クルマとカメラ、車中泊
撮影時の安全のため、双眼鏡を常備
2025年12月28日 15:00
星景撮影の現場で最も聞かれるのは「安全な撮影場所」
僕は星景写真のセミナーを多くやってますが、受講される方から特に聞かれるのはどのような場所で撮影したら良いかという点です。もちろん、良い写真が撮れるという観点も当然ですが、今話題になるのは安全です。熊です。星景写真は夜現地に着くことから始めることが多いですからね。
そこで、僕のスタイルとしてお話ししてるのは、まず車が見える範囲で撮影できる場所を探しましょうということ。そして現地に着いたらすぐ車外に出ずに10分くらいは車の中で待機して外の様子を伺いましょう。問題なければ車外に出て少し周りを歩きながら再確認です。
これ今に始まったことではなくずっと続けている僕の基本行動なんです。アウトドアだけでなく海外に行った時も似たような行動をします。例えば海外の大きなスーパーで買い物をする時は入り口に近いところに車を止めたいのですが、そうそう空いていませんよね。その場合、まず遠いところに車を止めますが、すぐ外に出ずにしばらく車内で様子を見ます。するとなんですかねえ、ゆるゆるとこちらに近づいてくる人影を見つけることもあるんですよね。経験ありません? こわいですねえ。なぜ近づいてくるんでしょう。そうしたら、すぐに場所を移動します。これを入り口近くの駐車枠が空くまで繰り返します。
アウトドアでも同様の行動をしてるわけです。車の音がすれば野生動物は一旦その場から姿を隠すはずですが、また戻ってきたりします。なので、車内、車外から観察してから撮影を始めるんです。そこで役立つというか必須なのが双眼鏡なのです。
上の写真では双眼鏡を三脚に乗せてますが、LED懐中電灯と双眼鏡を一緒に手に持ち、周りをよく観察します。スポットライトになるLED懐中電灯を使えば、200m先くらいまで観察することができます。だいたい鹿を見つけるんですがLEDライトに照らされて目が光るので非常にわかりやすいですw で、鹿が群れでいるようなところは恐らく熊がいないところ。天敵ですからね。万が一、熊を見つけてしまったら、あるいは熊かも知れないような動物を見つけたら、即座に撤退しましょう。
双眼鏡選びの基準は「瞳径」から始める
と、今日は双眼鏡のお話をしたいんですが、写真は双眼鏡の森w 僕が持っている双眼鏡の一部です。双眼鏡は移動手段や目的によって使い分けるんですが、車に常備する双眼鏡について少しばかり解説しようと思います。風景なり、星景なり人のいない場所まで車で行き、その場所での安全を確認するために双眼鏡を使うことを前提としましょう。その前提で双眼鏡選びを見ていきます。
双眼鏡選びはまず瞳径を基準とするんですが、図を見てください。
対物レンズで集めた光を接眼レンズで収束して眼球内で結像させるわけですが、この時接眼レンズから出てきた光束を射出瞳と呼び、その大きさを瞳径といいます。この瞳径が1つの基準となるんですが、瞳径が大きいほど覗いた時の視野が明るく、暗いところまで見えてきます。
ですが、射出瞳は人間の目を通してから網膜に結像するので、大き過ぎても無駄になるだけです。人間の瞳は最大に開いたときで7mmとされています。なので、双眼鏡など肉眼で覗く光学製品では瞳径は最大7mmで設計されています。
瞳径は対物レンズの直径÷倍率で求めることができます。例えば7倍50mmと表記されている双眼鏡では50mm÷7でおよそ7mmとなるわけです。つまり対物レンズの直径が同じでも、倍率が高くなると瞳径は小さくなるんです。ここは僕の感覚でお話ししますが、瞳径7mmの双眼鏡で夜空を見ると肉眼より明るく見えます。5mmでも肉眼より明るい、4mmでは肉眼と同程度、もしくはやや明るい。3mmでは肉眼より暗く見えます。
目的は夜も含めて、近辺の監視ですから視野の明るい双眼鏡が向いているわけです。すると最低でも4mm、条件が許せば5mm以上の双眼鏡が望ましいのです。ですが、人間の瞳が最大7mmと書きましたがこれは健常な成人、つまり若い人の場合です。加齢によって最大に開く瞳の大きさは小さくなっていきますから、僕の年齢だとまあ、7mmは不要ですねえ。
