新製品レビュー
キヤノン EOS R7
R3の譲りのAF性能は?激しく動く被写体で試してみた
2023年6月28日 12:00
キヤノン EOS R7は2022年6月に発売したAPS-Cフォーマットのミラーレスカメラで、シリーズ内ではミドルクラスに位置づけられる。同時期に発売開始したAPS-Cフォーマットで約2,550万画素のR10に比べ、約3,250万画素の撮像素子を採用し、電子シャッターで秒間約30コマ連写を実現するなど、高機能ぶりから、APS-Cフォーマット機の「ハイエンド」とも言われている。連写など本格的な機能を必要としながら、購入価格を抑えたいユーザーに向けたミラーレスカメラだ。
今回はこのEOS R7のハイエンドぶりをスポーツシーンに特化し、撮影した画像とともにその使用感をお届けする。
外観・操作感
キヤノンらしい角を落とした流線形の意匠で、本体サイズは小ぶりだ。装着したRF24-105mmF4L USMが大きく見える。残念ながら縦位置バッテリーグリップはオプションとしても用意がない。
背面にはサブ電子ダイヤルとマルチセレクターがファインダー横に同軸上で配置されることが大きく目立つ。キヤノンの中でも唯一となる入力機構、そしてその配置であり、新しい試みだ。
背面モニターには、約162万画素のバリアングルモニターを搭載。ハイ・ローアングルだけでなく、カメラの横からでもモニター表示を確認できる。
グリップ部の横にSDカードのダブルスロットが備わる。扉のロック機構はなく、一旦手前にスライドして扉を開く方式だ。
右肩には前方より、シャッターボタン、各種設定を呼び出すマルチファンクションボタン、設定変更などのメイン電子ダイヤル、赤丸の動画撮影ボタン、ISO設定を呼び出すボタン、露出制御などの撮影モードダイヤル、電子ダイヤルのロックボタン、電源ON/OFFと動画モード切替レバーが備わる。
ファインダー上部には、従来のストロボ用アクセサリーシュー機能を発展させた「マルチアクセサリーシュー」を搭載。従来のアクセサリーのほか、ストロボのコントロール、音声のデジタル入力、高速データ通信や電源供給などの機能拡張に対応している。
グリップの反対側にはゴムでカバーされる各種端子類が備わる。向かって左上から、マイク端子、リモコン端子、ヘッドフォン端子。右側にマイクロHDMI端子とUSB Type-C端子が備わる。
前面のマウント側には、レンズロック解除ボタンの他に、このAFのON/OFF切替レバーとその中心に絞り込みレバーが備わる。
底面、グリップ部には同梱の電池LP-E6NHが収納される扉がある。同形状で前モデルのLP-E6N、前々モデルのLP-E6の装着も可能だが、連写速度が低下するなどのデメリットがあるので注意が必要だ。
電子シャッター・ローリング歪み
EOS R7をハイエンドと定めるゆえんの一つである、秒間約30コマの連写を使うには電子シャッターを使用する必要がある(メカシャッターでは秒間約15コマ)。ローリングシャッター式の撮像素子を積むカメラは大小の差はあれ、撮り方によってはローリング歪みが現れる。画素読み込みの速いセンサーを持つ一部フラッグシップ機を除けば、その歪みを出さないために、メカシャッターを使った撮影が標準になる。しかし、せっかくの秒間約30コマ連写。ローリング歪みが出ることを覚悟、もしくは傾向を念頭に撮影すれば、ハイエンドを堪能できるだろう。
ではEOS R7のローリング歪みを見てみよう。横切るモノレール車両を1/8,000秒で止めた画像。ご覧の通り画面内を動く被写体に画面の上と下で横方向へのズレが生じ、長方形の車両が平行四辺形のようになっている。
次は、カメラに向かって水平斜め方向で向かってくる車両に合わせ、カメラを振って撮影した。前画像の、光軸に対して直角平面上の動きとは異なるため、その動く相対速度は遅くなって、ローリング歪みも少なくなるはずだ。結果は御覧の通り、メカシャッター使用の左画像では背後の建物が短編に対してほぼ平行で、角や縦線が垂直であることがわかるものの、電子シャッター使用の右画像は角や垂直線が斜めに写っている。このアングルでは画面の水平が取れなかったようにも見え、その影響は軽微ではある。
もちろん、電子シャッターが持つ利点は数々ある。何よりシャッター音が出ないことは大きい。舞台など静寂環境を守らなければならない状況でも撮影が遂行できるからだ。そして、今回のレビューにおいて電子シャッターをテーマに据える要因にもなった、動き物を追う際のファインダーの見え具合が挙げられる。
メカシャッター使用時、シャッターが閉まっている間はファインダー像が見えないことが当然だが、このシャッター閉鎖時の撮像していない瞬間に、直前に撮影した画像を挿入することによって、ファインダー像の切断を感じさせない工夫がされている。しかし、過去の画像が織り込まれる連続像は、動く被写体を追っている最中にはギクシャクとした動きとなり、狙った被写体を画面内の同じ箇所に留めることが困難になるのだ。
