新製品レビュー
Lomography Petzval 55 mm f/1.7 MK II
強烈な“ぐるぐるボケ”がフルサイズミラーレスに進出
2019年8月1日 17:00
ロモグラフィーの交換レンズ「Petzval」シリーズに、新たなモデルとして「Petzval 55 mm f/1.7 MK II」が登場しました。
2013年に発売された「Petzval 58 Bokeh Control Art Lens」はキヤノンEFマウント用とニコンFマウント用の2種類でしたが、今回はロモグラフィー初のフルサイズミラーレスカメラ専用レンズ。ソニーEマウント用、キヤノンRFマウント用、ニコンZマウント用の3タイプが用意されます。
※記事中の記述・作例はいずれも試作機を使用したものです。
一般的な絞り機構に進化
以前のPetzvalはウォーターハウス式の絞り機構(穴の大きさの違う金属プレートを差し込むことで光量を変更する)を採用していましたが、今回のPetzval 55 mm f/1.7では絞りの方式を一新。通常のレンズのように、羽根絞りの開き具合を絞りリングで調整するタイプになりました。
そのため、かなり絞りの操作がしやすくなっています。金属プレートを差し込む以前の方式も楽しかったのですが、スピーディな撮影が求められる場面ではやはり煩雑でしたし、複数の絞りプレートを持ち歩くのもおっくうになりがちでした。
ただし、一般的な羽根絞り機構に加えて、ウォーターハウス式絞りのためのスロットも残されています。そこにはハート形や星型といったボケの形を変更するためのプレートを差し込めます(今回の撮影では試作機のため羽根絞りのみで撮影)。
鏡筒はアルミニウムブラック/真鍮ゴールド/真鍮ブラックの3タイプから選べます。
わたしが今回試用したのは、3タイプで一番お手頃価格のアルミニウムブラック(4万4,800円)。MFレンズとしての独特の操作感と質感が感じられ、とても満足のいくものでした。
“ぐるぐるボケ”を検証してみた
Petzvalレンズの特徴といえば強烈な“ぐるぐるボケ”ですが、このレンズにはぐるぐるボケの強弱を調整できるという、「ボケ調節リング」が新たに装備されました。7段階での調節が可能です。
ボケ調節リングを1→4→7と変化させてみました。数値を上げていくごとに、ぐるぐるボケが強調されるのがわかります。
どのボケ調整値でも中心部はほぼ同等の解像力となっています。ポートレートなどに使うときには、被写体を中心部に配置すれば顔などが流れてしまうこともないでしょう。
次にボケ調節=7に固定したまま、絞りリングを動かしてみました。
絞り開放のF1.7では背景は大きくボケ、ぐるぐるとしたボケになっています。また、周辺部の光量落ちも大きく、よりオールドレンズ的な描写となっています。
F2.8にすると、周辺の光量落ちはかなり少なくなり、ぐるぐるボケの度合いも減りました。
F8では背景のぐるぐるボケはほとんどなくなります。
このレンズのぐるぐるボケを楽しむなら、被写界深度の浅い開放絞り付近を使うのが良いようです。
ボケ調整=1では、背景にしたアクセサリー屋のディスプレイの雰囲気が残っています。
一方、ボケ調整=7ではまるで光のシャワーのような写りになりました。このレンズには背景を探す楽しさがあります。
作品
α7 IIIのピーキング機能を使ってピントを合わせました。止まっている被写体ならじっくりとピント合わせができるので、慣れればMFレンズでも苦労することはありません。
オートホワイトバランスでの撮影ですが、黄色い環境光を受けて全体が黄色っぽくなりました。ボケ調整=7での撮影では、丸い明かりも大きく変形してくれます。
鏡のような壁の前に立ってもらって撮影しました。ボケ調整=7ですが、画面右端のぐるぐるボケに対して、左側のボケはそれほど大きくありません。背景の距離によってボケ方が変わってくるのも面白いところです。オートホワイトバランスをマゼンタ寄りにシフトさせています。
夜の街角で横断歩道を渡る人たちを背景に撮影しました。シャッター速度は1/50秒ですが、ぐるぐるボケによって被写体が浮かび上がったように見えます。スローシャッターによる背景ブラしとはまた違った印象となりました。これもオートホワイトバランスをマゼンタ寄りにシフトさせています。
まとめ
シャープな中心部と周辺の強いボケを存分に味わえる、とても特徴的なレンズ。最近のレンズといえば解像力に優れ、諸収差もほとんど目立たない優等生レンズが多い中、まるでオールドレンズを新品で買うかのごとくクセを楽しむためにあるのが、このPetzval 55 mm f/1.7でしょう。こういうレンズを1本カメラバッグに忍ばせておくと、撮影の楽しさが倍増すること間違いなしだと思います。
モデル:矢沢なり