新製品レビュー
PENTAX K-3 II(実写編)
超高精細リアル・レゾリューション・システムを検証する
Reported by 永山昌克(2015/6/18 07:00)
リコーイメージング「PENTAX K-3 II」は、APS-Cサイズ相当の有効2,435万画素CMOSセンサーを搭載した一眼レフカメラだ。「PENTAX K」シリーズの最上位に位置し、趣味として写真撮影を楽しむハイアマチュア層を主なターゲットにしている。
防塵防滴ボディや視野率100%ファインダー、最高約8.3コマ/秒の高速連写などは前モデル「PENTAX K-3」から継承したもの。そのうえで、手ブレ補正とAFの強化を図り、さらにGPSや電子コンパス、独自の超解像技術「リアル・レゾリューション・システム」などを新たに搭載している。
前回のレビューでは外観と機能をチェックしたが、今回は実写編として、写りの性能を見てみよう。
手ブレ補正を応用したユニークな超解像技術
新搭載したリアル・レゾリューション・システムは、センサーシフトと合成によって画像の先鋭感や質感を高める超解像技術だ。撮影メニューからこの機能を選択してシャッターボタンを押すと、イメージセンサーが1画素ずつ動きながら4回の露光が行われ、それがカメラ内で合成され、非常に精細な1枚の画像として出力される。
一般的なデジカメが採用するベイヤー方式では、1つの画素でRGBのどれか1つの色情報しか取得できず、足りない情報は補間して作り出している。それに対して、このリアル・レゾリューション・システムでは、1つの画素ごとにRGB各色の情報を得らえるため、ディテールや色の再現性がいっそう高くなる、という仕組みだ。加えて、偽色や高感度ノイズを低減できるメリットもある。
リアル・レゾリューション・システムの記録ファイル形式は、JPEGとRAWの両方に対応。RAWデータに関してはカメラ内現像の際にリアル・レゾリューション・システムをオフにして出力することも可能だ。
下の写真は、キット付属の標準ズーム「HD PENTAX-DA 16-85mm F3.5-5.6ED DC WR」の16mm側を使って、通常撮影とリアル・レゾリューション・システムを比較したもの。精細感が向上し、素材の質感をいっそうリアルに表現できていることが分かるだろう。
また、通常撮影ではモアレが見られる部分(入り口の浮彫柱に巻かれた柵の部分など)があるが、リアル・レゾリューション・システムでは生じていない点にも注目だ。
使用時の注意点は、三脚などを使ってしっかりとカメラを固定して撮る必要があること。4回の露光中にカメラブレが生じたり、被写体が動いたりすると、十分な効果は得られない。三脚を使ったうえで、セルフタイマーやリモコン、ミラーアップの使用が推奨されている。
次の写真は、上の写真と同じ場所にて、ズームの85mmを使って通常撮影とリアル・レゾリューション・システムを比較したもの。やはり圧倒的な解像感を確認できる。細部を厳密に見ると、日陰部分にとまっていた数羽のスズメが4回の露光中に少し動いたため、その部分には格子状のノイズが生じていることが分かる。
続いて、単焦点レンズ「smc PENTAX-FA 77mm F1.8 Limited」を使って夜景を撮影した。薄明かりが残る夜空の部分には、通常撮影ではざらつきが見られるが、リアル・レゾリューション・システムでは非常にクリアーな写りになっている。また外壁の質感描写もお見事だ。
リアル・レゾリューション・システムは基本的には静止した被写体に限られる。上の夜景写真でも、わずかとはいえ、風によって動いた画面右下の草木の部分に格子ノイズが見られる。だが、動いている被写体がまったく撮影不可というわけではない。動体では超解像の効果は得られないが、必ずしも不自然なノイズにはならない。
下の写真では、画面下に数名の歩行者が写っている。よく見ると、立ち止まっている人には格子ノイズが生じているが、歩いている人に関しては、少し離れた位置に残像のようなノイズがあるものの、人の姿そのものは通常撮影と同じ写りといえる。
どうしても不自然な箇所が生じた場合、PC上での画像処理の手間をいとわなければ、リアル・レゾリューションのオン/オフの写真をPhotoshopなどで部分的にレイヤー合成する、という解決策も考えられる。
