新製品レビュー
FUJIFILM X-M5
Vlogも静止画も…いわば「レンズ交換式高級コンパクト」
2024年10月17日 07:00
富士フイルムから新型ミラーレスカメラ「FUJIFILM X-M5」が登場した。現行のXシリーズの中でも小型なモデルで、最近各社が力を入れているVlog撮影機能にも力が入っている。今回はこのVlogモードでの動画撮影を中心にお伝えする。
推定売価はボディのみが13万6,400円(税込)。「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」が付属するレンズキットが15万2,900円(税込)となっている
現行Xシリーズ最小のサイズ
「X-M」の型番としては、10年以上前に登場した「FUJIFILM X-M1」以来となる。X-M1の”小型ファインダーレス”というコンセプトを引き継ぎながら最新の内容にアップデートされたモデルと言えそうだ。
直近のモデルと比べると、画質は「FUJIFILM X-S20」と同等になっている。センサーは有効約2,610万画素の「X-Trans CMOS 4」(APS-C)で、画像処理エンジンも「X-Processor 5」と共通になっている。
逆に省かれているもので大きな部分といえば、EVF、ボディ内手ブレ補正機構、内蔵ストロボだ。最近はファインダーを見ないで撮る人もよく見かけるし、ユーザーによっては歓迎されるところだろう。ボディ内手ブレ補正はできれば搭載した方が良いように感じたが、小型化を優先したということだと思う。
手にした第一印象は「とにかく小さい」ということ。Xシリーズの主力はEVF搭載機がこのところ多かったため、それらに比べると圧倒的に小さく感じる。この携帯性の良さなら、ボディ内手ブレ補正非搭載に目をつぶれるかも知れない。
また、「FUJIFILM X-T50」と同じく「フィルムシミュレーションダイヤル」の搭載も嬉しいところ。いろいろなフィルムシミュレーションを変えて試せるのが良い。フィルムシミュレーションは最も新しい「REALA ACE」を含む全20モードを搭載している。
バッテリーはX-S20とは異なる「NP-W126S」を採用しており、X-T50、X-E4、X-H1、X100VIなどと共通だ。
設定が簡単にできる「Vlog」モードを搭載
動画記録ではX-S20にあったAll Intraが無くなり、Long GOP記録のみとなった。とはいえ6.2K 30pや4K 60pに加えて、F-Log/F-Log2にも対応しているので、それなりに後編集もできる仕様となっている。
動画記録時のビットレートでは、8Mbpsと25Mbpsが新たに追加された。スマートフォンへの転送やクラウドへのアップロード時間が短縮されるとのことだ。
そしてX-S20にも搭載していたVlogモードが本機にも搭載された。ファインダーレスの小型機ということで、旅の記録といった動画撮影には本機も向いているところがある。背面モニターもフリーアングル式で、前を向くので自撮りもしやすい。
そこでさっそくVlogモードで撮影してみた。VlogモードにするとVlogでよく使われる設定を素早く変更できるほか、画面に録画ボタンや再生ボタンが現れるので使いやすい。
マイクの指向性切り替えに対応
動画面の新機能としては、同社のデジタルカメラとして初めて3つのマイクカプセルを搭載した。これにより、全方位/フロント/バック/フロント&バックの4つからマイクの指向性を選べるようになった。
フロントは自撮り、バックは撮影者がしゃべる、フロント&バックは2人でしゃべるといったケースを想定しているのだろう。ここでは自撮りをしながら全方位とフロントで音を聞き比べてみた。
撮影時は風が強く、「全方位」だと風切り音がかなり入っているが、「フロント」に切り換えると風切り音が低減され被写体の声が聞きやすくなった。今回は指向性テストのため、風切り音の低減機能やローカットフィルターはOFFにしているが、これらを別途ONにすることも可能だ。
なお今回、「9:16ショート動画モード」以外は4K解像度で撮影している。また動画作例はすべてXC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZとREALA ACEで撮っている。
エアコンなどのノイズ低減も可能に
同じく新搭載となった「定常ノイズ低減」機能を試した。空調などの周波数が一定で鳴り続けるノイズが低減されるということだ。
作例ではオフィス用エアコンの吹き出し口のほぼ真下で収録した。ボーと聞こえるエアコンの音がこの機能でかなり低減され、人物の声がかなり聞きやすくなっているのがわかる。
