新製品レビュー

DJI Osmo Pocket 3

カメラ好きの琴線に触れるスペック 1型センサー搭載で“夜もキレイに”

発売と同時に人気機種となった小型カメラが、DJIの「Osmo Pocket 3」。1型イメージセンサーを搭載したことで話題のカメラだ。ここでは写真家&レタッチャーの目線でロジカルにまとめてみた。

長文の記事はみなさんの時間を奪うようで心苦しいのだが、それだけ語りたいカメラということで許してほしい。もし記事を読んで小型カメラに興味が出たら、同じ視点でDJI Osmo Action 4やGoPro HERO12 Blackも紹介しているので、合わせて読んでもらえると蘊蓄が楽しめると思う。

アクションカメラとどちらを選ぶか?

Osmo Pocket 3(以下、Pocket 3)は、手のひらサイズのジンバルに小型のカメラを乗せた製品だ。日常的なスナップや自撮りなど「激しい動きを伴わない」シーンにおいて、ブレのない安定した映像を撮ることができる。

小型のジンバルにカメラを乗せたスタイルのOsmo Pocket 3。カメラが動いてブレを軽減する仕組みのため、昼夜問わずに同じ精度でブレの補正が行える

ブレ補正が強力なカメラにGoProやOsmo Actionなどの「アクションカメラ」があり、こちらは激しい動きにも対応できる小型カメラという位置付け。本体に可動部分がないため防水防塵性能に優れ、ラフな扱いにも耐えられる堅牢さが特徴だ。

Pocket 3とアクションカメラは「小型カメラ」という点では類似しているため、迷う方もいるかもしれない。そこで、購入後に後悔しないためにも、まずは両者の違いを把握しておこう。

画質の面においては、明るいシーンで撮影する限り両者に大きな違いはない。Pocket 3もアクションカメラもブレのない映像を撮ることができる。強いて挙げるとしたら、Pocket 3はジンバルで傾きも補正するため、常に水平が安定した構図で撮影できる点がメリットだろう。

画質に差が出るのは暗所撮影で、これはデジタル加工でブレを補正(電子式)しているアクションカメラが苦手としているシーンだ。
暗くなるほど滲みや不自然なブレが残り、画質が荒れてしまう。

対してPocket 3は、カメラ部を動かして物理的にブレを打ち消しているため、常にカメラの性能を活かした品質で記録できる。もし薄暗い場面で撮る必要があるのなら、アクションカメラを選ぶと高い確率で後悔するだろう。

アクションカメラとの比較映像。明るい地下道のシーンはブレ補正の質に大きな違いは見られないが、夜の街に入ると差が出る。変わらずに安定してブレのないPocket 3に対し、アクションカメラは不自然なブレが残ってしまう。カメラをパンしたときの動作としては、アクションカメラは即座に反応するのに対し、Pocket 3はジンバルで動きを吸収するためワンテンポ遅れる感じだ

使い勝手の面で、Pocket 3とアクションカメラの違いは明白だ。

Pocket 3はジンバルという精密な構造を有しているため、激しい動きの中で撮影するとジンバルの補正が追い付かず、撮影する方向が定まらないことがある。また、構造的に防水や防塵性能が低く、衝撃に弱いという弱点もあり、スポーツをしながらの撮影や悪天候時の撮影においては撮れないシーンが出てしまうかもしれない。

このように、Pocket 3もアクションカメラも「ブレ補正が強力な小型カメラ」という点は同じだが、カメラとしての本質はまったく異なっている。

以上の特性を把握しておけば、Pocket 3とアクションカメラで悩む必要はないし、悩んでいるのなら「なにが撮りたいのか」を考えれば目的のカメラが見付かるだろう。ほしいシーンが撮れないと意味はないので、決して「小型」「ブレ補正」だけで判断しないこと。

大型化したモニターがすばらしい

Osmo Pocket 3は、ナンバリングからも分かるとおりOsmo Pocketシリーズの3代目だ。

初代は画角の狭さが弱点でもあったが、Pocket 2では画角を広げ、さらにイメージセンサーを大きくして高画質化。その結果、ジンバルカメラとして確固たる地位を築いた名機でもある。

