交換レンズレビュー
FE 24-240mm F3.5-6.3 OSS
広角に強く、ハイコントラストな10倍ズーム
Reported by 曽根原昇(2016/1/14 10:27)
ソニーの「FE 24-240mm F3.5-6.3 OSS」(SEL24240)は、35mmフルサイズに対応する光学10倍の高倍率ズームレンズ。35mm判フルサイズセンサーを搭載する同社のミラーレス一眼カメラ「α7シリーズ」向けの高倍率ズームとしては初の製品となる。
最大の特徴は広角側の焦点距離が24mmであること。他社製のフルサイズ対応高倍率ズームでは28-300mmといったズーム領域が一般的であるが、本レンズは望遠側こそ240mmに抑えられているものの、従来の高倍率ズームよりさらにワイドな画角が楽しめるというわけだ。
光学式手ブレ補正の搭載、防塵防滴への配慮など、なかなか魅力的なスペックをもつ本レンズの実力を探ってみよう。
デザインと操作性
全長は118.5mm、最大径は80.5mm、質量は約780g。小型軽量がウリのα7シリーズ用の交換レンズとしては随分と大きく感じるかもしれないが、他社製フルサイズ対応の高倍率ズーム、例えばニコンのAF-S NIKKOR 28-300mm f/3.5-5.6G ED VRやタムロンの28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZDと比べると、ニコンよりはわずかに軽く小さく、タムロンよりは一回り重く大きい、といった程度。
スペック的にみれば決して大きなレンズではなく、むしろフランジバックの短いミラーレス機用のレンズとしてボディと一体で考えると、実は小型なレンズの部類であることがわかる。
外装にはプラスチックが多用されており、さすがにツァイスレンズやGレンズ程の豪華さはないものの、シッカリとした造り込みと、黒で統一された端正な外観デザインのおかげで、α7シリーズに装着しても見劣りしない結構な高級感をもっている。
望遠側にズーミングすると鏡筒が2段階で繰り出すという、高倍率ズームらしい変形の様をみせる。その操作性は大変にスムースで、広角端から望遠端に一気に伸ばしても、伸長した鏡筒がガタついたりして不安定になることもなく、安心して使うことができた。
また、光学式手ブレ補正機構(OSS)を搭載しているので、α7、α7S、α7Rなどボディ内手ブレ補正機構を非搭載のボディで使用しても、高い手ブレ軽減効果を発揮してくれる。高倍率ズームは望遠になるほど開放F値が暗くなり、シャッター速度が稼げず手ブレを起こしやすくなるため、レンズ側への手ブレ補正機構搭載は必須といえるだろう。
フォーカス駆動にはリニアモーターが採用されているので、AFの動作は高速かつ静粛である。
遠景の描写は?
レンズ構成は12群17枚。非球面レンズ5枚とEDガラス1枚が採用されており、これによってレンズの大型化を避けながら広角24mmを実現している。
広角端24mmにおいて、絞り開放F3.5ではわずかに解像感が甘く感じられるものの、半段絞ってF4にするだけで大きく画質は改善し、以降F5.6からF16まで大きな変化もなく解像感の高い安定した写りを見せてくれる。
ただし、画面の周辺部では絞りによる画質の改善は遅れ気味で、F11まで絞ってようやく像の乱れが収まり安定するようになる。
また、絞り開放付近での周辺光量不足は比較的大きめであり、画面周辺になるほど倍率色収差に起因したパープルフリンジが見られた。しかし、今回の試写ではカメラ側の「レンズ補正」をOFFにして撮影している。レンズ補正をオートにすれば周辺光量や倍率色収差は自動的に補正されることになる。
望遠端240mmにおいても広角端と同じく、画面の中心部で絞り開放F6.3では、やや解像感が甘く感じられるものの、わずかに絞るだけで画質は大きく改善する。しかし、周辺部では絞りによる画質の改善が遅れ、像の乱れが収まり画面全体が安定するのはF11以降である。
また、倍率色収差は広角側よりも顕著で、画面周辺部でブルーとパープルの色ズレがわりと目立つくらい大きく発生した。これは高倍率ズームの小型化による弊害であると思われる。やはり本レンズを使用する場合にはボディ側の「レンズ補正」をオンにした方が賢明であろう。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ボケ味は?
