新製品レビュー
Blackmagic Cinema Camera 6K
35mmフルサイズセンサー・Lマウント採用の“シネマカメラ”
2024年1月11日 07:00
Blackmagic Design社は、オーストラリアの映像機器&ソフトウェアメーカー。ハリウッドでも使われるカラーグレーディングと動画編集のソフトウェア「DaVinci Resolve」で有名な会社だ。
そのBlackmagic Design社の最新動画カメラが今回紹介する「Blackmagic Cinema Camera 6K」だ。本製品は同社Webサイトをはじめとした各媒体でも紹介されているが、映画業界用語であったり、日本のカメラファンには馴染みの薄い言葉を使って説明される部分が多いので、このレビューでは写真ファンにもわかりやすい形と言葉で、そういったバックグラウンドについても触れながらこの製品の魅力を伝えていきたいと思う。なお、製品の箱には「Blackmagic Cinema Camera 6K FF」と記載があるので、以後6KFFと記述したいと思う。
35mmフルサイズセンサーになったシネマカメラ
製品名にある通り、本製品は動画カメラの中でも「シネマカメラ」に分類されるもの。同社の言うところの「デジタルフィルムカメラ」というジャンルで、要するにフィルムのようなダイナミックレンジと質感で撮影できる動画カメラというわけ。実際に得られるその画面のルックはハリウッド映画の撮影に十分使えるほどと言っていい。
これまでも同様なカメラ製品を発売してきた同社だが、この製品の大きな特徴は「フルフレーム(日本でいう35mmフルサイズ)センサー」を採用していること。6K解像度で撮影できるシネマカメラとして同社はこれまでにもBlackmagic Pocket Cinema Camera 6Kと、Blackmagic Pocket Cinema Camera 6K Proの2機種を発売している(以下、BMPCC 6K/6K Pro)。
これらのモデルはセンサーサイズがスーパー35mm。これは写真カメラでは聞き慣れないフォーマットだが、映画のフィルムカメラに起因するフォーマットサイズだ。写真カメラはフィルムロールを横にして使うが、映画フィルムは縦に巻き取る形で使うので、同じ35mmフィルムでも1コマあたりの実効サイズは小さく、スーパー35mmフォーマットはほぼ、APS-Cと同等サイズと捉えるとわかりやすいだろう。
外観もBMPCC 6K Proとそっくりな6KFFだが、レンズマウントがキヤノンEFマウントから、ライカ/シグマ/パナソニックなどが採用するミラーレス用レンズマウント規格である「Lマウント」になっているため、マウント部の奥行きではBMPCC 6Kや6K Proよりも小さくなっている。
別売りアクセサリーのバッテリーグリップやEVFなどは両者で共用できるのだが、カメラケージなどは天面のネジ穴の位置が変わってしまっているために完全互換とは言えない。本稿執筆時点で6KFF用のカメラケージは日本未発売のMID49製のものしか見当たらなかったので、僕はSmallRig社のBMPCC 6K Pro用ケージを使い、天面のネジ穴だけドリルで少し広げて使っている。
ポリカーボネート製の本体は意外なほどに大きく、レンズマウントの上下部分には排熱用のフィンが用意されている。ファンも内蔵されており、上部から吸気して下部から排気する構造。これによって長時間撮影でも発熱による記録のストップがほぼ起こることがないのは嬉しい点だ。
ファン内蔵というと音声ノイズが気になる向きもあるが、動作音はごく小さく、内蔵マイクでの録音でもそれほど気にならないレベルだ。内蔵マイクはなかなかの高音質なステレオ仕様のものだが、感度は低めに設定されている。ライブハウスなどでの大音量の演奏収録などには適しているが、小さな声で喋るインタビューなどでは録音レベルを最大にしても音量は小さめだ。その分、音声入力端子は3.5mmとミニXLRが用意され、マイクもラインも入力できるように配慮されている。
録画フォーマットは“オープンゲート6K”