Osmo Pocketシリーズ比較
Osmo Pocket 3DJI Pocket 2Osmo Pocket
イメージセンサー1型1/1.7型1/2.3型
タッチ画面2.0型
(314×556ピクセル)
1.08型
(220×240ピクセル)
1.08型
(220×240ピクセル)
マイクの数342
焦点距離
(35mm判換算)
20mm20mm26mm
絞り2.01.82.0
動画解像度4K:3,840×2,160
2.7K:2,688×1,512
FHD:1,920×1,080
3K:3,072×3,072
2,160p:2,160×2,160
1,080p:1,080×1,080
3K(縦):1,728×3,072
2.7K(縦):1,512×2,688
FHD(縦):1,080×1,920
4K:3,840×2,160
2.7K:2,720×1,530
FHD:1,920×1,080
4K:3,840×2,160
2.7K:2,720×1,530
FHD:1,920×1,080
フレームレート24/25/30/48/50/60fps24/25/30/48/50/60fps24/25/30/48/50/60fps
最大動画ビットレート130Mbps100Mbps100Mbps
静止画最大解像度16:9 / 3,840×2,160
1:1 / 3,072×3,072
9,216×6,9124,000×3,000
動画モード動画
スローモーション
タイムラプス
モーションラプス
ハイパーラプス
低照度
動画
スローモーション
タイムラプス
モーションラプス
ハイパーラプス
HDR動画
動画
スローモーション
タイムラプス
モーションラプス
ハイパーラプス
10bit Log

Pocket 3への大きな進化点としては、写真愛好家的には1型イメージセンサーの搭載があげられるだろう。これにより、高級コンデジに匹敵する階調感と暗所性能を獲得した。

本体は従来機よりひと回り大きく、そして重くなったが、モニターサイズも拡大したことで小型ジンバルカメラの宿命ともいえた画面の小ささも改善している。

Pocket 3(右)とPocket 2(左)。Pocket 3はジンバルに乗るカメラが1型イメージセンサーになったため、必然的に大型化。それを支えるジンバルも大きくなり、その結果スティック状の本体もPocket 2より大きくなっている

Pocket 3の本体はよく考えられていて、縦長に格納されているモニターを回転すると起動するというシステム。使わないときはスリムで収納しやすい形状、撮影するときは横長サイズの見やすいモニターになるという仕組みだ。

2.0型に大型化された回転式のモニターは、本体の電源スイッチも兼ねている。ちなみに、録画ボタンを押して起動、長押しで電源を切ることも可能

モニターサイズは従来機の1.08型から2.0型へと、約2倍に大型化されている。これにより、撮影時のストレスが大幅に軽減。個人的には、1型イメージセンサーよりも「モニターの大型化」の方が恩恵が大きいと感じている。

そもそもPocket 2の1.08型モニターは、目を凝らすと映っているものが分かる程度の解像感で、被写体を識別して構図を決めるような撮り方は難しかった。

「歩きながら撮影」は小型のカメラではよくある使い方なのだが、Pocket 2はモニターを見ながら歩けないため必然的にノーファインダーの撮影になる。

歩きながらモニターをチラ見したところで内容を把握することは難しく、PCやスマホで確認するまで上手く撮れているか分からないという問題もあった。

Pocket 2(右)と比較すると、Pocket 3(左)のモニターの見やすさは一目瞭然。構図を確認しながら撮影するという“当たり前”ができるようになった。ちなみにPocket 2はスマホとドッキングしてモニター代わりにしたり、コントローラーとして活用できるが、その場合「小型カメラ」という取り回しのよさをスポイルしてしまう

その点、Pocket 3は違う。

歩きながらでもモニターを確認しやすいし、チラ見で内容が把握できるため、より安全に移動しながらの撮影が可能。小型のジンバルカメラという製品として、これは本当に大きな進化だと思う。

Pocket 2と比べると「撮っているときの気持ちよさ」が格段に向上し、いろいろなアングルで撮りたくなるカメラといえる。

きれいな夜が撮れる稀有なカメラ

Pocket 2までは「お手軽カメラ」的な存在だったが、1型イメージセンサーを搭載したPocket 3は「映像制作向きカメラ」へと進化した。

1型イメージセンサーの効果としては、階調感(濃淡の表現力)が高くなる、白とびや黒つぶれが生じにくい、ノイズが軽減する、暗所性能が高くなる、ボケが作りやすい、などが挙げられる。中でも暗所性能の向上は、撮影の幅を広げる重要なファクターだ。

