新製品レビュー
エプソン EP-886A
家庭向けに“隙のない”6色インクジェットプリンター
2023年12月26日 07:00
エプソン販売株式会社は、家庭用インクジェットプリンター「カラリオ」シリーズの新モデル「EP-886A」を10月19日(木)に発売した。直販価格は税込3万9,050円(以下、全て税込の直販価格)。
同時期に発表したカラリオのラインナップには、「EP-816A」(3万250円)と「EP-716A」(2万3,650円)があり、本機はいわゆる松竹梅の「松」(最上位)グレードに位置付けられている。なお、2022年10月発売の「EP-885A」(3万2,450円)の後継モデルでもある。
インク構成は基本色(4原色)のシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックに、ライトシアンとライトマゼンタを加えた6色構成(独立カートリッジ方式)を採用した。
プリント速度は、「A4写真用紙<光沢>」で約50秒、「L判写真用紙<光沢>」なら約13秒となる(いずれも公称値)。実際、L判写真(写真用紙・標準)をプリントすると約14.4秒となり、おおむね公称値に近い値がでた。
ただし、これはメーカーの数値計測条件である「給紙開始(紙の動き始め)から排紙まで」の値。アプリを利用し、「印刷」をタップしてからプリント完了までの時間は約25秒だったので、データの通信&紙のスタンバイで約10秒かかったことになる。
また、印刷品質を「標準」から「きれい」に変更すると約50秒。アプリの「印刷」をタップしてからプリント完了までの時間は、約72秒となった。
給紙開始(紙の動き始め)のタイミングがわかりにくいため、計測値で±2秒みてもらえれば、おおむね正しい値になると思う。
なお、純正インクとしては、通常タイプ(カメ)と増量タイプ(カメ(増量))が選べるようになっている。カートリッジ自体のサイズは変えずにインクの内容量だけを増やした増量タイプは、頻繁にプリントする場合のコストパフォーマンス改善が見込める。
例えば、「L判写真用紙<光沢>」にプリントする場合、通常タイプを使用すると約31.5円。これを増量タイプでプリントすると、約24.8円となる(いずれも公称値)。
インクの目詰まりを考えるなら適度に使用するのが理想だが、インクの劣化などを考えて、通年は通常タイプ、プリントが多い時期は増量タイプといったように使い分けるといいかもしれない。
カラーごとに通常・増量が用意されているが、全カラーがセットになった「6色パック」にも通常と増量が用意されている。また、書類印刷を意識してか、「6色パック(ブラックのみ増量パック)」も用意されている。
写真のプリント品質は?
さて、EP-886Aで注目したいのが“6色インク構成”だ。基本色に追加したライトシアンとライトマゼンタは、単純に階調(グラデーション)表現を補間する働きがある。
一般的にインクの吐出方式には、ヒーターの熱を利用してインクを吐出させる(加熱による気泡で吐き出させる)「サーマル(バブル)」方式と、電圧によって収縮する「ピエゾ素子(圧電素子)」方式がある。
サーマル方式は、構造が単純なため本体の小型化に向いているが、熱によるインクの劣化や乾燥による目詰まりというデメリットがある。
一方で、同社の採用するピエゾ素子方式は、構造が複雑なためある程度の大きさが必要。ただし、電圧により細かな吐出制御が行えるほか、熱によるインクへの影響が軽微であるというメリットがある。
インクジェットプリンターは、直接混色するわけではなく、適切な位置にインクの粒(異なるドットサイズ)を配列することで色を表現する。グラデーションでいうと、濃い部分は色の粒が密集しており、薄くなるにつれて色の粒がまばらになっていく。
基本色だけでもこうした表現は可能だが、例えばシアンの場所をより淡い(薄い)ライトシアンに置き換えることで、滑らかで自然な表現が可能となる。
ピエゾ素子のもつ、正確な吐出制御というメリットもこうした表現に一役買っているわけだ。トーンジャンプしがちな青空の色合いや、素肌といったデリケートな表現を求めるなら、ライトシアンやライトマゼンタのような追加色は有効だ。
最近、エコタンク対応のA4インクジェットプリンター「EP-M476T」を使う機会に恵まれたのだが、こちらはコストパフォーマンスを重視した基本色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のみ対応。