そこで、電子シャッターの出番になるというわけだ。撮像中にはライブビュー映像の出力はできず、メカシャッターと同じ表示行程を経ていると思われるが、その見え具合はメカシャッター時と違って明らかに見やすい、動画撮影中のようなシームレス映像にかなり近いのだ。
スポーツシーンでのAF
EOS R7はトラッキングを前提としたAFシステム「デュアルピクセルCMOS AF II」と、ミラーレス最上位機EOS R3に採用されるアルゴリズム「EOS iTR AF X」を継承している。最上位機種と同様の被写体検出機能が使用できるのもハイエンドと言われる理由のひとつだろう。今回取り上げるスポーツシーンの撮影は、電子シャッターを中心に行うことをテーマとし、秒間約30コマ連写も多用した結果をご覧いただく。
各撮影画像は特に断りがないものは、撮影モードをシャッタースピード優先に、画質はJPEGのLサイズで低圧縮。AFは「SERVO」で追従特性を「CASE1」に、AFエリアは「スポット1点」や「1点」、被写体追尾(トラッキング)を「する」にして、検出する被写体を「人物」や「乗り物」と、標準的な設定から大きく変えることなく撮影に臨んだ。
実写でチェック(馬術競技)
まずは馬術競技をご覧いただく。設置された障害物を、定められた順番に跳び越える障害競技。RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMを装着し、約800mm相当で、高さ150cmのバーを跳ぶ増山大治郎選手(筑波スカイラインスティーブル)とア・ガール・ドゥ・シャヴァノン号を追う。
馬術は人馬一体で行われるが、競技結果の記録としては選手への比重が大きく、撮影も選手を主体としながら馬をいかに入れるかが課題だ。正面から迫る増山選手が遠くに位置する時、選手の顔は、馬の頭の向こうで見え隠れしていたが、狙うバー(障害)を越える直前に、増山選手の顔が馬の頭の上に現れた。あらかじめ画面上部に置いていたAFエリアの「1点」を増山選手の顔に合わせて、トラッキングでその顔をAF追従させた。秒間約30コマで撮った中で、馬の腹がバーを越えるピークの瞬間である。
つづいて増山選手が別セクションを越える。RF70-200mm F2.8 L IS USMを装着し、バーに対して斜め前の角度から撮影した。馬の前脚が地面に着く直前、筋肉の凹凸が現われ、毛並みも輝きが増した。馬の動きに合わせてカメラは横方向に振っているが、縦位置撮影が奏功したのか、ローリング歪みを感じさせない一枚となった。
人物追従はどこまで追ってくれるのか。反射輝度の高い白馬であるアヴィオン号を駆るのは鈴木爽日選手(Bell Stable)。
馬術競技では、馬をコントロールする能力に男女の差はないとの考えから種目上の男女分けはなく、さらには年齢区分もないことがある。昨年の全日本障害大会で準優勝に輝いた若手のホープ、鈴木選手がバーを越える最中に馬の背中で身を潜める。
カメラのAF機構はときおり、狙った箇所ではなく、近くにある高コントラストや高輝度の箇所に合わせてしまうことが多々あるが、画面を占める馬の白毛に惑わされることもなく、ヘルメットとジャケットに挟まれた鈴木選手の顔を認識して合焦、そしてその後の追従が果たされていた。
横顔に対してのAF追従はどうだろうか。160cmの最大障害を越えるのは藤本光国選手(牧之原乗馬クラブ)とロードボス号。
上級者になるほど、バーを越える前から既に次のセクションに顔を向けて準備に入る選手が多い。そんな横顔の選手を人物として認識しAFは追従するのか。前脚が地面に着きロデオのワンシーンのような状態にある馬を乗りこなす藤本選手の横顔を迷わず捉え、白馬の身体にも惑わされずに終始追従ができていた。
馬術シーン最後は、横位置撮影で出てしまったローリング歪みをご覧いただく。競技を始めて3年のルーキーながら華麗にトゥルーク号を操る栗田翔心選手(筑波スカイラインスティーブル)。バーを越える際のスピードはさほど速いものではなく、カメラを振る速度も速くはなかったが、バーを支える柱など、垂直の構造物が傾いて写っているのが判る。
この馬術撮影で唯一やや目立つローリング歪みなのだが、カメラを横位置にし、そして単純な横振りであったことでの結果である。
実写でチェック(自転車競技)
続いては自転車競技をお届けする。神宮外苑で行われた大学生による年間シリーズ戦だ。銀杏並木と絵画館前を結ぶ周回路でロードバイクによるスプリントレースが行われてた。