残照の景色はエモーショナルだし、街灯に照らされた夜景や華やかなイルミネーションなどは旅先で撮りたい被写体の代表だろう。

Pocket 3はこれらのシーンをいとも簡単に撮影できるし、撮りたい方向にレンズを向けるとジンバルがブレや揺れを吸収しながら“すぅ~”っと滑るように映像をパンしてくれる。

Pocket 3とPocket 2の暗所性能の比較。完全に陽が落ちた夜の公園とイルミネーションのシーン。Pocket 2は暗いながらもブレを抑えた見やすい映像で肉眼に近い見え方。ただし、後追い撮影している被写体は明るさが足りず闇に埋もれがち。Pocket 3は街灯の明かりだけでもしっかりと周囲が明るく写り、被写体も浮かび上がっている。わずかな照明でこれだけ描写できるのはすごい

濃淡の表現力に関しても、Pocket 2から大きく進化している。

中間調付近の色が濃密で、そこから白や黒に向かい濃度を維持しつつ濃淡が変化する調子だ。白から黒までしっかりと再現されているため色に深みがあり、なおかつ細部まで描写された解像感の高い映像といえる。

ただし、Pocket 2も決して悪い描写ではない。色彩や粒立ちがやわらかなため、鑑賞していて疲れない映像だ。しかしながら、Pocket 3の映像には余分なレンズを1枚外したような透明感があり、遠方まで見渡せるヌケのよさがある。

個人的な好みとしては黒に近い色が少し濃く感じるが、階調感が高い(黒つぶれしにくい)ため編集ソフトで補正も簡単。また、白とびが生じても白周辺の色の変化が滑らかで、荒れた画質に感じにくい点も特徴だ。

ただし、白とびは黒つぶれ程の耐性はなさそうなので、白が重要なシーンでは白とびに注意して撮影したい。

Pocket 3とPocket 2の色調の比較。Pocket 2は黒つぶれを回避するためか、黒が浅い色調になる場面がある。Pocket 3はしっかりと黒が出て色の濃度が高く、立体感のある描写。光が射すシーンでは描写力に差が出て、白とびしやすいPocket 2、ギリギリまで色が残るPocket 3という印象だ

色に関わる設定としては、「ノーマル」「HLG」「D-Log M」のカラーモードが搭載されている。

通常のノーマルモードでも階調感が高いため、撮って出しの映像として使うだけでなく、編集する素材としても十分に活用できるだろう。

D-Log Mモード(後述参照)で色を作り込むとなると初心者にはハードルが高いし、なによりも面倒だ。「色調整が好き」「プロっぽいことをしてみたい」というのなら別だが、「ノーマルモード+必要に応じて補正」というワークフローが実践的でおススメといえる。

HLGモードはHLG対応モニターで表示する形式なので、一般的な動画撮影においては選択する必要はない。

ノーマルモードの映像と、シャドウを明るく色調整した映像。ノーマルモードでも階調感が高いため、多少の補正なら画質劣化の心配もない。とくに黒に近い色はつぶれているように見えても階調が残っていることが多く、シャドウを少し明るくするだけで質感の高い描写にできる

映像制作者待望の10bit Log形式を搭載

Pocket 3で新たに搭載された10bit Log形式の「D-Log M」は、本格的な色調整をして仕上げる際に必須となる撮影モードだ。

デジタル処理では、白とびや黒つぶれ、色飽和している映像から滑らかな映像を作ることはとても難しい。

そこで、できるだけそれらが生じない色で記録しておき、後から好みの色に作り替えるという「色調整が前提の形式」がD-Log Mモードだ。

したがって、撮影した状態の映像は見た目の色彩よりもローコントラストでネムい色調になっている。

ノーマルモードとD-Log Mモードの発色の違い。D-Log Mは編集で自由に色が作りやすいように白と黒の強さを抑えているため、全体的にメリハリのない色調で記録される

D-Log Mの映像は、本来なら普段使いとしては面倒なのだが、最近の傾向として淡い色彩も好まれるのでそのまま使っても個性的で面白いかもしれない。

また、少し鮮やかにするだけでも見栄えがよくなるので、「Log形式は補正するモノ」と頑なにならず、自由に活用してみるとよいだろう。

ノーマルモード、D-Log Mモード、D-Log Mを色調整した映像の比較。本格的に色調整をするのなら、白と黒がつぶれずに色調に伸びしろのあるD-Log Mをベースにしたい。ノーマルモード以上の色彩を引き出すことができる。後半の映像は風速8m/秒の暴風の中で撮影したもの。「風ノイズ低減」をオンにして撮影しているが、さすがに低減し切れていない

