新製品レビュー
ニコン Z f
クラシックデザインに最新性能&操作性を兼ね備えた実用モデル
2023年11月1日 07:00
10月27日発売のニコン「Z f」は、ニコン Z マウントのフルサイズ(FXフォーマット)ミラーレスカメラです。キャッチコピーで謳われている「愛おしさを形に」の通り、往年のレトロなフィルムカメラ(具体的には「ニコンFM2」)の意匠を彷彿とさせる粋な外観デザインで登場しました。
しかしながら本機「Z f」は、ただ懐古的な味わいを楽しむだけのモデルではなく、最新のミラーレスカメラとして必要十分な基本性能をもった、実用的でありながら趣味性の高いカメラであることが試用で分かりました。
グリップがほぼないレトロな薄型デザイン
外形寸法は約144×103×49mmとなっています。数値上のサイズ感はともかくとしても、49mmという薄さは今どきのフルサイズミラーレスカメラとしては薄い部類になります。これはグリップのサイズを大胆に縮小したためではありますが、結果的に「往年のレトロなフィルムカメラの意匠を彷彿とさせる」要因のひとつになっているのではないかと思います。
グリップを目立たせないようにしながらも、「Z 8」等と同じ、大容量のリチャージャブルバッテリー「EN-EL15c」を採用しているのは嬉しいところです。本機のサイズ感(薄い)で「EN-EL15c」を使えるようにするのは、設計上きっと大変なことだったのではないかと思います。
ちなみに、メモリーカードスロットはバッテリーと同室で、ここは小型軽量・薄型化のための当然の処置ではないかと思います。
そしてSDカードスロットとバッテリーの間に、隠れるようにして装備されているのがmicroSDカードのスロット。SD/microSDカードのダブルスロットという仕様に一瞬とまどってしまいますが、microSDカードはスマートフォンやドライブレコーダーなどに採用されていますので、万が一のメモリーカード忘れ(あってはならないことですが)など、イザというときに助かるかもしれません。
伝統と革新が融合した操作性
カメラ上部にはシャッタースピードダイヤル、ISO感度ダイヤル、露出補正ダイヤルが並びます。3つのダイヤルやシャッターボタン、電源スイッチなどは真鍮製で質感の向上を狙っています。
シャッタースピード優先(S)モードやマニュアル露出(M)以外でシャッタースピードを調整することは少ないと思いますが、それでもダイヤルを廻す感触を得ながら目視で調整するのは楽しいものです。「1/3STEP」に合わせると、メインコマンドダイヤルまたはタッチ操作で1/3ステップずつ設定することもできます。同じように、露出補正ダイヤルは「C」に合わせると、コマンドダイヤルを使って-5EV~+5EVの広い範囲で露出補正値を設定することも可能です。
シャッターボタンもレトロなデザインをしており、中央にはいかにもケーブルレリーズを装着できそうな穴がありますが、これはあくまで飾りで装着は不可とのこと。
また、F値を表示するための小さなパネルが備えられています。現在のところ、Z マウントレンズのなかにはレンズ情報パネルを搭載したモデルはあるものの、いわゆる絞りリングを装備したレンズはラインナップされていません。したがって、このF値の小窓は、上からカメラを見ながら露出を設定するという「操作する喜び」を演出するために、わざわざ備えられたものということになりましょう。
カメラ上部左側に備えられたISO感度ダイヤルと撮影モードセレクター。撮影モードセレクターは、普通のデジタルカメラなら撮影モードダイヤルのある場所にシャッタースピードダイヤルやISO感度ダイヤルがあるため、ダイヤルならぬレバー式のセレクターとなっているわけですが、これが意外に視認性に優れ使いやすいので個人的には結構気に入りました。
ISO感度も直接ダイヤルで設定するというのは分かりやすく使いやすいもので、頻繁にISO感度の設定変更をしたい人には嬉しい仕様だと思います。ただ、ISO感度ダイヤルを「C」に合わせるとメニューやタッチ操作によってより詳細な設定ができるようになるのですが、ISOオートや増感・減感の設定方法がやや複雑で制限が多いところが玉にキズのように感じました。まあ、本機は使うことに喜びを感じながら創造性を刺激するカメラですので、それはそれほど問題でないのかもしれません。
シャッタースピードダイヤルの下には「静止画/動画セレクター」が搭載されています。一番左にある「B&W」はモノクロ写真専用のポジションで、こちらは後ほど説明します。
