新製品レビュー
Canon EOS Kiss X9(外観・機能編)
ライブビューも充実 最新デバイスにアップデートした入門機
2017年9月11日 08:01
エントリー機としては異例ともいえる2013年から4年もの間“キングオブエントリー一眼レフ”として君臨していたEOS Kiss X7を置き換える形で、満を持して登場したのがEOS Kiss X9だ。
軽量コンパクトで廉価という先代EOS Kiss X7の特徴を踏襲しつつ、カメラの心臓部とも言える撮像素子には中級機と同等のデュアルピクセルCMOSセンサーを採用。画像エンジンは最新のDIGIC7を搭載するなどキングオブエントリー一眼レフの名を継ぐのにふさわしいモデルチェンジとなっている。
本記事ではEOS Kiss X9の外観や機能の特徴について詳しく紹介していこう。
製品のポジションとコンセプト
EOS Kiss X9は2013年発売のEOS Kiss X7の後継にあたる機種で、キヤノンの一眼レフヒエラルキー中では最も廉価なEOS Kiss X80の1つ上、今年4月に一足早く発売となったEOS Kiss X9iやその前の世代のEOS Kiss X8iといった“i”付きX一桁モデルの1つ下のポジションとなる。
キヤノンの一眼レフエントリー機には現行品だけでも下から、EOS Kiss X80、EOS Kiss X9、EOS Kiss X8i、EOS Kiss X9i、EOS 9000Dと5機種(在庫僅少のKiss X7は除く)のラインナップがあり、どれを選んで良いか迷ってしまうかもしれないが、ファインダー性能、ライブビュー性能、操作系の3つに分けて考えるとスッキリする。
最も下層のEOS Kiss X80はいずれの性能も旧世代の最も廉価なモデル。今回紹介するKiss一桁機のEOS Kiss X9はファインダー性能を控えめにするかわりに、ライブビュー性能を最新型に強化したモデル。
また、EOS Kiss X8i、EOS Kiss X9iといった“i”付きモデルは“i”無しからさらにファインダー性能を強化したモデル。エントリー機カテゴリで唯一「Kiss」が付かないEOS 9000DはEOS Kiss X9iとほぼ同等の性能を持ちながら操作系をEOS中上級機と一緒にした本格エントリーとなる。
EOS Kiss X9はファインダー性能を抑える一方、撮像素子や画像エンジンはX9iと同じ最新世代のものを使用しているため、軽量コンパクトと画質、廉価を高いレベルでバランスするお得なモデルと考えることができる。先代のKiss X7より僅かに重くなったものの、現行のエントリー5機種の中では最も軽量なモデルだ。
ボディデザイン
先代のEOS Kiss X7と比べて大きく変わったのがグリップの形状と質感だ。X7と比べてグリップは約7mm深くなり重量のあるレンズを取り付けてもしっかりとホールドできるようになった。グリップの部材も上位機種と同じく高級感のあるシボ加工が施され質感も大きく向上している。
グリップ以外のデザインも先代からブラッシュアップされており、安っぽさを感じさせない上位モデルに匹敵するしっかりとしたデザインだ。
定番のブラックの他に、シルバーとホワイトのカラーバリエーションもある。こちらはブラックに比べ外見が大きく変わるので好みが分かれるところだろう。塗装の質感もブラックとは異なり、人によっては安っぽさを感じることがあるかも知れない。
購入する場合は量販店などで実機を見てみることをおすすめしたい。なお、シルバーモデルには標準キットズームEF-S 18-55mm F4-5.6 IS STMのシルバーモデルが用意されているが、ホワイトモデルには用意されておらず、キットズームレンズはシルバーになる点も注意したい。
大きさ、重さ
EOS Kiss X9のサイズは幅×高さ×奥行きが122.4×92.6×69.8mm、重さが453g(バッテリー、メモリーカード含む)で、EOS Kiss X7の116.8×90.7×69.4mm、407gと比べると僅かに大きくなっている。これは後述する新搭載のバリアングル液晶モニターなど各種の高機能化によるものだ。
一方、1つ上のEOS Kiss X9iの131.0×99.9×76.2mm、532gと比較すればかなり軽量コンパクトであることがわかる。
機材の軽さは旅行など移動が多いときや、子供連れなど荷物が多いときの撮影快適度に大きく影響するので大事な指標だ。
