新製品レビュー
FUJIFILM X-S20
上位機に迫るAF性能を搭載 従来機から“質感”も向上
2023年6月30日 07:00
富士フイルムからAPS-Cフォーマットのミラーレスカメラ、Xシリーズ最新モデルとなる「FUJIFILM X-S20」が登場した。本機は2020年に登場したX-S10の後継機となる。
X-S10は大きなグリップを小型軽量ボディに組み合わせ、誰にでも分かり易い操作性と進歩したオート機能によって、手軽にXシリーズの魅力を楽しめるモデルとして注目を集めたことは記憶に新しい。
改良ポイントは多岐に
見た目からも分かる通り、X-S20は小型軽量と簡単操作のコンセプトを従来機から継承した外観デザインとなっている。しかしながら、最新世代の画像処理エンジン「X-Processor 5」搭載により被写体検出AFに対応。また、動画性能の向上・拡張などの高速処理と省エネ性の両立や、X-H2シリーズやGFX50S IIなどと同じバッテリー「NP-W235」を採用して撮影可能枚数と撮影可能時間の増強が図られている。このほか、手ブレ補正の進化、背面モニターの高解像化、メディアスロットのUHS-II対応など、改良ポイントは多岐に渡る。
さらに動画撮影面に注目してみると、従来のマイク端子の他に、新たに3.5mmのヘッドフォン端子をグリップ側に搭載しており、撮影中の音声モニターが可能になった。また、HDMI経由で最大6.2K/30pの動画RAWデータ出力が可能となるなど、より本気度の高い仕様となった。
にも関わらず、従来モデルから重量の増加は最小限に抑えられた。X-S20の重量はバッテリー・メディア込で約491gとなっている。
一方で、従来機から引き継がれた部分もあり、有効約2,610万画素の撮像センサー「X-Trans CMOS 4」とEVF、ポップアップ式の内蔵フラッシュについては共通となっている。ちなみに従来センサーと最新エンジンの組み合わせによって、従来機からの画質的な改善の有無についてメーカーに確認したところ、「低ISO感度での解像度の向上と、高ISO感度でのノイズを抑制している」との返答があった。
外観デザイン的にはほぼ同じ様に見えるけれど、ペンタ部のデザインと右肩(シャッターボタン周辺)のボタン形状、グリップ形状などに大小さまざまな変更があり、X-S10よりも佇まいが良くなったように感じられた。
キットレンズには従来機と同様に「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」が組み合わされる。個人的な意見を言えば、本体価格が約20万円の製品に最適なレンズであるとは言い難いが、サイズ的なマッチングは良い。
性能的には「XF18-120mmF4 LM PZ WR」辺りを組み合わせるのが良さそうに感じられるが、その場合はレンズキットで30万円を超えてしまいそうなので、現実問題として難しかったのかも知れない。
「Vlogモード」を新搭載
モードダイヤルにはVlogモードが新設された。ダイヤルに合わせると、ライブビュー画面にVlog撮影用のメニュー画面が表示される。いわゆるVlog撮影に最低限必要な機能である、セルフタイマー、顔検出/瞳AF設定、商品撮影モード、動画ブレ防止モードなどに、ワンタッチで、簡単にアクセスできるというものだ。
ニュースリリースを読んだ際には、自撮り時の操作性向上を目的としたモードかなと推測していたが、実際に操作してみるとスマホ感覚で手軽に動画を楽しめそうだと感じた。これは動画撮影をフレンドリーにするモードと考えるのが良さそうだ。
デフォルトではFHD 30pに設定されており、フィルムシミュレーションもPROVIA/スタンダードとなっている。任意の設定は別途カメラメニューから選択しておく必要がある。
印象の報告のみとなるが、VlogモードのAFの感触については、帽子にメガネでもビシバシ瞳認識してくれるので驚いた。商品撮影モードについても、期待するAF特性を持っていたので快適だった。
質感の向上で操作性もアップ
グリップ形状の変更は、手袋のサイズがLLの筆者の手との相性も良く、「XF16-55mm F2.8 R LM WR」や「XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR」のような大柄なレンズと組み合わせても安心感がある。
X-T5ユーザーの意見として、延長グリップなどを装着していないX-T5よりも、大型レンズとの組み合わせは塩梅が良いように感じられた。個人的には、X-H2シリーズよりも好みなグリップ形状だ。
X-S10同様にAF-SとAF-Cの切り替えレバーを持たないので、いちいちメニューから設定しなければならないことを不満に感じるかもしれない。確かにモードダイヤル操作によるPSAMモードを用いる場合には不満が出るが、あらかじめC1~C4のどれかに動体撮影用の設定をカスタム登録しておけば、この不満はある程度解決できそうだ。
ダイヤル類の操作感や全体的な質感について、どこかチープで心許ない印象だったX-S10と比べ、X-S20はクラスがワンランク上がったような印象がある。例えば、ダイヤル類が少し大きくなったことなどは操作性に良い影響を与えているし、シャッターボタンと同軸にある電源スイッチの動きの渋さやチープさなども改善された。
