新製品レビュー
ソニー α9 III
“ローリング歪み無し”のグローバルシャッターで飛行機/新幹線を試し撮り
2024年1月26日 07:00
フルサイズミラーレスカメラとして、世界初のグローバルシャッター方式を採用した「α9 III」が1月26日(金)に発売される。グローバルシャッターは全画素を同時に露光して読みこむので、その魅力はローリングシャッター方式で発生していた歪みのない、見たままの姿を写せるようになったことだ。
そのほかα9 IIIにはAF/AE追随最高約120コマ/秒連写機能、最大1秒前までさかのぼって記録するプリ連写機能、車/列車と飛行機にも対応したリアルタイム認識AF、全速フラッシュ同調など最新機能満載となっている。
外観
外形寸法は幅136.1×高さ96.9×奥行82.9mm。本体のみの質量は618gとなっていて、α9 IIと比べると幅7.2mm、高さ0.5mm、奥行5.4mm、質量25gほどサイズアップしている。
イメージセンサーには有効約2,460万画素の積層型CMOS「Exmor RS」を採用。メカシャッターは搭載していない。
カメラ上面を見てみると、右端のダイヤルはα9 IIでは露出補正ダイヤルだったが、α9 IIIでは何もプリントされていないただの黒いダイヤルになってる。デフォルトでは露出補正が設定されているが、好みにカスタマイズできる。
グリップ形状がこれまでのα9 IIより太くなり、右手のフィット感が良くなっている。またシャッターボタンも新たな形状になっている。α1やα9 IIのでっぱりのある上から押しこむシャッターボタンと違い、人差し指をスライドさせて自然とシャッターが押せ、グリップとの相性も良くなっている。
静止画、動画の切り替えスイッチが撮影モードダイヤルから独立し、撮影モードダイヤルの下(同軸)に備えられている。
背面モニターは約210万ドット、3.2型の高精細大型液晶パネルで、ソニー独自の4軸マルチアングル対応となっている。4軸マルチアングル機構はチルト式と横開きのバリアングル式の両方の機能を備え、縦位置と横位置で見やすい角度調節が可能だ。
動画撮影で4軸マルチアングルモニターを使用しても、カメラに接続したケーブル類が邪魔になることがない。
カメラ左側面には各種インターフェースを搭載。左上からLAN端子、HDMI Type A端子、シンクロターミナル、右上からマイク端子、ヘッドホン端子、USB Type-C端子、マルチ/マイクロUSB端子となっている。
カメラ右側面にはメモリーカードの挿入部を備えた。CFexpress Type AカードとSDカード(UHS-I/II対応)のデュアルスロット。上がSLOT1、下がSLOT2になっていて同じスロットにCFexpress Type AカードとSDカードが入る。両スロットに同じカードを入れたり、それぞれにCFexpressとSDカードを入れたりと、撮影目的に合わせて組み合わせ方を自由に選択できる。
α9 III用の縦位置グリップ「VG-C5」も用意している。縦位置撮影時も横位置と同様のホールド感が得られるほか、ボタン配置も統一されている。カメラ側に新たに付けられた「C5」ボタン(マウント脇)はVG-C5にも搭載されている。
縦位置グリップ内には大容量Zシリーズバッテリーが2個装着できる。カメラ本体でバッテリー残量の確認もできるので長時間撮影に向いている。
グローバルシャッターで動体撮影
ローリングシャッター方式のカメラでは速い被写体に合わせてカメラを振った場合、背景に歪みが出たり、サッカーなどの球技スポーツではボールが楕円形に写ってしまうなどの課題があった。それをグローバルシャッターだとどうなるのか撮影してみた。
高速で通過する新幹線の先頭部を狙い、カメラを振って追いかけた。架線柱や鉄柱の歪みは全く出ていない。
走行中の新幹線車内から雲に隠れている富士山を撮影。目の前の架線柱は垂直に写っている。ローリングシャッター方式のカメラなら架線柱が斜めに写ってしまう場面だ。
サッカーのキックシーン。ボールの速度が速くても歪みがなく丸く写っている。
これはちょっと気になった事で、LEDの行先や列車名表示がグローバルシャッターを使うとどうなるのか試してみた。