本レンズの最短撮影距離は、広角端で0.5m、望遠端で0.8m。高倍率ズームだからということもあるが、近接撮影が得意なレンズでは決してない。
さらに、これも高倍率ズームの宿命といえるが、開放F値は広角端でF3.5、望遠端でF6.3と、決して明るい大口径でもなく、さらに広角端は焦点距離24mmとワイドなので、その分、被写界深度が広くなりボケ量は相対的に小さくなってしまう。
それでも望遠端で被写体に近づいて撮影すれば相応に大きなボケが得られ、またボケ味も高倍率ズームとしては滑らかかつ自然で、なかなかに好ましい。
広角端の絞り開放では、背景との距離によっていくらか2線ボケ気味になることも見られたが、実用上問題となるほど目立つことはない。
正直いって、あまりボケの大きさや質を語る部類のレンズではないと思うが、撮影距離を小さくしたり被写体と背景との距離を大きくとったりするなどの工夫をすれば、センサーサイズの大きなフルサイズ対応レンズであることを生かしたボケの効果も楽しむことができるだろう。
逆光耐性は?
強い光源である太陽を画面の左上に配置して、太陽を画面内に入れた場合と、太陽が画面内にギリギリ入らない条件で撮影をした。いずれもゴーストやフレアが最も発生しやすい厳しい逆光条件である。
結果として、広角端では、太陽が画面内入った状態でも、入っていない状態でも、ゴーストの発生、または画面のコントラストを低下させるようなフレアの発生は、まったく見られなかった。
望遠端では、太陽を画面に入れて撮影した場合のみ、緑色の比較的大きなゴーストが1点発生し、太陽周辺を中心としてわずかに全体のコントラストが低下した。太陽を少し画面から外した条件では、ゴースト・フレアとも発生は認められなかった。
しかし、240mmのような望遠レンズで画面に太陽を入れ、なおかつ今回のようなオーバー露出にするような撮影は考えにくい。広角側、望遠側、いずれにおいても高倍率ズームとは思えないほどの非常に優れた逆光耐性をもっているといえるだろう。
作品
水辺のコケが美しく輝いていたので撮影してみた。倍率を自由に選択できて暗い条件でもブレずに撮れるのは光学式手ブレ補正機構搭載の本レンズの持ち味。とはいっても、シャッタースピード1/15秒、両肘を地面につけて慎重に撮影した。
猫の兄弟(?)が仲良く昼寝しているところを撮影。ひろいズーム領域のうち、どの焦点距離で撮影しても実用上安心の高画質である。ボディ側のレンズ補正は全てオートにしておくのがオススメだ。
標準画角に近い焦点距離41mmで枯れかけの情緒豊かなスゲ群落を撮影。画質について細かいことをいえばキリがないが、ご覧の通り質感豊かに被写体の表情を写しとめてくれるレンズである。とても高倍率ズームとは思えない優れた描写能力。
紅葉して黄に染まったイチョウを切り撮ってみた。本レンズの全てのズーム領域でいえることだが、画面の隅々まで画質の安定性を出そうとすればF11以上に絞る必要がある。もっとも、そうした場合でも光学式手ブレ補正(今回の試写ではボディ側手ブレ補正との連携)が効果を発揮してくれるのであるが。
近寄ってくる猫をコントラストAFで撮影した。リニアモーターを採用していることで、高倍率ズームでありながら、速くて静か、そして正確なAF性能を実現している。
まとめ
遠景描写の項目では、さも辛口の評価をしているように思われるかもしれないが、これは画像の細部をみるテスト的な撮影では仕方のないこと。ここで、はっきりしておこう、本レンズの描写性能は非常に優れている。今回の試写では「高倍率ズームの写りもここまで来たか」と驚くほど解像感十分で、ソニーレンズらしいヌケがよくハイコントラストな気持ちのいい画像を提供してくれたものである。
望遠側の焦点距離が240mmと、他社製品に比べると短いことを気にする人もいるかもしれないが、実際に使ってみると240mmと300mmというのは、それほど絶大な画角の変化をもたらすものではない。それよりも28mmから24mmへと広がった“広角の4mmの差”の方が、はるかに画角に対する変化が大きく、ユーザーは広々としたワイドな世界を楽しむことができるはずだ。
やや高価なのは確かだが、画角変化の大きな10倍ズーム、光学式手ブレ補正、防塵防滴への配慮、などなど、スペックにおいて不満はなく、なおかつ高倍率ズームとして抜群の描写性能を備えているのだからそれも納得できる。
FEレンズ初となる光学10倍高倍率ズーム。旅行や運動会などではこれ以上なく便利に使えることは間違いなく、α7シリーズの活躍の場をますます広げてくれることだろう。