新製品レビュー
Canon EOS Kiss X9(実写編)
充実のライブビュー機能をメインに使いたい1台
2017年10月4日 07:00
エントリー一眼レフカメラの大ベストセラーであったEOS Kiss X7が4年ぶりにフルモデルチェンジを果たし、EOS Kiss X9としてデビューした。
上級機並の約2,420万画素デュアルピクセルCMOSセンサーを搭載し、画像エンジンは最新のDIGIC 7に刷新されているのが大きな見所だ。
ファインダー撮影での性能は先代から据え置きにし上位のEOS Kiss X9iに譲る一方で、ライブビュー性能はX7に比べて劇的に進化しておりX9iと同等。軽量、コンパクト、廉価の路線を引き継ぎながら、自撮りも可能なバリアングルモニター、タッチパネル、Wi-Fi、Bluetoothと今の時代に必要とされている機能をふんだんに詰め込んだエントリー機の新スタンダードだ。
EOS Kiss X9の外観や機能の詳細は前回の記事に詳しくまとめているのでそちらを参照して欲しい。今回は実写した結果からEOS Kiss X9の性能や使用感についてお伝えしていこう。
ダイナミックレンジ
ダイナミックレンジとはカメラの撮像素子がどれだけの明るさの幅を記録できるかどいう指標だ。ダイナミックレンジの低いカメラで撮影を行うと輝度差の大きなシーンでは白トビまたは黒ツブレれが起きてしまい十分なデータを記録できなくなってしまう。
そのため、ダイナミックレンジの広さというのは高感度性能や画素数(解像度)と並んでカメラ性能の重要な指標の1つだ。
輝度差の大きなシーンを撮るために、高架下から明るい空に向かって撮影してみた。ちょうど太陽が高架で隠れている逆光の状況で、写っている空は非常に明るい状態だ。
見て分かるように高架の裏の陰の部分から空の部分までほぼ白トビ、黒ツブレが無い状態で撮影できている。白飛びしやすい雲のハイライト部分までキチンとディティールを残すことができた。
撮影段階で十分なデータが残っていれば、オートライティングオプティマイザの効きも良くなるし、RAW撮影の場合は撮影後の大幅な編集にも耐えられる。
様々なシーンで撮影したが、体感的にはキヤノンの上位機にも負けず劣らずのダイナミックレンジを有していると感じた。
高感度画質は?
先代のEOS Kiss X7は約1,800万画素のセンサーであったが、EOS Kiss X9では約2,420万画素と大幅に画素数がアップした。
同じセンサーであれば、画素数が多いほど1画素あたりの受光面積が狭くなるため高感度性能に弱いと言われることもあるが、イメージセンサーの世代が異なればそうとも言えないのだ。
X9のセンサーは新しい世代のものを使用しているため画素数が増えても十分な高感度性能を有している。
また、処理面でも最新のDIGIC 7によるノイズ軽減の効果も大きい。DIGIC 7ではノイズ軽減処理時に扱えるデータ量がDIGIC 6比で14倍になっており、ノイズと被写体のディティールの区別が高精度で行えるようになっている。
EOS Kiss X7に搭載の画像エンジンはさらに前の世代のDIGIC 5なので、処理面での高感度性能向上も大きなものとなっている。
実写してみると、ISO3200くらいまでは大きなノイズは少なく良好なディティールが残っており、ISO6400くらいからやや目立つノイズが出てくるが、まだ十分使用可能だろう。
ISO12800になってくると明らかにノイジーになってくるものの、大きく見せるのでなければ使えると感じる人も多いと思う。
常用感度最高のISO25600では、空などテクスチャが少ない部分のノイズがかなり目立ってくるが、建物など元からテクスチャがある部分に関しては比較的うまくノイズが軽減されていると感じる。
連写
EOS Kiss X9の連写の見所は、ライブビューでのデュアルピクセルCMOS AFだ。デュアルピクセルCMOS AFとDIGIC 7の組み合わせは合焦速度がスムーズで速いだけでなく、ピント追従機能も優れているため、連写しながら被写体に正確にピントを合わせ続けて撮影できる。
ドライブモードを[連続撮影]、AF動作を[サーボAF]、AF方式を[顔+追尾優先]に設定し、撮影したい被写体を液晶画面上でタッチすると、その被写体を画像認識するためAF枠を意識すること無く、シャッターを押し込むだけでターゲットにピントが追従し連写が可能だ。
飛行機が手前の木陰に重なるシーンで撮影してみたが、手前の木に迷うことなくギリギリまでピントを合わせ続けながら撮影できた。連写時のピント追従撮影ではファインダー撮影よりライブビュー撮影のほうが格段に自由度が高くなる。
ただし、ライブビュー撮影におけるサーボAF設定時は連写コマ数が約3.5コマ/秒に制限される(ファインダー撮影時は約5コマ/秒)ことに注意。連写コマ数をできるだけ稼ぎたいならファインダー撮影をするという選択肢もあることを覚えておこう。
作品
EOS Kiss X9はエントリー機らしく、オートモードの機能も豊富だ。フルオートの「シーンインテリジェントオートモード」ではカメラがシーン解析を行い、自動でそれに適した設定をしてくれる。