ファインダー(EVF)は約369万ドットで倍率は約0.8倍となっています。これは「Z 8」や「Z 7II」などと同じですので、本機の価格を考えると相当よいスペックといえるのではないでしょうか? 丸形の接眼部がカッコイイです。
背面のモニターはタッチパネル対応で約210万ドットの3.2型。これも「Z 8」や「Z 7II」など他のフルサイズZ マウントカメラと同じです。デザインの方向性的に固定式か上下チルト式かと思いきや、意外にも現在主流のバリアングル式できました。動画配信や自撮りなどにも便利に使えるバリアングル式ですので、本機が必ずしもコアなファンだけに向けたモデルでないことが感じられます。
向上した画質と優れた高感度性能
イメージセンサーは比較的オーソドックな有効約2,450万画素のフルサイズ(FXフォーマット)センサーですが、組み合わせられる画像処理エンジンは「Z 9」や「Z 8」にも搭載されている最新の「EXPEED 7」が採用されています。
実際に都市風景など撮影して見ましても、普通に解像感が高く良く写るといった印象でした。オーソドックスな画素数だけに、息をのむほどの高い解像性能ではありませんが、画像処理エンジンが高性能な分、細かいところまでの描き分けやディテールの表現、階調性の豊かさなど、全体的な画質はとても優秀だと言えると思います。
一方で常用最高感度はISO 64000と、他のフルサイズ Z マウントカメラと比べてもかなり高い高感度性能があります。
そのISO 64000で撮影してみましたが、高感度耐性は驚く程度に良好で、ノイズの発生は良く抑えられ、ディテールの消失も最低限に抑えられています。これでしたらプリントでも結構なサイズまで耐えられるのではないかと思います。最新の画像処理エンジン「EXPEED 7」のなせる技といったところでしょうか。
9種類の被写体検出機能を搭載
最新の「EXPEED 7」を採用しているということで、レトロな外観の本機「Z f」にもシッカリ搭載されているのが「Z 9」や「Z 8」ゆずりの「被写体検出」機能です。
「Z f」が対象とする検出被写体は「人物」・「犬」・「猫」・「鳥」・「車」・「バイク」・「自転車」・「列車」・「飛行機」の9種類。被写体検出AF自体は「Z 9」以前のモデルから備えていたものの、9種類もの幅広い被写体を検出し、さらには「オート」まで備えているのは、まさに「Z 9」や「Z 8」ゆずりです。
さらに、「Z 9」では「乗り物」に含められていた「飛行機」が独立しているのは最新上位機種の「Z 8」ゆずりと言えるでしょう(10月4日公開のファームウェアバージョンC:Ver.4.10で、「Z 9」も「飛行機」が独立しました)。
被写体検出AFによる追従性は、さすがに積層型センサーを搭載した「Z 9」や「Z 8」に及ぶものではありませんが、「Z f」の連続撮影速度は最高で約14コマ/秒ですので、そのコマ速内でしたら十分に被写体の動きに追従できると思います。
被写体検出機能は、いまやミラーレスカメラにとってなくてはならない機能だと個人的に考えています。筆者などは被写体が検出対象であれば積極的に使って、ピントは完全にカメラ任せにしてしまいます。せっかくデジタルカメラを使うのですから、使える機能は存分に使いたいという要望を、外観のイメージとは裏腹に良く分かってくれているカメラだなと思いました。
新搭載の「B&W」モード
「静止画/動画セレクター」に用意されている「B&W」は、モノクロームのピクチャーコントロール専用に設けられたものです。カラーのピクチャーコントロールに設定していた状態でも、レバーを「B&W」にすれば直ぐにモノクロームに切り換わります。
モノクロームのピクチャーコントロールとしては、従来の「モノクローム」に加えて「フラットモノクローム」と「ディープトーンモノクローム」の2種類が新たに搭載されました。「B&W」にセットすると、これら3種類のピクチャーコントロールだけを選択できるようになるというわけです。
「フラットモノクローム」は、中間調が豊かで温かいイメージのモノクロ写真が撮れます。こうした軟調の仕上げ設定は、モノクロ写真としては比較的珍しいのではないかと思いますが、人物や物の陰影を優しく表現したいときなどには最適で、実際に「Z f」でモノクロ写真を撮ろうとすると思ったより出番が多くなりそうな印象です。