デザイン含め、全体的な質感が向上したことを個人的には歓迎したいが、20万円という本体価格を納得させてくれるレベルにあるかというと、それはまた別の話。実写を通して、この印象は変わるだろうか。
上位機「X-T5」と同等の快適性
スナップシーンでは、カメラ性能的にはX-T5と同程度の快適性がある。これはAF設定がオール(いわゆるオートエリア)時に意図通りの対象にAFしてくれる頻度であったり、ワイド/トラッキング時にどれだけ強力に被写体を掴み続けることができるかと言った部分についての話だ。
AF性能がX-S10よりもシッカリと賢くなっているので、カメラ任せであってもワリと思い通りに撮れるところが良い。これはオートだけでなく、どのモード設定でも体感できる性能だった。
EVFの覗き心地や全体的な質感についてはX-T5が明確に優れているので、ファインダーを覗いてじっくり撮影したい場合や、道具としての質感を重視するユーザーにはX-T5が向いている。
X-S20のアドバンテージはサイズ感。手の大きな筆者限定の話かも知れないけれど、モードダイヤルのC1~C4にそれぞれ好みの撮影設定を登録させておけば、片手でほぼ全ての操作が完結できるところはX-S10からの美点。シーンに応じてモードダイヤル操作で直感的かつ迅速にモード変更できる速写性に、再びクラっと来ました。
被写体認識AFとAF-Cの感触
動物園と鉄道模型シーンで被写体認識AFをチェックしてみた。飛行機も試してみたかったがスケジュールの都合で断念した。
まず動物園で動物認識と鳥認識のチェック。瞳を安定して検出できるかどうかについての印象となる。公式には、何に対応するかについては特に示されていないので、どのような対象に対応できるのかを掴む目的もあった。
筆者が試した限りにおいて、カンガルーにシマウマやタヌキ、猫系の動物、サル系やハムスターは安定して迅速に検出できていた。キリンとレッサーパンダ、熊については不安定もしくは検出しなかった。
鳥類では、孔雀は羽を広げると瞳検出しなかったが、その他の動物園にいそうな種類については問題なさそうだった。興味深いのはペンギンで、動物と鳥の両方で検出できていた。
X-S20で撮影した後に筆者私物のX-T5でも同様の撮り方をしてみたところ、全体的な傾向はほぼ同一だった。繰り返しになるが、公式にどの生き物に対応しているのかを公表しているワケではないので、あくまでも参考程度に考えていただきたい。
鳥認識では気になる動作があった。X-S20+XC15-45mmの組み合わせでハトやカラスを狙った場合、表示上では正しく検出できているのにピントがボケボケなシーンが何度もあった。対象が静止していると問題ないが、動きがあるとミスしやすい様子。泳ぎ回るペンギンには苦もなく高い精度でAFできていたので、少し奇妙ではあった。
鉄道模型に対する電車認識について、どうにも認識できているとは言い難い挙動だった。メーカーに確認してみたところ「模型には対応していない」との回答だった。
このままでは企画倒れになってしまうので、追加検証として鉄道模型に対してX-T5とのAF-C性能の差があるか、ワイド/トラッキングモードで比較撮影してみた。全体的にX-T5よりもAF精度・トラッキング性能ともにX-S20がわずかに優れていた。動物園ではそうした印象を感じなかったので、撮影シーンの明かるさに注目して撮り比べたところ、EV8辺りに追従性やピント精度の差が生じるラインがあるようで、これを下回るシーンでは明確にX-S20が優れていた。
バッテリーの向上
省エネ設定をデフォルト、RAW+JPEGで単写のみとして撮影を進めた。EVFとLVの割合は同じ。ズボラな電源管理で何度か撮影してみたが、筆者の撮影スタイルの場合、平均して1%辺り18コマ撮れる計算だった。
バッテリー消費については使い方次第でそれなりに前後するが、かなり厳しく評価したとしてもバッテリー1つで1,000コマ以上が射程圏内にあるのは素晴らしい。
ちなみに筆者のX-T5の場合、ここ半年の平均では1%辺り15コマ程度となっている。
論理的な選択肢として…
正直なところ「X-S10の後継モデルが、性能が大きく向上したとは言え20万円もするの?」というネガティブな気持ちがあったことは否定できない。
実際に使ってみると、撮影性能(できること)に対して妥当な価格設定であることは理解でき、コンパクトボディが持つ機動力に撮影枚数の増加という継戦能力が加わったこと、全体的に質感が向上していることなどは、冷えた心を温めてくれる材料となった。
視野を広げれば、APS-C機でボディ内手ブレ補正機構を搭載した、高い撮影性能と動画撮影機能を持ったカメラというだけでも競合が限られているし、さらにコンパクトな機種となると、現状では本機が唯一の存在となるのではないだろうか。
てな感じに考えを着地しさせたところで機材を返却した。直後には「論理的な選択肢としての最適解だと思うけれど、趣味機としては情熱に欠けるだろう」などと考えていたが、3日と経たない間に、想像以上に寂しく感じてしまった事に驚いてる。