この写真ではカメラが青空を検知し、空の青が鮮やかになるピクチャースタイル「風景」相当の設定になっただけでなく、全体にシャープにピントが合うようF値はF7に自動設定された。経験者がよく設定する値とほぼ同じと言って良い。
さらにシーンを撮影者が決める「スペシャルシーンモード」を使えば、より適した設定で撮影も可能だ。カメラを買ってすぐ、F値やシャッター速度の意味がよくわからなくてもかなり多くのシーンを撮影できる。
スペシャルシーンモードの「手持ち夜景」で、夜の東京駅を撮影してみた。手持ちでの夜景撮影は手ブレさせないように感度を上げるとノイズが発生し、ノイズを抑えるためシャッター速度を長くすると手ブレが発生するというトレードオフの関係がある。
このモードなら、高感度で手ブレしにくいシャッター速度の写真を自動で4枚撮影し、これら4枚の高感度写真を用いて内部でノイズ軽減処理が施されるという高度な撮影ができる。このシーンではISO12800で撮影が行われたが、通常撮影のISO12800よりノイズはかなり少ない。手ブレとノイズの両方を抑制できる便利なモードだ。
EOS Kiss X9は、ラフモノクロ、ソフトフォーカス、魚眼風、水彩風、トイカメラ風、ジオラマ風、油彩風、HDR絵画調標準、HDR油彩風、HDRビンテージ調、HDRグラフィック調の計11種類のクリエイティブフィルターを使用できる。
ライブビュー撮影では、効果をリアルタイムに確認しながら撮影することができるので、現場で雰囲気のある特殊効果の掛かった写真が撮れる。
モードダイヤルを「クリエイティブフィルター」にセットすることでオートで撮影できるほか、応用撮影ゾーンのP、Av、Tv、Mモードでもライブビュー時のクイック設定から選択することも可能(「HDR」が付いていないものでJPEG撮影のみ)。また、撮影後にカメラ内で効果を掛けることもできる。
夜の街でフォトジェニックな映り込みを見つけたので、トイカメラ風を適用してみた。四隅が暗くなり、独特の色合いが付くので雰囲気が出やすい。数あるクリエイティブフィルターの中で、個人的に最も使いやすい効果だ。
形のしっかりしている建物を正面から魚眼風で撮影。元の形をデフォルメした遊び心のある効果が掛かる。わかりやすい形の被写体に使うと面白い。効果は弱め、標準、強めの3段階から選べる。
新しい約2,420万画素のデュアルピクセルCMOSセンサーの作り出す画像は約6,000×4,000ピクセルの非常に解像度の高いものになる。
これだけ解像度が高ければ、A3クラスのプリントでも余裕でこなせる。ただし、解像度が高い分ピント合わせはキッチリ行いたい。ライブビュー撮影なら、画面をタッチするだけで狙った場所にピントを合わせられるので、ファインダー撮影よりも細かなピント合わせができる。
枝に止まるトンボの姿を画面タッチでピントを合わせて撮影した。トンボにしっかりとピントが合い、体毛の1つ1つまでキッチリと描写できた。
バリアングルモニターを使えば、ローアングルの撮影も簡単に行える。
一般的なチルト式モニターでは、横位置のローアングルはできても縦位置撮影のローアングルには対応できないが、バリアングルモニターなら縦横どちらの構図のローアングル(ハイアングル)撮影にも対応できるので自由度が高い。
花は通常、上から撮影することが多いが、あえて空をバックに下からローアングルで狙った。縦構図のローアングルでも無理な体勢になることなく、頭上の木々が作る玉ボケの位置を丁寧に探ることができた。
EOS Kiss X9は、ライブビュー撮影時の顔認識能力もかなり優れている。子供の撮影やポートレートなどでは、ファインダー撮影よりもライブビューの[顔+追尾優先]で撮影した方がピント合わせが楽になることが多いはずだ。正面はもちろん、斜めになっている顔でもかなりの精度で認識してくれる。
例えばこのシーンのように、かなり画面の端に寄っている顔にも問題なく合焦可能だ。この位置はファインダーのAF測距点で合わせるのは難しいだろう。
まとめ
EOS Kiss X9を実際に使ってみて感じたのは、今までの一眼レフカメラの常識を変えるような新しいカメラということだ。
これまでの一眼レフカメラはAFが速く、レスポンスも良いファインダー撮影が本命で、ライブビュー機能はおまけという認識が一般的だったと思う。しかし、本機においてはライブビュー機能が本命と言って良い。
初心者、入門者にとって光学ファインダーでの撮影はある程度の慣れが必要だが、ライブビューなら直感的に結果を見ながら撮影できる手軽さがある。
その一方で、撮影に慣れてくればよりテンポ良く撮れ、レンズを通した世界をダイレクトに切り取る光学ファインダーでの撮影を楽しむこともできる。軽量、コンパクト路線も維持され、外に持ち出して撮影するのも苦にならない。カメラ入門者にとって、ちょうど良いバランスを保ったモデルだ。
また、画質を決定づける撮像素子や画像エンジンは上位機と同等のものを用いているため、得られる写真の画質も非常に高い。上位のカメラを持っているユーザーのサブ機としても十分に機能するだろう。
カメラの起動速度がやや遅かったり、細かなボタンカスタマイズができないなど中上級機と比べると速写性、操作性の面で劣る点は当然あるのだが、普段の持ち歩き用やなるべく荷物を減らしたい旅行用など用途を見極めれば上級者でも十分第一線で活躍させられる高いポテンシャルを持ったカメラでもある。