「ディープトーンモノクローム」は、中間調の明るさを抑えながらも暗部の調子は柔らかめなことが特徴。全体的には暗めのイメージでも黒つぶれは少ない、黒のなかの黒を表現したいわゆるダークトーンの写真が撮れます。こちらも「フラットモノクローム」同様、モノクロの仕上げ設定としてはかなりレベルが高く、好んで使いたくなりそうな印象でした。
従来から用意されていたモノクロの仕上げ設定で、いうなれば普通の「モノクローム」ということになるでしょうか。ただ今回、「フラットモノクローム」と「ディープトーンモノクローム」と併用してみて気づきましたが、この「モノクローム」も単純に色情報を抜いただけではなく、コントラストはほどよく高めに調整されており、メリハリのある力強さが印象的でした。新たなピクチャーコントロールが加わっても、変わらず重要な設定であることの再確認です。
「4K 60p」が撮れる動画機能
ニコン「Z f」は、最大で「4K 60p」の動画記録に対応します。
2,400万画素クラスの他のフルサイズ Z シリーズでは、「Z 6II」がファームウェアVer.1.10以降で「4K 60p」に対応しているものの、撮像範囲はAPS-Cサイズ(DXフォーマット)ベースの動画フォーマットに固定。また、「Z 5」は「4K 30p」までの対応になります。
その点「Z f」は、「4K 60p」でもフルサイズセンサーから読みだした6K画像を、オーバーサンプリングによって「4K UHD」に変換しているので、上記2機種よりも高画質です。ポストプロダクションには欠かせない「SDR」「N-Log」「HLG」の記録にも対応しているなど、動画撮影性能も高い水準を備えていると考えて問題ないと思います。
その他、作例より
ローアングル気味のライブビュー撮影という不安定な姿勢で、シャッター速度は1/3秒となかなかの低速。「Z f」のボディ内手ブレ補正機構(VR)は、AI画像解析に基づくアルゴリズムを採用しているとのこと。実際に、手ブレ補正効果は撮影していて実感できるほど高く、作例の場合も写真として成立する程度にしっかり手ブレを抑えてくれています。
手ブレ補正の性能も高いのですが、高感度性能もかなり優秀なので、スナップ撮影などでは遠慮せずに適切なISO感度を使った方が良いかもしれません。作例はISO 800での撮影になりますが、この程度ならほとんどノイズを気にすることなく綺麗な写真を撮ることができます。設定しやすいISO感度ダイヤルがありますので、いつもは面倒な設定操作も楽しくできるというものです。
AF性能もいまどきの性能で、スナップ撮影やポートレート撮影でしたらなんら不満を覚えることなく快適に使えるようになっています。「Z 9」や「Z 8」のような積層型センサーを採用した機種は別格とすれば、Z シリーズカメラのなかでもトップクラスといって良いと思います。作例のように花を撮影しても迷うことなく狙ったところにピントが合います。
今回の試写では標準単焦点レンズの「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」を多用することになりました。あくまで個人的な感想になりますが、外観や操作体系がレトロだと、不思議と意識や眼が基本とされる50mmに合わさっていくような気がしてきます。今回は使っていませんが新しく発売された「NIKKOR Z 40mm f/2(SE)」との相性も良さそうです。
まとめ
使うこと自体に喜びを感じるヘリテージデザインのニコン「Z f」ではありますが、どうもそのレトロなデザインにばかり注目が集まっているように感じないでもないです。
外観が古めかしくてもデジタルカメラとしての基本性能はまさしく最新モデルのそれで、しかも「Z f」独自の新しい操作性や機能が用意されているだけに、操作性についてもむしろ新しさを感じるほどです。
ただ、ちょっとだけ気になったのがシャッタースピードダイヤルの存在意義。悪いということはちっともありませんが、これがあるとどうしてもマニュアル露出で撮影を楽しみたくなってしまいます。どうせですのでピント合わせもAFでなくMFで。
しかし、今のところ絞りリングの付いたZ マウント純正レンズは登場する気配がありません。そうなるとマウントアダプターを介してオールドニッコールレンズを使うか、あるいはサードパーティー製レンズを使うかになります。公式に明言することはまずありえないことですが、案外ニコンとしても「それぞれが自由に楽しんでもらいたい」なんて思っているのかもしれませんね。