そうなんです、瞳径が大きくても結局入ってくる光束は、自分自身の瞳の大きさで規制されちゃうんです。そこで中年以降と自覚のある方は瞳径5mm程度の双眼鏡を選ぶのが正解です。ちなみに光学系としての解像力はレンズの直径で決まるので瞳径の大きさに係わらず同じです。なので、瞳径7mmの明るさを活かせない年齢であっても、日中に瞳が閉じている状態で使っても解像力自体は変わりません。
ここでいくつかの双眼鏡の銘板を見てみましょう。写真①には7x50 7.3°とあります。これは倍率7倍、対物レンズ直径50mm、実視界7.3°という意味です。実視界というのは接眼レンズを始点として実際に見えている視野を角度で表示しています。
一方写真③では8×42 394FTという表示ですね。FTは長さの単位フィートですが、これは1,000ヤード先の視界を表示しています。1,000フィート(約914m)先で視野直径が394フィート(約120m)ということです。実視界に換算すると約7.5°です。
すでに気付いたと思うんですけど、Nikon 7x50 SPは7倍、Nikon MONARCH 8×30とShuntuの8×42 ED双眼鏡は8倍なのに実視界は広い順に②③①です。倍率が低い方が実視界が広くなるのですが、それぞれ接眼レンズの設計が違っているので実際はそうなってないんですね。
この辺は商品性や製品全体の設計思想によって変わるところです。双眼鏡ってわざわざ双眼にする目的はよく見えつつ広い視界を確保するためと言えると思うんですが、実質7°以上あれば十分に広い視界で扱いやすいものです。
実視界が狭いと狙った被写体を瞬時に視野に入れることが難しくなりますからね。広い分には有難いってものなんですが、倍率も高いのに実視野が広い双眼鏡は視野周辺の像が悪くなるか、お値段がお高くなるんですよ。双眼鏡も概ね普及機、中級機、高級機と別れますが、中級機以上では視野周辺の像質も良いものになります。Nikon MONARCH 8×30はそのタイプです。
目的を再確認すると安全確保のための監視ですから、少しでも気になったところを瞬時に捉えられなければいけません。あるいは双眼鏡視野のなかで異常を感じたところを瞬時に肉眼で位置、方向を確認しなければいけません。そのためには実視界7°以上が1つの目安です。
車載用として最適なのは8×42スペック
もう1つ条件になるのは大きさと重さですね。
大きさは写真では伝えにくいんですが、写真の中で1番小さいのはB。これは銘板を撮った写真のNikon MONARCH 8×30(8×30)のもの。この大きさだとコンサートや観劇にも持っていけます。登山の時にも邪魔にはならないです。
次にC。Shuntuの8×42 ED双眼鏡です。この大きさになるとコンサートなどに持って行くのはそれなりに覚悟が必要です。特に電車での移動だと邪魔! の一言です。車なら問題ない大きさですね。
最後にA。Nikon 7x50 SPですが重さも1Kg以上あるのでコンサートや観劇には、もう非現実的です。車に常備するにしても、僕みたいに軽自動車だと邪魔になりますな。このクラスははっきりと目的を決めないと使う機会がなくなってしまいます。
以上まとめると、車でアウトドアに行き、夜昼周囲の安全を確認する目的で双眼鏡を車に常備するのに適度なスペックは8x42。対物レンズが40mmで8x40というスペックもあります。天体観測にも向いています。特に星景撮影では北極星の確認や、目標天体の確認で双眼鏡の出番は多いのです。
で、おすすめの製品はズバリこれ。Nikon MONARCH M7 8×42。MONARCHのシリーズは8倍から12倍まで3種類の倍率がありますが、今日お話しした用途で買うべきは8倍ですからね。
予算的にちょいと厳しい、あるいは電車でコンサートに行く時にも邪魔にならないのが欲しいってかたはNikon MONARCH M7 8×30をどうぞ。夜間の監視にはちょっと視野が暗いのですが、冒頭の写真のようにLED懐中電灯と合わせればかなり使えます。