カラーモードとは異なるが、色調に影響する設定として「低照度」モードがある。

こちらは「動画」「写真」「タイムラプス」などの撮影機能の1つとして搭載されていて、通常の動画モードよりもISO感度の上限が高くなるなど、「ノイズが出てもいいから映像を残したい」的な撮影モードといえる。

ISO感度が高くなると速いシャッター速度が使えるようになるため、被写体ブレを抑えることができるようになる。暗い中で手持ち撮影する場合は、念のため「低照度」モードにしておくとよいかもしれない。

気になるのは高ISOで生じるノイズだが、今回の撮影ではノイズが目立つ映像は見当たらなかった。

標準の撮影設定である「動画」モードと「低照度」モードの比較。前半は手持ち、後半は三脚に固定して撮影。通常の動画モードはISO感度の上限が6400だが、低照度モードは16000まで拡張される。その効果でシャッター速度が上がったためか、前半のカットは被写体のエッジに見られた解像感の甘さ(ブレ)が改善。後半のカットも「低照度」モードは文字のエッジがシャープに映っている

ズームと近接撮影が気になるところ

Pocket 3を使っていてもの足りなく感じたのがズーム倍率。

Pocket 3は単焦点レンズのためデジタルズームで倍率を変える仕組みで、フルHDの場合は4倍、4Kでは2倍となっている。

歩きながら撮影していると、「気になる被写体をズームアップ」という撮り方がしたくなるのだが、4K撮影時は2倍までなので思ったように被写体が引き寄せられない。

倍率を活かすためにフルHDで撮影すると画質に不満を覚えるなど、本機でストレスを感じた数少ない機能だ。通常の画質がよいだけにデジタルズームの粗が気になるという感じで、少なくとも被写体を選んで使いたい機能といえる。

4K撮影時のデジタルズーム。ズームしても画質の劣化は気にならないレベルだが、倍率が2倍なので遠方の被写体を引き寄せる効果は期待できない。マクロ的な撮影でより大きくしたいときに活用する機能と考えたい
フルHD撮影時のデジタルズーム。ズーム倍率は4倍だが、解像感が甘くなりやすく、被写体によっては画質の劣化が気になるかもしれない

反対に、撮影していて好印象だったのがAF機能。

写真家にとってカメラのAFは当たり前の機能だが、GoProなどのアクションカメラは基本的にパンフォーカスでAFが搭載されていない。そのため、奥行き感や立体感を活かした撮影が苦手だし、どのシーンも同じ見え方になるため単調な描写になりやすい。

もっとも、アクションカメラは周囲を含めた動きを捉えるカメラなので、画面全体にピントが合うパンフォーカスという仕様は理にかなった特性ではある。

対して、AFを搭載しているPocket 3の映像はアクションカメラとは大きく異なっている。被写体に寄れば背景がぼけるし、離れるほどに背景に馴染むという、立体感のコントロールが行えるカメラだ。

ボケを活かした撮影ができるのも、1型センサー+AF搭載の魅力。ただし、絞りはF2.0固定なので、被写界深度のコントロールはできない

ただし、注意点もある。近接撮影時のピンボケだ。

Pocket 3のレンズは焦点距離が20mm(フルサイズ換算)と超広角な部類のため、小さな被写体の場合は近寄って大きく写したくなる。しかし、最短撮影距離付近の撮影はピンボケを量産しやすく、今回の撮影でもピントが甘い作例を数多く残してしまった。

カメラのモニターで確認しながら被写体をタップしてピントを合わせているはずなのに、映像をPCの画面で確認するとピントが外れていたという状況だ。

ピンボケを量産したパターンが、撮影しながら被写体に接近して大きく見せるカット。念のため複数回撮影したのだが、すべてピントが甘いという惨憺たる結果となった。近接撮影するときは、ピントに細心の注意を払いたい

原因は2つ考えられる。

1つは、Pocket 3の2型モニターは微細なピントがチェックできるほどの解像感がないという点。カメラのモニターではピントが合っているように見えても、314×556ピクセルの解像度では甘いピントもシャープに見えてしまう。