操作性
EOS Kiss X7では一体となってカメラ上部に盛り上がっていた電源ボタンとモードダイヤルが分離し、ボディに埋め込まれるような配置となったことでカメラ正面は突起の少ない滑らかなフォルムとなった。電子ダイヤルには緻密なローレット加工が施されており操作感も向上している。
また、先代は上面にはISO感度設定ボタンしかなかったが、X9ではDISPボタンが増設され、上面左側にはWi-Fiボタンも加わった。
背面操作部は後述するバリアングル液晶モニターに変わったこと以外、ボタン配置などは先代と一緒であり、X7から乗り換えたとしても違和感なくすぐ使えるはずだ。
撮像素子と画像処理関連
EOS Kiss X9の最も大きく重要な進化は撮像素子と画像エンジンだと言える。撮像素子は上位機にも搭載される有効約2,420万画素のデュアルピクセルCMOSセンサーを搭載。大きさはAPS-Cサイズだ。
6,000×4,000ピクセルの高精細な画像が得られ、A3ノビなど大きなプリントも余裕を持ってこなせる。解像度はL、M、S2、S1の4つから選ぶことができ、もちろんRAW(+JPRG)撮影にも対応している。
合わせて画像エンジンも最新のDIGIC7を搭載している。X7に搭載されたDIGIC5と比べると2世代分の進化で、処理スピードやAFの追従性、ノイズ軽減などカメラの操作性から画質に至るまで全方位で性能が大幅に向上している。
例えばDIGIC7では高感度ノイズを軽減する際、より多くの情報を解析して処理できるため常用ISO感度も12800から25600にアップしている。顔認識の精度も大きく向上しているため子供の撮影にも心強い。
連写
連写はEOS Kiss X7の約4コマ/秒に対して、約5コマ/秒にアップ。よほど激しく動くものでなければ十分な速度。動物やスポーツの撮影にも十分対応可能だ。ただし、ライブビュー撮影時の[サーボAF](半押しの間被写体にピントを合わせ続けるモード)では約3.5コマ/秒になる点に注意。
ミラーの動作音を抑えたソフト撮影、ソフト連続撮影にも対応しているので、発表会など音が気になるシーンの撮影にも心強い(ソフト連続撮影時は連写が約2.5コマ/秒に制限される)。
連続撮影可能枚数は高速なSDカードを使えばJPEG撮影ならカードがいっぱいになるまで無限に連写することが可能。RAW+JPEG撮影ではデータサイズが飛躍的に大きくなるため6コマまでとなる。
ファインダー
ファインダー性能は冒頭に述べたとおり、進化が抑制された数少ないポイントで基本はEOS Kiss X7と同等だと思っていいだろう。視野率約95%、倍率約0.87倍、アイポイント約19mmだ。
視度調整ダイヤルも付いているため、最初の使用時は必ず自分の視力に合うように調整しておこう。
液晶モニター
液晶モニターは待望のバリアングル機構が搭載された。水平175度、垂直270度の広い可動域を持つため、縦位置、横位置ともにローアングル、ハイアングル撮影が快適に行え、構図の自由度が大きく高まる。モニターをレンズ側に回転させる事もできるのでセルフィー(自撮り)を行うにも便利。
タッチ操作、タッチシャッターにも対応しており、スマートフォンに慣れた初心者でも直感的にタッチだけで操作することも可能だ。
なお、メニュー画面は初期設定では明るくグラフィカルな「やさしい」メニューが採用されており、初心者でも画面の説明を見ながら設定が可能だ。
メニューの見え方は、上位機種に採用されているEOS標準の画面にすることも可能。標準画面に慣れたユーザーははじめにメニュー画面を変えておくのもいいだろう。
AF
デュアルピクセルCMOSセンサーは、すべての画素が撮像と高速な像面位相差AF機能を併せ持つキヤノン独自のセンサーで、これによりライブビュー撮影でも高速で滑らかな位相差AFを体感できる(デュアルピクセルCMOS AF)。
今までの入門機のライブビューはAFが遅く、動きものには対応しにくいなどの問題があったが、Kiss X9ならは中上級機並の快適なライブビュー撮影が可能だ。ここは先代から劇的に進化したといっていいほどだ。
デュアルピクセルCMOS AFは、ファインダー撮影時の位相差AFと比べ非常に広い範囲でAFを使うことが可能。画面の隅にある被写体にも楽にピントを合わせる事ができる。