結果はシャッター方式にかかわらず、シャッター速度を調整しないと文字が欠けてしまう。LED表示は目に見えない速さで点灯消灯を繰り返して表示しているので、この電車の場合はシャッタースピード1/400秒以下で撮らないと文字が欠けて写ってしまう。
被写体検出が豊富に
α9 IIIの被写体認識対象は「人物、動物/鳥、動物、鳥、昆虫、車/列車、飛行機」と幅広く設定できるようになった。この認識対象は、これまでα7CR、α7C II、α7R V、VLOGCAM ZV-E1、α6700で採用例があるが、α1やα9 IIには搭載されていなかった。
被写体認識を「鳥」に設定。AFはカメラ任せにし、シャッターを押すことに集中できた。
被写体認識を「車/列車」に設定。成田エクスプレスの先頭部を認識し追尾し続けた。
被写体認識を「飛行機」に設定。あたりが暗くなったなかでも飛行機を認識し続けた。
AF/AE追随で最高約120コマ/秒の連写
狙った被写体を確実に撮るための約120コマ/秒連写。しかもAF/AE追随が可能なので通常通りの感覚で撮れてしまう。ただし、JEPG LサイズエクストラファインやRAW+JEPG設定での連続撮影可能枚数が192枚となっているため、その設定の場合は連写できる時間が1.6秒ほどになってしまう。
下の画像が、被写体認識「車/鉄道」を使い約120コマ/秒連写で撮影した1コマ目。
これが狙い通りのベストカット。連写を続けて143枚目だった。
最後はこのカットになるが、連写を始めてから202コマ目となっていた。メモリーカードにより連続撮影可能枚数に少し変化が出るようだ。全202コマ中ピントを外したコマはなかった。
カメラのグリップとマウントの間に「C5」ボタンがあり、デフォルトで連続撮影速度のHi+(約120コマ/秒)が設定されている。通常撮影中、とっさに約120コマ/秒で撮りたくなったら、中指でC5ボタンを押しながらシャッターボタンを押すと、この「連写速度ブースト」と名付けられた機能が発動する。
最大1秒前にさかのぼるプリ撮影
シャッターを押す前の瞬間をさかのぼって記録できる。さかのぼれる記録時間設定は0.01秒前から0.1秒まで(0.01秒単位で調節可)。そこからは0.1秒ごとに最大1秒前までとなっている。今回はすべて1秒で試してみた。
新幹線が通過する前に富士山を背景にフレーミングを決め、シャッター半押しで新幹線が通過するのを待った。ファインダー内で新幹線が通過したのを確認してシャッターを全押しした。さかのぼる時間を1秒前に設定していた結果、狙った瞬間を残すことができた。
シャッター速度は連続撮影時には1/16,000秒に設定が可能。単写設定にすれば1/80,000秒まで上げられるので、晴天時に絞り開放の撮影や、速い動きを止めて撮ることが可能となる。
カラスが飛び立つ瞬間もプリ撮影で写しとめた。
高感度撮影をチェック
常用ISO感度はISO 250-25600。拡張により下限をISO 125、上限をISO 51200に設定できる。
夜間の飛行機撮影を見てみると、ISO 12800までは普通に使えると感じた。感度拡張のISO 51200まで上げるとかなりノイズが出てきて、ディテールが失われるところもある。
まとめ
α9 IIIのグローバルシャッター方式には良い手ごたえを感じた。ローリングシャッター方式のカメラで課題となっていた歪みが出ないのが一番のメリットだ。
今回は試せなかったが、フリッカー発生がないことや全速フラッシュ同調などもグローバルシャッターのメリットになるだろう。合わせて約120コマ/秒連写やシャッタースピードが1/16,000秒で連写可能なことなど、動きものを撮るのにはふさわしいカメラだと思う。
その他、フォーカスエリアにはSサイズより小さなスポットXSが新たに加わっている。複数人がファインダー内に入ってくる場合など、狙った被写体にピンポイントでピント合わせが可能になる。
サッカーの撮影では被写体認識対象を「車/鉄道」設定で撮ってしまいAFがボールや背景に追尾することがあった。被写体ごとに認識機能を切り替えないと意図しないポイントにAFが合ってしまうことがあるので撮影前の切り替えが重要だ。
バッテリーは縦位置グリップを装着して1日撮影したが、2個のバッテリーを使いきることなく、余裕をもって撮影できた。
グローバルシャッター方式のイメージセンサーを搭載するα9 IIIは、その場の空気感まで切りとってしまうような新時代のカメラだった。