2つ目が、最短撮影距離が“絶妙”に長いという点。

Pocket 3の最短撮影距離は20cm。ミラーレスカメラやデジタル一眼レフカメラユーザーからすると十分にマクロ撮影できる距離に思えるが、焦点距離が20mmの超広角レンズは寄っても被写体が大きくならず、「もう一歩」という感じでその範囲を容易く超えてしまう。せめて最短撮影距離が10cmなら、花や料理、小物の撮影が面白くなるのにと残念に感じた一面でもある。

AFに関してもう少し紹介すると、搭載しているモードは「シングル」「連続撮影」「製品展示」の3種類。写真的にいうなら、シングルは「AF-S」、連続撮影は「AF-C」となる。製品展示は、常に「手前の被写体」にピントを合わせるモードだ。

通常は連続撮影モードで撮ればOK。合焦も速いし、フォーカスが迷うことも少ないので、レスポンスよく撮影できる。

ニッチだけど嬉しかった3つの機能

細かいことだが、起動時のカメラの向きが指定できるようになった点もありがたい。

Pocket 2は起動時のボタンを使い分けてカメラの向きを選択するシステムのため、自撮りをしない筆者は起動と電源オフは別のボタンを長押しするという紛らわしさに悩まされていた。

慣れの問題と思えるかもしれないが、使っていてイラっとすることも少なくない。

たとえば、間違って電源ボタンで起動すると自撮りモードになってしまい、画面いっぱいに自分の顔を見せられるだけでなく、そこからカメラを前向きにしなくてはならず、撮りたいシーンを逃してしまうこともある。二重のストレスだ。

Pocket 3はあらかじめ指定したカメラの向きで起動できる。筆者は「前方」(撮影者の反対側)に設定して、起動してすぐにスナップ撮影できるようにしている。自撮りがメインなら、「後方」にしておけばよい

それと、縦動画撮影がしやすくなった。

Pocket 2は縦動画を撮るためには本体を横向きに構える必要があったが、Pocket 3はタッチ画面を回転すればOK。縦長画面でモニターしながら縦動画の撮影が可能だ。

ただし、縦動画は4Kには対応しておらず、3Kサイズ(1,728×3,072)になってしまう。

個人的な要望としては、イメージセンサーの画素をフルに使った3,840×3,072ピクセルの解像度も用意してもらいたい。これなら横動画から縦動画が切り出せるので、一度の撮影で2つの素材が用意できて使い勝手がよくなるのではないかと思う。

縦動画の例。縦動画というとショート動画向けの素材が主な目的になるが、筆者は高低差を活かしたいシーンや狭い場所などでもよく撮影している。写真から動画の世界に入っているので、縦の構図にはなんの違和感もなく昔から縦動画は大好きだ!

とてもニッチだけれど、必要なひとには切実な機能でもある「タイムコード」にも触れておきたい。

USB Type-Cケーブルで接続したPocket 3同士で映像を同期したり、(精度は落ちるかもしれないが)システム時間と同期して他社の類似機能搭載のカメラと同期撮影するなどの使い方が考えられる。複数のカメラで同時に撮影する現場では重宝する機能だ。

タイムコードの設定画面。本来はタイムコードを生成する「親機」を使い、専用のケーブルやBluetoothで信号を同期させるなど面倒なシステムなのだが、Pocket 3同士ならUSB Type-Cケーブルをつなぐだけで簡単に同期できる

解像感の高いマイクで繊細な音も収録

コンバーターやフィルターが使いたい場合、従来機と同様にマグネットでレンズに装着する仕組みになっている。ワンタッチで素早く着脱できて、とても簡単なシステムだ。

純正でもいくつかのレンズが用意されているが、使用頻度が高いのは装着すると15mm相当(フルサイズ換算)の画角になる広角レンズだろう。

オプションの広角レンズはマグネットで装着する。装備した状態で電源をオフにできるし、保護カバーに収納することもできるので常用することも可能だ

写真家からすると標準の20mmでも十分に広い画角だが、街歩きのスナップ動画などではもっと広範囲に周囲を映し込みたい場面も多い。
また、自分の顔を大きく見せたくない(周囲の景色と一緒に自撮りしたい)ユーザーも、広角レンズは用意しておきたいアイテムだ。

標準の画角と広角レンズ使用時の画角の比較。広角レンズは指先ほどの大きさで、撮影中でも簡単に装着できるので、ポケットに忍ばせておくと便利。ちなみに、付属の保護カバー内に収納場所が用意されている

