新製品レビュー

ソニー α6700

AIプロセッシングユニットでAF認識が高精度に 操作性も向上したAPS-C上位機

α6700

7月28日発売のソニー「α6700」は、APS-Cサイズセンサーを搭載したミラーレスカメラ。2019年11月に発売された「α6600」の後継機にあたるわけですが、αシリーズ上位機種で培われた技術と、「FX3」や「FX30」など動画制作向けカメラ「Cinema Line」の技術をあわせもった、なかなかにして先鋭的かつ意欲的な高性能カメラとして仕上がっています。

8月1日14時50分修正:記事初出時に発売日を誤って記載していたため、該当部分を修正しました。

外観デザイン

まずは外形寸法・質量からになりますが、「α6700」は約122.0×69.0×75.1mm・約493gとなっています。前モデルの「α6600」が約122.0×66.9×69.3mm・約503gでしたので、幅と厚さは増加したものの、質量は減少しています(質量はいずれもバッテリーとカード含む)。

キャプション:左が「α6700」、右が「α6600」。写真だと分かりにくいかもしれませんが、実物を見ると明らかに重厚感が増し、これまでよりも高い戦闘力を主張しているといった印象があります

そもそもα6000系は、「板と筒」を標榜したデザインの「NEXシリーズ」の系譜を継いでいる、小さく軽いことを前提とするカメラシリーズです。高性能化・高機能化が著しい昨今のミラーレスカメラ。その性能をフルに使おうとした時に、使いやすさを優先した、必要なだけの大型化はむしろ妥当な方向性なのではないかと思っています。それでいてα6600よりも軽量化を実現しているところが、本機の優れたところと言えるでしょう。

静止画撮影性能も動画撮影性能も進化した、本格的なAPS-Cミラーレスカメラとしてα6700を考えたとき、これは意外に大切なことだと思います。

静止画撮影でも動画撮影でも使いやすい操作性

外観が各所にわたって変更されており、そのためか操作性は大きく向上しています。

グリップはα6600よりさらに大型化して、ホールディング性能が大きくアップしています。個人的な手の大きさによっても印象は変わると思いますが、さすがにフルサイズαシリーズに比べると少し小指が余る感はあるものの、APS-Cサイズのミラーレスカメラとしては満足できるだけのシッカリとした安定性があると感じました。これなら望遠レンズやマクロレンズなども安心して使えるでしょう。

静止画撮影、動画撮影、S&Q撮影(スロー&クイックモーション)の切り換えは、撮影モードダイヤルから独立して同軸下に配置。切り換えやすさと分かりやすさはかなり良好。α6700は静止画撮影だけでなく、動画撮影も本格的なのだというソニーの本気度を感じ取ることができます。

シャッターボタン周辺なのですが、従来のα6000シリーズにはなかった「前ダイヤル」が装備されていることにご注目。「あっ!いままでなかったのか!?」と思う人もいるかもしれませんが(筆者も改めて驚きました)、これで本格的な撮影では必須となる露出設定などの操作も格段にやりやすくなりましたし、好みの機能を割り当てることもできます。

一方で、“フルサイズα”の多くが採用する、「マルチセレクター」の搭載は見送られています。ただ、「AF/MF/AEL切換レバー」を廃止して、大きな「AF-ON」ボタンを新設。さらには「REC」ボタンやカスタムボタンの位置を変更するなど、進化したα6700の性能に合わせていくつもの改良が施されています。背面モニターのタッチ操作も使い勝手が向上しているなどのことから、操作性については全体的に従来モデルより良くなっていると感じました。

ファインダーは、約236万ドットで倍率約1.07倍(フルサイズ換算で約0.70倍)。これはα6600と同じですが、ファインダー輝度が約2倍に向上しており、α7R Vと同等になっています。

そして従来とは大きく異なるのが背面モニター。上下チルト式からバリアングル式に変更されました。サイズは3.0型と同じですが、ドット数はα6600の約92万ドットから約103万ドットへと微増しています。