装着したRF70-200mm F2.8 L IS USMは35mm判換算で望遠側は320mm相当。200m離れた直線の入り口から40km/hほどで徐々に近づく選手集団の先頭にフォーカスを合わせる。
選手が画面を占める割合は極々小さく、ひとりの顔ともなるとさらに小さい。ファインダーを覗いて選手を凝視するも誰が先頭なのかを見定めるのは難しい。直線の中盤に差し掛かり、先頭を明確に判別できても選手の姿はまだ小さく、スポット1点のAFエリアを先頭選手に置くが、人物としての認識を行ってはいないようだ。
選手集団がさらに近づいた頃、マルーンカラーを着る早稲田の選手に合焦させた。掲載カットではこのようなに合焦しているが、他周回ではフォーカスを合わせたい先頭選手ではなく、後方でコントラストのあるジャージを着る選手に合わせていたカットもあった。
銀杏並木を単独で去り行く選手の後ろ姿を捉える。このように人物とも乗り物とも捉えられないであろうシルエットに対し、それもカメラから離れていく状況でのフォーカス追従を試した。被写体となる選手の姿は大きくなく、木漏れ陽状の光線ゆえにコントラストも一定ではなかったが、確実に選手の背中を捉えての合焦と追従が見られた。
同じコーナーからの立ち上がりで加速する選手を撮った2枚を比べる。
学業を続けながらマウンテンバイク競技でワールドカップを転戦する小林あか里選手(信州大学)。先頭選手の背後に隠れていたが、カメラ側に近づき顔が見え始めてフォーカシング、そしてAFを追従させながら全体像が現われた時を捉えた。横方向への振りが速かったため、背後に見える街頭の支柱と建物がかなり歪んで見える。後のアウトフォーカスとなる黄色ジャージの選手も若干歪んでいるように見える。
続いて男子グループで同じ信州大の辻本青矢選手を捉える。集団のスピードは小林選手の女子クラスより明らかに速かったものの、小林選手の箇所よりわずかにカメラから離れていたため、歪みの度合いが少なく、歪みそのものも感じられない。
連写性能・バッファ
最後は男子グループのフィニッシュシーンだ。平坦路でレース距離も短いこのレース、勝敗の行方は最後のスプリント合戦に持ち込まれた。その先頭でゴールラインを切ったのは慶應義塾大学の西村行生選手。ゴール400mほど手前の最終コーナーを立ち上がると競合を振り切ってそのスプリント勝負を制した。
集団の中央、フィニッシュシーンとすれば好位置に着けていた西村選手だったが、ゴール前から既に先頭に出ていたことが、覗くファインダー内で判ったため、以降はその西村選手にフォーカシング。
電子シャッターでの秒間約30コマ連写は、RAWファイル、もしくはRAW+JPGの同時記録でも行える性能を持つ。しかし、バッファメモリーが比較的少ないためか、RAWで撮ると1秒間そこそこで連写が途切れてしまう。逆光となるこの場でのシーンだったが、その後の色味などの画像調整や、ゴール前後の状況を長めに記録する必要性から、RAW記録を含ませて秒間約15コマに変更して連写した。
途中2カットが、向かって左側で2位となった小泉響貴選手(明治大学)と右の3位北村翔太選手(日本体育大学)に合焦しているが、恐らくこれまで追従していた慶應の荷二村選手が体制を変えたことによって、追従対象を変えたのだろう。また、西村選手がガッツポーズのために両手を上げる頃から横への振り速度が上がったため、許容範囲とできるものの、ごくわずかながら各選手の体形に歪みが出た。
比較的長めにRAWで連写したい場合は約15コマ/秒に落とす工夫や、その連写中のAF追従、そしてローリング歪みの出方など、今回テーマとした電子シャッターによるスポーツシーン撮影の象徴的カットになったと思われる。
まとめ
スマートフォンのカメラ機能や画質が向上の一途をたどる中、レンズ交換式カメラを一台選ぶとなると、それなりの高性能、高機能を求めるだろう。そう、せっかくの「カメラ」なのだから、プロやハイアマチュア層が必須としていた機能を持つカメラに引けを取らないものが欲しい。
しかし、それらの機能・性能レベルが備わるプロ・ハイアマチュア機と呼ばれるモデルは、いつの間にか高価格帯のみに存在する。ちょっとした憧れカメラになってしまっているのではないかと思う。スマートフォンに限界を感じてレンズ交換式カメラに足を踏み入れようとする潜在的ユーザーはもちろん、プロ・ハイアマチュア機を既に持つユーザーが2台目として選ぶことも、値段というハードルで取り逃がしてしまう、と余計な心配にも及ぶ。
そこで、例えばこのEOS R7。今回お伝えした秒間約30コマという、フラッグシップ機に引けを取らない瞬発力を持ちながら20万円を切る比較的安価な存在は際立つ。今回挙げた電子シャッターのローリング歪みと上手く付き合うことができれば、APS-Cフォーマットではあるものの頼もしい一台であることは間違いない。
撮影協力:東関東ホース&ハウンド、日本学生自転車競技連盟