双方とも視野中心のシャープさ、視野周辺部での像質ともに一級品です。僕も1つ前のタイプですがMONARCHを愛用しています。中級機の位置付けになる製品ですがさらに上位の製品との差は僅かなものです。かなり多くの双眼鏡を覗いていないとその差を感じ取れないかも知れません。
まあ、求めてゆくとそうしたものが欲しくなるんですけれどね。ニコンでは更に上位の機種を多数揃えてますし、ツァイスやスワロフスキーという選択もあります。お財布に余裕のある方はぜひどうぞ。
さて、話はまだ続きます。でもね、飽きちゃった方はこの先は無視して、MONARCHポチってくださいませ。
中国製双眼鏡の実力とフィルター活用術
続きの話は中国製双眼鏡。現在中国にはかなり優秀な光学製品を作っているメーカーがいくつもあります。90年代後半から日本の光学メーカーが海外に生産拠点を求め始める中、中国でも合弁事業だったりOEMを続けてきました。
日本のみならず、ドイツやアメリカのブランドのOEM生産をやってるところはかなり多くなってますね。もちろん製造技術は上がってきてますから、当然独自のブランドが立ち上がってくるわけです。そんななか数年前からウォッチしてたShuntuというブランドの双眼鏡を買ってみましたよ。
ここはほぼ双眼鏡専業といえそうです。スペックとしてマトモなものをラインナップしていて好感の持てるブランドです。価格帯としては普及機から中級機までを主に生産しているようです。
買ってみたのはShuntu 8×42 ED 製品名にもある通り、EDレンズを使って特に色収差の補正を向上させたタイプです。
EDレンズは写真用の超望遠レンズにも使われている高性能な光学ガラスと思ってもらえればいいでしょう。正価の価格帯としては中級機の位置付けですかね。実際に覗いた性能は、色収差の少ない中心像は極めてシャープです。周辺像も良好で、先に紹介したニコン MONARCH M7 8×42に対して僅かに劣るかなという感じです。
でもね、これを買った理由は光学性能ではないんです。光学性能は期待した以上によかったと言えます。この双眼鏡の特徴は対物レンズの前にカメラフィルターのネジが切ってあることなんです。そういう双眼鏡って極めて少なく大変貴重な製品なんです。
フィルター径は49mm。そこで。ケンコーのPLフィルターを2枚購入。PLフィルターは偏光作用でガラスや水面の反射を取り除いたりするフィルターです。これを対物レンズの前につけてクルクルっと回すとあら不思議、水面の反射を取り除いて川床が見えちゃったりするんです。
まあ、角度は微妙なので全ての川床が見えるわけではないんですが、釣りをする時偏光サングラスを使うでしょ?すると魚影が見えたりしますよね。あれの双眼鏡版になるってわけです。釣り向きの双眼鏡とも言えますね。
それともう1つ、偏光フィルターの効果なんですが、樹木の葉に当たった日光の反射も抑えてくれます。これで、昼間の森を見ると葉っぱの反射が抑えられて森の影の部分もよく見えてくるんです。すると森の中に潜む鳥や動物も発見しやすくなるって寸法です。車の周辺監視にバッチリでしょ。
以上、光学性能もよく、フィルターも使えるShuntu 8×42 EDは僕のお気に入りになりましたが、初めて双眼鏡を買う方にはお勧めしません。双眼鏡ってね、壊れるところがほとんどないので、何十年も使うことになります。だけど経年変化での点検や落下などで破損した場合の修理に対応してもらえるのって日本のメーカーが1番なんですよね。そうしたアフターサービスの実績やブランド感から、ニコンをお勧めする次第です。
いや、今回も長くなっちゃいましたね。お疲れ様です。最後にもう1つ便利アイテム紹介しておきますね。それは双眼鏡を三脚に乗せるアダプターです。SWFOTO BTA-01 双眼鏡三脚アダプターを買ってみました。三脚といってもアルカスイスに対応してて三脚への取り付けが簡単なことが魅力なんです。
現代の双眼鏡のほとんどは2つの鏡筒をつなぐブリッジの中心には1/4インチのカメラネジが切られていて、飾りネジで蓋がされています。お手持ちの双眼鏡があれば確認してみてください。このカメラネジにアダプターを捩じ込んで使うんです。
三脚に乗せると双眼鏡の光学性能をフルに発揮できて、更によく見えるようになりますよ!

