従来、バッテリー室と同居していたメモリーカードスロットは、カメラ左側面に独立して移動。バスインターフェースはUHS-IIに対応していますので、対応するSDメモリーカードを使うことで従来モデルより高速なデータ転送が可能です。

イメージセンサーと画像処理エンジン

搭載するイメージセンサーは、有効約2,600万画素の裏面照射型CMOS「Exmor R」。α6600は、有効約2,420万画素の表面照射型CMOS「Exmor」でしたので、最新の裏面照射型CMOSセンサーが採用されたことで、広いダイナミックレンジやノイズの少ない高感度耐性といった、描写性能が向上していることになります。

イメージセンサーと連携する画像処理エンジンには、現行のフルサイズαモデルと同じ「BIONZ XR」を搭載。α6600で採用していた「BIONZ X」に比べ、最大約8倍の高速処理能力をもち、描写性能の向上だけでなく、メニュー操作のレスポンスやAF性能など、静止画・動画撮影における処理能力を全体的に大幅に向上してくれています。

α6700/E 16-55mm F2.8 G/16mm(24mm相当)/絞り優先AE(1/640秒・F5.6・-0.3EV)/ISO 100/WB:オート

そんなα6700の常用最高感度はISO 32000。APS-Cサイズのミラーレスカメラとしてはトップクラスの仕様となっているのですが、筆者としては「思ったよりノイジーだな……」といった感想です。

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α6700/E 16-55mm F2.8 G/55mm(82mm相当)/絞り優先AE(1/400秒・F8・-0.7EV)/ISO 32000/WB:オート

それでも、約1段弱分だけ感度を落としたISO 12800でしたら、急激に画質は改善し、サイズの大きな画像をSNSに上げるときや、それほど大きくないプリントには耐えられると思います。基本的には高画質なAPS-Cミラーレスカメラですので、用途に合わせてISO感度を選択していくのが良いのでしょう。

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α6700/E 16-55mm F2.8 G/55mm(82mm相当)/絞り優先AE(1/125秒・F8・-0.7EV)/ISO 12800/WB:オート

ちなみに、高感度としてはよく使う範囲と思われるISO 6400で撮影した画像がこちら。ノイズの発生はほどよく抑えられており、SNS等での使用ならほとんど問題はなく、A4サイズなど少々大きめのプリントでも十分に耐えられるのではないかと思いました。

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α6700/E 16-55mm F2.8 G/55mm(82mm相当)/絞り優先AE(1/60秒・F8・-0.7EV)/ISO 6400/WB:オート

α7R Vと同じAIプロセッシングユニットを搭載

α6700にはα7R Vと同じ「AIプロセッシングユニット」が搭載されています。これは被写体の骨格情報を使って、その動きを高精度に認識するための専用ユニット。人物の瞳の認識精度に至っては、α6600と比べて約60%も向上したという優れものです。現状ではこのAIプロセッシングユニットを搭載したカメラは、フルサイズカメラの「α7R V」と「VLOGCAM ZV-E1」、そして本機「α6700」だけです。

AIプロセッシングユニット

人物の瞳を正確に捉えつづける「リアルタイム瞳AF」の性能は素晴らしく高く、以下の動画の通り、被写体の人物が速く動いたとしても常に、頭部または全体を捕捉しつづけ、瞳が見えている時は確実に瞳を捉えてくれます。さらには、フレームアウトしても次にフレーム内に被写体が再登場するのを待ち構えているかのように、素早く人物・頭部・瞳を認識してくれました。人工知能を意味する「AI」の名称もここまでくると感心せずにいられません。

被写体の骨格情報を使っているからでしょうか、モデルの顔をアップで写すようなシーンでも、正確に「瞳」を射抜いてくれます。まつ毛や目頭、目じりでなく、写真的な意味で本当に「瞳」にピントを合わせてくれますので、「これはスゴイ!」と思わずにいられませんでした。もっと被写界深度の浅い大口径レンズを使えば良かったと思うほど。

α6700/E 16-55mm F2.8 G/55mm(82mm相当)/絞り優先AE(1/250秒・F2.8・+1.0EV)/ISO 100/WB:オート
α6700/E 16-55mm F2.8 G/55mm(82mm相当)/絞り優先AE(1/400秒・F2.8・+1.0EV)/ISO 100/WB:オート