EP-M476Tでも作例として使用した写真をEP-886Aでも印刷してみたが、見比べると違いがハッキリする。EP-M476Tは全体的にイエローが主張しているが、EP-886Aではよりナチュラルで、記憶している光景に対しても正しいと認識できる仕上がりになった。
べた塗りのような色彩がハッキリしたイラストなどのプリントでは、ライトインクの恩恵は得られないと思うが、写真プリントを主眼とするならEP-886Aは十分活躍してくれるだろう。
また、量販店でも購入できる高ランク印画紙「写真用紙クリスピア<高光沢>」を利用してみたが、ハイライトからシャドウまでの階調が滑らか(特に暗部)で、白がスッキリと表現できている。
標準的な「写真用紙〈光沢〉」と比較すると、それまで感じなかった青っぽさが目立つようになり、「写真用紙クリスピア<高光沢>」のナチュラル感が強調される。
用紙コスト的には「写真用紙〈光沢〉」で十分満足できるだろう。一方でここぞといった作品、飾っておきたい作品、あるいは全体的に白っぽい作品なら、「写真用紙クリスピア<高光沢>」との組み合わせも選択肢に入れると、作品づくりの楽しさが増すかもしれない。
ホーム画面設定やセルフメンテナンス。使い勝手も良く…
さて、本機はEP-885Aの後継モデルと紹介したが、実は機能的(カタログスペック)な面ではほぼ違いがない。
搭載する液晶モニター(4.3型タッチパネル)も、インク構成も、プリント速度もすべて同じだ。プリント品質については、流石に10年前のモデルを引っ張り出してくればその差を感じるだろうが、同じインクを利用しているモデルとの比較なら差を感じることはほぼないだろう。
企業努力もあって、プリント品質は高止まり状態にある。おかげで、同社のプリンターはどのタイミングで買っても満足感が高い。これは事実だ。
従来モデルからの進化点は、「らくらくモード」が追加されたことにある。これは、よく使う機能をホーム画面に登録する機能となる。「写真の印刷」や「いろいろ印刷」といったプリントに関する機能をホーム画面に集約できるというわけだ(登録機能は3つまで)。
運用面では、前面と背面の2つの給紙機構を備えており、前面の2段給紙がとにかく便利。例えば、A4とハガキといったように異なる用紙をセットしておける。
ある程度使うサイズというのは決まっていると思うが、前面給紙にはそういった用紙をセットしておき、イレギュラーな用紙は背面手差しで対応するという使い方ができる。
なお、用紙の厚さによっては枚数が変わるので目安となるが、給紙容量はA4が最大100枚、ハガキが最大60枚(上トレイ最大20枚、下トレイ最大40枚)となっている。
個人的には、2016年モデルから搭載されている「メンテナンスボックス」(EPMB1)への対応も言及しておきたい。
このメンテナンスボックスは、いわゆる排インクタンクのこと。プリンター使用開始時やクリーニング時に消費されたインクは、従来内蔵する吸収パッドなどに吐出されていた。しかし交換式ではなかったため、プリンター自体の使用頻度が多い場合、吸収しきれなくなりエラーを起こすということがあった。
当然、自分では交換できないためメーカー修理となるが、メンテナンスボックス対応モデルでは修理に出すことなく、自身の手で交換が可能。同社ではこれを「廃液タンク交換によるダウンタイムをなくす」と表現する。
年賀状作成をピークとするような使い方の場合はさほど気にすることもないだろうが、日常的に印刷する場合はこうした機構は便利だろう。
隙のない家庭向けプリンター
同社では、「おうちプリント」として、プリントコンテンツを定期的に配信しているが、2023年モデルのEP-886Aは、「おうちフォトプリント」をメインに隙のない作りになっている印象だ。
基本色にライトシアンとライトマゼンタを加え、写真向けとなる6色構成のインクや、「らくらくモード」によるパーソナライズへの対応など、幅広い層へとアピールしつつ、運用次第でフォトライクプリンターともいえるようになる。これは凄い。
かといえば、インクジェットプリンターを運用する上でのサポート機能も充実している。いわゆるスマートフォン連携(接続や直接印刷)や、無線LANに関するさまざまな機能(自動電源オン/自動電源オフ、排紙トレイ自動オープン)を搭載する。
「痒い所へ手が届く」が、言い過ぎにならないポテンシャルをもつEP-886A。写真に特化するような極めて個人的な使い方も、家族でシェアするような使い方も、どちらにも対応する懐の深さが同製品の魅力だろう。