録画フォーマットは、かなりユニークな構成。製品名にある通り「6K」が基本的な解像度なのだが、耳慣れない「オープンゲート6K」と呼ばれるものが最大解像度(6,048×4,032ピクセル)となる。この「オープンゲート」というのは、センサーの面積全てを最大に使った記録ということ。6KFFは写真カメラと同じアスペクト3:2のセンサーを使っているので、オープンゲート6Kというのは、およそ2,460万画素相当のアスペクト比3:2の記録ということになる。
「そんな比率の動画、観たことない!」と感じるかもしれないが、これはある意味、現代のさまざまなメディアでの再生を考慮した撮影に向いている方式と言える。そもそも「4Kや8Kは知っているけど6Kって?」と思う向きも多いだろう。ここでいう、「K」というのはKiloの略で、4Kといえば横方向ドット数がおよそ4,000ピクセル、6Kというのは6,000ピクセル前後だということ。つまりは、4Kの1.5倍ほどの高解像度で撮影しておき、実際には4K映像やフルHD映像として使ったり、さらに横長な映画の各種アスペクトに合わせて切り出して使おうという提案なわけだ。
通常動画のアスペクト比である16:9よりかなり縦方向に長い比率になるので、編集時に自由にリフレーミングして使おうという発想のもとに作られているといっていい。いくつかの記録解像度が選択できるのだが、4Kを選択した場合は通常のテレビ規格である「4K UHD(3,840×2,160ピクセル/16:9)」ではなく、映画規格の「DCI 4K(4,096×2,160ピクセル/17:9)」と、少し横長なものになる。
覚えておきたいのは、6Kに満たない解像度で録画した時には「ウィンドウ」記録になるということ。これは写真用カメラで言うところの「クロップ」に当たる言い方で、センサーの一部を切り出して記録するもの。当然、同じ焦点距離のレンズでもより望遠的な画角になるわけだ。
多くのミラーレスカメラの動画が実現しているように、「6Kセンサーのフル画面を使い、記録はそこからオーバーサンプリングして4KやフルHD解像度記録にしてくれれば良いのに!」と思う人も多いだろう。だが、これは6KFFがRAW撮影専用カメラであるということを考えれば納得しやすいだろう。センサーからの情報をできるだけ映像処理せずに記録するRAW記録なので、そういったオーバーサンプリング処理もかけないという方針だと考えられる。
このRAW動画記録では、Blackmagic Design社が開発した「Blackmagic RAW(BRAW)形式」での記録になる。RAW動画というとデータ量が重く、扱いにくく、処理がとても遅いので高性能なPCが必要と思われることが多い。確かに、ミラーレスカメラなどで一般的なMP4による記録より数倍~数十倍のデータ量を必要とするのだが、それでもプロ用映像業界で標準とされる記録方式「Apple ProRes」よりも同等画質でのデータ量は少ない。
また、RAWの標準形式とされた「Cinema DNG」では単純に動画のコマ数のRAW画像ファイルが作られていたため、10数分の動画でも数万ものファイルが作られていたのだが、BRAWでは1クリップ1ファイルなのでデータの扱いも簡単。さらに、動画編集ソフトに「DaVinci Resolve」を使えば処理も軽く、6K記録のBRAWファイルをそのままに、コマ落ちすることもなくノートパソコンでリアルタイム編集できてしまうほどだ。
記録メディアの容量さえ大量に確保できれば、その扱いや編集はとても楽。それでありながら豊かな階調の映像を扱え、編集時にISO感度やホワイトバランスなどを調整可能なRAW動画の自由さが味わえる。
有用なプロキシ記録
RAW撮影専用カメラではあるが、実はプロキシファイルとしてMP4形式でも同時記録がなされている。プロキシというのは、本番用の高画質ファイルと同じ内容を、画質を落としてサイズを軽くしたファイルのこと。おもに非力なパソコンで編集をするために使われるもので、画質が悪いながらもスピーディーな再生や処理で軽快に編集を進め、最後の書き出し時には本番ファイルと入れ替えて高画質な最終作品を得る運用ができるというわけだ。編集ソフトのDaVinci Resolveでは、1クリックでプロキシとRAWファイルの切り替えができるのでプロキシ運用も簡単だった。
