ミニレポート
「リアル・レゾリューション・システム」で動きものは本当に撮れないかを試す
(PENTAX K-3 II)
Reported by 大高隆(2015/6/30 12:57)
PENTAX K-3 IIのリアル・レゾリューション・システムは、ベイヤー配列の撮像素子を上下左右に1ピクセルずつシフトして4回露光して得たデータを元に、1枚の写真データを生成する。そのため、4回の露光が完了するまで被写体が動かないことが、理想的な結果を得る条件になる。
しかし、風景撮影といえど、実際には被写体が絶えず動いているのが常だ。そこで身近な都市風景を被写体として、リアル・レゾリューション・システムがどのようにそれを写すかを調べてみた。
リアル・レゾリューション・システムについての、詳しい説明はメーカーサイトによくできた図解があるので、予備知識として1度そちらをご覧いただいておくのが良いだろう。
本稿では以下、リアル・レゾリューション・システムを「RRSシステム」ないしは「RRS」と略記する(長いので)。
◇ ◇
デジタルカメラに広く採用されているベイヤー配列の撮像素子は、各画素のRGB情報を隣接する画素の信号を元に補間して生成する。その補間処理に起因する色モアレ、あるいはディテールの喪失、微ボケなどが避けられない。しかし、RRSで撮影された写真は補間処理を行なわないので、これらの弊害がない。
RRSはピクセルを増やして解像度を上げるのではなく、補間によって損なわれるディテールを回復して、解像力を高める機能だ。
「解像度」と「解像力」という2つの言葉は、しばしば同一視される。しかし、解像度という言葉が指すのは、出力時に1インチあたり何ピクセルの密度か、あるいは画像の全体の大きさが何ピクセル×何ピクセルかという話である。対する解像力とは「どれくらい細かいディテールを表現できるか」を数値化した尺度だ。
撮像素子の性能がレンズの解像力を下回っていた頃は、撮像素子の解像度を上げることが、写真的解像力を上げることにほぼ等しかった。しかし、現在は撮像素子のピッチがレンズの点解像能力を上回るところまで来ており、解像度を上げても解像力に寄与するところはあまりない。
◇ ◇
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
上の2点は、RRSを使用して撮影したRAWファイルを使い、RRSオンとオフで、それぞれJPEGファイルに書き出したものだ。解像度はいずれも6,016×4,000ピクセルで、ファイルサイズはノーマルの約11.8MBに対してRRSが14.5MBと大差はなく、取り扱いは容易だ(ただしRRSのRAWファイルは123MBありノーマルのRAWの約4倍になる)。
写真中央、1番奥のビルの壁面のタイルを見ると、ノーマルでも充分に解像しているように見えるけれども、RRSで撮ったものは、1枚1枚のタイルが立体的に感じられるほど、解像力に余裕がある。また、同じビルの屋上のフェンスを見ると、RRSではメッシュがはっきり見えるが、ノーマルでは、それが完全に潰れてしまっている。
ベイヤー配列の素子同士をくらべれば、1,600万画素よりも2,400万画素、2,400万画素よりも3,600万画素の方が細かいディテールを拾ってくるので、高画素競争からいきなり降りることは難しい。ただしベイヤー補間がある以上、拾ってくるディテールはぼやけたディテールであり、それを人間が「読んで」写っていると評価しているに過ぎない。
広く受け容れられているところの「高画質=高画素」という考え方に則れば、高画質な写真はファイルサイズの肥大化を免れないが、K-3 IIのRRSはいたずらにファイルサイズを大きくすることなく、ワンランク上の豊かなディテールを捉えた写真を可能にする。
◇ ◇
歩道橋の上からバスロータリー越しに100mほど先のビルを撮ってみた。左がRRSオンで、右がRRSオフだ。
画面中央の改修中のビルを見ると、防護ネットの向こうの壁や窓枠・ビル名のサインといったディテールがノーマル撮影では崩れているが、RRSを使うと鮮明に立ち上がってくる。また、その隣の黒い壁のビルをみると、外壁のわずかな汚れや凹凸までみごとな質感を捉えているのがわかるだろう。まさにピクセルレベルの解像力だ。
被写体の動きに関して言えば。風の強い日だったので街路樹の葉は大きく揺れ、通行人や自動車も絶えず動いていたが、一部に独特のパターンが破綻として現れている程度だ。全体としてはさほど不自然な絵ではない。
ただしよくみると、動いているものにはRRSの効果がなく、ノーマル撮影と変わらない写りだ。そのため、カリカリと鮮鋭に描写された背景の前にあると少しぼやけて見える。
◇ ◇
では、もっと動きがもっと速くなると、どのように写るだろうか。
背後の路上を通り過ぎるバイクには破綻はほとんどみられない。RRSは電子シャッターで撮影されるので、ローリング歪みやフォーカルプレーン歪みと呼ばれる現象が目につくが、それ以上の違和感はない。
ここまでの2つの例から考えると。RRSの4回の露光を仮にABCDの順序で呼ぶとして、ABCDそれぞれで位置に重なりが生じないほど動きが速い被写体なら、このように普通に写る。動体にはRRSの超解像効果は現れないけれども。
4回の露光ABCDの全てで同じ場所に写っているオブジェクト(被写体)は「静止」と判断され、4つのデータから合成が試みられる。そして、それが不完全な重なりであるとき、つまりわずかに動いている場合に、市松模様のパターンノイズが生じる。同じ場所にないオブジェクトは「動体」と判断されて、Aに写っているイメージで代表される……と、理解してよいようだ。
そして、手前の停まっているバイクには、RRSの効果がよく現れている。ハンドルグリップの滑り止めのパターン、字を書いてメモ代わりに貼付けられている養生テープ、あるいはシート表皮の質感など、ノーマル撮影では潰れてしまうディテールの描写が実にリアルだ。
◇ ◇
公式には、RRSが使えるのは「静止している被写体に限る」といわれる。しかし、実際に破綻が生じるのは被写体が「肉眼では気にならないくらいわずかに動いている」場合であり、ほとんどの動体は違和感なく写る。ただ、動体にはRRSの効果が現れないため「不可」とされているようだ。
RRSを用いた撮影は手順が多い上に三脚を前提とするので、動きもの主体の写真をRRSで撮るのはナンセンスだ。とはいえ、風景撮影の中に動くものがあったとしても過剰に恐れることはない。そして、静物の表現には見ての通り素晴らしいものがある。ユーザーとしては、様々な撮影領域でリアル・レゾリューション・システムの威力を試してみる価値がありそうだ。