今は編集ソフトのノイズリダクション機能が優秀になってきているが、すぐにアップロードしたい動画や編集ソフトでの手間を省きたい場合には有用だろう。
縦位置動画も簡単に
これまた新機能となるのがVlogモード内の「9:16ショート動画モード」だ。SNS向けの縦動画を撮影するという今風のモードとなっている。カメラは横位置のまま縦動画が撮れるのがポイントで、縦位置にセットするのが難しい小型三脚でも撮りやすくなっている。
録画時間が15秒/30秒/60秒となる3つのモードがあり、録画を開始してからその時間が経つと自動で録画を終了する。撮影中は画面にカウントダウンが出るので、時間配分を考えながら撮りやすいのだろう。
このモードにすると、解像度は縦位置のフルHD(1,080×1,920)に固定される。
商品撮影モードも搭載
珍しい機能ではなくなってきたが、商品レビューなどの動画でアイテムを突き出した際にそちらにピントが合う「商品撮影モード」も搭載している。
通常は顔または瞳認識でピントが合っているが、このモードにすると滑らかにアイテムにピントが合った。アイテムを引いていくとまたスムーズに顔にピントが戻った。
この機能は商品レビュー以外でも、Vlogでたとえば食べ物や飲み物をアップで映したいときも便利な機能と言える。
本格的なスローモンション撮影も
スローモーション機能はフルHDのみとなるが、最大240pキャプチャの24p記録という10倍スローも可能となっている。かなりゆっくりとしたスローになるので、印象深い映像が作れる。
ここでは240pキャプチャの30p記録という8倍スローで撮影してみた。
美肌レベルは4段階
人物撮影で重要なのが肌を滑らかにする機能。本機の「美肌レベル」はOFF/WEAK/MEDIUM/STRONGの4段階から選べるようになっている。
好みで選択すれば良いが、いずれのレベルもスマホなどの肌補正機能に比べるとかなり自然で、作品指向の映像でも不自然にならずに使えそうなレベルだった。
手ブレ補正は?
先に記したとおり本機にはボディ内手ブレ補正は搭載されておらず、レンズ内手ブレ補正および電子手ブレ補正によって対応するシステムとなっている。
キットレンズのXC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZは手ブレ補正機構(OIS)を搭載している。加えて、電子手ブレ補正(DIS)も併用すると歩きながらの手持ち撮影でもそれなりにブレを抑えた映像になった。
ただ、Vlog向けカメラとしては例えばジンバルカメラのような滑らかな映像はさすがに難しく、その辺りは過度な期待は禁物だ。この作例ではグリップを付けて保持しているが、歩き撮りにはこうしたグリップがあるとより安定する。
いわば「レンズ交換式高級コンパクト」
以上Vlog機能を見てきたが、写真の機能も充実している。EVFやボディ内手ブレ補正は無いものの、ミラーレスカメラとしての一通りの機能は搭載されており、スチルカメラとしても十分なスペックを持っている。
富士フイルムといえば「フィルムシミュレーション」ということで写真を撮ってみたが、改めてその絵作りの巧みさには舌を巻く。それがこのコンパクトなボディで楽しめるのはありがたい。
最近ではソニー「VLOGCAM ZV-E10 II」やパナソニック「LUMIX S9」といった動画機能に注力したメカシャッターレス機も登場しているが、X-M5は小型ボディながらメカシャッターをしっかり搭載している点は写真メインのユーザーには朗報だ。
グローバルシャッター機を別にすれば、メカシャッターレスだと動体歪みの発生やストロボのシンクロ速度に制限があるのはご存じの通り。本機は最高1/4,000秒のメカシャッターを搭載しており、シンクロ速度も最高1/180秒となっている。TTL対応のホットシューも備えており、様々なストロボワークを駆使できるのも強みだ。
今回、薄型レンズの「XF27mmF2.8 R WR」も試用した。XFレンズで最も薄いということだが、X-M5に装着するとまるで高級コンパクトカメラのような趣を感じた。
X-M5は価格帯やVlog機能のアピールなどからエントリー向けと受け取られるかもしれないが、小型レンズを付ければコンパクトカメラさながらの機動性を発揮する”スナップシューター”といった側面もありそうだ。
サイズはコンパクト機並だが、それでいてレンズを変えられるのは大きなメリット。画質性能などに目新しいところは無いものの、そのスタイリングから写真の玄人筋にも支持されそうな予感はある。「レンズ交換式高級コンパクト」とでも言うべき1台が誕生した。
モデル:進藤もも(https://x.com/MoMo_photograph)