より幅広い被写体を認識できるように

「AIプロセッシングユニット」が、人物だけでなくいわゆる被写体認識AFにおいても、革新的な性能進化をもたらしてくれています。

α6700は、α7R Vと同じように、「人物」、「動物」、「鳥」、「昆虫」、「車/列車」、「飛行機」といった、非常に幅広い被写体を正確に認識してくれます。基本的に認識対象となる被写体はメニュー画面で選択する必要がありますが、対象となる被写体の幅が広過ぎてメニューの一画面では収まりきらないほど。APS-Cミラーレスカメラの被写体認識AFの対象としては、破格と言って良いほどの幅広さではないでしょうか。

α7R Vから進化したところは、「動物」と「鳥」が独立して存在していながら、新たにどちらも同じ設定で認識できる「動物/鳥」が追加されたところでしょう。いちいち設定しなおす必要がなく、実写の範囲では「動物/鳥」で正確に被写体を認識してくれていました。もちろん、被写体が「動物」か「鳥」かで、明確な場合はより確実な検出対象を選択した方が良いと思います。

その「動物/鳥」で撮影した写真がこちら。筆者の愛猫を撮影したものですが、まったく問題なく、というよりは嬉しくなるほど正確に瞳を認識してピント位置を捕捉し続けてくれました。

α6700/E 16-55mm F2.8 G/55mm(82mm相当)/絞り優先AE(1/100秒・F2.8・-0.3EV)/ISO 800/WB:オート

同じく、「動物/鳥」で撮影した写真ですが、今回の試写の範囲内では「鳥」に設定した場合と遜色ないほど正確に鳥の姿や瞳を捕捉してくれました。認識対象を分けずに認識してくれるという素晴らしい例が実現されたわけですが、さらに欲を言えば、全ての検出対象が自動的に選ばれる「AUTO」ができればさらに嬉しいなとも思います。

α6700/E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS/350mm(525mm相当)/絞り優先AE(1/800秒・F6.3・-0.3EV)/ISO 400/WB:オート

α7R Vで初搭載された「昆虫」も本機で採用されています。比較的近接での撮影になるため正確なピント合わせが難しいシーンですが、昆虫を対象とした瞳AFのおかげで、難しい複眼への合焦がいとも簡単に出来ているのがスゴイところ。「リアルタイム認識AF」が継承されたおかげで、被写体認識AFの性能はミラーレスカメラ全般としてもトップクラスであり、また、少なくともAPS-Cサイズのミラーレスカメラとしては断然、トップクラスの性能にあると言えるでしょう。

α6700/E 16-55mm F2.8 G/55mm(82mm相当)/絞り優先AE(1/160秒・F2.8・±0EV)/ISO 400/WB:オート

専用機ゆずりの高い動画機能

「α6700」は、最大で「4K 60p(4:2:2 10bit)」の動画記録に対応します。圧縮効率が高く高画質な「XAVC HS」と、一般的によく使われる「XAVC S」がありますが、ソニーのミラーレスカメラだけにそのどちらもが4K 60p記録に対応しているという強力な仕様です。

α6600は最大でも「4K 30p」(XAVC S 4K)でしたので、本機の動画記録・撮影モードの性能がいかに大きく進化しているかが分かるというものです。

ポストプロダクションでのカラーグレーディングによる高品位な映像制作がしやすい「S-Log3」記録が可能なのは前モデルと同じですが、α6700ではユーザーがカメラにインポートしたLUTを、撮影時にカメラモニター映像に適用したり、ピクチャープロファイルとして選択することもできるようになっています。

α6700の高い動画撮影性能は、VLOGCAMシリーズとして人気の「ZV-E10」さえも超えているように感じられます。この進化は、プロフェッショナルカムコーダーである「FX3」や「FX30」で培われた技術を受け継ぐことによって可能となったものでしょう。