残念なのは、ストロボ撮影に非対応であること。リアル・レゾリューション・システムの用途として、スタジオ等で撮る静物や製品撮影、複写などが考えられるが、ストロボではなく定常光を用意する必要があるのは、少々ハードルになる。
下の写真は、撮影用のLEDライトを当てて撮ったもの。十分な光量の定常光を整えることができれば、物撮り用に役立つだろう。
そのほか、風景や建築、インテリア、美術品などの撮影にも利用できる。三脚使用という条件はあるものの、ハッとするような精細感は大きな魅力であり、文字どおり対象物をリアルに記録できるという意味での実用性は高い。
感度別の画質をチェックする
撮像素子にはAPS-Cサイズ相当の有効2,435万画素CMOSセンサーを、画像処理エンジンには「PRIME III」を搭載する。感度はISO100〜51200に対応し、1/3EVまたは1/2EVステップで選択できる。
以下は、感度を変えながら撮影したJPEGデータだ。高感度ノイズ低減は、感度に応じて最適な処理が加わる「オート」を選択した。ISO3200を超えるあたりから暗部のざらつきが目立ちはじめるが、特に汚い印象はない。APS-Cサイズセンサーとしては、良好な高感度画質といっていい。
次は、リアル・レゾリューション・システムをオンにして撮影した感度別のJPEGデータだ。高精細になるだけでなく、高感度ノイズが大きく低減していることが分かる。
リアル・レゾリューション・システムは、そもそも撮影時に三脚を使うので、高感度が必要になるケースはあまりない。ただ、たとえば夜景を長時間露光で撮る際、さまざまな理由で露光時間を短縮したいときは、感度を1〜2段上げても特に問題はないといえる。
作品集
ここから先は、リアル・レゾリューション・システムはオフにした、通常撮影の写真を掲載しよう。
1枚目は、個人的に見つけると必ず撮りたくなる被写体のひとつ、螺旋階段だ。コントラストをプラスに、ホワイトバランスの微調整をアンバー側にそれぞれ設定し、歴史が刻まれた建造物の重厚感を強調した。吸い込まれるような奥行きがたまらない。
小雨が降る中での撮影だったが、防塵防滴ボディなので安心して撮ることに専念できた。外部ストロボを斜め上から照射することで、花のみを明るくしつつ、ごちゃごちゃした背景を暗く落として整理した。
背景を単純化して主役の自転車を目立たせるため、ハイポジションから撮影。シャッター速度は低速にセットし、あえてブレを作ってスピード感を表現した。
カスタムイメージのモノトーンを選び、フィルター効果を「赤外線」に設定。陰影を強くすることで、複雑に波打つ雲の中に、硬質でメカニカルな建造物のシルエットを浮かび上がらせた。
単焦点レンズの絞り開放値で撮影。画面の右上と左下にボケが写り込むようなカメラアングルを選択し、ボケによって画面に奥行きを与えている。
アベックの足元と柵の影の重なりに注目し、それ以外の要素をなるべく排除したフレーミングを選択。ホワイトバランスは日陰に設定し、夕日の赤みを強調した。
隅田川ではお馴染みの観光汽船ヒミコ。半逆光になるカメラポジションを選んだうえで、部分をクローズアップにすることで、涙滴のような滑らかな船体のフォルムを際立たせた。
マニュアル露出モードを選択し、あえてアンダー気味の露出にして水面の輝きを強調。光の反射と人物が重なるタイミングでシャッターを切った。
通常撮影とリアル・レゾリューションを使い分ける
今回の試用では、撮影者の狙いをきっちりと反映させられるカメラとしての基本性能の高さを実感できた。可動式モニター非対応や内蔵ストロボがないことは不満だが、画質には満足できる。ディテールは精細で、発色はクリアーだ。新機能のリアル・レゾリューション・システムばかりに注目しがちだが、通常撮影でも解像感は高い。
リアル・レゾリューション・システムについては、被写体が限定されることと、三脚必須であることを煩わしく感じるかどうかが評価の分かれ目になる。
風がない日を選び、動きのない被写体に対して、どっしりと三脚を構えて慎重にシャッターを切るという作業は、手軽なスナップとは対極にある撮り方だ。それを制約や制限とは考えず、高解像を得るためのひとつの撮影スタイルとして楽しむといいだろう。単に精細なだけでなく、ふだんとは違った撮り方をすることで写真に新鮮な発見があるかもしれない。