを簡単に呼び出すことができます。

ただ……、31種類以上のピクチャーコントロールのなかから、目的のレシピを探し出して設定する、というのは結構面倒なことだったりします。そこで本モデルでは、ユーザーが必要とする数種類のピクチャーコントロールだけを一覧に並べる機能が搭載されています。これが使ってみると非常に便利な機能ですので、是非活用してほしいと思います。

設定方法はとても簡単。例として「スタンダード(SD)」「ディープトーンモノクローム(DM)」「フラット(FL)」の3種類だけが並ぶピクチャーコントロール設定画面を作ってみましょう。

まずはピクチャーコントロールの設定画面で、左上のアイコンをタッチします。すると「絞り込み設定」という文字が表示され、目的のピクチャーコントロールを選択できるようになります。

そこで、自分が必要とするピクチャーコントロール(この場合は「SD」「DM」「FL」)にチェックを入れ、その他のピクチャーコントロールはチェックを外します。なお、「オート(A)」は除外することができません。

選び終えたところで「終了」をタッチすれば設定は完了です。除外できない「オート(A)」と、「スタンダード(SD)」「ディープトーンモノクローム(DM)」「フラット(FL)」の3種類だけが並んだ、簡潔な自分だけのピクチャーコントロール設定画面ができました。

オリジナルの一覧のなかから「DM(ディープトーンモノクローム)」を適用して撮影した画像です。ディープトーンモノクロームは「Zf」から搭載されたピクチャーコントロールですが、本格的で重厚なモノクロ写真の諧調が好きで、好んで使っています。

Z5II/NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3/43mm/絞り優先AE(1/640秒、F5.6、-1.0EV)/ISO 400

向上した動画撮影機能

「Z5II」は前モデルに比べ、動画性能も進化しています。記録できるのは最大で「4K 60p」(3,840×2,160)です(「Z5」は4K 30pが最大)。

動画撮影については、比較的初心者にも優しい仕様となっている本モデルですが、それでも独自の動画ファイル形式「N-RAW」にも対応していますので、後編集での自由度が高い高品質な映像を記録することも可能です。

また、「N-RAW」のカメラ内SDカード記録にも対応しています。その場合はUHS-II対応で、ビデオスピードクラス90(V90)のSDXCカードが推奨されるなど、条件こそ高くなるものの、一定の本格的な動画撮影にも対応しているのは素晴らしいことだと言えるでしょう。

今回は、本モデルにおける最大画質の「4K 60p」でサンプル動画を撮ってみました。

作例

取り回しの良いサイズ感で、どんな被写体に対しても、キビキビとよく応えてくれるところが本モデルの1番の特長ではないでしょうか。エントリークラスのフルサイズモデルであきらめていた部分を、見事に解消してくれたと言った印象。とんがったスペックこそありませんが、多くの人を喜ばしてくれるカメラだと思います。

Z5II/NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3/36mm/絞り優先AE(1/160秒、F5.0、+0.33EV)/ISO 400

ピクチャーコントロールを「フラットモノクローム」にして撮影した1枚。前モデル「Z5」にはない、最新のピクチャーコントロールが多く用意されているのも本モデルならでは。しかも好みに合わせてピクチャーコントロールを整理することもできます。地味な進化点に思われるかもしれませんが、デジタルカメラにとってはとても重要な進化です。

Z5II/NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3/50mm/絞り優先AE(1/100秒、F6.3、+0.33EV)/ISO 100

撮影した画像が、フルサイズZシリーズならではの安定した画質であるところも、本モデルを使う上での嬉しいところだと思います。必要以上の高画素やスピード性能は求めない代わりに得られる信頼性。風景やスナップ、テーブルフォトといった一般的な撮影では、この信頼性こそが大切になります。

Z5II/NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3/49m/絞り優先AE(1/80秒、F11、+0.33EV)/ISO 400

今回のスナップ撮影はレンズキットに設定されている標準ズームの「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」で行いましたが、軽くて便利ではあるもののF値が暗いため、フルサイズの持ち味を活かしきれないのが残念なところでした。本モデルの実力なら、大口径短焦点レンズの「NIKKOR Z 50mm f/1.4」や、F4通しの標準ズーム「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」などと組み合わせたほうが、よりいっそう楽しめるのではないかと感じました。

Z5II/NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3/50m/絞り優先AE(1/125秒、F8.0、+0.33EV)/ISO 400

まとめ

前モデル「Z5」からそれほどサイズ感を違えずに、それでいて全面的な性能進化を遂げた本モデル「Z5II」。飛び道具のような新機能こそありませんが、上位機種の良いところをまんべんなく引き継いだ印象です。

なかでも注目したいのは、本モデルの高感度性能の高さとコストパフォーマンスの良さです。積層型ではなく、実績のある一般的な裏面照射型センサーを採用しているため高感度性能に優れており、それも理由のひとつとなって今となっては比較的手の届きやすい価格に収められています。

本来ミドルクラスであったはずの「Z6III」が、パフォーマンスの高さこそ誰もが認めるところであったものの、高速性能を求めない一般的な撮影用途のカメラとしては、いくらか割高に受けとめられたのは事実ではないでしょうか。そこにきての「Z5II」の登場、まさに待望のフルサイズミラーレスカメラとなり得る存在です。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。