その他作例から

外から見えないので地味な話かもですが、画像処理エンジンの進化がもたらす恩恵は撮影者にとって非常にありがたいものです。α6700ではAE時の露出制御や人物の肌の色再現性が、従来より向上し安定しているとのこと。実際の撮影でもそれは強く実感でき、ポートレート撮影での安心感の高さは相当なものとなっています。晴天日陰での撮影でしたが、繊細なモデルの肌が健康的に美しく表現されています。「美肌効果」は適用していません。

α6700/E 16-55mm F2.8 G/43mm(64mm相当)/絞り優先AE(1/320秒・F2.8・+1.0EV)/ISO 100/WB:オート

フレーム内でモデルの配置がやや微妙なのは、花とモデルとの関係性を考慮してのこと。AFも露出制御も色再現も秀逸なα6700ですので、構図に集中して安心して撮影できるため、結果的に撮影者のオリジナリティを主張するような表現ができるのではないかと思います。

α6700/E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS/123mm(184mm相当)/絞り優先AE(1/250秒・F5.6・+0.7EV)/ISO 400/WB:オート

背面のバリアングルモニターを引き出し、縦位置で撮影しました。バリアングル式かチルト式かはユーザーの好みが分かれる部分。実のところ筆者はチルト式が好みなのですが、こうして縦位置のライブビュー撮影が簡単にこなせることを考えると、やっぱりバリアングル式も悪くないなと思ってしまいます。α6700は先進的な動画撮影機でもありますので、バリアングル化の流れは妥当と言えるのではないかと思います。

α6700/E 16-55mm F2.8 G/39mm(58mm相当)/絞り優先AE(1/320秒・F5.6・+0.3EV)/ISO 400/WB:オート

被写体認識のAF性能が高いため、思わず対象となる被写体ばかりを紹介してしまいましたが、もちろんそれ以外の撮影ジャンルでも優れた撮影性能をもっています。本来のAF性能が優秀ですので、狙った被写体へのAF速度や精度は抜群に高く、また空や緑の再現性も良好で、より自然に美しく表現してくれます。ここでも「BIONZ XR」の恩恵を感じずにはいられませんでした。

α6700/E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS/350mm(525mm相当)/絞り優先AE(1/160秒・F8・-0.3EV)/ISO 100/WB:オート

薄く小さく軽い「NEXシリーズ」の系譜を継いでいるだけに、スナップ撮影は実のところ得意中の得意なカメラだったりします。今回はやや大きめ(APS-C専用としては)の交換レンズ「E 16-55mm F2.8 G」を使いましたが、スナップ撮影においてはより小さな標準ズームレンズや単焦点レンズを選択した方がベターかもしれません。「だれも座らないベンチ」の哀愁を表現しようと、ホワイトバランスをあえて太陽光にして撮影してみました。暗部の絶妙な階調再現が秀逸です。

α6700/E 16-55mm F2.8 G/24mm(36mm相当)/絞り優先AE(1/160秒・F2.8・-1.7EV)/ISO 100/WB:太陽光

まとめ

前述したように、小さく軽いことを前提とする「NEXシリーズ」の系譜を継ぐα6700ですが、本機で見られる重厚感のある精悍な外観デザインは動画専用機に求められるカタチを取り入れたものではないかと思います。これが静止画撮影で使う身としても、個人的には大歓迎なところで、いままではためらっていたお仕事においての使用でも違和感がなく、日常の撮影や作品撮影などでも大いにモチベーションを高めてくれています。

ソニーはどちらかと言えば、フルサイズ機の先進性に注力しているカメラメーカーだと思っていましたが、ここにきて本機のような先進的APS-Cミラーレスカメラを出してくれたことはまさに青天の霹靂でした。フルサイズもいいけど、APS-Cにも良いところはたくさんあって、筆者などはまさにAPS-Cフォーマットのメリットを最大限享受したい派だったりします。

「VLOGCAM ZV-E10」や「FX30」など動画向けカメラの需要もあって、ここのところは高性能なAPS-Cフォーマット専用レンズを頻繁にリリースしてくれているソニーです。今後、さらに広がる本格的なAPS-Cシステムの展開を心より期待したいと思います。

モデル:ユキ

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。