この機能はスペックの高いパソコンを持っていれば不要では? と思われがちなのだがチームで作品を作るときにもとても便利。撮影が終わったら、とても軽いプロキシファイルだけをネット経由でスピーディーに共有できるからだ。撮影に参加できなかったメンバーもすぐに映像確認できるのはもちろん、撮影したらすぐにモバイル転送して離れた事務所のエディターが編集作業をすることもできるというわけだ。
豊富な撮影フォーマットの設定の中で少しもの足りないな、と感じたのはフレームレート(fps。1秒間あたりのコマ数)。オープンゲート記録時で最大36fpsなのだ。映画のフレームレートは24fpsなので足りているのだが、スローモーション用のハイスピード撮影やテレビ放送のような滑らかな動きを撮影したい場合にはもの足りない。そこでウィンドウ記録の4K DCIに設定すれば最大60fps、フルHDにすれば最大120fpsでの撮影が可能になり、スローモーション用途でも滑らかな動きが実現できる。高解像度を取るか、スローモーション撮影を取るかの選択が迫られるのだ。
タッチ式の背面モニター搭載で操作もシンプル
次にカメラの使い勝手について見ていこう。操作の大半は、背面に備えた上下フリップ式の5型タッチパネル液晶モニターで行えるようになっている。写真撮影を主とするミラーレスカメラなどでは類を見ない程の大きな液晶で、さらにメニュー項目がとても効率的に整理されているのが特徴だ。大きくて見やすく、タッチの反応もよく、シネマカメラにおける多様なセッティングをシンプルに操作できてとても快適だ。
しかも、このメニュー画面などの項目の並び方や操作方法は同社の他のシネマカメラやスタジオカメラでも統一されており、カメラを持ち替えても迷うことが少ない。Blackmagic Video Assistというモニター一体型レコーダーまで同じ操作性で、同社の一貫性の高さが感じられるところだ。
ほとんどの操作をタッチ画面でできる、ということで十字キーすら持たない操作性はとてもユニーク。だが、物理ボタンの重要性もよく理解している同社は、人差し指位置にあるローラープッシュ式のダイヤル、2つの物理RECボタン、ISO/WB/シャッターの切り替え独立ボタン、機能を自由にセットできる3つのFUNCTIONボタンなどが用意されており、使用頻度が高い撮影時のパラメーター変更などは確実かつ素早く行えるようになっている。
現代的な機能としては縦位置映像の対応があげられる。昨今、TikTokやInstagramなど、スマートフォンで縦画面で楽しむ動画がちょっとしたブーム。さらにデジタルサイネージの世界ではディスプレイの縦置きも多いので、これらに対応した形だ。カメラを縦位置に構えると自動的に画面のオンスクリーン表示まで縦位置表示になり、記録された映像には縦位置タグが打ち込まれる。このファイルを編集ソフトに取り込むと、自動的に縦表示になるのだ。もちろん、カメラを激しく振る撮影などで自動的に縦横が切り替わらないような手動設定も用意されている。
操作系の面で、特徴的と言えるのがAFの扱い。ビデオカメラやミラーレスカメラでは動画撮影時の基本と言えるC-AF(動きに追従するAF)が、そもそも搭載されていない。タッチ画面でピントを合わせたい部分を長押しするか、AFボタンを押すとゆっくりと1回だけピント合わせを行ってくれるが、被写体がどう動こうとそれを追従することはない。
これは今時のカメラとして大きな欠点と感じる人が少なくないようだが、基本的に映画撮影のカメラやプロダクションカメラでのピント合わせは手動で行うもの。それを助けるために液晶モニターは大きく鮮明で、ピント合わせを助けるフォーカスピーキング表示もユーザーの好みに合わせてかなり細かくカスタマイズできるようになっている。
実際、僕もこのカメラを使って不便と感じることは特になかった。これはあくまでも一瞬を狙ったり、気楽に撮るためのカメラではなく、意図した撮影を確実にこなすためのツールだからだ。全ての撮影パラメーターを撮影者が把握できやすい作りになっており、かつ操作が確実に行えるようになっているため、意図した撮影がスムーズに行えるというわけだ。気軽にカメラ任せで撮影する良さもあるが、思い通りに動いてくれるカメラという意味ではこの価格帯の製品としては頭ひとつ抜き出ていると感じられる。
また、シネマカメラとして注目したいのは「スレート」機能。映画撮影の現場などで、あとから撮影シーンの整理をしやすいようにカチンコと呼ばれるボードにシーンやカットのナンバーなどを書いて最初に映り込ませる手法はご存知の方も多いかと思うが、これに似たものをデジタルデータとして記録していく機能だ。