それと、マイクの性能について。

小型カメラのマイクにどこまでの性能を求めるかはユーザーによって異なるが、スナップ的な撮影で臨場感を出すなら不満は感じない、というよりも十分に高品質だ。

左右だけでなく前後の分離感もあって、ヘッドホンで聴くと立体的な音場で録音されていることが分かる。

また、減衰しやすい「ささやかな高音」も澄んだ音色で録音され、テスト撮影においては外付けマイクの必要性を感じなかった。

前半は静寂の境内。画面外の左手にはチョロチョロと水が流れる手水舎があり、背後の砂利の地面を通行人が横切っている。後半は風に揺れる梢の中で響く風鈴のシーン。どちらも繊細な音まで収録された解像感の高いサウンドだ

マイクは本体の左右と背後に設置されているのだが、Pocket 3本体のみで操作する場合、本体の横にあるマイク穴を指で塞ぎやすいので要注意。失敗を防ぐためにも、ハンドルを装着した状態で撮影したい。

また、「クリエイターコンボ」(後述参照)にはバッテリーを内蔵した「バッテリーハンドル」も用意されているが、装着すると重量が増し、縦長になり過ぎるため、撮影時のバランスや取り回しが悪く感じた。

左から、本体のみ、本体+ハンドル、本体+バッテリーハンドルのホールド感。本体のみだと短いため落としそうな不安がある。バランスがよいのは本体+ハンドル(中央)の組み合わせ。今回の撮影はほぼすべてこのスタイルで行っている

動画メインならPocket 3

以上、長々と語ってしまったが、それだけPocket 3は面白くて期待のもてるカメラだということ。

1型のイメージセンサーというカメラ好きの琴線に触れるスペックをもち、しかも、Pocket 2の1/1.7型センサーよりも画素数が少ない。Pocket 2の約6,400万画素に対して、Pocket 3は公式には公開されていないが、記録解像度から計算すると約1,200万画素前後と推測できる。

センサーサイズが大きくて画素数が少ないということは、低照度性能と階調感を追求したカメラということが分かる。例えるなら、ソニーのα7シリーズにおけるα7Sであり、パナソニックLUMIXのGH5に対するGH5S的な存在だ。

ほかのカメラと比較検討するとき、この点を思い出すとPocket 3の立ち位置が分かりやすくなるだろう。

問題は、どのセットを買えばよいのかという点。

Pocket 3には「通常版」と、オプションが多数含まれた「クリエイターコンボ」がある。

ワイヤレスマイク、広角レンズ、バッテリーハンドル、キャリーバッグなどが含まれるクリエイターコンボがお得なのは確かだけれど、個人的に選ぶなら通常版かもしれない。

ワイヤレスマイクが必要なら迷わずクリエイターコンボだが、個人的にマイクは音が好みの製品を使いたい。

バッテリーハンドルは重くて装着時のバランスが悪く、容量が少ないので、今回の撮影ではモバイルバッテリーの方が重宝した。

オプションが一式収納できるキャリーバッグは、ハンドルを付けると本体が入らない上、サイズがピッタリ過ぎて出し入れに難がある。

「ハンドル」と「保護カバー」で快適に運用できたので、筆者としてはこれらがセットになっている通常版で十分となる。

ちなみに広角レンズは欲しいオプションだが、クリエイターコンボとの価格差を考慮すると、単体で購入しても問題ない。

クリエイターコンボ(左)と通常版(右)のセット内容。大きな違いは、「DJI Mic 2 トランスミッター」(ワイヤレスマイク)、「バッテリーハンドル」「キャリーバッグ」「広角レンズ」の4点。上記の写真以外に、ストラップ、およびPD対応USB Type-Cケーブルが付属する

Pocket 3は、とにかく夜の映像がすごい。小さなカメラなのに、ブレずに明るく解像感の高い映像が撮れる。

ズームの画質は気になるところだが、それを差し引いても、現時点でもっとも魅力的な小型カメラであることは確かだ。

Pocket 3の競合相手はというと、アクションカメラではなくソニーの1型コンデジRX100シリーズだろう。もしくは、同レベルのブレ補正機能を有する従来機のPocket 2かもしれない。

動画メインならPocket 3、写真>動画ならRX100、夜のシーンにこだわらないのならPocket 2のコスパがよいのでおススメ!

桐生彩希