新製品レビュー
エプソン EP-M476T
ランニングコスト重視で“エコを追求”したインクジェットプリンター
2023年11月30日 07:00
価格を抑えたエコタンクのエントリーモデル
エコタンクモデルは、カートリッジ式よりも容量の大きなインクタンクを備えており、補充回数が少なくて済むこと、そしてランニングコスト面でもメリットがあるのが特徴だ。
何より、インクタンクが前面にあるデザインを採用している場合、インク残量が一目で確認できるため、インクの減り具合がアプリやソフトを経由しなくても確認できる点がいい。
また、これまでのコンシューマ向けエコタンクモデルは、「EW-M873T」の6万8,200円、「EW-M754T」の4万6,750円と、エコタンクの付加価値が強く反映されているように思えるが、EP-M476Tはカートリッジモデルにグッと近寄った印象だ。
事実、カラリオプリンターの「EP-816A」(3万250円)と「EP-886A」(3万9,050円)の間に入る価格帯なので、EP-M476Tはエコタンクモデルのエントリーといってよさそうだ。
EP-M476Tのランニングコストは、公称値ながら、A4文書のカラーは約0.8円(モノクロなら約0.3円)でプリント可能。同時期に発表した「EP-816A」(10月19日発売)では、カラー文書が約19.8円なので、その差は歴然だろう。
一方、インク構成に関してEP-M476Tは基本色(4原色)のシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのみと、やや物足りなさを感じる。
例えば、前述した同価格帯の「EP-816A」は、基本色にライトシアンとライトマゼンタを加えた6色構成を採用する。これらを比較すれば、EP-M476Tのカラー表現に不安を抱くユーザーもいるだろう。
とはいえ、企業努力のおかげで、ここ数年の単純なプリント表現力だけでいえば、特に問題視することはない。毎年の買い替えを考える必要もなく、安定したプリントが可能だ。言い換えれば、プリントがこなれてきた分、機能面での進化が目立つといったところだろうか?
確かに、写真プリントに関しては基本色だけでは物足りなさを感じるかもしれない。この問題の解決策としては、プリント用紙の変更をオススメしてみたい。例えば、同社の写真用紙「クリスピア」(高光沢)や写真用紙(絹目調)、フォトマット紙など、光沢一辺倒ではなく、インクの定着が深く、安定性に優れたもの、作品としての風合いを増すようなものを選べば面白いだろう。
ちなみに、これまた公称値ながら、A4文書のプリントスピードはカラーが約5ipm(image per minute:1分間のプリント枚数)で、モノクロなら約10ipmとなっている。これをL判写真で考えると、プリントコスト(インク・用紙合わせて)は約7.8円だが、プリントスピードは約76秒と頭を抱えてしまう結果に。
実際にL判写真(写真用紙・標準)をプリントしてみると、約75秒かかった。公称値に偽りなしだ。印刷品質を「標準」から「きれい」に変更すると約136秒となり、さらに待つことになる。
また、2L判写真(写真用紙・標準)では約92秒。「きれい」設定では約157秒となった。
印刷品質を「標準」から「きれい」に変更する場合、2倍弱の時間がかかると思ってよさそうだ。通常、より高品質な設定にすると、彩度やコントラストが強く、好ましいと感じやすい色合いになることが多い。ただし、同製品ではそれほど差を感じることができなかった。なので、プリントスピードを考えると「標準」で十分かもしれない。
また、給紙方法は背面給紙のみの対応となる。そのため、用紙切れのたびに給紙にいく手間がかかる。加えて、用紙サイズの設定はアプリからではなく、本体を直接操作する必要がある。
常に同じ用紙を使い続けるなら問題ないが、L判から2L判、A4からL判など、用紙サイズを変更する場合は再設定になるので注意したい(印刷品質はアプリからでも変更可能)。
前述の「EP-816A」では、プリントコストが約35円、プリントスピードが約13秒となっている。このことからも、コストに特化したエコタンク製品とバランスを重視したスタンダードなカラリオプリンターという立ち位置がハッキリとわかる。
なお、ブラックインクボトルで約4,500ページ、カラーインクボトルで約7,500ページのプリントが可能だという。家庭用プリンターの弱点として長年認知されているプリンタヘッドの目詰まりは、適度に使うことが最大の解決策。
一年を通して、最大の山場が年賀状作りという運用方法だと、いざプリント時に吐出されない色があるということになりかねない。ヘッドクリーニングで対応できるとはいえ、大量のインクを消費することになるので、コスト高になるのは否めない。
その点、同製品は日常的に利用することを念頭においているので、子供のプリント印刷だとか、テレワークで使う資料印刷といった作業が頻繁にある場合に選択肢に挙がるだろう。
シンプルな本体デザインと操作系
インクボトルについてだが、注入口に差し込むだけで補充が開始され、満タンになるとストップするので、こぼれる心配はない。また、カラーごとに注入口が違うので入れ間違わないのもポイントだ。
ちなみに、インクタンクが空の状態で補充すると約50秒かかるとされているが、実測では約41秒だった。また初めて使用する場合、初期充填(約11分)が必要となるが、こちらは約9分40秒とそこそこかかるので余裕をもって行いたい。
本体インターフェースは極めてシンプル。一番左に電源ボタンがあり、液晶を挟んで右側に操作系を集約。スマートフォンやPCからプリントする場合は、これまで通りWi-FiやUSBを経由して、アプリ(Epson Smart Panel)・ソフトを使用する。有線LANには非対応だ。
液晶モニターは1.44型と小型なのが気になるが、使ってみると情報量が少ないため、正直慣れる。というよりも、単体で操作するのがコピーだけだと思うので必要十分だと思う。
SDカードスロットを搭載していないので、カードを直接接続することはできないが、画面サイズを考えれば、スマートフォンやPC経由でのプリントとなるので問題はなさそう。
総合的にみれば、プリンター・コピー機として使い倒したい人向けの製品だといえる。特に、家族などの複数人数で使う場合は、インクのコストや補充頻度などを考えても限りなくベストな選択肢になるだろう。
使う頻度が少ない人ほど、目詰まりによる故障のイメージがあるかもしれない。そういった人は、5年サポートサービス「カラリオスマイルPlus」の対象なので、加入の検討をしてみてもいいかもしれない。
修理料金「全額」サポートプランが8,800円、「半額」サポートプランが5,500円だ。
“エコ”の追求
プリンターに限らず、色々な製品は日進月歩で進化しているのは正しい。ただ、ことプリント機能だけに絞れば、ここ数年は高止まり状況にあるように思える。
消費者にとって、これは悪いことではない。一定のラインで高品質なプリントが担保されていれば、あとは運用スタイルによって機能の取捨選択ができるからだ。
そういった意味では、エコタンクを搭載する同製品は極めてわかりやすい。
なお、フラッグシップモデルとして「EW-M873T」がラインナップされているが、こちらは2020年12月10日発売で、もう3年前のモデルとなる。エコタンク&基本色+マットブラック(顔料)、グレーの6色構成で、作品作りにも対応できる製品だ。
作品のプリントには同社の上級機(SC-PX1Vなど)やプライベートラボを活用するユーザーにとって、導入コストやランニングコストを考えると、日常的なプリントを任すのに大ありの製品といえるだろう。