具体的には監督名やカメラマン名、屋外か屋内か、シーンナンバーなどをタッチパネルで指定しておく。あとはカメラ側が勝手に露出値やレンズ名、焦点距離などを記録してくれ、これらを編集ソフトで表示できるというもの。何百カットにもおよぶ長編映像の制作に役立つだろう。
フルサイズ特有の立体感や階調の豊かさ
気になる画質だが、6Kという高解像度からイメージする細部までがキリキリとした輪郭で描かれる感じのものではなく、階調豊かな面の連続が細かな部分まで描かれているかのようなイメージのものになっている。デフォルトのままでこれまでのBMPCC 6K Proよりも発色が鮮やかに色濃くなった印象があり、人肌の健康な感じが増している。
これまでの製品と混ぜて使うと画質の違いで違和感を覚えないか心配する向きもあるが、従来機種でもほんのちょっと色を濃いめに載せれば違和感なく2カメ、3カメ収録で混ぜて使って大丈夫だろう。それでいながら、フルサイズ特有と感じる立体感の描写や階調の豊かさは、これまでよりも一歩進んだと感じさせてくれた。
不思議に感じたのは、センサーサイズが大きくなったのにノイズ感が減ったかというとそれほどでもないというところ。現行の同社カメラはデュアルネイティブISO対応で、低感度ISO 400、高感度ISO 3200がベース感度となっている。ISO 400時のノイズ感はBMPCC 6K Proとほぼ同じ感じでフィルムの質感を思い起こさせるものなのだが、ISO 3200時にはシーンによってはBMPCC 6K Proよりもノイズが目立つことさえあった。
BlackmagicのRAW記録は基本的にノイズリダクションをかけない設定になっており、それも手伝ってディテールの繊細な表現が可能になっている一面もあるのだが、現行のフルサイズミラーレスカメラと比較するとノイズの面では少し多めと考えたほうがいい。ただし、DaVinci Resolveに強力で柔軟性の高いノイズリダクション機能があるので、編集時にこれを調節するという割り切りも必要なのかもしれない。
自分で撮影のすべてを把握し、コントロールして作っていく
さて、この製品の最大の進化ポイントとしてアピールされているのがFF、つまり「35mmフルサイズ」のセンサーなのだが、面白いことにこの画素数は特に公表されていない。最大記録解像度から逆算すると2,460万画素前後だと推測できるが、この数字はフルサイズのカメラとしてはあまり高くない部類に入るので、あえて表記しないようにしたのであろう。
動画には写真程の解像度の高さは求められない場合が多く、4Kでも必要なのはおよそ820万画素。同時期に発売されたDJIのミニジンバルカメラ「OSMO POCKET 3」も同様に画素数を公表していないことからも、これからの動画カメラには必ずしも画素数のアピールが必要でないというトレンドも見て取れる。
また、写真の世界では多画素モデルにおいてはローパスレスが当たり前になってきているが、この機種はローパスフィルターを搭載したことを強くアピール。服地の細かなパターンなどがちらちらと瞬いて見えたり、モアレ状の偽色が発生することを抑え、すっきりとした解像感を実現している。
写真用カメラの世界でもそうなのだが、「高画質なカメラ」というとミラーレス一眼の最新機種の便利さをそのままに、画質だけワンランクアップしたものを求められがち。けれどもこの製品は「シネマカメラ」という、ミラーレス一眼ともビデオカメラとも違う性格で設計されたカメラだ。
そのことを理解し、「自分で撮影のすべてを把握し、コントロールして作っていく」ことの楽しみを追求したいのならば最適なカメラになると言える製品だ。僕は既に自費購入し、BSのTV番組撮影や企業PR映像、配信カメラなどにこのカメラを使い、とても気に入っている。
ただ、実際の仕事の現場では16:9のアスペクト比を求められることが多く、6Kと4Kでは17:9となってしまうこのカメラの録画モードに、フレームレートを少し落としてでも16:9を搭載してほしいと感じている。
Blackmagic社はファームウェアで新機能を惜しげもなく追加してくることがあるメーカーなので、いつか叶えられるのではないかと勝手に楽しみにしていたりするのだ。