顔+追尾優先では非常に高い精度で顔を認識し、ピントだけでなく露出もコントロールしてくれるため人物撮影に非常に心強い。また、ピントを合わせたいところをタッチすればその部分を画像認識し追尾してくれる便利さもある。
動きの読みにくい被写体に有効なスムーズゾーンAFやピンポイントで狙えるライブ1点AFなども使え、充実の機能だ。
一方、機能据え置きのファインダー撮影時のAFは中央クロス9点AFであることが少し物足りない気もするが、ワンショットAF、AIサーボAFなど必要最低限の機能は備わっており、レンズを通した外の世界を直接見ながら撮影するという、一眼レフならではの撮影スタイルも十分楽しめる。
ライブビューのAFがデュアルピクセルCMOS AFとなり大幅に機能アップしているため、ライブビューとファインダーをうまく使い分けながら撮影したいところだ。
もしファインダー撮影を重視するなら、オールクロス45点AFセンサーを搭載したKiss X9iもしくはEOS 9000Dが選択肢となる。
動画機能
ライブビュー性能が大幅にアップし、バリアングル液晶モニターも搭載したことで、動画撮影の快適さも飛躍的にアップしていることも見逃せないポイントだ。画質はフルHD/60pまで対応する。
画面をタッチすると滑らかにフォーカスが合い、写真と同じような大きなボケ味のある雰囲気のある動画を手軽に残せるため軽量な動画機としての魅力もある。外部マイクを繋いで高音質な録音をすることも可能だ。
キットレンズはAF機構に滑らかなSTM(ステッピングモーター)を採用しており、動画撮影の相性も良いのもポイント。
通信機能
EOS 6D Mark IIなどと同じく、大きなメリットとなるのがBluetoothを使ってスマホと常時接続をし、スマホからカメラの電源をコントロールできる機能だ。
専用アプリ(Camera Connect)をスマホにあらかじめインストールしておけば、撮影後、カメラをカバンに仕舞った状態でもスマホからカメラの電源をONにし、Wi-Fi接続に切り換えて内の画像を簡単に取り込める。
一眼レフカメラで撮影した高画質な写真を現場ですぐにSNSにアップしたいときに重宝する。
Wi-Fi、BluetoothだけでなくNFCにも対応するため通信機能は充実している。
記録メディア
記録メディアはSDカードとなり、SDXC UHS-Iまで対応する。カードスロットはシングルでバッテリー室と同じ場所になる。
JPEG最高画質なら16GBのカードで約2,000枚の撮影が可能だ。
端子
EOS Kiss X7ではレリーズ、マイク、HDMI、USBの4端子がすべて片側に集約されていたが、X9では2つずつ左右に分かれた。撮影中に使用頻度の低い端子を外部に晒さなくても良くなった点が嬉しいポイント。
レリーズ、マイク、HDMI、USBの端子サイズはそれぞれ、E3(RS-60E3対応)、3.5mmステレオミニジャック、HDMI-Mini(タイプC)、USB mini-Bとなる。
電源
使用する電池は新型のLP-E17となり、EOS Kiss X7のLP-E12とは互換性がない事に注意しよう。
LP-E17の電池容量は1,040mAhと、LP-E12の875mAhから大きく増えている。ライブビュー中心の撮影をしても電池の持ちは悪くない。充電は付属の充電器で約2時間で完了する。
まとめ
以上のように、EOS Kiss X9はベストセラーに長らく君臨していたEOS Kiss X7を置き換えるだけの事はある充実の進化を遂げていることがおわかり頂けたであろうか。
ファインダー性能など上位機に比べると見劣りするポイントもあるものの、これらはライブビュー機能の進化で十分補えることが多いはずだ。
今まで一眼レフカメラのライブビュー機能はファインダーのオマケ程度に考えられてきたが、EOS Kiss X9においてはライブビューを中心とし、ファインダー撮影をサブとして考えるとかなり魅力的な機種に見えてくる。一眼レフでは数少ないカラバリを楽しめるのもポイントだ。
ライブビューだけにこだわるならEOS Mなどミラーレス機を使えば良いではないかという声も聞こえてきそうだが、ファインダーを通しリアルな世界を直接見ながら撮影する一眼レフの醍醐味を味わいつつ、便利なライブビューで手軽な撮影もできる、しかも軽量で廉価というバランスは絶妙なところをついているのではないだろうか。
次回は「実写編」でEOS Kiss X9の特徴を紹介していこうと思う。